なぜ“未然に防ぐ力”が海外エンジニアには必要なのか
海外でエンジニアとして働いていると、日本にいたとき以上に「予防」がめちゃくちゃ重要だなと日々感じています。これは技術力とか、経験値とか、英語力とか、そういうスキルの話とはちょっと違います。もっと人間的で、チームワーク的で、そしてビジネス的なスキルの話です。
「問題が起きたら直せばいいじゃん」
って思うじゃないですか。
でも、海外の現場って「問題が起きた時点でアウト」になることが意外と多い。
いやほんとに。
なぜかというと、
海外のプロジェクトは日本よりも計画・スケジュール・契約・コストがダイレクトにビジネスへ響くからです。
つまり
失敗したら痛いのは自分たちの会社そのもの。
最悪プロジェクト中止。契約破棄。信用失墜。
それってもう、チームの信頼とかじゃ済まない世界なんです。
■「事が起こってから」じゃ、遅い世界
日本で働いていたとき、僕は正直、
「とりあえず作って、テストで問題出たら直せばいい」
という文化で働いていました。
“仕様変更?”
“まぁ、あとで何とかしましょう”
みたいなね。
でも海外では違いました。
・工数変更 ⇒ 契約再交渉
・仕様変更 ⇒ スケジュール再提出
・バグ大量 ⇒ チームの信頼スコア低下
・納期遅延 ⇒ クライアントから損害請求(普通にある)
ここまで厳しいと、
トラブルを起こす前に止めることが生存戦略になるんですよ。
■ じゃあ「未然に防ぐ」って具体的に何をするの?
「はい、予防しよう!」って思っても
最初は具体的に何すればいいかわからないんですよね。
僕も最初はそうでした。
でも、仕事を通してだんだんと見えてきたんです。
未然に防ぐっていうのは、要するに
「問題を予測し、起きる前に対策を打つ」
ということなんだけど、そのためには大きく3つの視点が必要になります。
1. モノを見る目(技術的リスクを察知する力)
これは単に「バグを見つける力」とかじゃなくて、
構造的に破綻しそうなところとか、
後々変更しにくくなりそうな仕様とか、
「未来に起こりうる崩壊ポイント」を嗅ぎ取る感覚。
レビュー文化が強い海外の現場では、これがかなり重視されます。
2. 人を見る目(チームの弱みと流れを読む力)
プロジェクトって結局、人が作るものだから
人間関係・会議の空気・責任の所在・意思決定の早さ
こういう空気の力学が問題の火種になります。
「この担当者いま余裕なさそう」
「この議題、誰も腹落ちしてない」
「この仕様、実はクライアント側も決めきれてない」
こういう 見えない危険信号 を拾えると、事故を止められる。
3. 契約・予算・スコープの理解(仕事の本質を見る力)
技術的に正しいことと
ビジネス的に正しいことって
ときどき衝突します。
この衝突を理解してないと、
「正しいコードを書いているのにプロジェクトが炎上」
みたいな悲劇は余裕で起きます。
海外プロジェクトでは
契約内容がすべての基本ルールだから、
そこを理解しているエンジニアはかなり強い。
■ 僕自身、何度も「未然に防げなかった失敗」をして学んだ
正直言います。
僕も何度も「手遅れになってから対応した人間」でした。
炎上したプロジェクトを深夜まで復旧したこと、何度もあります。
・仕様の前提が共有されてなかった
・設計の初期で懸念を拾いきれてなかった
・クライアントの言外の本音に気づかなかった
「気づいたときには手遅れ」
これ、めちゃくちゃ心が折れます。
でもそこで気づいたんです。
未然に防ぐ力こそ、海外で戦うエンジニアの武器になるんだと。
実際に“未然に防いだ”ケーススタディ
ここからは、実際の現場で起きた「危機を回避した」話を掘り下げていきます。
これらのケースは業界も規模も違うけど、共通しているのは
「問題は起きる前に潰された」という点です。
そしてその防止策には、
「技術」だけでなく「コミュニケーション」と「ビジネス理解」が深く関わっていました。
Case Study 1:データ分析が救った、巨大プロジェクトの設計ミス
ある大手企業の建設系プロジェクトでの話。
僕はソフトウェア側で、設計データ管理システムの開発チームにいました。
このプロジェクトは桁違いの規模でした。納期は数年単位、コストは数十億。
ここで設計に致命的なミスが見つかったら、もう笑えません。
■ 問題の兆候は「誰も見ていないログ」にあった
ある日、データ解析担当の同僚から
「設計データの一部で、微妙な値のブレが起きている」
と言われました。
正直その時点では、誰もそれを重大とは思っていませんでした。
「まぁ、誤差でしょ」
「設計者が手動で修正してるだけじゃない?」
という空気。
でも、その同僚はそこで止まらなかった。
ログを追いかけ、値の変動の発生タイミングをマッピングし、
さらに履歴管理のデータに照らし合わせた結果、
特定の設計パラメータが自動補正の処理で周期的に破綻している
ことが判明したんです。
つまり、今は大丈夫に見えるけど、
そのまま設計が進めば建造物の「強度計算」が破綻する可能性があった。
これは、完成後に発覚していたら地獄。
・再設計(数千万〜数億)
・納期遅延
・契約見直し
・最悪は損害賠償
いや、ほんとにシャレにならない。
■ 「気づいた人が、止めた」ことが価値
ここで大事だったのは、
データをチェックする文化があった
そして
小さな違和感を無視しなかった人がいた
ということです。
未然に防ぐっていうのは、
「危険を予知する力」と「言う勇気」が揃って初めて成立するんです。
Case Study 2:小さなデザイン会社が予算崩壊を回避した“交渉の力”
次は、少人数スタジオでの話。
このスタジオは、クライアントから受託してアプリUI設計を進めていました。
規模は小さいけど、技術力は高い、職人系のチームでした。
ただ、一つ問題があった。
■ クライアント側の要求が、じわじわ増えてくる
最初は明確だったはずのUI要件が、
開発が進むにつれて、どんどん曖昧になっていきました。
「ここ、やっぱり違う雰囲気にしたいんだよね」
「ユーザーの声を反映したい」
「競合のアプリ見た? こういう動きにできない?」
この「追加要求の無限ループ」
エンジニアなら見覚えがありますよね……。
そう、スコープクリープです。
放っておくと確実に詰みます。
・作業だけが増える
・納期は変わらない
・予算も変わらない
・チームは消耗する
・最後は赤字
でも、このスタジオは違いました。
■ 「早い段階で再契約」を打診した
要求が膨らみ始めたタイミングで、
リーダーがすぐにクライアントとミーティングを設定。
「今のまま進行すると、品質を保てない可能性があります。
もう一度、目的と優先順位の整理をしたいです」
という提案をしました。
その上で、
・「やるべきこと」と「やらないこと」をはっきり可視化
・ 要件追加は 追加契約 を明確にルール化
・ クライアントに「選択と責任」を渡す形に変更
結果、プロジェクトは回り続けて、
予算崩壊は回避されました。
■ 必要なのは技術じゃなく「線を引く勇気」
「相手に嫌われないように…」
と黙ってしまうと、最終的に一番損するのは自分たちです。
良い関係は、曖昧さを残さないことから始まる。
これは海外プロジェクトで本当に刺さった教訓です。
The Agile Architect:設計は“形”ではなく“変化”に対応するもの
最後は、もっと抽象度の高い話。
海外では、
「最初に完璧な設計を作る」
という考えはもう古いです。
代わりに重視されるのが
変化できる設計
つまり、アジャイルな設計思想。
■ 設計は“確定”ではなく“仮説”
最初から全部決まってるプロジェクトなんてありません。
むしろ、
・市場は変わる
・ユーザーは変わる
・クライアントの理解も変わる
・チームも変わる
だからこそ、
設計は一度決めて終わりではなく、対話を通して育てていくもの
という認識が重要です。
小さなプロトタイプ
短いレビューサイクル
対話を前提にしたドキュメント
これらは全部
変化を許容するための設計の仕組みです。
■ 完璧を目指すほど、壊れやすくなる
むしろ
「不完全なまま進む勇気」
が、海外では強さになります。
未然に防ぐ力が、僕の働き方をどう変えたか
ここまで、実際に「危機を未然に防いだ」ケースを紹介してきました。
・データ分析で重大な設計ミスを回避した大企業
・スコープ管理と交渉で予算崩壊を防いだ小さなデザイン会社
・変化を前提に設計を育てるアジャイルな姿勢
これらは規模も業界も違います。でも、どれも
「問題が起きてから対応するのでは遅い」
という共通の真理を示しています。
そして、それらを経験したあと、僕自身の働き方は大きく変わりました。
1. 「完成」を目指す思考から、「仮説と検証」の思考へ
昔の僕は、設計や仕様を固めるときに
「完璧な状態にしてから渡さなきゃ」と考えていました。
・要件は明確じゃないけど、とりあえず決めきってしまう
・将来的に変わるかもしれないから、汎用性を過剰に持たせる
・細部まで全部詰めてからレビューに出したい
でもそれって、実はめちゃくちゃリスクが高いんですよね。
なぜかというと、
「完璧」って、ある前提が正しい時だけ成立するものだから。
市場が変わったり
クライアントの理解が進んだり
ユーザーの反応が出たり
チームの技術力が伸びたり
そういう変化って必ず起きる。
だから今は
「最初の設計は仮説であり、変わるもの」
と考えるようになりました。
つまり、最初に作るべきは
・完璧な図面ではなく
・未来の変更がしやすい余白
そう割り切れると、設計がめちゃくちゃラクになります。
2. 「弱い部分」こそ、先に触る
失敗しやすい部分
影響が大きい部分
曖昧な部分
前提が固まってない部分
昔の僕は、そういう箇所を
「後回しにして、まずは進められるところから進めよう」
と考えていました。
でも、これは逆だった。
後回しにした弱い部分は
後から牙をむいてプロジェクトを食いちぎります。
だから今はこうしています。
一番不確定・一番怖いところから、最初に触る。
小さく、軽く、実験的に。
それができると
「予測できない問題」を、
「予測できる問題」に変えられるんです。
すると、プロジェクトは安定する。
3. 何より大切なのは、“違和感に気づいたときの一言”
未然に防ぐ上でいちばん大事なスキルは、
実は技術ではありません。
声に出す勇気です。
「これ、ちょっと気になるんですが」
「ここ、前提合ってますか?」
「このままいくと、こういうリスクありますよね?」
この一言が言えるかどうかで
プロジェクトの未来はマジで変わる。
海外で働いていると特に実感します。
黙っている人は「同意している人」と見なされます。
だから、伝えることが、責任。
そして、ここでのポイントは
完璧に説明できる必要はない
ということです。
「説明しきれない違和感」でも、
言葉にして誰かに出した瞬間、
そこから議論が始まる。
議論が始まった時点で、
その問題の芽はもう半分潰せています。
4. 予防の文化は、チームを強くする
未然に防ぐスキルは、個人の能力に見えますが
実はチーム文化そのものに影響します。
・言いやすい雰囲気
・小さな兆候に敏感な習慣
・議論を潰さない心理的安全性
・「責める」ではなく「気づきを共有する」姿勢
こういう雰囲気があるチームは、強いです。
逆に
「言ったら空気が悪くなる」
「責任の押し付け合いが起きる」
「何かあっても誰も言わない」
そんなチームは、
技術力がいくら高くても、簡単に崩れます。
だから僕は、海外で働く中で
空気をよくする努力をめちゃくちゃ意識するようになりました。
話すときは端的に。
指摘は「相手」ではなく「現象」に向ける。
感情ではなく「事実と影響」を共有する。
この積み重ねが、プロジェクトを守ります。
そして気づいたこと
未然に防ぐというのは、
「臆病に慎重に進む」ことではありません。
むしろ逆です。
リスクを恐れるからこそ、前に進める。
危機を正しく恐れられる人は、
強く、軽やかで、無駄に疲れません。
未来が見えているからです。
未然に防ぐ力は「未来を守る技術」だった
ここまで「危機を防ぐエンジニア術」をテーマに、
・なぜ予防が重要なのか(起)
・どんな現場で、何が起き、どう回避できたのか(承)
・その学びが僕自身の働き方をどう変えたのか(転)
という流れで話してきました。
ここで改めて結論を言うと、
未然に防ぐ力というのは、未来を守るための技術です。
これはコードのテクニックでもないし、
資格や肩書きの話でもない。
もっと根っこの、
「どう働くか」「どう人と向き合うか」という姿勢に近いものです。
「未然に防ぐ人」と「問題が起きてから動く人」の違い
僕が海外で働く中で気づいたのは、
優秀な人は、問題が起きる前に動くということです。
反対に、問題が起きてから焦って動く人は、
いつも炎上の中にいます。
この差は、才能の差ではありません。
違うのは視点です。
| タイプ | 見ているもの | 行動 |
|---|---|---|
| 問題が起きてから動く人 | 「今、目の前で起きていること」 | 反応する・消火する |
| 未然に防ぐ人 | 「この先、起こりうること」 | 予測して、事前に手を打つ |
つまり、
先を想像しているかどうかで働き方が変わる。
未来を見て動けるエンジニアは、
結果的にチームもプロジェクトも救う存在になります。
明日からできる「未然に防ぐ」ための3つの習慣
ここまで読んで、
「なんか考え方はわかったけど、じゃあ明日なにするの?」
と思った人もいるはずです。
なので、実践レベルまで落とします。
1. 「違和感メモ」を持つ
仕事中に「あれ?」と思った瞬間を、即メモします。
・仕様が曖昧
・責任の所在が不明
・設計の理屈が繋がっていない
・本番で詰まりそうな匂いがする
これらは、だいたい後で問題になります。
「違和感」は未来のエラーの“予告”です。
2. 10分でもいいので「早期レビュー」を入れる
完璧じゃなくていいです。
むしろ、未完成の状態で出すのがいい。
未完成の設計は、意見が入りやすい。
完成した設計は、議論が起きない。
つまり
早いほど修正は安い。
3. 「言いにくいこと」を言葉にする練習をする
言いにくいことほど、言ったほうがいいです。
ただし感情ではなく、事実ベースで。
例えば、
×「これ無理です」
〇「現状のスケジュールと担当リソースだと、こういう遅延の可能性があります」
×「ここおかしいと思います」
〇「この部分の仕様が、◯◯の動作と整合しなくなる懸念があります」
言い方ひとつで、衝突が協力に変わります。
未然に防ぐ文化は、個人ではなく「チーム」を成長させる
海外の現場で強いチームは、例外なく
心理的安全性が守られているチームです。
・意見を言っても攻撃されない
・指摘は「人」ではなく「現象」に向ける
・わからないことは「わからない」と言える
・責任は個人に押し付けず、構造に目を向ける
その場の空気が健全なプロジェクトは、
トラブルが早期に表面化します。
逆に、「言えない」空気のチームは、
問題が深く静かに進行して、
最終的に爆発します。
トラブルが「起きないチーム」ではなく
トラブルが「起きる前に浮かび上がるチーム」を目指す。
これが、未然に防ぐ文化です。
最後に:僕の好きな言葉
海外の同僚に言われた言葉で、今も心に残っているものがあります。
「Great engineers don’t just solve problems.
They prevent them.」
(優れたエンジニアは、問題を解決するだけじゃない。
そもそも問題を起こさないんだ。)
問題を解決できる人は、頼れる人。
問題を起こさない人は、信頼される人。
この差は大きい。
締め
未然に防ぐ力は、目立たないスキルです。
でも、長く働けば働くほど、その価値は積み上がります。
・炎上が減る
・残業が減る
・信頼が増える
・キャリアの自由度が増える
そして、あなたが疲弊しない働き方ができるようになります。
未来を守る技術。
それが「未然に防ぐエンジニア術」です。

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