「負債」を「資産」にアップデートし続ける技術:海外現場で学んだ「一生レガシーを作らない」ための思考法

ハロー、皆さん。元気にコードを書いていますか?

僕は今、海外の技術拠点でC#とWPFを武器に、かなり巨大なデスクトップアプリケーションの設計・開発を担当しています。こっちに来て数年が経ちますが、日本にいた頃よりも痛感していることがあります。それは、**「エンジニアの真の敵は、新規開発ではなく、自分たちが過去に書いたコード(レガシー)である」**という冷酷な事実です。

今回は、僕が海外のガチの現場で血を流しながら学んだ「生き残るための生存戦略」、特にレガシーな巨大システムをどうモダンに作り変え、かつ「二度とレガシーと呼ばせない」ようにするか、という思考法を共有します。

1. 終わらない「蘇生作業」からの脱却:なぜ僕らはレガシーに殺されるのか

海外、特に北米や欧州のテック企業で働いていると、日本以上に「スピード」と「ROI(投資対効果)」に対してシビアです。「動いているから触るな」なんていう文化は、ここにはありません。むしろ「動いているけどメンテナンスコストが高いなら、それは負債(Debt)だ。今すぐなんとかしろ」と突きつけられます。

僕が今のチームに参加した初日のことを今でも覚えています。渡されたのは、10年以上継ぎ足し続けられた「秘伝のタレ」状態で膨れ上がったWPFのプロジェクトでした。MVVMは崩壊し、.NET Framework 4.5という骨董品のような環境。ビルドには15分かかり、一つのバグを直せば三つの新しいバグが生まれる、まさに「エンジニアの墓場」でした。

その時、僕のボスであるシニアアーキテクトが放った言葉が、僕のキャリアを決定づけました。

「このシステムを『蘇生』させるんじゃない。二度と死なない『エコシステム』に作り変えるんだ。Beyond Revival(蘇生を超えろ)だぞ」

「蘇生(Revival)」と「近代化(Modernization)」の決定的な違い

多くのエンジニアは、古いシステムを前にすると「リファクタリングして今風に動かそう」と考えます。これが蘇生です。しかし、テクノロジーの進化のスピードは、僕らがコードを書き直すスピードよりも圧倒的に速い。

僕らエンジニアが本当に戦うべきは、特定の古いコードではなく、**「コードが古くなっていくという現象(ソフトウェア・エントロピー)」**そのものです。海外で求められるのは、単に古いものを新しくするスキルではなく、「常に新しくなり続ける仕組み」を設計に組み込む能力なのです。

2. モダン化を「仕組み」に組み込む:継続的パイプラインの構築

「二度とレガシーと呼ばせない」ためには、リファクタリングを特別なイベントにしないことが重要です。海外の強いチームでは、近代化は呼吸をするのと同じくらい、日々の開発プロセスに溶け込んでいます。

① 依存関係の「鎖」を断ち切る:抽象化の徹底

WPFプロジェクトがレガシー化する最大の原因は、UIとロジック、外部ライブラリの「密結合」です。古いサードパーティ製コントロールに依存しすぎてアップグレードできない……というのは典型的な「負債」です。

僕が最初に行ったのは、すべての外部依存を**「インターフェース」の背後に隠すこと**でした。DI(Dependency Injection)コンテナを用いて実装を差し替え可能にすることで、数年後に優れたライブラリが登場した際、古いパーツを捨てて新しいものに差し替えるだけでアップグレードが完了します。

② ボーイスカウト・ルールをCI/CDへ

「キャンプ場は、来た時よりも美しくして帰る」というルールをCI(継続的インテグレーション)に組み込みます。海外の現場では、プルリクエスト(PR)で「ついでにここをモダンな書き方に変えよう」という指摘が日常的に飛び交います。

  • Roslyn Analyzersの導入: 古い構文を見つけたらビルドエラー、あるいは警告を出す。
  • SonarQubeによる静的解析: 「コードの臭い(Code Smell)」を自動検知し、技術負債の積み増しを阻止する。

③ プラットフォーム依存を排した「ピュアなコア」

WPFの型(VisibilityUIElementなど)に依存したViewModelは、将来の移行を阻害します。ロジックをピュアな .NET クラスライブラリとして切り出し、プラットフォームに依存しない「コア」を作る。これが、将来の「蘇生作業」を不要にする究極の防衛策です。

3. エンジニアの価値を数字で証明する:技術負債のKPI管理

どんなに素晴らしい設計も、ビジネスサイドの合意がなければ実行できません。海外のシニアな現場では、感情論ではなく「数字」が求められます。

技術負債を「利息」という言葉に翻訳する

僕は技術負債の話をする際、必ず「利息(Interest)」という概念を使います。

「この古いライブラリを使い続けると、新機能を実装するたびに通常の1.5倍の時間がかかります。この『0.5倍分』が、僕たちが今支払っている負債の利息です」

これを証明するために、以下の**「Innovation vs. Maintenance(イノベーション対保守)」の比率**をKPIとして可視化しました。

カテゴリ内容目標比率
Innovationユーザー価値に直結する新機能開発70%以上
Maintenance負債対応・バグ修正・インフラ維持30%以下

Google スプレッドシートにエクスポート

イノベーション速度(Velocity)の可視化

「サイクルタイム(機能がバックログに載ってからユーザーに届くまでの時間)」を計測します。レガシーなコードが原因でビルドに1時間、テストに3日かかっているなら、そのサイクルタイムの改善こそがビジネス価値です。「このモダン化でサイクルタイムを5日から2日に短縮できる」というプレゼンは、非エンジニアのステークホルダーにも強烈に刺さります。

ROI=モダン化に要したコスト節約された開発工数×エンジニアの単価​

この数式を背景に持つだけで、リファクタリングは「エンジニアのわがまま」から「戦略的投資」へと昇格します。

4. 変化を愛する設計思想:過去を糧に進化し続ける極意

最終的に行き着くべき場所は、完璧な設計ではありません。「未来は予測できない」と開き直り、いつでも捨てられる、いつでも変えられる設計をすることです。

「作る」ことよりも「捨てる」ことを設計する

設計を考えるとき、自分に問いかける魔法の質問があります。 「このモジュールが3年後にゴミになったとき、隣のコードを壊さずに30分で捨てられるか?」

海外のシニアエンジニアが愛用する言葉に “Design for Deletion(削除のための設計)” があります。不要になった古いパーツをサクッと「削除」できれば、システムは常に身軽でいられます。これこそが、蘇生を必要としない「新代謝し続けるシステム」の真髄です。

変化はリスクではなく「チャンス」

海外で働いていると、日本では考えられないスピードで方針転換(ピボット)が起こります。そんな時、「ロジックはピュアなC#で切り離してあるから、UIを差し替えるだけだね」と笑って返せる柔軟性。

変化を「避けるべきリスク」と捉えるか、「設計の柔軟性を試すチャンス」と捉えるか。このマインドセットの差こそが、異国の地で生き残るための最強の武器になります。

これから世界を目指すあなたへ

「海外で働く」ということは、多様な文化の中で「技術の価値を自分の言葉で定義し続ける」という冒険です。英語が完璧である必要はありません。しかし、「良いシステムとは何か?」「エンジニアの価値とは何か?」に対する自分なりの哲学は、英語以上に重要です。

レガシーコードを恐れないでください。それを仕組みと数字で攻略していくプロセスは、最高のエンターテインメントです。

The Future-Proofed Present —— 。

僕たちが今この瞬間、キーボードを叩いて生み出しているコードが、未来の誰かを苦しめる「呪い」ではなく、未来を切り拓く「翼」になるように。

Keep Coding, Stay Flexible!

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