なぜ「基本」を超える必要があるのか
海外で働くエンジニアとして日々プロジェクトに向き合っていると、UI設計の「基本」ってなんだろう?と考えさせられる瞬間がよくあります。特に僕のようにC# WPFで主に設計・開発をしていると、UIの考え方が10年前からあまり変わっていない領域も多い。XAMLでコントロールを並べて、データバインディングを組み、リソースディクショナリでスタイルを管理する――この一連の流れは、今も変わらない「基本」として生きています。
でも、2025年の今、その「基本」だけじゃ通用しない状況が確実に広がってきています。理由はシンプルで、AI駆動型のデザインツールが台頭し、従来のワークフローを根本から変えてしまっているから。たとえばFigmaやAdobe XDに代表されるクラウドデザインツールも、数年前までは「共同編集ができて便利」程度の評価でした。ところが、今ではAIが勝手にレイアウトを提案したり、アクセシビリティのチェックを自動でしてくれたり、コード生成にまで踏み込んできています。
ここで面白いのは、海外の現場では「AIが自動で作ってくれるのは便利だけど、そのまま使うと不安定だよね」という意見が多いこと。僕のチームでも、AIが生成してくれたUIをそのまま使うのではなく、「AIの提案を人間がレビューして、修正して、最適化する」という新しいワークフローが自然に生まれてきました。つまり、デザイナーもエンジニアも「AIと協業する」ことが当たり前の前提になってきたんです。
ここでひとつ気づいたのは、UIデザインはもはや「静的な成果物」ではなく、「動的に進化するプロセス」そのものになっているということです。僕がWPFで作る画面も、昔は「リリース時に決められた仕様を満たしていればOK」だったのが、今は違います。ユーザー行動を分析して、UIをアップデートし続けることが求められる。つまり「完成したUI」なんて存在しなくて、常に変化し続ける「未完成のUI」をどう管理するかが重要になってきているわけです。
そしてもうひとつ大きな変化は、スケーラビリティと適応性の重要性が一気に高まったこと。たとえば海外のプロジェクトでは、同じアプリがラップトップ、タブレット、スマホ、そして最近では折りたたみデバイスまで対応することが当たり前になりつつあります。静的なデザインシステムでは、これらの多様なデバイスに「後付け対応」するのがどんどん難しくなっていく。結局のところ、「柔軟に拡張できる仕組み」が最初から設計に組み込まれていないと、未来に対応できないんです。
僕自身、海外で最初の大きな壁にぶつかったのはここでした。日本にいた頃は、顧客がPCメインのユーザーだったので「画面解像度はフルHD前提、UIは固定サイズでもOK」なんて環境が多かったんです。でも海外では違う。ユーザーの環境がバラバラで、「なぜこのUIはスマホで使えないの?」とか「この入力フォーム、音声入力に対応してないよね?」なんて指摘を普通に受ける。最初のうちは「いや、そこまで要件に書いてなかったじゃん」と心の中で思っていたけど(笑)、今思えばそれは完全に甘えでした。
つまり、2025年のUIデザインを考える上で、スケーラビリティと適応性を外すことは絶対にできない。そしてそれは「きれいな画面を作る」こと以上に、「未来を見据えた設計思想を持つ」ことなんです。
ここまで話してきたことをまとめると――
- AI駆動のツールが従来のワークフローを変えつつある
- デザインは静的な成果物から動的なプロセスへシフトしている
- スケーラビリティと適応性が未来の鍵になる
静的デザインの限界に直面した日々
「UIは動的に進化し続けるプロセスだ」なんて、今でこそ当たり前のように口にできます。でも、正直に言うと、僕自身がそれを強烈に実感したのは、海外で働きはじめてからです。
最初の頃、僕は日本での開発経験をそのまま持ち込んでいました。C# WPFでの画面設計といえば、Grid や StackPanel を駆使してレイアウトを組み、コントロールを配置し、ResourceDictionaryに色やスタイルをまとめる。これで「デザインシステム」と言ってしまっていたわけです。
でもある時、海外のクライアント案件で大きな壁にぶち当たりました。
ケース1:静的デザインシステムの破綻
ある金融系アプリの案件で、PC版UIをWPFで作っていたんですが、リリース直前になってクライアントからこんな要望が飛んできました。
「同じUIをタブレットでも動かせるようにしてほしい」
いやいや、今さら?と思いました。リリースまで2週間もない状況で、解像度もアスペクト比も違うタブレットに対応しろって、かなり無茶な話です。
当時の僕は「ResourceDictionaryをちょっと切り替えれば何とかなるだろう」と安易に考えていました。でも現実はそう甘くなかった。なぜなら僕が作ったUIは「固定サイズ」を前提にデザインされていて、柔軟にスケーリングできるようになっていなかったからです。
結局、ボタンのラベルは切れるし、データグリッドは縦スクロールが無限に長くなるし、ポップアップウィンドウはタブレット画面の外に飛び出す。チームメンバーにも「これ、設計思想からしてスケーラブルじゃないよね」と突っ込まれました。
このとき、静的なデザインシステムはもはや現代では通用しない、という現実を突きつけられました。
ケース2:AI駆動デザインとの出会い
同じ頃、デザインチームが試験的にFigmaのAIプラグインを導入しはじめました。驚いたのは、AIが「このボタンは画面幅に対して小さすぎます」とか「タップ領域が指先の平均サイズを満たしていません」と自動で指摘してくること。
正直、最初は「余計なお世話だな」と思いました(笑)。でも実際にAIの提案通りに修正してみると、ユーザーテストで「操作しやすくなった」とか「画面が見やすい」といったフィードバックが急に増えたんです。
さらに、AIが生成してくれる代替レイアウトを見て、「あ、こうすればレスポンシブに対応できるのか」と気づかされることが何度もありました。僕らエンジニアは「効率よくコードを書く」ことに意識が向きがちですが、AIが示してくれるのは「ユーザー体験を最適化する視点」でした。
この体験を通して、僕の中で「AIは敵ではなく、むしろデザインプロセスを拡張してくれるパートナーなんだ」という認識が芽生えました。
ケース3:動的アプローチの必要性
海外プロジェクトでさらに気づかされたのは、「リリース後にUIが進化し続けることが前提」だということです。
あるヘルスケア関連のアプリでは、ユーザーの利用状況をAIで分析し、そのデータをもとにUIがどんどん変化していく仕組みを採用しました。たとえば、最初はシンプルなダッシュボードを見せていたのに、ユーザーが使い慣れてきた段階で「詳細なグラフモード」が自動的に有効になる。まさに「静的から動的への転換」を体現したアプローチでした。
これに関わった時、僕は「UIはコードやデザインファイルで完結するものじゃなくて、ユーザーとの対話を続ける“生き物”なんだ」と本気で思いました。
学び:エンジニアに必要なマインドチェンジ
こうした経験から僕が学んだのは、以下の3つです。
- 設計段階でスケーラビリティを織り込むことが必須
→ 後付け対応は必ず破綻する。 - AIを“提案者”として受け入れる柔軟性が必要
→ 完璧ではないが、人間が見落とす視点を補ってくれる。 - UIは完成品ではなく、常にアップデートされるサービスの一部
→ ユーザーの利用状況に応じて進化する設計思想が求められる。
これらは、単なる「技術のトレンド」というより、僕自身が海外で恥をかきながら、時に徹夜で修正しながら、やっと気づけたリアルな教訓です。
次につなげる問い
こうして「静的デザインの限界」と「動的アプローチの必要性」を痛感した僕ですが、じゃあ実際にどうやってチームとしてそれを実現していったのか? AIをどうワークフローに組み込み、どんな失敗や成功があったのか?
AIと共に作る新しいワークフロー
「AIはパートナーだ」なんて言っても、実際にチーム開発に取り込むのは簡単じゃありませんでした。
承で触れた通り、静的デザインの限界を痛感して「動的アプローチが必要だ」と気づいた僕らでしたが、その実装や運用のプロセスをどう組み立てるかは、まったく別の難題でした。
1. 最初は「AI VS 人間」だった
最初にAIを導入したとき、正直チームは二分しました。
デザイナー陣の一部は「AIはあくまでラフ案の生成に留めるべきだ」と言い、エンジニア側の一部は「コードまでAIに生成させれば作業が早くなる」と主張しました。
僕もWPFエンジニアとして、AIが自動でXAMLを書いてくれるのは便利だと思いました。実際、Grid.RowDefinitions と Grid.ColumnDefinitions をAIに任せると、それなりに整ったレイアウトを吐き出してくれる。
でも、実際にビルドして動かしてみると、「ここでマージンを取ってほしい」とか「リソースを共通化してほしい」といった“人間らしい判断”は全然できていない。
この時点で僕が痛感したのは、AIは人間の代替にはなれないけど、人間が効率よく判断するための補助輪にはなるということ。
2. ワークフローを再定義する
そこで僕らが取ったアプローチは、AIを「一次提案者」として位置づけることでした。
具体的にはこんな流れです:
- デザイン初期案 → デザイナーがラフをFigmaに描く
- AI補完 → AIがアクセシビリティやレイアウトの最適化案を提案
- 人間レビュー → デザイナー&エンジニアで「使える部分」と「修正が必要な部分」を仕分け
- コード生成支援 → エンジニアが必要に応じてAIからXAMLやスタイル定義を生成させる
- 動的要件の統合 → 利用データをもとに、リリース後にUIがどう変化すべきかを設計
こうやって「AIの提案を前提としたワークフロー」をチームに根付かせたんです。
面白いのは、このフローを回し始めると、デザイナーとエンジニアの間にあった“壁”がかなり薄まったこと。以前は「デザインはデザイナーが決める、実装はエンジニアがやる」という暗黙の線引きがあったけど、AIが提案を挟むことで「じゃあこれをどう活かそうか」と一緒に議論する機会が増えたんです。
3. 失敗から学んだこと
もちろん順調だったわけではありません。むしろ最初の半年は失敗だらけ。
ある案件では、AIが提案したレスポンシブ対応をそのまま信じて実装したら、特定の言語設定(アラビア語の右から左に流れるUI)で完全に崩壊しました。
ユーザーテストで大問題になり、徹夜で修正。あのときは本当に胃が痛かった…。
でも、その失敗をきっかけに「AIを過信しすぎない」「常に国際化やローカライゼーションを考慮する」という新しいガイドラインを作ることができた。逆に言えば、失敗がワークフローを進化させる燃料になったんです。
4. 成功体験が生まれた瞬間
失敗の裏には、確かな成果もありました。
ある教育系アプリの案件では、ユーザーが学習を進めると画面構成が段階的に変わる「パーソナライズUI」を導入しました。最初はシンプルなメニューだけですが、学習が進むと「おすすめ教材」や「進捗チャート」が表示されるようになる仕組みです。
ここで役立ったのが、AIによる利用状況分析と、それをもとにしたUI最適化の提案でした。AIが「このユーザーは視覚的な情報よりも数値表示を好む傾向がある」と判断して、チャートよりもリストビューを優先的に表示するよう調整したんです。
結果、ユーザーの利用時間が平均で20%伸び、離脱率も大幅に下がった。クライアントからは「こんなに効果が出るとは思わなかった」と感謝され、チーム全体の士気も一気に高まりました。
僕自身も、「ああ、AIと動的アプローチを組み合わせると、ここまでUXが変わるんだ」と鳥肌が立つ思いでした。
5. エンジニアの役割は「翻訳者」になる
この経験からさらに気づいたのは、エンジニアはデザイナーとAIの翻訳者になる必要があるということです。
- デザイナーが考える「美しいUI」
- AIが提案する「最適化されたUI」
- エンジニアが作れる「実装可能なUI」
この3つの間には必ずギャップがある。
僕らエンジニアの役割は、そのギャップを埋める翻訳者であり、橋渡しなんです。
特に海外の現場では、多国籍メンバーが集まるので「言語の翻訳」だけでなく「思考の翻訳」も必要になります。
ある人にとっては「効率的」が正義でも、別の人にとっては「美しさ」が正義かもしれない。AIはどちらの観点も数値化して提案してくれるけど、最終的にバランスを取るのは人間の判断。
この“翻訳者”としての立ち位置を意識してから、僕は「エンジニアリングは単なる実装作業じゃなくて、チーム全体を動かす要だ」と実感するようになりました。
未来を見据えてエンジニアが備えるべきこと
ここまで、静的なデザインの限界、AI駆動の新しいワークフロー、そして動的アプローチへの転換について話してきました。最後にまとめとして、2025年以降のUIデザインの未来、そして海外で働くエンジニアとしての僕なりの指針をお伝えします。
1. UIデザインは「完成」から「進化」へ
僕がこの数年で強く実感したのは、UIデザインはもはや「完成した製品」ではなく「進化し続けるサービス」だということです。
昔はリリース=ゴールでした。完成したUIを出荷すれば、それで役割は終わり。でも今は違います。ユーザーの行動データをリアルタイムで収集し、AIが分析し、それに応じてUIが更新される。まるでアプリそのものが「学習する存在」になったような感覚です。
つまり、UIは生き物です。
一度作って終わりではなく、成長し、環境に適応し続けることが前提。エンジニアとしては、この「成長の余白」を設計にどう埋め込むかが問われます。
2. 静的デザインシステムは「化石」になる
これは少し挑発的に聞こえるかもしれませんが、2025年の今、静的なデザインシステムはもはや化石です。
もちろんスタイルガイドやコンポーネントの統一は大事です。でも、それだけでは多様なデバイスやユーザーの文脈に対応できません。
未来のデザインシステムは、「変化すること」を前提に作られるべきです。
具体的には:
- コンポーネントがユーザーの行動に応じて自動的にモードを切り替える
- デバイスの特性に合わせて最適化が走る
- アクセシビリティの調整がAIによって常時更新される
これが「動的デザインシステム」の姿であり、僕が現場で見てきた「次の当たり前」です。
3. エンジニアの役割は「橋をかけること」
承や転でも触れましたが、改めて強調したいのは、エンジニアは翻訳者であり、橋渡し役だということです。
- デザイナーの「美しさ」
- AIの「合理性」
- ユーザーの「使いやすさ」
- ビジネス側の「成果」
これらはしばしば対立します。
そして、その矛盾を解きほぐし、形にするのがエンジニアの仕事です。
僕自身、海外で働いていて「文化の翻訳」や「思考の翻訳」が日常的に求められる場面が多いですが、それはUI設計においても全く同じ。技術スキルだけではなく、異なる価値観をつなげるコミュニケーション力こそが、これからのエンジニアに必要だと思います。
4. 僕が学んだ心構え
最後に、僕自身が海外でエンジニアとして働きながら学んだ「心構え」をまとめます。
- 未完成であることを受け入れる
→ UIは常に変化する。完璧を目指すより、進化しやすい土台を作る。 - AIを仲間として扱う
→ 敵でも救世主でもない。提案を受け入れ、検証し、活かす柔軟性を持つ。 - 翻訳者であることを忘れない
→ デザイン、AI、ビジネス、ユーザー…その間に立って調和を作るのがエンジニアの役割。 - 未来に備える設計思想を持つ
→ 目の前の要件にとらわれず、「この仕組みは将来どんな変化に耐えられるか」を常に考える。
5. 未来への展望
これからのUIデザインは、もっと予測不能な方向に広がっていくと思います。
- XRやメタバース空間でのUI
- 音声やジェスチャー主体のUI
- 生体データを反映する「パーソナルUI」
こうした新しい領域では、今までの「画面に並べるUI」発想がそのままでは通用しません。
だからこそ、僕らエンジニアには「柔軟に学び直す姿勢」が求められます。
WPFのような従来の技術もまだまだ現役ですが、それだけにとらわれていては置いていかれる。
むしろ、WPFで培った「UI設計の基礎」を新しい領域にどう応用するかが、これからの武器になるのだと思います。
結びに
海外で働きながら学んだのは、「基本」は大事だけど「基本だけでは戦えない」という現実でした。
2025年のUIデザインは、AIと共に進化し、スケーラビリティと適応性を備えた動的な世界へ進んでいます。
僕らエンジニアに必要なのは、変化を恐れず、AIを味方につけ、翻訳者としてチームと未来をつなぐこと。
その姿勢さえあれば、どんな進化が来ても乗り越えていける。そう信じています。

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