海外で働くエンジニアが最初に直面する「UI設計の落とし穴」
海外のプロダクト開発現場に参画すると、日本国内とはまた異なる設計・開発文化や期待値のギャップに気づくことが多いです。
特に、UI/UX の“見た目”だけでなく“流れ・品質・再利用性”を重視する文化が強い組織だと、以下のような壁にぶつかることがあります。
● デザイン ⇄ 開発 の“橋渡し”が弱い
日本の現場では、デザイナーが画面モックを描いて、それを “完成品風に見える画像” として渡すスタイルが比較的普通かもしれません。しかし、海外のプロジェクトでは「このモック通りに動くものを出してほしい」「状態変化・遷移・例外ケースも設計に含めてほしい」という期待が強いです。デザイナーとエンジニア間のコミュニケーションが曖昧だと、「このボタンは押したあとどうなる?/ホバー時は?/無効時は?」といった仕様漏れで手戻りが発生しやすくなります。
Figma や Sketch などの設計ツールの使い方ひとつとっても、「どのページが実装対象か」「どの要素が変更中か・安定版か」は明確に区別しておかないと、エンジニア側で混乱が生じやすいという指摘があります。(Figma)
● デザイン負債と技術的負荷の蓄積
初期は「何となくそれっぽく見えればいい」仕様で UI をポンポン追加していくことがあります。しかし、それを積み重ねるとデザインがバラバラになり、「あのボタンはこの色、こっちはあの余白」 といった無統一な UI 部品が乱立します。これが俗に「デザイン負債(design debt)」です。
こうなると、後半で「そろえて整えよう」というリファクタリングが発生しやすく、しかもそれがバックログに積もると、機能改修のたびに微調整が必要になり、開発速度がどんどん落ちていきます。
こうした問題を防ぐには、UI 設計を最初から“体系化”しておくこと、つまり「システミック UI(体系的 UI / Design System 的思考)」を導入することが強力な武器となります。
● UI プロセスの整備がROIにつながるという期待
とはいえ、設計プロセスを整えるにはコストも手間もかかります。特にスタートアップや小規模なチームだと、「そんな余裕はない」と判断されがちです。しかし、UI プロセスをきちんと整備した(=設計ガイドライン、コンポーネントライブラリ、ハンドオフルールなどを明文化・運用可能にした)チームは、後々の手戻り減少・反復速度向上・ユーザー満足度向上といった形で「設計投資に対する見返り(ROI)」を出せるようになります。
たとえば、Zeroheight のブログでは、デザインシステム導入によって時間削減や反復速度向上を測定し、ROI を算出する手法を紹介しています。(Zeroheight) また、Smashing Magazine は、最小限のパラメータでデザインシステムの ROI を近似計算できる式を示しています。(Smashing Magazine)
これらの知見を背景に、海外で働くエンジニアとして「UI 設計を体系化する意義と、最初の一歩」を語れるようになることが、これからあなたが “海外向けに語るコンテンツ” の起点になるでしょう。
UIプロセスを“システム化”する。その現場リアルと突破口
僕が海外の現場で最初に感じたのは、「UIはアートじゃない、ロジックだ」という価値観の違いでした。
日本でWPFアプリを中心に開発していたころは、デザイン担当が描いた画面を“美しく再現する”ことが目的でした。しかし海外の現場では、「UIの一貫性」「開発・デザイン間の再現性」「コードとしての再利用性」こそが評価の軸になるのです。
言い換えれば、“UIを個人技で作らない文化”。これが、僕にとって最初の壁でもあり、最大の気づきでもありました。
● UIは「部品化」から始まる
当時、チームで作っていたのは業務用デスクトップアプリ。C# WPFで数百画面に及ぶ大規模プロジェクトでした。
最初はデザイナーが画面ごとにXAML風のデザインモックを出し、僕たちがそれをひとつひとつ実装していくスタイルでした。
でも、ページごとに少しずつボタンサイズが違ったり、マージンがずれていたり、スタイルリソースが個別に存在していたり…。リリースが進むにつれ、変更が地雷のように増えていきました。
そんな時、アートディレクターが提案したのが 「Systemic UI」 の導入。
つまり、UI全体を構成する最小単位を“部品(Component)”として明確化し、それを再利用可能な状態に保つ設計思想です。
最初は正直、遠回りに感じました。
「今動いてるのに、わざわざ全部コンポーネント化する必要ある?」と。
でも数ヶ月後、まさにその“面倒な工程”がプロジェクトを救うことになります。
● Design Systemを「ルール」として定義する
Systemic UIを作るうえでの最初のステップは、ルールを言語化することです。
FigmaやAdobe XD上で定義するだけでなく、
「Primaryボタンは常にこの色・この角丸・この余白」
「見出しはFontWeight 600、LineHeightは1.3固定」
といった具体的な設計指針を「UIガイドライン」としてチーム共有しました。
そのとき大事にしたのは、“ガイドラインを読むための心理的ハードルを下げること”。
分厚いドキュメントを誰も読まないことは分かっていたので、Notion上でスクリーンショット付きの短いチートシートを作成。
これが思いのほか効果的で、開発チームがデザイン仕様を即座に参照できるようになりました。
実際、Material DesignやCarbon Design Systemのようなグローバルデザインシステムを参考にしながら、自分たちの製品特性(WPFベース、業務向け、配色制約あり)に合わせてカスタマイズしていきました。
(参考: Material Design Guidelines / IBM Carbon Design System)
● Handoffプロセスを整える:デザインと開発の接着面を透明化する
Systemic UIのもう一つの柱が、デザインと開発のハンドオフを明確にすること。
以前は、デザイナーが「完成しました!」と言っても、いざ開発に入ると不明点が次々に出てくるのが常でした。
そのため導入したのが、ハンドオフ・テンプレート。
各デザインページには以下のような項目を必ず含めるルールにしました。
- 画面名/機能ID
- 各UI要素の状態(Normal/Hover/Disabled/Active)
- コンポーネント名とリソースキー(例:
Button.Primary) - フォント・カラー・余白の指定値
- 例外ケース(データなし時/エラー表示時)
これを定義したことで、実装開始時の質問が激減。
そして何より、デザインレビューが「好みの話」から「ルールの遵守」へと変わったのです。
これは、文化的にも大きな進化でした。
● デザイン負債を「見える化」する
Systemic UIを導入しても、既存コードとの整合性が問題になります。
僕たちはXAML内のスタイルやテンプレートを解析し、どの画面が新ガイドライン準拠で、どこが旧式かを色分けしてドキュメント化しました。
たとえば、旧ボタンの使用箇所は赤、新規仕様は緑で可視化。
これを行ったことで、
「どこからリファクタリングを始めれば最も効果的か」が明確になり、改善を段階的に進めることができました。
海外チームでは特に、“優先度とROIを示さないと時間を取ってもらえない”ため、視覚的なインパクトを持たせたこの方法は非常に有効でした。
● チームが変わる瞬間
最初は懐疑的だった開発メンバーも、「コンポーネントが増えると修正が楽になる」「新機能追加のときにUIを悩まなくていい」といった実感を得始め、自然とSystemic UIの文化が根づいていきました。
特に印象に残っているのは、リリース後のユーザー評価で、
「アプリの見た目が統一された」「どの画面でも操作感が同じで安心できる」といった声をもらえたこと。
このとき、僕はようやく確信しました。
UIを体系化することは、単なるデザイン整理ではなく、
“チームの思考を揃える”ための土台づくりなんだと。
● Systemic UIがもたらした3つの変化
- 設計のスピードアップ:新しい画面を追加しても、既存コンポーネントを組み合わせるだけで設計完了。
- レビュー時間の短縮:基準が共有されているため、判断基準が統一された。
- ユーザー体験の一貫性向上:開発の都度、デザインがぶれないためUXが安定。
これらが結果的に、開発工数の削減だけでなく、製品の信頼性そのものを底上げするROIへとつながっていったのです。
言語と文化の壁を越えて「Systemic UI」を根づかせるまで
Systemic UIの方針が定まり、チーム全体が「デザインをルール化する」という方向に動き出したとき、
僕たちはすぐに“壁”にぶつかりました。
それは、言葉の壁でもあり、文化の壁でもあり、そしてプロセスの壁でもありました。
● 「なぜ変えるのか」が伝わらない
Systemic UI導入の初期段階で、僕が最も苦労したのは“説得”でした。
既存のチームには、長年同じプロジェクトで動いてきた熟練のエンジニアたちがいて、
「新しいUIルール? 今さらそんなもの必要か?」という反応が返ってきました。
海外の職場では、「なぜ?」を問われる頻度が圧倒的に多い。
単に「効率が良くなるから」では納得されません。
だから僕は、資料を作り直しました。
ただの「UIガイドライン説明」ではなく、**ビジネス視点のROI(投資対効果)**を含めたプレゼンにしたのです。
“A consistent UI reduces rework time by 40% per release.”
“Design debt is costing us 120 engineering hours per quarter.”
数値で語ると、相手の反応が変わる。
「それならやってみよう」と空気が変わったのを、今でもはっきり覚えています。
この経験から学んだのは、海外では「正しい」よりも「納得できる理由」が必要だということ。
Systemic UIのように構造を変える提案は、ロジックとデータで裏づけることが、チームを動かすカギになるのです。
● 国ごとに異なる「UIの常識」
チームには多国籍メンバーがいました。
デンマーク、インド、ポーランド、そして僕(日本)。
UI設計の議論になると、文化の違いが如実に表れます。
たとえば、「ボタンの色」。
赤は危険の意味ですが、インド出身の同僚は「赤=目立つ=良いアクション」という感覚を持っていました。
あるいは、「テキスト量」。
欧州メンバーは長い説明文でも好みますが、アジア圏メンバーはシンプルな表現を求めがち。
議論はしばしば平行線。
「じゃあどの基準で統一する?」という問題にぶつかりました。
最終的に僕たちが採用したのは、“地域ローカライズを前提にしたUI設計”。
つまり、コアコンポーネントは共通化しつつ、文言やレイアウトの一部を地域設定で差し替える設計構造です。
C# WPFでは、ResourceDictionary と DataTemplateSelector を組み合わせて、地域別のUIリソースを自動切り替えできるようにしました。
こうすることで、Systemic UIの“骨格”は保ちつつ、文化的適応性を確保。
この仕組みが完成したとき、チームの誰もが「これこそグローバル開発だ」と納得してくれました。
● コミュニケーションの誤解をコードで防ぐ
もうひとつの大きな課題は、“言葉のすれ違い”です。
特にリモート会議では、英語ネイティブでないメンバー同士の認識齟齬が多発します。
「Simple layout」と言っても、人によって「要素が少ない」と解釈する人もいれば、「操作が直感的」という意味で捉える人もいる。
そんな曖昧さが積み重なると、デザインと実装の差分が広がってしまいます。
そこで僕たちは、**「言葉ではなくコードで共有する」**という方針を取りました。
具体的には、UIデザインガイドラインをWPFのリソース辞書として実装化し、
デザイナーがFigma上で「Button.Primary」と指定すれば、開発側では同名のスタイルキーを参照できるようにしました。
つまり、デザイン言語と実装言語の辞書を揃える。
この手法は、後に多くのプロジェクトでも再利用され、
チーム全体の生産性を一気に引き上げる仕組みになりました。
● 最初の成功体験がチームを変える
Systemic UIが“机上の理論”から“文化”に変わる瞬間は、意外にも小さな成功からでした。
ある日、社内レビューで新機能をデモしたとき、デザイナーが笑顔で言いました。
“Wait… you already implemented the new style? That was fast!”
その時、僕がやったのはただ、コンポーネントを差し替えただけ。
でもそれが、「開発が早い」「再現性が高い」という信頼につながったのです。
それ以降、チーム内では“新しいUIルールを使うこと”が「効率的」「賢い」という空気になり、
自然とSystemic UIが定着していきました。
● 「完璧」より「進化し続ける」設計へ
海外の現場で痛感したのは、デザインシステムは完成しないということ。
一度ルールを作ったら終わりではなく、定期的にレビューし、改善していく文化が大切です。
僕たちは毎月のスプリントレビューで、UI変更提案を必ずアジェンダに入れるようにしました。
「このアイコン、使いにくい」「この間隔をもう少し詰めよう」
そうしたフィードバックを取り込みながら、
デザインシステム自体を“生きたドキュメント”に育てていったのです。
結果的に、デザインと開発が対立するのではなく、
“共にUIを進化させるパートナー” という関係に変化していきました。
● Systemic UIは、言語を超えた「共通言語」
最終的に、このSystemic UIはチーム全体の“会話の土台”になりました。
- 「このスタイルで統一しよう」
- 「新規画面も同じトークンを使おう」
- 「コンポーネントの命名はガイドに合わせよう」
これらは単なるルールではなく、異なる国・文化・専門性を持つメンバーをつなぐ共通言語となったのです。
英語が完璧でなくても、コードとルールで意思疎通ができる。
これほどエンジニアにとって心強いことはありません。
Systemic UIの真価は、効率や見た目の統一ではなく、
“チームの思考をシステム化する”ことにある。
UIを「システム」として捉えたとき、エンジニアの未来が変わる
Systemic UI を導入して1年が経った頃。
僕たちのチームには、以前にはなかった静かな変化が生まれていました。
それは、「会話の質」が変わったことです。
以前はよくこんなやりとりをしていました。
「このボタン、もう少し目立たせたほうがいいんじゃない?」
「でもこっちはデザイン違うし、合わせたほうがいいのでは?」
しかしSystemic UIを整備してからは、議論の方向がまったく変わりました。
「このアクションはPrimaryに該当するのか?」
「ここの余白トークンはSpacing-Mか、それともLにすべきか?」
つまり、「見た目の好み」から「意図の体系化」へ。
感覚ではなく、設計思想と言語でUIを語れるようになったのです。
この変化こそが、僕にとって最大の成果でした。
● デザインの“正しさ”を議論しなくてよくなった
Systemic UIが成熟していくにつれ、デザインレビューはどんどん短くなりました。
なぜなら、「どうすべきか」がすでにルールとして明文化されていたからです。
たとえば、新しいダイアログを追加するとき。
以前は「角丸は8px? 12px?」「フォントはBoldでいい?」という議論が発生していましたが、
今ではFigmaのスタイルパネルを見れば、答えがすぐにわかる。
しかも開発側のXAMLコードも同じキーを参照しているので、
デザインと実装の乖離はほぼゼロ。
その結果、チーム全体の集中力が“価値ある議論”に移ったのです。
「この機能をどうすればユーザーが直感的に使えるか」
「業務フロー上、どの画面で操作負担が高いか」
――そんな本質的な会話が増えていきました。
Systemic UIの真価は、こうした「思考の再配分」を生むことにあります。
● チームの“スピード”と“信頼”が変わる
数値としても明確な変化が現れました。
僕たちが社内で取った計測では、Systemic UI導入後の半年で次の成果が出ています。
- デザイン〜実装ハンドオフの時間:40%削減
- UI改修時のリグレッション発生率:70%減少
- 新機能開発時のUI再利用率:65%増加
特に大きかったのは、「信頼の可視化」です。
マネージャー層にとって、デザインやUIの品質は“定性的”にしか見えにくい分野でした。
しかし、デザイン負債を可視化し、手戻りコストを数値化したことで、
UI設計が開発効率を左右する“投資領域”であると理解されるようになったのです。
そこからは、UI関連の改善提案が通りやすくなり、
チームとしても「設計に時間をかける価値」を共有できるようになりました。
● 英語が完璧じゃなくても、“設計”は共通語になる
Systemic UIを通じてもうひとつ実感したのは、
英語が得意でなくても、UI設計を通してチームに貢献できるということでした。
僕は英語ネイティブではないし、最初の頃はミーティングで何度も聞き返してばかりでした。
でも、UIルールやデザインシステムのドキュメントは、
「コード」「スタイル」「トークン」という、誰にでも理解できる“構造的言語”で書かれています。
言葉ではなく、構造で伝える。
それは、英語力の壁を越えてチームに信頼を築く最強の方法でした。
「彼はUIルールの守護者だ」「あの人に聞けば整合性が取れる」――
そんな評価を得られるようになってから、僕の立ち位置は確実に変わりました。
海外のチームで働くうえで、英語力よりも大事なのは、
**「共通の思考モデルを提示できること」**だと思っています。
Systemic UIは、それを実現するための“技術言語”のような存在でした。
● “デザインシステム”を超えて、“チームデザイン”へ
Systemic UIを運用する中で、僕が気づいた一番のポイントは、
「UIをデザインすることは、チームをデザインすることでもある」ということです。
UIを整理するという行為は、実はチームの意思決定の流れを整理することと同じです。
ルールを作る → 運用する → 改善する。
このループを回す文化がチームに根づくと、
自然と「属人的な判断」から「システム的な判断」に変わっていきます。
つまり、Systemic UIとは単なる技術の話ではなく、
組織運営の縮図でもあるのです。
● “武器”としての設計力
僕が海外で働くようになって一番変わったのは、
「設計力=自分の武器だ」と思えるようになったことです。
以前は、英語ができないことをコンプレックスに感じていました。
会議で発言するタイミングを逃したり、冗談の意味がわからず笑えなかったり。
でも、Systemic UIを整え、設計の言語を整備していくうちに気づいたんです。
「自分は“話す英語”ではなく、“構造で語る”ことができる。」
ルールを設計する、構造を整理する、手戻りを減らす。
そうしたエンジニアとしての根本的な価値は、
言語ではなく“ロジック”でチームに伝わるということを、僕はこのプロジェクトで体験しました。
それ以来、僕はプレゼンでもこう伝えるようにしています。
“You don’t need to be fluent to design a fluent system.”
(流暢に話せなくても、流れるようなシステムは設計できる。)
● これから海外で働くエンジニアへ
もしあなたがこれから海外で働こうとしていて、
「英語に自信がない」「自分のアイデアをうまく伝えられるか不安」
そんな気持ちを抱えているなら、伝えたいことがあります。
それは――構造は言語を超えるということ。
Systemic UIのように、ルールや設計を明文化してチームに示せば、
言葉が多少不完全でも、あなたの考えは確実に伝わります。
むしろ、構造的に考え、整理して共有するスキルこそ、
グローバル現場で最も信頼されるエンジニアの条件です。
● 最後に:UIを通して、チームをデザインしよう
Systemic UIを導入した当初、僕は「UIの統一」が目的だと思っていました。
でも今は違います。
UIを統一するということは、
チームの思考・価値観・判断基準を統一すること。
だからこそ、Systemic UIは“デザインシステム”ではなく、
**“チームデザインシステム”**なんだと思っています。
技術を超えて、文化を設計する。
その第一歩が、あなたの目の前のUIかもしれません。

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