逆算キャリア設計のすすめ:未来の自分から今をつくる方法

未来をイメージするという「なかなか誰もやらない」第一歩

海外で働き始めてしばらく経ったころ、僕はふと気づいたことがあった。
「今の自分は、どこに向かってるんだろう?」
忙しい毎日、プロジェクトの締め切り、レビュー、仕様変更、ミーティング。気づいたら一年が終わっているような日々。その中で、自分がキャリアのハンドルを握っている感覚が薄れていく瞬間があった。

「とりあえず頑張る」
「スキルは積み重ねていけば何とかなる」
これは、僕が日本にいたころも、海外に来ても、ずっと心のどこかにあった考え方だった。でも、それは言い換えると「流されるキャリア」だったんじゃないかと思う。

会社が求める方向、評価軸、プロジェクトの都合、それらに合わせて動くのはもちろんプロとして当たり前なんだけど、それだけだと、いつのまにか「自分の望む未来」と「現実のキャリア」はズレていく。

僕はそのズレを、渡航して2年目くらいでようやく自覚した。
英語がやっと聞き取れるようになってきて、周りの同僚のキャリアパスが見えるようになってきた時期だった。

例えば、同じチームにいるシニアエンジニア。
10年選手、ドキュメンテーション能力も高くて、設計判断も的確。会議では冷静に議論をまとめる。日本でいう「中堅〜リード」みたいな立ち位置。でも、ある日ふと思った。

「この人は、10年後どうなるんだろう?」

その人は言った。
「たぶん同じポジション。別に昇進とか興味ないし」

その瞬間、胸の奥がズキッとした。
なぜなら、その姿に「自分の近い未来」を重ねてしまったからだ。

僕はそこで気づいた。
「このまま流されていたら、僕も“なんとなく仕事ができる人”のまま終わるかもしれない」

じゃあ、それは自分の望む未来なのか?
と自分に問いかけてみた。

答えは、NOだった。

僕は、5年後、10年後にこうなりたいと思った。
「技術とコミュニケーション、そして文化を理解して、プロダクトを形づくる役割にいたい」
そして、日本に戻ったとしても通用する“価値のあるエンジニア”でいたい。
できれば、「誰かのキャリアの道標になれる人」でいたい。

ここでようやく、僕は「理想の未来の姿」を言葉にできた。
これが、キャリア設計のいちばん最初のステップだと思う。

そして、驚いたことに、これをちゃんとやる人は本当に少ない。
エンジニアは「手元の技術」や「次の言語・フレームワーク」に意識が向きがちだ。僕もそうだった。でも本当に大事なのは、

  • 技術を何に使いたいのか
  • どんな場で活かしたいのか
  • どんな人でありたいのか

この「未来設計」の部分だった。

キャリアは「積み上げ型」とよく言われるけれど、僕の経験ではむしろ「逆算型」のほうが進むスピードが早い。
5年後に必要なスキルがはっきりしていれば、今日何をすべきかも見えてくる。

逆算は、いわば「未来からの地図」。

そして、その地図を描くためには、まず次の質問が必要になる。

「5年後、あなたはどんな仕事をしていたい?」
「どんな力を持っていたい?」
「どんな人と働いていたい?」

この問いに、カッチリした答えじゃなくていい。
曖昧さがあっていい。
でも、イメージの種は絶対に必要。

僕はその種を見つけたことで、やっとキャリアを「自分のもの」にできた気がした。

未来を「分解する」ことで、キャリアは現実になる

前回「起」では、まず最初にやるべきこととして「5年後・10年後の自分の理想像を言語化する」ことを書いた。
でも、ここからが本番だと思っている。

多くの人が「なりたい未来」を思いついても、そこから先に進めない理由はシンプルだ。

「何から手をつければいいかわからない。」

これ、めちゃくちゃわかる。僕もそうだった。
未来って遠いし、現実って近すぎるし、その差が大きすぎて、どう動けばいいのか分からなくなる。

だから大事なのは「逆算」だ。
しかも、ただの逆算じゃなくて、分解する。

未来を、そのまま未来のままにしておくと、ただの理想で終わる。
でも、未来を 要素に分解 していくと、未来が「現実のタスク」になる。

この「分解」が今回のキーポイントだ。


1. 理想の未来を構成する「要素」を書き出す

ここからは、僕が実際に使っていた方法を紹介する。

まず、5年後の自分をイメージしたら、そこに含まれている要素を書き出していく。

例:
5年後の僕 → 「プロダクトの方向性にも関わりながら、海外チームと対等に議論し、設計判断をリードできるエンジニア」

じゃあここには何が含まれているのか?

書き出してみると、こんな感じだった。

  • 設計判断を支える基礎的なアーキテクチャ知識
  • ビジネス要件を技術仕様に落とし込む力
  • 英語での議論・交渉スキル
  • 海外チーム文化に対する理解
  • プロジェクト全体を俯瞰する視点
  • テクニカルリードとしてのファシリテーション能力

これだけ出てきたら、次はそれを「さらに細かく」する。

例えば
「ビジネス要件を技術仕様に落とす力」
→ それって具体的に何を意味する?
→ ユーザーストーリーを整理できる
→ 設計ドキュメントを書ける
→ 他職種と合意形成できる

こんな風に、ひとつの大きな力を、細かい行動スキルまで分解する。

すると突然、「できる・できない」が判断できるようになる。


2. 現在の自分と比較して「ギャップ」を明確にする

次にやるのは、「今の自分」と照らし合わせること。

これは痛い作業だ。
なぜなら、足りないものが見えてしまうから。

でも、ここを避けるとキャリアは変わらない。

僕はこの作業をするとき、正直ちょっと凹んだ。
だってほとんど足りてなかったから。

例えば当時の僕の現状はこうだった。

  • 英語での議論 → 6割くらい理解、でも言い返せない
  • 設計判断 → まだ上司の確認が必要
  • ドキュメント → 一応書けるが、読み手視点が弱い
  • チームファシリテーション → 経験ほぼゼロ

ノートに並べてみたとき思った。

「俺、まだまだすぎるな…」

でもそこで僕は、ひとつの考え方に救われた。

ギャップが見えるということは、進む方向が見えたということだ。

多くの人は、「できることだけを伸ばす」方向に行きがちだ。
それはもちろん大事だ。でも、「できないこと」を意識することはもっと大事だ。
なぜなら、未来との距離は「不足している要素」で決まるから。

足りないものが見えれば、次に何を学べばいいかが、勝手に決まる。


3. ギャップを「今の行動」に落とし込む

ここでさらに重要なのは、小さく始めることだ。

未来の姿を見たとき、人はつい「全部やらなきゃ」と思ってしまう。
でも、それは挫折の一番の原因。

キャリアはマラソンなので、やるべきことはこう。

  • 今日やれることを決める
  • 小さくやり続ける
  • 徐々にギャップを埋めていく

僕が最初にやった「小さな一歩」は、
英語での議論力を高めるために「毎日ミーティングで一回は自分の意見を言う」と決めたことだった。

たったそれだけ。

でも、それを3ヶ月続けると、明らかに会話の筋肉がついてくる。
小さいけれど、「未来に繋がる実感」が生まれる。

キャリアは一気には変わらない。
でも、確実に変えられる。

未来から逆算して、今できる一歩を決める。
これが「逆算キャリア設計」の核だと思う。

迷い・不安・比較。キャリアには必ず「揺れ」がくる

逆算で未来を描けて、必要なスキルや経験も分解できた。
さらに「今日できる小さな一歩」まで決められたら、キャリアはもう加速し始めている。
…と、言いたいところなんだけど、現実はもっと生々しい。

動きだした瞬間にやってくるのは、ワクワクよりもむしろ、
「これで合ってるんだろうか?」
という不安だ。

僕もそうだった。

学び始めても、自分の成長って自分では気づきにくい。
しかも海外での仕事は、文化も言語もルールも日本と違う。
少しできるようになっても、上にはもっとすごい人がいて、比べて落ち込むことだってある。

この「揺れ」の時期にどうするかで、キャリアの伸び方は本当に変わる。


1. 「迷う」のは、前に進んでいる証拠

僕がキャリアに迷ったとき、当時の上司(海外出身のシニアアーキテクト)に言われた言葉がある。

“If you feel lost, it means you’re no longer standing still.”
迷ってるってことは、もう止まってはいないってことだ。

この言葉は、不安の中にいた僕にすごく効いた。

だって、動かなければ迷わないからだ。

現状維持のままなら、悩みも葛藤も生まれない。
「このままの自分でいいのか?」と考えた時点で、もうキャリアは始まっている。

だからまず認めてほしい。

迷うことは、前に進んでいる証拠だ。
不安は、成長の入り口にしか現れない。


2. 「他人と比較するクセ」は、意識的にやめるしかない

特に海外で働いていると、周りの人が優秀に見える。
言語感覚、議論のスピード、自信、ジョークの切り返し。
全部勝てない気がした。

でも、これは罠だ。

日本で働いていたときは、ある程度「自分の立ち位置」が分かる。
でも海外に来ると、その感覚が一度リセットされる。

そして僕は、気づかないうちに「同じ土俵で比べる」という間違いをしていた。

だけど、比べるべきは他人じゃない。

比較すべきは 昨日の自分 だけ。

1週間前より、ミーティングで話す回数が増えたか?
1ヶ月前より、ドキュメントを整理できるようになったか?
3ヶ月前より、設計の意図を説明できるようになったか?

こういう「自分内比較」が、キャリアを伸ばす唯一の比較軸だと思う。

他人と比べて凹むのは、努力の方向を崩す最短ルートだ。
それは成長ではなく、ただの消耗だ。


3. 迷った時は「なぜその未来を望んだのか」に立ち戻る

僕が逆算キャリアを進めていた途中、実は一度、大きく迷った時期がある。

「自分はデザインにも興味があるし、プロダクトマネジメントにも興味がある。
エンジニアで居続けるのが本当に正解なんだろうか?」

これは、多くの人が通る分岐点だと思う。

そういう時、僕がやったことはシンプルだった。

未来を描いたノートに戻る。

そこには、こう書いてあった。

「技術とコミュニケーションを両立できるエンジニアでいたい」

あの日の自分が、ちゃんと考えて言葉にしたことだ。
未来の自分を信じるって、実は過去の自分を信じることでもある。

迷いが来たら、最初の原点に戻る。
原点に戻れる人は、ブレない。


4. 小さくても「進んでいる証拠」を集める

不安は、「進んでいる実感」がない時に強くなる。

だから僕がやったのは、進歩を記録することだった。

  • 毎日ミーティングで1回意見を言えた日には ✅
  • 設計ドキュメントのレビューで褒められたらメモ
  • 同僚に「ここどう思う?」と相談されたら記録

これをすると、成長が「見える化」される。

自分が進んでいると実感できると、不安が焦りに変わらず、「自信の芽」になる。

成長はいつも、静かで遅い。
でも、確実に進んでいる。


5. 焦る必要はない。だけど「止まらないこと」は重要

キャリアはマラソンだとよく言われるけれど、僕はマラソンだとは思っていない。
マラソンはただ走ればゴールする。
でもキャリアにはゴールがない。

じゃあ何かというと、
キャリアは「散歩」だと思う。

景色も変わる。興味も変わる。歩く速度も変わる。
でも、止まらなければ、どこかに辿り着く。

逆に、止まってしまえば、何も変わらない。

大事なのは「ゆっくりでもいいから、止まらないこと」。

不安な時、迷った時、自信がなくなった時は、歩幅を小さくするだけでいい。
歩くのをやめない限り、未来は必ず近づく。

キャリアに「ストーリー」を与える。歩き続ける人になる。

ここまで、未来の自分を描いて、必要なスキルや経験を分解して、ギャップを埋める「小さな一歩」を積み重ねる話をしてきた。
そして、途中で必ず訪れる迷い、不安、比較の揺れとどう向き合うかについても話した。

逆算キャリアの本質は、完璧に計画通りに進むことではなく、自分で選び続けることにある。
今回の「結」では、それをどう「日常」として続けるか。そして、生きていくキャリアにどう意味とストーリーを持たせるかについて話そうと思う。


1. キャリアは「ストーリー」になると強い

人は、ただスキルを持っている人よりも、ストーリーを持っている人に惹かれる。

・なぜそのスキルを選んだのか
・なぜその場所で働いたのか
・なぜその選択をしたのか

これには、「理由」が必要だ。

例えば、同じ C# WPF を扱うエンジニアでも、

「たまたま配属されたから使ってる」
人と、

「UI/UX と業務システムの接点に興味があったから WPF を選んだ」
人とでは、説得力も視野の広さも全然違う。

ストーリーは、肩書きではなく  をつくる。
軸があると、選択がぶれにくい。
迷ったときに戻れる場所ができる。

僕は、海外で働き始めてから、いろんな人のキャリアを見てきたけど、
強い人はみんな「自分のストーリー」を語れる人だった。
それは、自慢やプレゼンではなく、静かに「選んできた理由」を持っている人。

だから、あなたにもぜひやってほしい。

自分のキャリアにタイトルをつけること。

例えば僕の場合は、

「文化と言語を越えて、プロダクトを形にするエンジニア」

これがあると、
迷った時に戻る場所になるし、
成長の方向がずれにくい。

ストーリーは、キャリアを「生きたもの」にする。


2. 日常の中でキャリアを更新する

キャリアは、年に一度考えるものじゃなくて、日々の中で少しずつ更新していくものだ。

例えば、こんな習慣があるといい。

・週に1回、自分の進歩を3行で記録する
・月に1回、「来月やる一歩」を決める
・3ヶ月に1回、未来の自分ノートに立ち戻る

これでいい。

キャリアとは、「大きな決断」よりも、「小さな継続」の総和だ。

特に海外で働くと、情報量も刺激も多いから、考えないとすぐ流される。
逆算キャリアの本当の価値は、「自分で選ぶ力が身につくこと」だと思っている。


3. 自分が積み上げてきたものは、必ず誰かの役に立つ

僕がこのブログを書いている理由も、ここにある。

海外での仕事は、華やかに見える反面、孤独もある。
言語の壁、文化の違い、評価の基準、人間関係の作り方。

「これ、誰も教えてくれないじゃん…」

って思う瞬間が何度もあった。

でも、その経験は、後になってから「誰かの道標になる」ことに気づいた。

キャリアは、ひとりで積み上げるものだけど、シェアすることで価値が増える。

あなたが今悩んでいることは、未来の誰かにとっての「救い」になり得る。

だから、キャリアを積むということは、同時に「誰かの物語の一部になる」ということでもある。


4. やってきたことは、ぜんぶ繋がる

最後にひとつだけ強く言いたい。

今やっていることは、絶対に無駄にならない。

スキルも、苦労も、後悔も、時間も。
全部、あとから繋がる。

僕は、英語がまったく話せなかった頃の自分も、
自信がなくて会議で黙っていた自分も、
技術力に不安しかなかった自分も、
今は全部、「必要だった時間」だったと思っている。

キャリアは、点ではなく、線だ。
そして線は、振り返ったときにしか繋がらない。

だから、いま迷っていても大丈夫。
ゆっくりでも、大丈夫。

歩き続けることだけが、唯一の条件だ。


最後に

逆算キャリア設計は、未来を「待つもの」から「つくるもの」に変える考え方だ。

未来を描く
要素に分解する
ギャップを知る
小さな一歩を続ける
迷ったら原点に戻る
ストーリーを持ち続ける

これだけで、キャリアは確実に変わる。

そしてその変化は、今日から始められる。

未来の自分は、今日の自分に期待している。

ここまで一緒に進んでくれて、ありがとう。
このブログが、あなたの「未来の地図」の一部になれたら嬉しい。

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