– “通じる言語”としてのテクニカルイングリッシュ再発見**
“英語で説明した方がラク”と思ったあの日から
「英語で仕様書書くのって、大変じゃない?」
海外で働くようになってから、こんな質問をよく受ける。でも、正直なところ──ぼくにとっては、日本語で書く方が難しいと感じるときすらある。
これは決して、英語がペラペラだからとか、ネイティブっぽく話せるからではない。むしろ逆で、ぼくは今でも「英語で細かいニュアンスが伝えきれない」って悩むことも多い。でも、それでも、**技術仕様に関しては、英語の方が“まっすぐ伝えられる”**と感じるシーンが確かにある。
■ なぜ、日本語の方が難しく感じるのか?
ぼくはもともと、国内で10年以上、C#とWPFで業務アプリの設計開発をしていた。仕様書も設計書も、当然すべて日本語。だけど、社内のレビューで「これってどういう意味ですか?」と聞かれることが、結構あった。
曖昧さを避けるために丁寧に書いたつもりでも、逆に“読む人によって解釈が変わる日本語”になってしまっていた。
- 「可能であれば対応」→ やるの?やらないの?
- 「適宜処理する」→ いつ?誰が?どこまで?
- 「画面左下に適当なメッセージを表示」→ 適当ってどれくらい?
こういうのって、英語で書くと自然と曖昧さを排除せざるを得ない。
Show a warning message at the bottom-left corner if the input is invalid.
The message should be visible for 3 seconds.
主語・条件・動作・表示位置・タイミング——全部を明示しないと文章にならないのが、英語という言語の構造だ。これは、仕様を書くエンジニアにとってはむしろありがたい。
■ 非ネイティブだからこそ「主語とロジックで考える英語」が効く
最初はたどたどしくてもいい。完璧な文法じゃなくていい。主語・述語・条件・結果がちゃんと入っていれば、英語ってすごく強い。
日本語だと「阿吽の呼吸」とか「文脈で察してくれ」が通じる。でも国際チームだとそれは通じない。むしろ、英語という“ツール”に頼って、論理で伝える方が圧倒的にフェアなんだ。
■ 海外チームのレビューで感じた「英語で仕様が整理される」感覚
ぼくが最初にそれを強く感じたのは、初めて英語で仕様レビューをしたとき。Zoom越しにレビューを受けていたインドとオランダのエンジニアに、ぼくの書いた英語仕様を読んでもらった。
当然、言い回しや時制ミスもあった。でも、彼らは内容に集中してくれた。あるインド人エンジニアが言った。
“I like that your specs are direct. Easy to follow. Maybe just clarify the retry condition.”
そのときハッとしたんだ。
「英語の方が、伝わる“設計の筋”が浮き彫りになる」
英語が得意じゃなくても、“エンジニアが共通して理解できる仕様の骨格”を英語にすることで、チーム全体が同じ方向を見やすくなる。これは、日本語では得られなかった感覚だった。
■ 英語仕様を“話せる”ようになったら、世界が変わる
英語で仕様を書くようになると、不思議とレビューで口頭説明する力も育っていく。
“読む”英語と“書く”英語が先にあって、次に“話す”英語が乗っかってくる。仕様書って実は、英語スピーキングのトレーニング素材としてもめちゃくちゃ優秀なんだ。
“非ネイティブ”だからこそ英語仕様で信頼される理由
「君の英語はちょっと不自然だけど、仕様はすごくクリアだね。」
これは、ぼくがヨーロッパの多国籍チームで一緒に働いたときに、リードエンジニアから言われた言葉だ。
正直、文法ミスが気になって自信がなかった。でもそのリードはそんな表面的なところより、**“設計の意図が読み取れること”**を最も評価してくれた。
このとき気づいた。“英語が上手いこと”と“伝わる設計を書くこと”は別物だって。
■「英語が話せる人」より「構造を伝えられる人」が重宝される理由
グローバルチームで仕事をして感じるのは、「英語力」が評価軸の中心にあるわけではないということ。むしろ、多国籍チームでは「英語が母語じゃない人」が半数以上になることも珍しくない。
だからこそ、英語での“設計ドキュメント力”は、非ネイティブのほうが伸びしろがある。
ネイティブが書いた仕様書って、ときにカジュアルすぎたり、曖昧すぎたりして、逆に読み解きにくいこともある。一方で、非ネイティブのエンジニアが書く仕様は、必要最小限の単語と構造だけで、クリアに情報を届けてくれることが多い。
たとえばこんな違い:
ネイティブが書いた仕様(例):
We might need to retry this operation if it fails, but it depends on the error.
非ネイティブのエンジニアが書いた仕様:
Retry this operation up to 3 times only if the error code is 500 (server error).
後者の方が圧倒的に明確で、実装に迷いが出ない。
これは“語彙が少ないこと”のメリットでもある。要するに、曖昧にぼかす言い回しをそもそも知らないから、自然とロジカルな表現になる。これは、非ネイティブにしかできない技術英語の強みだ。
■「仕様を書く力」が「話す力」より先に評価される
もうひとつ大事なこと。それは、非ネイティブにとって最初にチームから信頼を得る瞬間は、“話したとき”じゃないということ。
ぼくの経験では、非ネイティブが最初に褒められるのは、英語ミーティングでの発言よりも、英語で書いたドキュメントや設計コメントだった。
Slackのコメント、GitのPull Request説明、Notionのタスク定義、Confluenceでの設計ドキュメント──これらは全部、“準備できる英語”だ。そして、しっかり構造を組んで、必要な情報を落とし込めば、母語が英語でないことはもはや関係ない。
これはつまり、**非ネイティブが先に勝負すべきなのは「仕様英語」**ってこと。
口頭でスマートに振る舞うよりも、「お、この人の書く設計、わかりやすいな」「説明うまいな」と思われることのほうが、グローバルチームでは信用につながる。
■「英語=会話」じゃない。「英語=設計思考」の言語でもある
ぼくは長いこと、英語が苦手だった。発音も自信ないし、咄嗟に出てこない。でも、英語で仕様を書くようになってから、「英語を使うこと」がちょっとだけ怖くなくなった。
なぜなら、英語で仕様を書くことは、設計を論理的に言語化する訓練になるからだ。日本語よりも、論理構造がはっきり出る。逆に言えば、曖昧な設計は、英語にしようとすると詰まる。
だから、仕様を書くときに「英語が苦手だから辛い」と思う必要はない。むしろそれは、自分の設計を構造的に見直す最高のチャンスなのだ。
■ 具体例:自分のPull Requestコメントが“見られていた”話
ある時、海外の開発チームでWPFアプリのレイアウト周りの大きなリファクタリングをした。
その際、Pull Requestに以下のような説明を英語で添えた:
This PR restructures the layout components to improve screen responsiveness.
- Replaced fixed-width panels with Grid definitions.
- Introduced
Autosizing to adapt to localized text.- Tested with sample texts in EN, FR, and JA.
短いけれど、**目的(why)→手段(how)→影響範囲(what)**という基本構造を意識して書いた。
そしたら、レビュー後にチームリーダーから言われた。
“We appreciate your clarity. We can trust changes when they’re explained like this.”
その一言が、ぼくにとって大きな自信になった。“通じる英語”を書けた瞬間だった。
■ 英語で「構造」を示すことは、文化を超えて伝わる
多国籍チームでは、英語が第一言語じゃないメンバー同士のやりとりも多い。だからこそ、構造がはっきりした英語が、文化や文法の壁を超えてチームの共通理解を作る。
つまり、英語で仕様を書く力は、コミュニケーション力ではなく設計力の一部なんだ。
「英語で書く」ことで設計も思考も研ぎ澄まされる
日本語で仕様を書くとき、つい「ふわっと」書いてしまうことがある。
たとえば、「画面の使い勝手を考慮して調整する」とか「処理負荷が高い場合は適切に対応する」みたいな言い回し。これ、書いてる本人には通じる。でも、読み手には全く判断材料がない。
実際、ぼくも国内のプロジェクトでよく「え、それってどういう条件で、どう判断するんですか?」とレビューで突っ込まれていた。
そんな“日本語的な曖昧さ”が、英語にした瞬間に露呈する。
■ 英語に書き換えようとしたら、詰まった
ある時、以前日本語で書いた仕様書を英語化するというタスクがあった。見出しは「パフォーマンスの最適化について」。内容はこうだ:
一部の処理において負荷が高まる可能性があるため、状況に応じて適切な対策を行う。
……さて、これを英語にすると?
正直、手が止まった。
「適切な対策」って何?「状況に応じて」って、どんな状況?主語は誰?対策の条件や内容は?
つまり、日本語で“ごまかしていた”設計が、英語にしようとした途端に浮き彫りになるのだ。
■ 曖昧な日本語 ≒ 不完全な設計
この体験を通じて気づいた。
英語で仕様を書くという行為は、設計そのものの精度チェックになる。
つまり、「英語ができる=国際対応できる」ではなくて、英語で“設計を表現できる”=設計の質が問われるということ。
英語化の過程で、自然とこう問い直すようになる:
- この仕様、本当に要件を満たしているか?
- どこが判断基準になっていて、どこが変動要素か?
- 他の誰が読んでも同じ実装になるか?
こうした自問を経て、ぼくの設計の「癖」や「抜け」がどんどん可視化されていった。
■ だから今、「英語で書く」ことが“デザインレビューの準備”になる
仕様を英語で書くようになってから、コードレビューやUIレビューに臨むときの「説明準備」がめちゃくちゃラクになった。
なぜなら、レビュー前に自分で自分の仕様を一度“翻訳”して論理チェックしているからだ。
その結果、説明時にも以下のように自然に話せるようになる:
“We decided to use this layout pattern because it minimizes resizing issues in localized UIs. The behavior is defined based on screen width, with a breakpoint at 768px.”
日本語だったら「まあそんな感じで、適当にレスポンシブにしてあります」で済ませていたかもしれない。
でも英語で書こうとしたときに、「適当って何だ?基準は?寸法は?」と自問する。
結果的に、設計がロジカルに研ぎ澄まされ、他人に説明する力もついてくる。
■ 実例:WPFの仕様書を“英語構造”にリライトした時の改善点
以下、日本語でのWPF仕様の一部と、それを英語で書き直した例:
📝 Before(日本語):
「ウィンドウを開いた際、最新の状態が表示されるようにデータを初期化しておく。」
→ 曖昧ポイント:
・「最新の状態」ってどこから?
・「初期化」って何をどうするの?
📝 After(英語):
On window load, call
RefreshDataAsync()to fetch the latest values from the API.
This ensures that the view displays up-to-date information retrieved within the last 10 seconds.
→ 明確化されたポイント:
・アクション(RefreshDataAsyncを呼ぶ)
・目的(最新値の取得)
・条件(10秒以内のデータ)
このように、英語で書こうとする過程で、仕様そのものの粒度が整っていく。
レビューする相手も理解しやすく、フィードバックも具体的になる。
■ 英語で仕様を書くと、曖昧な“責任の所在”も明確になる
日本語ではあまり明言しない「誰がやるのか」「誰が決めるのか」といった責任の分担も、英語にすると自然と明確になる。
例:
“UI team will implement this component.”
“Backend team is responsible for logging and error handling.”
こんな風に、英語における主語の強制性によって、設計における責任や範囲が曖昧になりづらい。
設計フェーズでの責任共有がスムーズになることは、実装やレビューでの無駄な手戻りを減らす効果もある。
■ 結論:「英語で仕様を書く」=「設計の可視化ツール」
英語を書くスキルを、ただの語学力と捉えると損をする。
それはむしろ、設計を可視化し、構造化するツールであり、チームとの信頼をつくるドキュメント技術でもある。
だからこそ、完璧な文法なんて要らない。必要なのは、“伝えるべき中身”を整理する力。
それを育ててくれるのが、英語仕様を書くという習慣なのだ。
「仕様英語」は評価されるスキルになる
エンジニアとしてグローバルに働く上で、英語の“流暢さ”は確かに強みになる。
でも、ぼく自身が実感しているのは──
「伝わる英語で仕様を設計できる」ことの方が、はるかに評価につながるということだ。
なぜなら、これは単なる語学スキルではなく、
プロジェクトの品質・スピード・チームの信頼に直結する「仕事力」だからだ。
■ 英語が苦手でも、「仕様英語」は“成果の証明”になる
たとえば、ある案件でぼくが担当した画面設計に対して、海外のPMからこう言われたことがある。
“I didn’t have to ask you for clarification. That alone is rare and valuable.”
その仕様書は、簡単な英語で構成されていたけれど、構造がクリアで、意図が読み取りやすかった。
「こう動いて、こう例外があって、ここまではUIで処理、ここからはAPIで制御する」という構造的な思考が、言葉よりも先に伝わっていた。
この時ぼくは強く感じた。
英語力で勝てなくても、「設計力×英語」なら十分戦える。
■ 実務での「仕様英語スキル」が採用にも効く
仕様英語が評価されるのは、チームの中だけじゃない。
転職活動でも、採用面談でも、ポートフォリオでも──
このスキルは確実に“見える実力”として機能する。
たとえば、ぼくが過去に応募したある海外案件では、「英語の技術ドキュメントをポートフォリオとして提出してください」と言われたことがある。
そこで提出したのは、以前WPFアプリで自分が設計した仕様の英語版ドキュメント(Confluence形式)。
拙い英語だったが、以下のような工夫を盛り込んだ:
- 冒頭に概要(目的・対象機能・前提)
- 画面単位での分割+動作フロー
- 各機能に主語と条件・結果を明記
すると、担当者からこんなフィードバックが返ってきた。
“Your English isn’t perfect, but your logic and structure are excellent. We can see how you think.”
つまり、「設計の筋道」が伝わる文書を英語で書けることは、
“話さなくても伝わる設計力”の証明になる。
■ 英語が苦手でも、戦略で“話せる人”になれる
実務で仕様英語を書いていると、自然と「話すとき」も変わってくる。
なぜなら、仕様書で使った表現がそのままミーティングでの説明にも使えるからだ。
たとえば、以下のような表現は、非ネイティブでも安心して使える:
- “The component handles input validation before API call.”
- “This is a fallback pattern in case the primary layout fails.”
- “We limit this action to avoid performance degradation.”
これらは、どれも「主語・動作・理由」がはっきりしていて、簡潔で強い。
こういうフレーズを仕様書で先に“練習”しておけば、会議で焦ることもなくなる。
つまり、“話すための英語”ではなく、“説明が通じる英語”を積み上げる戦略だ。
■ 英語に正解はない。だからこそ「伝わる」が勝ち
ここまで書いてきたように、「仕様英語」は決して正解のある世界じゃない。
ネイティブっぽさ、表現の多様さ、洗練された言い回し──それらは後からついてくるもの。
最初に必要なのは、“通じる設計”を“通じる構造で書くこと”。
たどたどしくてもいい。単語が単純でもいい。
構造があれば、内容があれば、英語は必ず伝わる。
■ まとめ:Fluentじゃなくていい。通じる英語が、あなたの設計を届ける
非ネイティブだからこそ、英語に悩むことは多い。
でも同時に、非ネイティブだからこそ見える“伝える英語”の戦い方がある。
それは、こういう戦い方だ:
- 設計を構造で整理する
- 主語と条件を明確にする
- 曖昧さを排除して、チーム全員が同じ絵を見れるようにする
この戦い方を身につけたとき、英語は“恐れるもの”ではなく、
あなたの技術力を証明する味方になる。
Fluentじゃなくていい。
伝わる仕様で、あなたの設計は、世界に届く。

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