“安定”を手放した先に見えた、僕にしかない働き方

安定志向のその先にある違和感

「安定した会社に入って、真面目に働いていれば、いつか報われる」
——そんな言葉を信じて、僕は日本でエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた。

新卒で入ったのは、いわゆるSIer。C#とWPFを使った業務アプリの開発現場で、仕様書をもとに淡々と画面を作り、バグを潰し、納期に追われる日々。でも当時は、それが「普通」だと思ってた。ちゃんと給料が出て、ボーナスもあって、有給も取れて、何より周りから「ちゃんとした会社にいるね」と言ってもらえる。そんな“安心感”に包まれていたから。

でも、ある日ふと気づいた。

「あれ? 俺ってこのままでいいのかな?」

ふとした瞬間に、胸の奥から沸き上がってくる違和感。
それは、決して明確な「不満」じゃない。
むしろ、周りから見れば恵まれているように見える環境だったと思う。
でも、心のどこかがモヤモヤしていた。


その頃、たまたま参加した社外の技術勉強会で出会ったエンジニアがいた。彼はスウェーデンのリモートチームで働いていて、毎日C#とReactを組み合わせたアプリを開発していると言っていた。しかも、彼のチームはフルリモートで、ミーティングもすべて英語。働く場所も時間も自由。週末は家族とキャンプに行ったり、好きな場所で仕事したりしてるらしい。

「そんな働き方、あるんだ……」
衝撃だった。

彼が特別な天才だったわけじゃない。
話し方も穏やかで、日本での開発経験も普通にある人だった。
ただ一つ違ったのは、「日本の外にも選択肢がある」ということを、彼が知っていて、行動に移していたという点。

それに比べて、僕はどうだっただろう。
日本の枠の中で「もっといい案件」「もっと良い職場環境」を探してはいたけど、そもそも枠そのものを疑ったことがなかった。


「このまま何となく“安定”を目指して、気づいたら定年になってるのかも」

そう思ったら、ぞっとした。
同時に、「もっと自分らしく働ける場所があるかもしれない」と思い始めた。

でも、そこでいきなり「よし、海外に行こう!」とはならなかった。
英語も得意じゃないし、海外の開発現場のイメージも曖昧。
それに、30代目前。転職するにもリスクはあるし、何より怖かった。

だけど、不思議と“ワクワク”が勝っていた。
これはただの不満からくる衝動じゃない。
「自分の強みを、もっと広い世界で活かせるかもしれない」——そんな前向きな期待感だった。


まず僕がやったのは、今の自分の“棚卸し”。
「自分が今まで何をしてきたか」「何が得意で、何に情熱を感じるか」
正直、それまで意識したことがなかった。

出てきたキーワードは、「UI設計」「業務改善」「ユーザー目線の提案」
コードを書くのも好きだけど、「使う人のことを想像しながら画面を作る」のが、何より面白かった。

「WPFって、もしかして自分の武器かもしれない」

日本では“古い技術”扱いされることもあるけど、UIの設計に本気で向き合った経験は、海外でも通用する可能性がある。それに気づいたとき、視野が一気に広がった。


そのときから僕の中で、ある“地図”が描き始められた。
それは、「日本で身につけたスキル」と「これから向かう世界」をつなぐキャリアの設計図。
この地図を描き切れるかどうかは、自分次第。
だけど、描きはじめなければ、何も変わらない。

「安定を手放す」のは怖い。でも、それ以上に「自分の可能性にフタをする」のが怖かった。

そして、僕は静かに一歩を踏み出した——。

自分の“武器”を見極めるキャリア棚卸し術

「日本の外でも働ける自分になりたい」
そう思ったとき、まず僕がやったのは、“キャリアの棚卸し”だった。

これまでの自分の経験、技術、関わったプロジェクト、チームでの役割、評価されたこと、逆に苦手だったこと……
とにかく、ひとつひとつ言語化していった。

この作業、最初はめちゃくちゃ地味だった。
でもやってみると、意外な発見があった。


たとえば、ある業務用WPFアプリの設計プロジェクト。

要件定義の段階からPMに同行し、現場ユーザーの業務ヒアリングに同席した。
「この作業、毎日どのくらい時間かかってますか?」
「ここ、手入力じゃなく自動化できませんか?」
そんな会話を重ねながら、画面構成や操作フローを提案していった。

当時は「たまたま現場に恵まれたな」くらいに思っていたけど、振り返ると、ここに自分の“武器”があった。

それは、「業務の流れを理解して、ユーザー視点でUIを設計する力」。
単に画面を並べるだけじゃない。
使う人の立場で考え、必要な情報をどう見せ、どう操作させるか。
この“翻訳力”こそが、自分の強みだった。


加えて、技術面でも見直してみた。

■ C#、.NET Framework → 長年使ってきた主力言語
■ WPF → MVVMパターンの理解と実装経験あり
■ XAML → データバインディング、テンプレート、カスタムコントロール作成まで対応
■ Git、Redmine、Jenkins → チーム開発経験あり
■ ユーザーテスト → フィードバックからのUI改善経験あり

こうして書き出すと、「あれ? 俺、意外とやってきたかも」と少し自信が出てきた。
でも同時に、足りないものも見えてくる。

たとえば、「英語で技術を説明する力」。
海外のチームと働くなら、コードレビューや設計の議論を英語でする場面が出てくるはず。
ここは明確な課題だった。


とはいえ、全部を一気に完璧にする必要はない。
重要なのは、「今の自分に何ができて、何が足りないかを把握すること」。
この“見える化”が、次の行動を選ぶための地図になる。

僕はそこから「スキルの棚卸し表」を作った。
簡単な表だけど、自分の強み・課題・その対策を書き出したことで、何を伸ばしていくべきかが見えてきた。

分類スキル・経験現在のレベル課題/アピールポイント
言語C#, XAML説明力・ドキュメント力強化
UI設計WPF, MVVM海外でのUI評価基準を学びたい
英語読み書き:可、会話:やや苦手毎日英語で技術アウトプットする習慣
コミュ力日本語では得意、英語では不安国際的なレビューのやりとりを学ぶ
プレゼン力社内発表多数、資料作成経験あり英語でのプレゼン練習が必要

この表を見て、まず僕がやろうと決めたのは、「英語での技術発信」だった。
Qiitaに書いてた記事を、英語にしてGitHubとLinkedInで発信してみることにした。
内容はシンプルに、「WPFで作った業務UIのTips」や「XAMLでハマりがちなポイントの解決策」など。

もちろん、最初は反応も少なかったし、英文にも自信はなかった。
でも「完璧じゃなくていい、まず出してみよう」と自分に言い聞かせて、一つずつ投稿した。

すると、ある日LinkedInで、海外の開発者からコメントがついた。

“Nice idea! We’re using WPF, too. Looking forward to more.”

この一言が、思っていた以上に大きかった。

「自分のスキルが、言語や国を越えて伝わるんだ」
そう実感できた瞬間だった。


日本で働いていると、「WPFなんてもう古い」「英語ができないと無理」と言われがちだけど、
実際にはまだWPFを使ってるチームもあるし、求められてるのは“技術”よりも“その技術で何ができるか”だと気づいた。

英語が完璧じゃなくても、UI設計に情熱があることが伝われば、共感してもらえる。

この経験を通じて、「海外で通用する自分」という像が少しずつ具体化していった。
ただの夢物語じゃなく、「現実として可能なキャリア」へと変わっていった。


次のステップは、「海外での働き方に合ったポートフォリオを作ること」。
僕は、実際にやってきたWPFプロジェクトを再構成して、英語で説明を書き、GitHubにまとめることにした。

・プロジェクトの概要(どんな業務アプリだったか)
・自分の担当範囲(UI設計、要件整理、テストなど)
・工夫した点(ユーザーの声をどう設計に反映したか)
・技術スタック(WPF, MVVM, XAML, .NET Framework)

このポートフォリオは、転職の“武器”になるだけでなく、自己理解の深掘りにもつながった。


こうして僕は、「自分の武器」を再確認し、「次の戦場」を見据え始めた。
地図はまだ完成じゃないけど、方向は定まった。

次に必要なのは、「実際にどう動くか」だ。

海外を意識した転職活動と、出会った“本気”の開発現場

英語で発信をはじめてしばらくたった頃、ポートフォリオもようやく形になってきた。
次に僕が考えたのは、「どこで、どうやって海外のチャンスに近づくか」だった。

でも、いきなり「海外の求人に応募する」なんて、正直ハードルが高すぎた。
英語で面接?英語でレジュメ?そんなの無理ゲーじゃん…と思った。

だから、最初にやったのは「英語圏のリクルーターとつながること」。

LinkedInで「.NET」「WPF」「UI」「remote」「C#」といったキーワードで検索して、片っ端から海外の求人投稿をウォッチした。
気になる求人があれば、担当リクルーターに「Hi, I’m a UI-focused WPF engineer from Japan…」と短い自己紹介を添えてメッセージを送った。

返信がくるのは10人に1人くらいだった。
でも、ちゃんと見てくれる人は見てくれる。

「Your UI design experience looks interesting. Are you open to relocation or remote only?」
そんな返信が届いたとき、ようやく“線”が海外とつながった気がした。


そこで本格的に、英語の履歴書(CV)と職務経歴書(Resume)を用意することにした。

日本語の職務経歴書と違って、英語CVは“短く・具体的に・成果ベースで”書く必要がある。
僕は慣れない英語に苦戦しながらも、以下のように構成を工夫した:


✍️ CV構成(抜粋)

  • Professional Summary
    UI-focused software engineer with 7+ years of experience in WPF application development, specializing in MVVM architecture, user-centric design, and enterprise system UI optimization.
  • Key Skills
    • UI/UX Design for Business Applications
    • WPF, XAML, MVVM, .NET Framework
    • Team Collaboration, User Interview, Agile
    • Git, Jenkins, Unit Testing (MSTest)
  • Experience
    UI Engineer / ABC Tech Co., Ltd. (Tokyo, Japan)
    Jan 2019 – Present
    • Designed and developed over 30 WPF user interfaces for logistics and financial enterprise software.
    • Conducted user interviews to optimize workflows, resulting in a 20% reduction in operation time.
    • Led UI review sessions with cross-functional teams to improve usability and consistency.

履歴書の文章を書いていて気づいたのは、
「日本の現場では当たり前だったことが、海外では強みに見える」ってこと。

たとえば、“業務知識をベースにUIを提案できる”って、結構レアスキル。
“要件をそのまま実装する”エンジニアは多くても、“ユーザーの声を聞いてUIを改善する”経験は、どの国でも高く評価されるらしい。


その後、少しずつ海外求人にも応募していった。
もちろん、最初はお祈りメールの連続だった。

でも、何度かのチャレンジを経て、あるイギリスのソフトウェア会社の面接まで進んだ。

そこは、BtoB向けに業務支援アプリを提供している中小企業で、WPFをメインに使っていた。
まさかWPF案件がイギリスにあるなんて…!と驚いたし、なにより「UIを重視した開発文化」があったことに惹かれた。

面接では、自分が作ったポートフォリオの画面を共有しながら、以下のような会話をした。


Interviewer:
“So, can you explain the reason behind this dashboard layout?”

Me (nervously):
“Yes, I created this layout based on interviews with end-users.
They said their priority was quick access to pending tasks, so I placed this summary panel on top…”


なんとか言葉を繋ぎながら話していると、相手の表情がふと柔らかくなった。

「お、ちゃんと伝わってる…!」

そう思った瞬間、英語で働くって、ただ語学力じゃないんだなと実感した。
大事なのは、「相手の視点に立って話すこと」。
それは日本語でも英語でも変わらない。


最終的にその会社からは内定は出なかった。
でも、面接の最後にこう言われた。

“We’re impressed with your approach to UI. If we have a future opening, we’d love to contact you again.”

それだけで十分だった。
「自分のやってきたことは、世界のどこかでちゃんと評価される」——それが確信に変わった。


一方で、英語で面接することの難しさも痛感した。
技術の説明、プロジェクトの背景、チームでの役割…すべて英語で「自分の言葉」にしなければ伝わらない。

でも、逆に考えると、これは「磨けば通じる」ということでもある。
日本の現場で積み上げてきたものを、“世界に伝わる形”に翻訳するだけ。

必要なのは、新しいスキルじゃなくて、既にある強みの“伝え方”なんだ。


この転職活動を通じて、僕は「海外で働くこと」が、遠い夢ではなく「再現可能なキャリア選択肢」に変わっていった。
英語が苦手でも、WPFという武器があって、UIに情熱があって、きちんと準備すれば、ちゃんと届く。

安定を手放した代わりに手にしたのは、“世界に通用する自分の価値”。

そして、いよいよ僕は次のステップへと踏み出すことになる——。

国や環境に縛られない、自分軸キャリアのその先へ

「自分が海外で通用するかもしれない」——そう気づいたとき、
それは単なる“転職先”の話ではなく、“キャリアそのものの軸”が変わり始めた瞬間だった。

思えばこれまで、自分のキャリアは“与えられた環境に適応すること”が前提だった。
配属されたチーム、任された案件、与えられたツール——そのなかでどう成果を出すか。
だから評価はいつも「その場での最適解」で決まる。

でも、海外を視野に入れたとたん、「どこでも通用する自分ってなんだ?」という問いが生まれた。
場所も文化も時間も違う環境で、僕が“価値ある存在”として認められるにはどうすればいいのか。
その答えを探す過程が、“再設計”の本質だった。


その過程で僕が大切にしたのは、「自分の仕事に“意味”を持たせること」だった。

たとえばWPFのUI設計。
それまでは「仕様通りに作る」のが仕事だったけど、
今は「ユーザーの意思決定を助ける設計」「業務ストレスを減らす導線設計」など、
“目的”から設計を逆算するようになった。

誰かに頼まれたからやるのではなく、
「自分がこの設計に責任を持つ」と言えるかどうか。
それは、環境に依存しない“プロの姿勢”だと思う。


そしてもう一つ、大きく変わったのが「学び方」。

以前は、必要に迫られて技術を学ぶことが多かった。
新しい案件で必要だから、資格を取るから、上司に言われたから——
それももちろん大事だけど、今は「自分のキャリアを世界と繋ぐため」に学ぶようになった。

英語でプレゼンする力
国ごとのUI文化の違い
アクセシビリティ設計の国際基準
GitHubを通じたグローバルな技術発信

これらは、誰かに言われたわけじゃなく、自分で必要だと感じて選んだ学び。
こうした“自走型”の学びが、キャリアを「環境依存」から「自分軸」へと変えてくれた。


今、僕は日本に住みながら、リモートでグローバルチームに関わっている。
案件の仕様も英語、レビューも英語、日々のやりとりもSlackで英語。
最初はめちゃくちゃ緊張したし、うまく伝わらずに落ち込んだこともあった。

でも、やっていくうちにわかったのは、
“伝える力”は言語力だけじゃないということ。

図を描く
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自作したプロトタイプで共有する
コメントを見える化して整理する

こうした“伝え方の工夫”をすることで、英語が流暢じゃなくても、ちゃんと意思疎通できるようになってきた。


そしてもう一つ、大切なことに気づいた。
国が違っても、ユーザーの悩みは本質的に同じということ。

たとえば、海外の物流アプリの現場で言われた悩みはこうだった:

  • 情報が多すぎて、必要なデータを見つけにくい
  • 操作ミスが起きやすい構成になっていて、確認の手間が多い
  • モバイルとPCで使い勝手が大きく違う

まるで、日本の現場で聞いたこととそっくりだった。

だからこそ、日本で培った“現場ユーザー目線”は、海外でも活かせる。
むしろ、UI設計でユーザーに寄り添う力は、言語以上に国を超える。


「海外で働く」というと、
何か特別なスキルが必要に思えるかもしれない。
でも実際には、「自分がどういう設計者か」を語れれば、それだけで価値になる。

僕の場合は、

  • WPFで培った“構造的な画面設計力”
  • 業務効率を上げる“ユーザー視点の提案力”
  • チームを巻き込んで改善する“コミュニケーション力”

これらを英語に“翻訳”して伝えることで、世界のどこかで誰かの役に立てる。
そんな可能性を、今はリアルに感じている。


このブログを読んでいるあなたも、
きっと何かしらの“武器”をすでに持っているはずだ。

英語が苦手でも、
グローバルな職場に行ったことがなくても、
キャリアをやり直したいと思っていても——
「自分の強み」を言語化して、「どこで、誰に届けるか」を考えた瞬間から、
“再設計”は始まる。

安定を手放すことは、怖い。
でも、自分にしかない働き方を手に入れることは、もっとワクワクする。

キャリアを、国や業界の“枠”で決める時代は終わった。
これからは、自分の“軸”で選ぶ時代。


僕の「再設計」は、まだまだ途中だ。
でも少なくとも今は、“世界を相手に働いている実感”がある。
それは、安定という枠の中では決して得られなかった感覚だ。

次はあなたの番だ。
自分の強みと向き合い、世界へ一歩を踏み出してみてほしい。

小さなきっかけが、
未来を大きく変えるかもしれないから。

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