networking.exeは応答しません…」海外で働く内向型エンジニアの憂鬱
どうも!海外の片隅で、今日も今日とてC#のコードとWPFのXAMLとにらめっこしながら、なんとか生き延びているITエンジニアです。主にデスクトップアプリケーションの設計と開発をやっています。
「海外で働くエンジニア」って言うと、なんだかキラキラしたイメージ、ありますよね。多国籍チームでスマートに議論を交わし、週末はバルコニーでビール片手に…みたいな。
ええ、まあ、そういう側面もゼロじゃないです。ゼロじゃないですけど、僕らみたいな「内向型」気質のエンジニアにとって、海外で働くってのは、実は結構な「精神的エネルギー消費(メンタルMP消費)」の連続だったりします。
技術的なキャッチアップ?ああ、それは大丈夫。むしろ好きです。新しい.NETのバージョンが出ればワクワクするし、WPFのトリッキーなDependencyPropertyの挙動を解明した時なんて、ちょっとした達成感すらあります。ロジックは裏切らない。コードは(だいたい)正直です。
でもね、問題はそこじゃない。
問題は、**「ネットワーキング」**っていう、あの謎の文化です。
日本にいた頃も、もちろん「名刺交換会」みたいなのはありました。でも、海外、特に欧米圏のそれは、ちょっとレベルが違う。
こっちのテックカンファレンスやミートアップに行くと、本編のセッションが終わった後の「懇親会」が本番、みたいな空気、ありますよね。
薄暗い会場で、やたらデカい音でEDMがかかる中、みんな片手にビール瓶を持って、初対面の人と満面の笑みで握手しながらデカい声で喋ってる。
「ハイ!俺はこういうスタートアップでAIやってて、君は?」
「クールだね!僕はブロックチェーンで世界を…」
……無理です。
いや、本当に。まず、うるさくて相手の声が聞き取れない。聞き取れても、こっちは第二言語の英語。脳のリソースを「リスニング」と「文法構築」と「笑顔の維持」に全振りしなきゃいけない。
僕らの脳みそって、普段は「このMVVMのViewModel、どうやってUnit Test可能にするか」とか「この非同期処理、async/awaitで書くべきか、Task.Runで逃すべきか」みたいな、深くて狭い論理に最適化されてるわけですよ。
そんな脳で、あの「浅くて広い、高速な会話のキャッチボール」についていくのは、CPUにいきなり高負荷なグラフィック処理をやらせるようなもん。すぐにファンが回り出して、処理落ちします。
結果、どうなるか。
隅っこでポツンと突っ立って、スマホをいじるフリをする。手持ち無沙汰にドリンクのおかわりを取りに行き、そのままフェードアウトしてホテルに帰る。
そして、ベッドの上で思うんです。
「ああ、今日もダメだった…。せっかく高い参加費払ったのに、誰ともまともに話せなかった。俺はエンジニアとしてはともかく、海外サバイバーとしては失格なんじゃないか…」
これ、めちゃくちゃ「あるある」じゃないですか?
僕らは別に、人と話すのが「嫌い」なわけじゃない。むしろ、意味のある会話は大好きです。例えば、「WPFの描画パフォーマンス、VirtualizingStackPanel使ってもまだ遅いんだけど、どう思う?」みたいな具体的なテーマなら、夜通しだって語れます。
僕らが苦手なのは、目的が曖昧なまま、ハイテンションで、自分を「売り込む」ようなコミュニケーションなんです。
この「内向型エンジニアのジレンマ」を抱えたまま、僕はしばらく「カンファレンス=修行の場」として捉えていました。なんとか克服しなきゃ、と。
そんなある日、ローカルのテックコミュニティで、奇妙な名前のイベントを見つけたんです。
「Unconference(アンカンファレンス)」
アン?カンファレンスじゃない?否定形?
説明文を読んでも、意味がわからない。
「アジェンダ(議題)はありません」
「スケジュールは、当日、参加者全員で決めます」
「話したい人が話し、聞きたい人が聞く」
…は?
僕のエンジニア脳が、即座にNullReferenceExceptionを吐き出しました。
「アジェンダがない会議」なんて、カオスにしかならないじゃないか。どういうことだ?
内向型の僕にとって、「何が起こるかわからない」「全員が主役」みたいな場は、従来のカンファレンス以上にハードルが高い、地獄のような空間に思えました。だって、アジェンダが決まってれば、少なくとも「このC#のセッションだけ聞いて、あとは帰ろう」って防御策が取れる。でも、それすらないなんて。
これは、陽キャ(外交的な人)がさらにいきいきとするための、意識高い系イベントに違いない。そう思って、一度はタブを閉じました。
でも、心のどこかで、妙に引っかかったんです。
「参加者主導」。
「柔軟」。
「静かめな雰囲気(と書いてあった)」。
もし、万が一。
僕が今まで「地獄」だと思っていたネットワーキングの常識が、そもそも間違っていたとしたら?
僕ら内向型が「弱み」だと思っていた「深く考える」「じっくり聞く」っていう性質が、実は「強み」になる場所があるとしたら?
この「アンカンファレンス」という謎のイベントこそが、僕ら内向型エンジニアが海外でキャリアを築く上で、最強の「秘密兵器」になるかもしれない。
このブログは、僕が半信半疑でその「アンカンファレンス」のドアを開け、そして僕の「エンジニア人生術」が根底からひっくり返った体験の記録です。
もし君が、僕と同じように「ネットワーキング、マジ無理…」と感じている海外(志望)エンジニアなら、もう少しだけ、この話に付き合ってみてください。
次の「承」の章では、この「アンカンファレンス」の具体的なルールと、そのルールがなぜ、僕ら内向型エンジニアにとって「天国」なのかを、徹底的にデコードしていきます。
「え、アジェンダがない?」アンカンファレンスの謎ルールと、それが内向型に優しい本当のワケ
「起」で書いた通り、僕は「アンカンファレンス」っていう、アジェンダすらない謎のイベントに、半ば「だまされた」と思って足を運んでみたわけです。
会場に入ると、まず拍子抜けした。
いつものテックカンファレンスみたいな、スポンサーブースの派手なネオンサインも、大音量で鳴り響くBGMもない。
あるのは、だだっ広いホールと、ホワイトボード、山積みの付箋(ポストイット)、そしてマジックペン。
人々は三々五々、コーヒーを片手に小さな声で談笑している。うるさくない。むしろ、大学の研究室のラウンジみたいな、程よい「ザワザワ感」だ。
「あれ…?地獄じゃないぞ…?」
この時点で、僕の「内向型センサー」は、警戒レベルを5(最大)から3くらいに下げていた。
そして、開始時間。
一人のファシリテーター(進行役)がマイクを持つ。
「やあ、みんな!今日は集まってくれてありがとう。さて、今日のアジェンダは…」
ゴクリ、と僕は息をのむ。
「…ない!今から、みんなで作る!」
やっぱりか!
彼は壁一面の巨大なホワイトボードを指差した。そこには、縦に「10:00」「11:00」…と時間が、横に「Room A」「Room B」…と場所が書かれた、空っぽのタイムテーブルが貼られている。
「ルールは簡単だ。今日、自分が『これについて話したい!』『これ、誰かに聞いてみたい!』っていうテーマがある人は、この付箋に書いて、みんなの前で発表して、そこの壁(彼はタイムテーブルを指差す)の好きな時間に貼りに行ってくれ」
………。
僕のエンジニア脳は、またもやInvalidOperationExceptionを投げた。
「無効な操作です。アジェンダはnullのままでは実行できません」
いや、だって、おかしいだろ。
もし誰も手を挙げなかったら?もし「俺の考えた最強のフレームワーク自慢」みたいなセッションばかりになったら?
僕がそんなDeadlock状態に陥っていると、一人の陽気そうな男性が「じゃあ、まず僕から!」と手を挙げた。
「僕は『マイクロサービスの運用で、ログ監視って結局どうすりゃいいの?』って話がしたい!」
おお、と会場が沸く。彼は付箋を「10:00 / Room A」に貼った。
次々手が挙がる。
「アジャイル開発で『見積もり』を廃止したチームの話、聞きたい人いる?」
「WebAssemblyの未来について語り合いたい!」
この一連の流れを、アンカンファレンス用語で**「マーケットプレイス」**と呼ぶらしい。まさに「市場」だ。セッションの「売り手」がテーマを提示し、「買い手」である参加者が(後で)どのセッションに行くか決める。
見てる分には面白い。だが、僕ら内向型にとって、全参加者の前で「はい!僕、話したいです!」と手を挙げるのは、それ自体がハードルだ。
「まあ、今日は偵察だし。僕は『聞く専門』でいいや」
そう割り切ろうとした、その時。
ファシリテーターが、この「市場」を支える、最も重要な「原則」について話し始めた。
そう、これが「オープンスペース・テクノロジー(OST)」と呼ばれる、アンカンファレンスのOS(オペレーティング・システム)だ。
そして、この原則こそ、僕ら内向型を救う「福音」だったんだ。
アンカンファレンスを支える「4つの原則」
ファシリテーターは笑いながら言った。
「この場所には、リラックスするための4つの原則がある。覚えておいて」
- 「ここにやってきた人は、誰もが適任者である (Whoever comes is the right people)」
- 意味:セッションに50人集まろうが、キミと僕の2人しか集まらなかろうが、そのテーマを話すのに「正しい」人数であり、最高のメンバーだ、ということ。
- 内向型への福音: これ、すごくないです?僕らがよくやる「うわ、このセッション、俺含めて3人しかいない…気まずい…」っていうアレを、公式に否定してくれたんだ。「3人?最高じゃん!」と。1対100のプレゼンじゃなく、3人での濃密なディープダイブが「正義」になる瞬間だ。
- 「何が起ころうと、それが起こるべき唯一のことである (Whatever happens is the only thing that could have happened)」
- 意味:議論が脱線した?結論が出なかった?構わない。それが、集まった「正しい人たち」の間で「起こるべき」化学反応だったんだから。
- 内向型への福音: 「結論を出さなきゃ」というプレッシャーからの解放。僕らは、結論ありきの表面的な会話より、思考が脱線していくプロセスを楽しむ方が好きだったりする。「このWPFのバグの話してたはずが、いつの間にか.NETのガベージコレクションの哲学的な話になってた」…最高じゃないですか。それが「成果」として許される。
- 「いつ始まろうと、始まった時が適切な時である (Whenever it starts is the right time)」
- 意味:10時開始のセッションに、人が集まるのが10時5分でも、準備がグダグダでも、OK。「始められる準備ができた時」が、最高のスタート時間だ。
- 内向型への福音: 遅刻魔の免罪符…じゃなくて。「完璧に準備しなきゃ」「スマートに始めなきゃ」という強迫観念を捨てていい、ということ。僕らは考えすぎてスタートが遅れがちだけど、それでもいい。「あ、あの、えーっと…」から始まる議論も「正しい」と認めてくれる。
- 「いつ終わろうと、終わった時が終わりの時である (When it’s over it’s over)」
- 意味:60分の枠でも、話すことが30分で終わったら、そこで解散!無理に時間いっぱいまで引き延ばす必要は一切ない。
- 内向型への福音: これ!僕らがネットワーキングで一番消耗する「手持ち無沙汰な時間」を、公式に「ゼロにしていい」というお達しだ。用件が終わったら、さっと解散。なんと効率的で、我々向きなんだろう。
そして最強のルール:「二本足の法則」
この4つの原則だけでも、僕は「(このイベント、俺に優しすぎないか…?)」と感動していた。
だが、ファシリテーターは、とどめの一撃を放った。
「そして、このアンカンファレンスには、4つの原則よりも大事な『たった一つの法律』がある。それは…**『二本足の法則(The Law of Two Feet)』**だ!」
「もし君が、今いるセッションで『何も学んでいない』あるいは『何の貢献もできていない』と感じたら。君の『二本足』を使って、今すぐ別のセッションに移動する(あるいはコーヒーでも飲みに行く)義務がある!」
………。
(処理中…)
(System.Threading.Tasks.Task.Delay(3000))
(…処理完了)
え?
「義務」?
「移動する『権利』」じゃなくて、「移動『しろ』」ってこと?
そう。これが、アンカンファレンスが、従来の「我慢大会」になりがちなカンファレンスと決定的に違う点だった。
従来のカンファレンス:
つまらないセッションに当たっても、講演者に失礼だからと、終わるまで(スマホをいじりながら)座り続ける。
懇親会で、興味のない自慢話が始まっても、愛想笑いでその場に「拘束」される。
アンカンファレンス:
「あ、この話、俺の専門(C#)と違いすぎて、何も貢献できねえや」
→ (スッ…)と立ち上がり、退出。
これが、ルール上、完全に「正しい」行動なのだ。
これは「逃げ」じゃない。「失礼」でもない。
「あなたの時間を無駄にしないし、僕の時間も無駄にしない」という、参加者全員の時間を最大化するための、最も合理的(ロジカル)なルールだった。
このルールを聞いた瞬間、僕の中で、何かがカチッと音を立てて切り替わった。
僕ら内向型がネットワーキングで疲弊するのは、ハイテンションな会話そのものよりも、「辞め時がわからない」「興味がないのに、その場を離れられない」という**「拘束感」と「無意味さ」**じゃなかったか?
この「二本足の法則」は、僕らに「いついかなる時も、その場を離れる自由」を保証してくれた。
それはつまり、「参加するセッションを選ぶリスク」をゼロにしてくれるということだ。
「このセッション、面白そうだけど、もしクソだったらどうしよう…」という不安は、
「クソだったら、合法的に5分で出ればいい」という安心感に変わった。
このアンカンファレンスというOSは、
「大勢の前でアピールするのが苦手」
「少人数で深く語りたい」
「無意味な時間に拘束されるのが死ぬほど嫌い」
という、僕ら内向型エンジニアの特性(ワガママ?)を、システムレベルで全肯定してくれていたんだ。
アジェンダがないのは、カオスを生むためじゃなかった。
それは、「今、ここにいる、正しい人たち」の「今、話したい情熱」を、リアルタイムでコンパイルするための、最高に柔軟な仕組みだったんだ。
僕は、壁に貼られたタイムテーブルを見つめた。
そこには、まだいくつか「空き枠」があった。
僕は、ポケットからペンを取り出した。
主役は「静かなる強み」。僕がWPFのニッチな議論で「MVP」になった日
「承」で、僕はアンカンファレンスの「二本足の法則」という最強の盾を手に入れた。
「つまらなかったら、合法的に逃げていい」。
この安心感は、僕ら内向型にとって「何でも試していい」という許可証(ライセンス)と同じだ。
僕は、壁のタイムテーブルに残された「14:00 / Room D(小部屋)」の空き枠を睨みつけた。
心臓が、asyncメソッドの呼び出しでもないのに、妙にドキドキしている。
(やるか…?いや、でも…)
何をためらう必要がある?
最悪、誰も来なかったら?
→ 「原則1:来た人が適任者」だ。僕一人が適任者なら、その部屋でセルフレビューでもしてればいい。
もし変な人が来たら?
→ 「二本足の法則」発動。僕が逃げればいい。
リスク、ゼロじゃん。
僕は、震える手で付箋にテーマを書いた。
僕のキャリアそのもの。僕が海外で毎日、英語のドキュメントと格闘しながら設計している、あの愛憎半ばの技術。
「C#エンジニア集まれ!WPFアプリで『モダンなUI/UX』と『レガシーなビジネスロジック』を共存させる地獄と希望」
…ニッチすぎる!
我ながら、ニッチすぎて笑えてくる。
今どきWebだAIだと騒がれているテックカンファレンスで、「WPF」て。Windows Presentation Foundation。デスクトップアプリ。ある意味、絶滅危惧種だ。
こんなマニアックなテーマ、誰が興味あるんだ?
「マイクロサービス」とか「Kubernetes」とか、そういうキャッチーな単語ゼロ。
でも、これが僕の「話したいこと」であり、「聞きたいこと」だった。海外の現場で、エンタープライズ(大企業)向けのデスクトップアプリ開発やってると、この「モダン化のジレンマ」って死活問題なんだ。
僕はその付箋を、まるで「開けるな危険」の札でも貼るかのように、そっと「14:00 / Room D」の枠に貼り付けた。
運命の14時。集まった「適任者」たち
ランチ休憩を挟み(もちろん一人で食べた)、僕は13時55分に「Room D」に向かった。
小さな会議室。ホワイトボードと椅子が数脚。
(まあ、誰も来ないだろうな…)
そう思ってドアを開けた。
…いた。
すでに、3人のエンジニアが、僕を待っていた。
一人は、見るからにベテラン風の、いかにも「アーキテクト」って感じの髭の男性。
一人は、僕と同じくらい?アジア系の若い女性。
もう一人は、ゴリゴリのコーダーっぽいTシャツ(while(true){ sleep(); }とか書いてありそうなやつ)を着た男性。
僕が入っていくと、3人が一斉にこっちを見た。
「やあ!君がこのセッションの提案者?」
「はい、そうです。WPFの…」
「知ってるよ!最高のテーマだ!」
最高の、テーマ…?
僕が椅子に座るか座らないかのうちに、ベテラン風の彼が切り出した。
「まず言わせてくれ。俺は某金融機関のシステムを見てるんだが、まさにこれだ。UIは今風のFluent Design(Microsoftのデザイン言語)っぽくしろと上は言う。だが、バックエンドのCOBOLから飛んでくる生データを処理するロジックは、15年前のVB.NET時代から変わってない。このViewModelが地獄でね…」
待ってました!
僕らは自己紹介もそこそこに、いきなり「本題」にダイブした。
従来のネットワーキング:
「どこの会社?」「役職は?」「すごいですね!(中身ゼロ)」
アンカンファレンス:
「WPFのViewModel、地獄ですよね!わかります!」
開始3分で、僕らは「同志」になっていた。
「聞く力」と「深掘り力」が爆発する
僕が提案者だったけど、僕は「講演者」ではなかった。これが重要だ。
僕はまず、彼らの「地獄」を聞くことに徹した。
ベテラン氏(金融):「そもそもWPFのDataGridが重すぎる」
アジア系の女性(医療系):「うちはMVVMパターンを無視したベテランが、MainWindow.xaml.cs(コードビハインド)に全部書いちゃって、リファクタリングが不可能」
コーダー氏(製造業):「XAMLのデザイナーがクラッシュしすぎて開発にならん。俺はもうコードでUI書く派だ」
出るわ出るわ、WPF開発者の「あるある」と「怨嗟」。
僕は、うんうんと頷きながら、ホワイトボードに彼らの問題点を整理していった。
従来のネットワーキングで「聞き役」に回ると、それは「受け身」で「弱者」のポジションだった。
でも、ここでは違う。
僕が彼らの話を**「深く傾聴」し、「正確に構造化」**していることが、この議論の「基盤」になっていた。僕の「聞く力」は、ここでは「ファシリテーション能力」という、明確な「貢献」になっていたんだ。
そして、一通り問題が出揃ったところで、僕は口を開いた。
「皆さん、WPFでDI(Dependency Injection)ってどうしてますか?」
僕が今、C#のプロジェクトで一番悩んで、そして一番工夫しているポイントを、単刀直入にぶつけた。
「うちはApp.xaml.csで全部newしてるよ。最悪だ」
「そもそもDIって、WPFでやる意味ある?」
僕は立ち上がり、ラップトップを開いた。
「僕、今、Microsoft.Extensions.DependencyInjection(.NET Core以降の標準的なDIコンテナ)を、レガシーなWPFプロジェクトに組み込む方法を試行錯誤してて。ちょっと、僕の設計パターン、見てもらえませんか?」
僕は、自分が書いたコード(もちろんダミープロジェクト)を見せた。
App.xaml.csからロジックを剥奪し、IHostを使ってサービスを登録し、ViewModel自体もDIコンテナから自動で解決させる仕組み。RelayCommand(WPFでよく使うコマンドパターン)の実装。
僕が5分ほど、静かに、しかしロジカルに説明し終えると、部屋は一瞬、静まり返った。
やっちまったか?
難しすぎた?あるいは、当たり前すぎた?
最初に口を開いたのは、あのベテラン風アーキテクトだった。
「…すごいな、君」
彼はホワイトボードに歩み寄り、僕の描いた図(IHostの起動シーケンス)をマジックでなぞった。
「俺は、WPFはもう『古い』技術だから、こういう『モダンな』.NETの設計思想とは相容れないと、どこかで諦めてた。だが、君のこのやり方は、古い資産(XAML)の良さを活かしつつ、中身(C#のロジック)を完全に最新のアーキテクチャに置き換えている。特にこのViewModelLocator(ViewModelを見つける仕組み)のアイデア…脱帽だ」
コーダー氏も食いついてきた。
「これならUnit Testが書ける!俺のMainWindow.xaml.csモンスターを倒せるかもしれない!」
アジア系の女性も、僕のコードを写真に撮りながら言った。
「このDIの方法、私たちのチームでもすぐに提案してみます!」
これが「MVP」の瞬間
60分のセッションは、あっという間に終わった。
終わった時、僕らは「もう話すことがない」という満足感でいっぱいだった。(原則4:終わった時が終わりの時)
部屋を出る時、あのベテラン氏が僕の肩をポンと叩いた。
「君、名前は?…OK。ありがとう。今日、このカンファレンスに来た価値は、君のこのセッションだけで十分元が取れたよ。WPFはまだ死んでない。君が証明してくれた」
…震えた。
僕は、大勢の前で派手なプレゼンをしたわけじゃない。
ハイテンションで名刺を100枚配ったわけでもない。
やったことと言えば。
「Room D」という小部屋で、たった3人の「適任者」と、
「WPFのDI」という、超絶ニッチなテーマについて、
僕が「静かに」「深く」研究してきたことを、
「コード」という僕らの共通言語で共有しただけ。
でも、確実に「MVP(Most Valuable Player)」だった。
あの4人(僕含む)のコミュニティにおいて、僕は間違いなく、最も価値のある「貢献」をした。
これが、「静かなる強み」の正体だったんだ。
僕ら内向型エンジニアは、浅く広い「ネットワーキング(UDP)」が苦手だ。
でも、深く、確実につながる「セッション(TCP)」なら、誰よりも得意だ。
アンカンファレンスは、僕らに「TCP接続で話せ」と言ってくれる場所だった。
「売り込む」んじゃなく、「貢献する」。
「アピール」するんじゃなく、「解決する」。
この日、僕は「ネットワーキング」というexeファイルを、僕の脳内からアンインストールすることを決めた。
代わりに、僕は「貢献(Contribution)」という新しいプログラムをインストールしたんだ。
「参加」から「貢献」へ。君の「聞く力」が海外キャリアの最強の武器になる
あの小さな「Room D」で、僕のWPFのニッチな設計パターンが、ベテランアーキテクトに「元が取れた」とまで言わしめた日。
あの体験は、僕の「海外エンジニア観」というか、もっと大げさに言えば「人生術」を根本から変えてしまった。
僕がやったことは何だった?
「ハイテンションで自分を売り込む」ことだった? 違う。
「流暢な英語でジョークを交えてプレゼンする」ことだった? 違う。
「とにかくたくさんの人と名刺交換する」ことだった? まったく違う。
僕はただ、自分が毎日毎日、C#のコードとWPFのXAMLと格闘してきた中で得た、**「深く、狭い、本物の知見」を、それを「本当に必要としている人」に、静かに「貢献(コントリビュート)」**しただけだ。
僕ら内向型エンジニアが、ずっと「弱み」だと思い込まされてきた特性。
それらが、アンカンファレンスという「環境(コンテキスト)」が変わった瞬間、すべて「最強の武器」に反転したんだ。
ちょっと整理してみよう。
1. 「広く浅く」が苦手 → 「深く狭く」が得意
- 従来の評価: 「付き合いが悪い」「視野が狭い」。パーティーで雑談ができない。
- アンカンファレンスでの評価:「専門性」。一つのテーマ(僕の場合はWPF)を、誰よりも深く掘り下げている。その「深さ」こそが、参加者(適任者)が求めていた「価値」そのものだった。
2. 「話す」より「聞く」のが得意
- 従来の評価: 「おとなしい」「アピールが足りない」。会議で発言しない。
- アンカンファレンスでの評価:「ファシリテーション能力」。僕があの場で、まず3人の「地獄」を徹底的に傾聴し、ホワイトボードに構造化したからこそ、議論は発散せず、核心に向かった。「聞く力」は、場を支配する「静かなリーダーシップ」だった。
3. 「瞬発力」より「準備」が得意
- 従来の評価: 「反応が遅い」「ノリが悪い」。
- アンカンファレンスでの評価:「信頼性」。僕があの場で即興の思いつきを話したわけじゃない。何ヶ月もかけて悩み、設計し、検証した「準備の蓄積」を共有したから、あのベテランアーキテクトも「脱帽だ」と言ってくれた。僕らの「準備する力」は、誰よりも「本質的な貢献」を生むためのエンジンだ。
そう。僕らは「ダメ」だったんじゃない。
僕らは、ただ「戦う場所」を間違えていただけなんだ。
例えるなら、僕らは「深海魚」だ。
光が届かない深い海の底で、じっくりと独自の進化(専門性)を遂げてきた。
それなのに、従来のネットワーキング(カンファレンス)は、僕らを無理やり「ビーチ(浅瀬)」に引きずり上げようとしてきた。
「もっと明るく!」「もっと速く泳げ!(雑談しろ)」「エラ呼吸じゃなく肺呼吸しろ!(アピールしろ)」
…できるわけがない。
そこで僕らは「ああ、俺はダメな魚だ…」と自己嫌悪に陥っていた。
だが、アンカンファレンスは違った。
アンカンファレンスは、僕らに「深海のままでいい」と言ってくれた。
いや、むしろ「君たちの『深海』に、こっちから潜らせてくれ」というイベントだったんだ。
僕の「WPFの深海」に、あの3人が潜ってきてくれた。
そして、彼らの「金融の深海」「医療の深海」に、僕も潜らせてもらった。
そこは、太陽の光(派手なアピール)は届かないけれど、本物の「知見(バイオーム)」が光り輝く、豊かで静かな場所だった。
君のキャリアをハックする「人生術」
このブログを読んでいる君が、もし昔の僕と同じように「海外でのネットワーキング、マジ無理…」とfinally句でDispose()したくなっている内向型エンジニアなら、これだけは覚えて帰ってほしい。
君は、そのままでいい。君の「静けさ」は、武器だ。
問題は君じゃない。君がいる「環境(OS)」だ。
だから、今すぐやるべきことは「自分を変える」努力じゃない。「環境を選ぶ(あるいは、作る)」ハックだ。
【得する情報①】「アンカンファレンス」というOSを探せ
まずは、君の住んでいる地域や、君の専門分野(C#とか.NETとか)で、「Unconference」や「Open Space Technology(OST)」、「BarCamp(バーキャンプ)」といったキーワードでイベントを探してみてほしい。
(※BarCampは、アンカンファレンスとほぼ同義で使われることが多い、より草の根的なテックイベントだ)
もし見つけたら、だまされたと思って一度、足を運んでみてほしい。
そして「二本足の法則」を心の盾に、一番興味のある、一番ニッチなセッションに(あるいは自分で立てて)参加してみてほしい。
「あ、ここでなら、呼吸ができる」
きっと、そう思えるはずだ。
【得する情報②】「二本足の法則」をハックしろ
「そんな都合のいいイベント、近所にないよ!」
そう思う人もいるだろう。僕もそうだった。
なら、自分で作ればいい。
大げさな話じゃない。
君が今いる会社の、チーム内の「ふりかえりミーティング」や、ただの「ランチ勉強会」からでいい。
次の会議で、こう提案してみるんだ。
「今回のミーティング、『二本足の法則』でやってみません?」
「つまり、『この議論、俺には関係ないな』『今、貢献できてないな』って感じたら、堂々と退出して、自分の仕事に戻ってOKっていうルールです。その代わり、残る人は本気で議論する」
最初は度胸がいる。
でも、もしこれが導入されたら、どうなる?
「拘束されるだけの無意味な会議」が、一瞬で消滅する。
残るのは、本当に「適任者」だけの、濃密な議論の場だ。
これこそ、僕ら内向型エンジニアが最もパフォーマンスを発揮できる環境じゃないか。
君の「静かなる革命」は、半径3メートルの会議室から始められる。
【得する情報③】「ネットワーキング」を捨て、「コントリビューション」を拾え
僕の脳内からnetworking.exeがアンインストールされた話は、「転」で書いた。
代わりにインストールしたのが「contribution.exe(貢献)」だ。
これは、人生術として、めちゃくちゃ強力だ。
次に君が誰かと会う時、「うまく話そう」「自分を大きく見せよう」と思うのは、もうやめよう。
代わりに、こう考えるんだ。
「この人の『地獄』はなんだろう?」
「僕が持ってる『このニッチな知識』で、この人を助けられないだろうか?」
「参加(Participation)」から「貢献(Contribution)」へ。
このマインドセットの切り替えだけで、君が発する言葉は、中身のない「アピール」から、価値のある「ソリューション」に変わる。
海外で働く僕らにとって、英語の流暢さなんて、二の次だ。
ブロークンな英語でも、たどたどしい発音でも、「君のWPFの地獄、僕のこのコードで救えるかもしれない」という「貢献」のひとかけらには、敵わない。
海外の現場で本当にリスペクトされるのは、「面白い話をするヤツ」じゃない。
「(静かでも)確実に問題を解決するヤツ」だ。
僕ら内向型エンジニアは、生まれながらにして「貢献」のプロフェッショナルだ。
僕らは、誰かの問題を「深く聞き」、そのために「深く準備」し、そして「深く解決策を提示する」のが、得意で得意で仕方がない人種なんだから。
もう、無理して「陽キャ」のフリをするのはやめよう。
「静か」でいい。
「おとなしい」でいい。
「ニッチ」でいい。
君のその「静かなる強み」を、求めている「適任者」は、世界のどこかに必ずいる。
アンカンファレンスは、その「適任者」と君を、最も効率的にマッチングしてくれる、最高のOSだ。
君のキャリアを、君の「得意な戦い方」でハックしてやろうぜ。

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