Strategic Laziness:怠けることは武器になる

休むことに罪悪感がある世界で

海外でエンジニアとして働き始めた頃、僕は常にフルスロットルでした。
「成果を出さなきゃ」「評価されなきゃ」「自分を証明しなきゃ」
そう考えて、デスクに貼りつくように仕事していました。

特に、英語が母国語じゃない環境って、ずっと気を張ってるんです。
会議で聞き逃さないように集中して、雑談でも置いていかれないように耳を立てて、慣れない発音で話すときは頭の中で文を組み立てて…
これ、もう“ずっと全力疾走してる状態”なんですよね。

だからこそ僕は、「休む」ことにすら力がいると、あとから気づきました。

でも、その当時の僕は「休む=怠けている」と思っていたんです。
職場で周囲のエンジニアたちがコーヒー片手に雑談したり、昼休みに散歩に行ったり、夕方になったらスパッと仕事を切り上げて家に帰っていくのを見て、正直こう思ってました。

「なんでそんなに余裕あるんだ?」
「もっと仕事にコミットすべきじゃないの?」

ところが、結果を出していたのは、彼らの方でした。

僕は長時間机にかじりついているのに、コードは複雑化していくし、問題に気づけないし、レビューで突っ込まれるし、家に帰っても頭の中は仕事のことばかり。
気づけば、やっている量の割に、成果がついてこない人になってました。

そんな中で、チームのベテランエンジニアに言われた一言が、今でも忘れられません。

「お前、頑張りすぎだよ。
いいエンジニアってのは、“疲れる前に”休むんだ。」

これ、けっこう衝撃でした。
「疲れたから休む」じゃなくて
「疲れる前に休む」。

それは、ただの休息じゃなくて、戦略的に休むという考え方。

ここから僕は、働き方を根本から見直すことになります。


「怠ける」の再定義

ここで言う「怠ける」は、ただだらけることじゃありません。
僕がこのあと学んだのは、意図的に脳をオフにする時間を作ることです。

・散歩する
・コーヒーをゆっくり飲む
・5分だけ目を閉じる
・趣味の動画を見る
・あえて何もしない時間を入れる

こういう「一見、何も生み出していない時間」が、実は脳の整理や思考の定着、アイデアの発火を助けてくれる。

これを知ってから、僕の作業効率、コードの精度、問題解決のスピードが、目に見えて変わりました。


休むことは、弱さじゃなくて“設計”

C# WPFで複雑なUIロジックを書いたり、MVVMパターンで状態管理を組み立てたりしてると、頭の中が絡まった糸みたいになる瞬間がありますよね。

そのタイミングで「もうちょっと粘れば解ける」と思うと、沼にハマります。

でも、いったん席を離れて戻ると、さっきまで見えなかったバグが3秒で見えることってあるじゃないですか。

これがまさに “意図的な休息が生み出す認知のジャンプ”

つまり休むという行為は、成果に直結する設計の一部なんです。


僕がここで伝えたいこと

海外で働くエンジニアは、ただ技術だけじゃなく、文化・言語・働き方にも適応しないといけません。
だからこそ、無理に頑張るほど成果が落ちる構造に陥りやすい。

起で伝えたい結論はこれです。

休むことは「逃げ」じゃない。
休むことは「強さ」だ。
そして、それは戦略になる。

続く「承」では、
ポモドーロテクニックをベースにした、具体的な時間管理術と、実際に僕のパフォーマンスがどう変わったかを詳しく書きます。

ポモドーロと「意図的に止まる勇気」

休むことが「戦略」なんだと気づいたとはいえ、いきなり「じゃあ適当に休もう」と思ってもうまくいきませんでした。なぜなら、僕は長年、「休まないことに価値がある」と信じて生きてきたからです。

特に日本的な「努力文化」が染みついているエンジニアは、どうしても「頑張り=美徳」に寄りがちです。
海外で働いていても、そのクセは消えない。

だから僕は、まず「休むことをルール化する」ことから始めました。

そこで出会ったのが、いわゆる「ポモドーロテクニック」です。


でも正直、最初は舐めてた

「25分集中して5分休む」
聞いた瞬間、僕はこう思いました。

いや、こんな細かい区切りいる?
25分で深い集中に入れるわけないし、逆にブツ切りで効率落ちるでしょ。

…と思ってました。
ただ、試してみたら、考え方が完全にひっくり返りました。

ポモドーロが強いのは、**「短い集中を本気でやることを前提にしている」**こと。

時間を区切ることで、逆に「今だけに全集中」できるようになるんです。
25分を“耐える”んじゃなくて、25分を“燃焼する”。

これは作業というより、ちょっとしたスポーツに近い感覚です。
短距離ダッシュをかけ続けていくイメージ。

そして、休む5分を「本気で休む」ことが大事。

・スマホ見ない
・タスク思い浮かべない
・立ってストレッチする
・深呼吸する
・席を離れる

この5分で、脳が一気に整理を始めるんです。
不思議ですが、モヤモヤしていたロジックの絡まりがスッとほどける瞬間が来ます。


「止まる」のが怖いのは、走り続けているから

僕は、ポモドーロの真価は「休憩」だと思っています。
そしてこの休憩こそが、多くの日本人エンジニアが苦手な部分です。

だって、休んでいるときって不安じゃないですか?

・仕事が進んでいない気がする
・他の人に遅れを取っている気がする
・「もっとやらなきゃ」と焦りが出る

この“焦り”こそが、長時間労働や思考停止コード地獄を生む正体なんです。

だけど、ここで一歩引いてみると気づけることがある。

不安は、「止まったとき」に浮かび上がる。

逆に言えば、
不安を処理するためには、一度止まらないといけない

だから、
「止まるのが怖い」
という感情そのものが、休むべきサインなんです。


実際に僕の作業はどう変わったか

例えば、C# WPFでMVVMベースのデータバインディングを組んでいるとき。
状態管理が増えてくると、ViewModel間のイベント、INotifyPropertyChangedの通知タイミング、Bindingの更新など、頭の中で追うことが多くなります。

以前の僕は「脳が熱くなってる」のに、さらに気合で突破しようとしていました。
でも今は、脳が熱くなる=即休憩です。

25分集中して、5分休む。

このリズムを保つことで、コードのミスが激減しました。

特に、以下のような効果を実感しています。

・無駄な再設計が減る
・複雑なロジックに取り掛かる前に整理する癖がついた
・レビューで指摘されるポイントが半分以下になった
・何より、毎日「仕事した感」がちゃんとある

ただ長く作業して疲れるのではなく、「今日は頭を使ったな」と感じられる仕事になる。

そして、これは言い切ります。

集中は、気合で生まれない。
集中は、休憩によって生まれる。


海外で働くと、「休むことが仕事の一部」だと本気で実感する

海外の職場文化は、日本と比べて「仕事と自分を切り分ける習慣」が強いです。

・昼休みはちゃんと休む
・定時になったら帰る
・週末は完全に仕事から離れる

最初はそれがただの「ゆるい姿勢」に見えた。
でも今は分かる。

これは「仕事と自分を守る設計」なんです。

エンジニアは頭脳労働です。
だから、脳を良い状態に保つことは職務の一部なんです。

スポーツ選手が休息をトレーニングの一つとして管理するのとまったく同じ。


僕が伝えたいこと(承でのまとめ)

・集中は短距離走のように扱うと強い
・休むことは仕事の邪魔ではなく、仕事の一部
・休むことを「習慣」「設計」として組み込むと結果が出る
・止まると不安になるのは正常。むしろその不安に向き合うことが成長に繋がる

次の「転」では、
「意図的な無為(何もしない時間)がどれほどクリエイティブな思考を生むか」
というテーマで、実際に僕が“散歩中にプロジェクトの解決策が降ってきた話”を紹介します。

離れるから、見えるものがある

「集中すること」と「休むこと」をリズムとして回し始めて、しばらく経った頃。
自分でも驚いた変化がありました。

それは、難しい問題ほど、席に座って考え込んでいると解けない ということ。

いや、昔からそういう話は聞いたことはあったんです。
「寝たらアイデアが浮かぶよ」とか「シャワー中に天才的な解決策が思いついたりするよ」とか。

でも正直、半信半疑というか、どこかではこう思ってました。

「いやいや、問題は机で向き合わないと解けないでしょ。」

ところが、違いました。
本当に、離れた方が解けるんです。


散歩中に降りてきた「一本の線」

ある時、WPFの画面構成がどうしても整理できない状態に陥っていました。
複数ViewModelが互いに通知しあう処理が増えて、関係がスパゲッティ化。
見通しが悪いし、手を入れようとすると他の部分に影響が広がる。

ありがちですよね。

頭では「設計を見直した方がいい」と分かっていても、じゃあどう変形するかと言われたら、全然形が見えない。

その時、僕は思い切ってPCから離れました。
近くの公園に行って、ただ歩いたんです。
イヤホンもしない。スマホも見ない。考えないようにする。

歩くリズムに合わせて、呼吸が落ち着いていく。
外の空気を吸うと、頭の中の“詰まった感じ”が少しずつ抜けていくのが分かる。

そして、ある瞬間。

「あ、イベントを軸に設計してるのが問題じゃない?」

この「気づき」が、文字通り“降ってきた”。

ViewModel同士が直接イベント購読してるから絡まっている。
だったら、状態を1つの責任に集約して、変化だけ通知するようにすればいい。
つまり、Contextなり、State Holderなりを設けて、他はただ変化に反応するだけにする。

「これだ」と思った瞬間、頭の中で線が一本につながりました。

まるで、今までモヤモヤしていた設計図が、急に輪郭を持って光り始めた感覚。

それから家に戻ってキーボードを叩いたら、30分で整理できました。
さっきまで4時間かけても全然進まなかったのに。


人間の脳は、集中しているときこそ“見えない”

この時、僕は改めて知りました。

人間の脳は、「集中している時は視野が狭くなっている」。

集中は力です。でも、それはスポットライトと同じ。
光が強いほど、照らしていない部分が真っ暗になる。

一生懸命考えているときほど、
実は「見えていない領域」が広がっているんです。

だから、

・机に張り付くほど
・考え込むほど
・がんばるほど

問題は複雑化していく。

解決するには、光をいったん弱めないといけない。
それが「離れる」ことです。


「退くことが前進になる」って話

休むという行為は、よく誤解されます。

「休む」=「止まる」
「止まる」=「遅れる」
「遅れる」=「負ける」

特に日本的な価値観では、この連想がめちゃくちゃ強い。

でも実際は逆で、

休む=脳を整理する
整理=判断精度が上がる
判断精度=仕事が速くなる

つまり、

休む=前に進むスピードを上げる準備

なんです。

スポーツで言えば、息継ぎです。

息継ぎしないで泳ぎ続ける人は誰もいません。
息継ぎしない=溺れるので。

仕事は、泳ぎと同じです。
自分の「息継ぎポイント」を意識して設計するだけで、
仕事の質は本当に変わる。


そして「何もしない時間」は思考の発電所になる

これは神経科学の研究でもよく出てくる話ですが、人間の脳は「何かに集中している時」より、「ぼーっとしている時」の方が内部処理が活発になります。
この状態は DMN(Default Mode Network) と呼ばれています。

ざっくり言うと、

・ひらめき
・連想
・アイデアの統合
・過去の記憶の整理

こういう処理は、集中していない時に起こる。

だから、

何もしない時間は、思考が深まる時間なんです。

ただの怠けじゃない。
脳の機能として、必要な時間。

僕はこれを知ってから、散歩・昼寝・シャワー・コーヒーブレイクを“サボり時間”ではなく、アイデアの発電時間として扱うようになりました。

結果、問題解決が早くなっただけじゃなく、実装の設計力も自然と上がりました。


転で伝えたいこと

・難しい問題ほど、机で考え続けると解けない
・ひらめきは、意図的に「離れた時間」で生まれる
・散歩・コーヒー・昼寝は「アイデアの発電装置」
・休むことは後退ではなく、加速のための助走

ここまでで言いたいことは一つです。

良いエンジニアは、働き方をデザインしている。

次の「結」では、
この“休む力”をどう継続するか、実用的な日々の習慣に落とし込む方法
をまとめます。

休むことを「習慣」として組み込む

ここまでの話をまとめると、
僕が伝えたいのはとてもシンプルです。

頑張り続けるより、休みながら進んだ方が、結局は強い。

でも、頭では「分かった」と思っても、実際に習慣にできないと意味がないですよね。
僕自身、仕組みに落とし込むまでが一番大変でした。

だから、この「結」では
どうやって“休むことを当たり前にするか”
ここに焦点を置いて話します。


まず、スケジュールに“休憩”を先に入れる

普通、スケジュールって「タスク」を先に入れますよね。
休憩は“空いたらするもの”みたいな扱い。

でも僕は逆にしました。
先に「休憩」を入れるんです。

たとえば朝のカレンダーを開いて、こうします。

・10:00〜10:25 集中
・10:25〜10:30 休憩
・10:30〜10:55 集中
・10:55〜11:00 休憩
・11:00〜…

つまり、
「休憩が“前提”で、作業がその合間にある」
という設計。

ポイントは、意志に頼らないことです。
意志なんて一番脆いから。

人は疲れてくると「あとちょっと頑張るか」と言ってしまいがちですが、
その「あとちょっと」が、視野を狭くし、判断を鈍らせ、ミスを増やし、作業を長引かせる。

僕はそれを痛いほど経験したので、
休憩は意志ではなく、ルール
として扱っています。


休むことに罪悪感が出てきたら、それは良いサイン

多くの日本人エンジニアがぶつかる壁があります。
それは「休んでると不安になる」という感覚。

でも、その不安って
「休んでいる自分が悪い」のではなく、
「今までずっと走り続けていた証拠」なんです。

つまり、それは「良い変化の痛み」。

筋トレで言うところの“筋肉痛”みたいなものです。

僕はその不安に出会ったとき、こう考えるようにしました。

「ああ、ちゃんと自分を取り戻しつつあるんだな。」

不安を抑え込まない。
不安に飲まれない。
ただ、不安を認めて、深呼吸する。

不思議なんですが、それだけで「止まることに慣れていく」んです。


“流れ”をつくるための小さな儀式

僕が個人的に効果があったのは、
休憩ごとに同じ行動をすることでした。

例えば、

・立つ
・窓に近づく
・背伸びをする
・肩を回す
・深呼吸3回
・コーヒーをひとくち

これを毎回同じ順番でやることで、
脳が「はい、いったん整理ね」と自動的に切り替わるようになる。

習慣というのは、儀式から生まれます。

休憩の質は、集中の質に直結します。

これはもう、疑いようがないです。


仕事に「余白」を持つと、人生にも余白が戻る

これは想定外の副作用でした。

休むことを習慣にしたら、
仕事の効率が上がるだけじゃなく、
人生に“余裕”が戻ってきたんです。

仕事を終えて家に帰ったとき、
頭の中に仕事が残っていない状態が増えました。

休日に「しっかり休んだな」と思えるようになりました。

人生の“余白”が戻ると、人は急に、世界が明るくなる。

・趣味を楽しめる
・人とゆっくり話せる
・疲れていない自分でいられる

仕事が「人生を食い尽くすもの」ではなく、
人生の一部として自然に馴染むようになる。

そして何より、
自分を大切にしている感覚が戻ってくる。


結で伝えたいこと

「休むことは武器になる」
「止まることは成長の前提条件」
「怠けることは、戦略にできる」

これは綺麗ごとではなく、完全に実践的な技術です。

優れたエンジニアは、技術力が高いだけじゃない。

自分の脳と、感情と、集中力の扱い方がうまい。

だから成果を出す。
だから長く続けられる。
だから成長し続ける。

僕らが目指すべきは「ずっと頑張っている人」じゃない。

必要なときに、ちゃんと休める人。

それが、持続的に成果を出すエンジニアの姿です。


ここで一冊だけ、最後におすすめを。

Cal Newport の「Deep Work」。
これは、集中とは何か、どう扱うかを体系的に理解するのに役立ちます。
考え方の土台が変わります。

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