― ストレスとの「非戦略的共存」術 ―
なぜ“健康”の次は“メンタル”なのか?
アメリカに来て半年が経った頃――
体重は順調に落ち、自炊も習慣化できて、仕事もなんとか軌道に乗ってきた。
でも、ある日ふとしたことで気づいた。
**「なんか、笑ってないな、最近の自分」**と。
🌪 海外エンジニア生活=常時“負荷テスト”状態?
海外で働くというのは、エンジニア的に言えば常にストレステストが走っている状態に近い。
- 毎日、第二言語(英語)で会議
- 文化が違うメンバーとの摩擦
- 一人きりの住環境、孤独感
- 家族や友達にすぐ相談できない時差と距離
- そして、仕事のタスクは変わらず容赦なし
これらが**「少しずつ溜まって、ある日ボキッと心が折れる」**
そういう危うさが、日々の裏側に常にあった。
😶「大丈夫?」に「大丈夫」としか言えなかった日々
例えば、リモートワーク中のSlack。
Manager: “Hey, how are you today?”
Me: “Yeah, doing fine! Just a bit tired.”
(本当は疲れてるどころか、ずっと孤独感とモヤモヤを抱えていた)
でもそれを英語でうまく説明する言語力もなければ、そもそも「話していいのか」すらわからない。
「これが文化の違いってやつか…」と苦笑いしながら、
気づけば、“メンタルを整えるための思考と習慣”が、健康以上に大事になっていた。
👣 だからこそ、僕は「戦わずに、共存する」道を選んだ
このVol.4では、そんな僕が**メンタルを崩さずに、日々を乗り越えるために工夫してきた「5つの習慣」**を紹介していく。
ポイントは、「根性論じゃないこと」
海外にいる以上、文化のズレや孤独、不安を完全に消すことはできない。
だから僕は、それらと“戦う”のではなく、ゆるく“共存”する方法を探した。
ストレスと“折り合いをつける5つの習慣”
①「誰にも会わない日」を意図的につくる
(社会的バッファの設計)
アメリカで暮らし始めて感じたのは、「人と関わるだけで想像以上にエネルギーを消耗する」ことだった。
英語での雑談、気を遣うミーティング、カルチャーギャップによる“無意識のストレス”。
そんな日は、夜になっても心が落ち着かず、頭の中がザワザワして眠れなかった。
そこで僕がやったのは、「あえて誰にも会わない日」を週1でブロックすること。
- SlackもDMもミュート
- スーパーマーケットやカフェにも行かない
- 日本語のコンテンツだけを見て、脳を休める
この日は、**“自分の国の空気を吸う日”**としてルール化。
意識的に「誰とも関わらない」と決めることで、心に“回復の余白”ができた。
② “自分語り”できる相手を海外でも1人持つ
(オンラインで心の避難所を確保する)
海外生活でつらいのは、「話したいときに、話す相手がいない」こと。
日本なら帰り道に同僚と軽く飲んで吐き出せるストレスも、こっちではどんどん蓄積する。
僕がやったのは、毎月1回、昔の同僚とZoomで話す時間を固定で設けたこと。
雑談でも仕事の話でも、“自分のことを知ってる人”に思いっきり話せる時間があるだけで、気持ちは大きく違った。
英語じゃなく日本語で、過去も現在も踏まえた会話ができる安心感。
それが、**孤独の中で自分を取り戻すための“緩衝材”**になってくれた。
③「自己肯定ログ」を毎晩1行だけ残す
(“できた自分”を見失わない習慣)
「今日も生産性低かった…」
「英語、詰まって全然伝わらなかった…」
毎日、自分を責める材料はいくらでも出てくる。
でもそれに飲まれてると、**「自分って何やってもダメだ」**という感覚が積もっていく。
そこで始めたのが、寝る前に1行だけ“できたこと”をメモする習慣。
- “英語で冗談が通じた”
- “報告書、期限内に終えた”
- “ジム行けた自分エラい”
どんな小さなことでもOK。
これをNotionや手帳に蓄積していくと、自己肯定感の土台が育っていく。
④ 週1で“言語から離れる時間”をつくる
(脳のデフラグタイム)
毎日英語。会議も英語。Netflixも英語。
気づけば、**「自分の頭の中まで英語でざわついている」**ことに気づいた。
そこで僕が導入したのは、「言語断ち」の時間。
- ハイキングに行く(スマホ持たない)
- インスト系の音楽だけを聴く
- 一人で絵を描いたり、パンを焼く
- 温泉(スパ)でととのう
この時間には、“言葉”を極力使わないようにして、脳内の処理をゼロリセットする。
これが意外と効く。次の日の会議で、**「頭がスッキリして話が組み立てやすい」**という実感があった。
⑤「完璧に暮らそうとしない」マイルールを持つ
(“生存最適化”のための自己許可)
海外にいると、つい「ちゃんとしなきゃ病」にかかる。
せっかく海外に来たんだから、語学も仕事も暮らしも完璧にこなさなきゃ、みたいな。
でも、それが一番メンタルを削ってくる。
だから僕は、「最低限、これができてればOK」という“マイルール”をあらかじめ決めておくようにした。
- 野菜が1日1回摂れればOK
- ジム週2行けたら合格
- 眠れなかった日は、午前は手を抜いていい
- 仕事で1つだけ「やった感」が出れば十分
これは“自分への甘え”ではなく、“長く生き抜くための戦略”。
「100点を狙わない設計」が、結果的に崩れにくいメンタルをつくる。
🛠 共存とは、手放すことだった
この5つの習慣に共通しているのは、「戦わないこと」。
ストレスをゼロにしようとするのではなく、“波に乗る設計”をすること。
海外生活は、イレギュラーの連続。
何かをうまくやろうとするたびに、自分の理想と現実がぶつかって落ち込む。
でも、その都度「まあ、そんなもんだよね」と一歩引ける設計があると、
心の折れ幅が小さくなる。
それでも、心が折れかけた瞬間たち
前回、5つの習慣を通して“非戦略的共存”の方法を紹介したけど、
実際のところ、すべてをやっていても崩れそうになる瞬間はあった。
この【転】パートでは、実際に僕がメンタルの危機を感じた実体験と、
そこに隠れていた“見えないメカニズム”を振り返ってみる。
📉 メンタルが崩れかけた「3つの瞬間」
① “何のためにここにいるんだろう”と感じた日の朝
渡米してから半年。
生活も仕事も慣れてきたはずなのに、ある朝、目が覚めた瞬間こう思った。
「今日も仕事か……。で?これ、いつまで続けるの?」
特別なトラブルがあったわけじゃない。
でも、自分の中の“意味回路”が一時的に壊れた感覚があった。
このとき、「海外で働く」という目的が、ただの“維持作業”に変わっていた。
▷ 背景にあった無意識の“アイデンティティ・ロス”
海外に出ると、それまでの肩書きや立場、人間関係が一度リセットされる。
「この環境にいる自分は誰なのか?」という問いに、即答できない日が続くと、
“自分が宙に浮いている感覚”に襲われやすくなる。
これはよくある**「海外駐在うつ」「現地適応障害」**の初期症状でもある。
② パーティー帰りの夜、笑い疲れて泣きそうになった
アメリカでは社交が非常に大事。
僕も何度か、同僚や近所の友人に誘われて集まりに参加した。
でも、いつも終わったあとに感じたのは:
「ああ、今日も“うまく会話してるフリ”で疲れたな…。」
英語でジョークを返せない
話題についていけない
沈黙が怖くて無理に話してしまう
結果、“人に会う=疲れる”という負のループに。
▷ 背景にあった“文化摩擦からの自責スパイラル”
言語や文化の壁で会話がうまくいかないと、つい自分を責めがちになる。
でも、これは能力の問題じゃなく、**「異文化接触における自然な認知反応」**であることを、あとで知った。
✅ 参考:Geert Hofstede の「文化の6次元理論」では、日本とアメリカの“個人主義の差”が顕著
つまり、「合わない」のではなく「構造が違うだけ」。
この視点がないと、心がすり減っていく。
③ 突然、何も手につかなくなった週末
ある土曜日。朝起きて、天気も良く、仕事もなし。
なのに、なぜか一日中なにもしたくなかった。
スマホを見るのも嫌、友達に連絡するのも億劫。
ただぼんやりとNetflixを流しながら、罪悪感だけが積もっていった。
「これって、もしかして軽い“うつ”なのか…?」
▷ 背景にあった“積み上がる認知的疲労”
英語環境に身を置いているだけで、**脳は常時“処理過多状態”**になっている。
知らず知らずのうちに、ワーキングメモリを消耗しきっていたのだ。
特に、**「言語」「人間関係」「成果」「時間感覚」**の4つがズレている海外生活では、
脳のキャパを超えるのは案外あっという間。
🧠 海外エンジニアが陥りがちな“3つのメンタル罠”
これらの経験を通して気づいたのは、以下の3つの“落とし穴”:
- 「適応=順応し続けなければいけない」と思い込む
- “つらさ”を言語化できず、対処できない
- 自己責任論にすり替えて、感情を押し殺す
海外生活は、“やりがい”と“ストレス”が表裏一体。
だからこそ、自分の心の揺らぎに**“名前”と“構造”を与えること**が大事。
🔄 ストレスとは、潰す対象ではなく、“扱う知恵”が必要な存在
エンジニアにとってバグは“なくす”より“ハンドリング”が重要なように、
ストレスも“ゼロにする”のではなく“動作保証する”という視点が必要。
つまり、
✅ 自分にとっての「許容できる不安定さ」を見つけること
✅ 自分の調子の“下限”と“復帰手順”を明文化しておくこと
こういった**“メンタルの設計図”**をつくっておくことが、
海外で長く働き続けるうえで何よりの保険になる。
「心の取扱説明書」をつくる:海外生活で自分を守る設計思考
エンジニアとしてシステムを設計するとき、考えるのは以下のようなことだ。
- どこでバグが起きそうか?
- そのときに復旧できる設計になっているか?
- 想定外のエラーは、ログで可視化できるか?
- 定常運用時のパフォーマンスと、非常時のセーフティネットは?
これ、心にも必要な考え方だと思っている。
🛠 「心の取扱説明書」とは何か?
海外で暮らしてみて気づいたのは、「自分のメンタルが落ちたときに、誰も代わりにケアしてくれない」という事実だった。
つまり、自分で自分の調子を理解し、調整し、復旧できるようにしておくことが必要だと実感した。
そのために僕がつくったのが、“心の取扱説明書”。
日々の生活の中で、“心の状態”をあえてロジカルに捉えて、運用しやすくした。
📄 僕の「心の取扱説明書」の中身(実例)
① 自分の「正常運転」の状態を定義する
✅ 睡眠が6時間以上とれている
✅ 朝、10分以上静かな時間を過ごせている
✅ 人の話にちゃんとリアクションできている
✅ 頭の中が整理されていて、メモを取る余裕がある
✅ 「まあなんとかなるか」と1日1回以上思えている
→ この状態を「正常稼働」と定義。これを維持できていないときは、どこかに負荷がかかっている。
② 調子が悪くなりかけたときの“前兆ログ”
⚠️ 兆候:
- 同じ動画を2時間以上だらだら見続ける
- 言いたいことがうまく口から出ない
- Slackやメールの返信を後回しにする
- 毎日夜中の2時に寝ている
→ このサインが出たら、「復旧モード」に入る合図。
③ 復旧モードにおける“やることリスト”
🛠️ 対処プロトコル:
- 誰にも会わない日を1日確保
- 早寝チャレンジ(最低5時間でもOK)
- スマホを半日置く
- 好きな音楽だけを聴く(歌詞なし)
- 自炊して、ゆっくり咀嚼して食べる
→ これをやると70%の確率で回復する。「やる価値がある」と知っているだけで気が楽になる。
④ 外部サポートと“緊急時の出口戦略”
📞 外部支援の選択肢:
- 月1のメンタルチェック用カウンセラー(オンライン)
- 日本の親友にLINEで音声送信
- 日本語で話せる医療相談サービス(海外保険でカバー)
🔁 最悪のケース:
「3日以上、何も感じない/無気力」の場合 → 仕事を一時中断して一時帰国を検討
→ あらかじめ“逃げ道”を決めておくだけで、「そこまで追い詰められない」ですむ。
🧠 メンタル管理も“コード化”すれば、扱いやすくなる
感情は曖昧なもの。でも、それを“ロジック”や“パターン”として見える化すれば、**感情も対処可能な「対象」**になる。
たとえば、
- ログを取る(ジャーナリング)
- 変数を設定する(体調/集中度/睡眠時間)
- イベントハンドラを書く(特定の不調に対して決まった行動)
- 再起動手順を決めておく(復旧ルート)
こうした“心のコード化”は、感情に飲み込まれずに扱う技術として、海外生活において強い武器になる。
🪄 最後に伝えたいこと
海外で働くエンジニアという選択は、やりがいも成長もたくさんある。
だけど、その代わりに、“自分の心を守る責任”も引き受ける必要がある。
でも、それを全部“我慢”や“根性”でやるのではなく、
仕組みとルールで“守れる形”にしていくことが、持続性のある海外生活につながる。
心が折れそうなとき、支えてくれるのは“意志”じゃなく、“設計”だ。
それを忘れずに、今日も自分の心と共存していこう。

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