【海外エンジニア生存戦略】「専門用語(ジャーゴン)」を捨てた瞬間、僕のキャリアが爆速で動き出した話 ~Your Career Catalyst~

  1. 技術力だけでは超えられない「壁」の正体:なぜあなたのコードは評価され、あなたの言葉は届かないのか?
    1. はじめに:異国の地でC#と格闘する日々
    2. 「専門用語(ジャーゴン)」という甘美な罠
    3. 「バベルの塔」を作るな、橋を架けろ
    4. 転機となった「Jargon-Free」への挑戦
    5. 閉鎖的な「職人」から、開かれた「リーダー」へ
  2. 「簡易化」という最強の武器:予算獲得とプロジェクト承認を勝ち取るためのロジック変換術
    1. 「簡単にする」ことへの恐怖を捨てろ
    2. 「エンジニア語」を「ビジネス語」へ変換するアルゴリズム
    3. 実録:100万円のライブラリ購入を承認させた「魔法の言葉」
    4. 英語のハンデを「武器」に変える
    5. クロスファンクショナルな役割への扉
  3. プレゼンは「報告」ではない、「物語」だ:経営層の心をハックするナラティブ・エンジニアリング
    1. 論理だけでは、人は動かない
    2. 「報告(Report)」という病
    3. ナラティブ・エンジニアリング:物語を設計する
      1. 1. The Villain(敵の正体)
      2. 2. The Victim(被害者の苦しみ)
      3. 3. The Hero(解決策=私たち)
      4. 4. The Happy Ending(約束された未来)
    4. ライブコーディングのような「デモ」の魔力
    5. 経営層(エグゼクティブ)の「承認欲求」をハックせよ
    6. 言葉の壁を超える「情熱」という共通言語
    7. 次のステップへ:魔法使いからリーダーへ
  4. Jargon-Free(専門用語なし)の世界へ:クロスファンクショナルなリーダーとして覚醒するための具体的なアクションプラン
    1. 「わかる人」から「わからせる人」への脱皮
    2. Action Plan 1: 「2行ルール」でSlack/Teamsをハックせよ
    3. Action Plan 2: 「So What?(だから何?)」自問自答ドリル
    4. Action Plan 3: 「異文化ランチ」へのダイブ
    5. Action Plan 4: ドキュメントを「ラブレター」に変える
    6. 最後に:あなた自身が「インターフェース」になれ

技術力だけでは超えられない「壁」の正体:なぜあなたのコードは評価され、あなたの言葉は届かないのか?

はじめに:異国の地でC#と格闘する日々

どうも、こんにちは。

現在、日本を飛び出し、海外の某企業でITエンジニアとして働いている者です。

普段は、デスクトップアプリの画面の裏側、C#やWPF(Windows Presentation Foundation)を使って、MVVMパターンに頭を悩ませたり、非同期処理のデッドロックに冷や汗をかいたりしながら、システム設計・開発を行っています。

「海外でエンジニア」なんて言うと、なんだかキラキラした響きに聞こえるかもしれません。朝は優雅にコーヒーを飲みながら英語でミーティング、最新技術を駆使してスマートにコーディング……。

いやいや、現実はそんなに甘くないんですよ。

特に、僕のような技術畑の人間が海外に出て最初にぶち当たる壁。それは「英語力」だと思われがちですが、実はもっと根深い問題があります。

それは、**「専門性という名の殻(シェル)に閉じこもってしまうこと」**です。

今日は、僕が実体験として痛感した、「技術力はあるのに、なぜか評価されない」「重要なプロジェクトを任せてもらえない」という悩みを抱えるエンジニアに向けて、その突破口となる**「Jargon-Free Advancement(専門用語を排したキャリア前進術)」**について、じっくりお話ししたいと思います。

もしあなたが、「自分の方が技術力はあるのに、なぜか口だけのアイツが出世していく」と感じたことが一度でもあるなら、この話はあなたのためのものです。

「専門用語(ジャーゴン)」という甘美な罠

僕たちエンジニアは、専門用語が大好きです。

「Dependency Injection(依存性の注入)」「Polymorphism(多態性)」「Asynchronous Streams(非同期ストリーム)」。

これらの言葉を使っているとき、僕たちは安心します。なぜなら、これらの用語は正確で、曖昧さがなく、同じ知識を持つエンジニア同士であれば、最も効率的に情報を伝達できるプロトコルだからです。

日本で働いていた頃の僕は、まさに「ジャーゴン・マスター」でした。

会議室で、「この実装だと、UIスレッドがブロックされるリスクがあるんで、Task.Runで別スレッドに逃がして、Dispatcherで書き戻すべきですね」なんて早口でまくし立てる。周りのエンジニアが「なるほど」と頷く。その瞬間、僕は「仕事ができるエンジニア」になった気でいました。

でも、海外に来て、その自信は粉々に砕かれました。

僕のチームは多国籍で、かつクロスファンクショナル(職種横断型)なチームです。デザイナー、プロダクトマネージャー(PM)、マーケティング担当、そして経営陣。

彼らに向かって、いつもの調子で「WPFのBindingシステムが……」と説明した時の、彼らの「虚無」のような目。今でも忘れられません。

英語が通じていないのではありません。言葉の定義自体は通じている。でも、「意味」が伝わっていないのです。

ある日、プロジェクトの進捗報告で、僕は発生していたバグの原因について熱弁しました。

「ViewModelのプロパティ変更通知が漏れていて、Viewに反映されていないんです。INotifyPropertyChangedの実装を見直す必要があります」

PM(非エンジニア)は、眉間に皺を寄せてこう言いました。

“So, what? Does it work or not? And when will it be fixed?”(で? 結局動くの? いつ直るの?)

僕は愕然としました。「技術的な理由をこんなに正確に説明しているのに、なぜ理解しようとしないんだ?」と怒りすら覚えました。

しかし、後になって気づいたのです。僕は「正確さ」を追求するあまり、「相手にとっての価値」を完全に無視していたのだと。

これが、「専門用語の罠」です。

僕たちは専門用語を使うことで、「自分は専門家である」というマウントを取ろうとしたり、説明の難しさから逃げたりしてしまいがちです。しかし、ビジネスの現場、特に多様なバックグラウンドを持つ人が集まる海外の環境では、**「専門用語=コミュニケーションの放棄」**とみなされるのです。

「バベルの塔」を作るな、橋を架けろ

海外で働いていると、日本以上に「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が明確です。エンジニアはエンジニアの仕事をすればいい。そう思うかもしれません。

しかし、シニアレベル、あるいはリーダーシップを求められるポジションに近づくにつれて、求められる能力は劇的に変化します。

それは、**「異なる言語を話す部族間の通訳」**になる能力です。

エンジニア村の住人は「コードと論理」語を話します。

経営陣村の住人は「予算とROI(投資対効果)」語を話します。

ユーザー代表村(PMなど)の住人は「体験と納期」語を話します。

僕がまだ若手で、ただタスクをこなしていれば良かった頃は、エンジニア村の言葉だけ話せれば十分でした。しかし、設計を任され、チームをリードする立場になると、他の村の住人と交渉し、説得し、協力を得なければ仕事が進まなくなります。

ここで多くのエンジニアが犯す間違いが、**「相手に自分の村の言葉を教えようとする」**ことです。

「いいですか、WPFというのはですね……」と技術講義を始めてしまう。これは最悪手です。相手は忙しい。彼らが知りたいのは技術の仕組みではなく、「それが自分たちのゴールにどう影響するか」だけなのです。

僕はこのことに気づくまでに、何度も失敗を重ねました。

素晴らしいアーキテクチャ刷新案を持っていっても、「コストがかかる」「リスクが見えない」と却下される。

「技術的負債(Technical Debt)」という言葉を使っても、「借金? 誰が返済するの?」と会計的な話と混同されて話が噛み合わない。

まさに「バベルの塔」状態です。言葉は交わしているのに、誰も理解し合えていない。

転機となった「Jargon-Free」への挑戦

転機は、ある大規模なリファクタリングの承認を得るためのプレゼンでした。

僕は意を決して、スライドから一切の技術用語を排除しました。

「リファクタリング」という言葉すら使いませんでした。

代わりに僕はこう言いました。

「今、この家の土台はシロアリに食われています(古いコードベースの問題)。見た目は綺麗ですが、次に大きな家具(新機能)を入れたら床が抜けます。床が抜けてから修理するには100万円かかりますが、今なら10万円の補強工事で済みます。どちらを選びますか?」

結果は、即決で承認。

その時、僕は雷に打たれたような衝撃を受けました。

「難解なことを難解なまま説明するのは、二流の仕事だ。一流は、複雑なことを誰にでもわかる言葉で語る」

これが、今回のテーマである「Your Career Catalyst(キャリアの触媒)」としてのJargon-Free Advancementの核心です。

専門用語を捨てることは、決してレベルを下げることではありません。むしろ、高度な理解と抽象化能力が必要とされる、さらに上のレベルのスキルなのです。

「子供でもわかるように説明できなければ、君はそれを本当に理解していない」というアインシュタインの言葉(とされる格言)がありますが、まさにその通りです。

閉鎖的な「職人」から、開かれた「リーダー」へ

特に海外では、”Articulate”(考えをはっきりと分かりやすく述べる)という能力が、技術力と同等、あるいはそれ以上に評価されます。

もしあなたが、

「自分はコーディングだけしていたい」

「仕様書通りに作るのが仕事だ」

と思っているなら、専門用語の世界に閉じこもっていても良いでしょう。それも一つの生き方です。

しかし、もしあなたが、

「もっと大きなプロジェクトを動かしたい」

「自分の設計思想をプロダクトに反映させたい」

「海外で、多国籍なチームを率いるリーダーになりたい」

と願うなら、今すぐその手にある「専門用語」という武器を一度置いてみてください。

これからの章(承・転・結)では、僕が実際にC# WPFエンジニアとして現場で実践し、効果を上げた具体的なテクニックを紹介していきます。

  • どうやって技術的な複雑さを、経営層に響く「メリット」に翻訳するのか?
  • 予算獲得のためのプレゼンで使える、具体的なフレーズや構成とは?
  • 英語がネイティブではないハンデを、どうやって「シンプルさ」という武器に変えるのか?

これらは教科書には載っていません。現場で冷や汗をかき、恥をかき、修正しながら身につけた「泥臭い」けれど「実戦的」な戦術です。

読んだ後、あなたの書くメール、あなたの発する一言が変わり、周りの反応が劇的に変わることを約束します。

なぜなら、「わかりやすさ」は、ビジネスにおいて最も希少で、最も価値のある通貨だからです。

さあ、準備はいいですか?

技術オタクの殻を破り、真のプロフェッショナルへの第一歩を踏み出しましょう。

まずは、「自分がいかに専門用語に依存していたか」を知ることから旅は始まります。

「簡易化」という最強の武器:予算獲得とプロジェクト承認を勝ち取るためのロジック変換術

「簡単にする」ことへの恐怖を捨てろ

「起」の話を読んでも、まだ心のどこかで抵抗を感じている人がいるかもしれません。

「専門用語を使わないと、自分の専門性が疑われるんじゃないか?」

「簡単な言葉ばかり使っていたら、技術レベルが低いと思われるんじゃないか?」

はっきり言います。それは逆です。

海外のビジネスシーン、特に意思決定のスピードが速いテック企業において、「複雑なことを複雑なまま話す奴」は、「整理能力がない奴」というレッテルを貼られます。

逆に、誰もが理解できる言葉で本質を突く人間は、「Unicorn(ユニコーン)」のように希少価値が高い存在として扱われます。

なぜなら、経営陣やステークホルダー(利害関係者)は、常に「判断」に飢えているからです。彼らは技術的な詳細を知りたいのではなく、「YesかNoか」「GOかSTOPか」を決めるための材料を求めているのです。

その材料を、彼らが消化しやすい形(=簡易化された言葉)で提供できるエンジニア。

それが、これからの時代に求められる「リーダー候補」なのです。

「エンジニア語」を「ビジネス語」へ変換するアルゴリズム

では、具体的にどうすればいいのか。

僕が普段、脳内で行っている「翻訳プロセス」を公開します。

これはC#のコードを書くのと同じです。入力(Input)があり、変換処理(Process)があり、出力(Output)がある。

悪い例(Inputそのまま):

「このWPFアプリのDataGrid描画が遅いのは、UIスレッドで重い処理をしているからです。Task.Runで非同期化して、ObservableCollectionの操作をBindingOperations.EnableCollectionSynchronizationでスレッドセーフにする必要があります。だからリファクタリングの工数をください」

これを聞いた非エンジニアのマネージャーの脳内:

(DataGrid? UIスレッド? Observable…なに? よくわからんけど、動いてるならいいじゃん。却下)

良い例(Processを経てOutput):

「現在、顧客リストを表示する際に画面が3秒固まります。これはユーザーにストレスを与え、1日あたりトータルで15分の業務時間を奪っています(Inputの現象化)。

これを解消するための修正作業に3日ください(コスト)。

これにより、画面は一瞬で表示されるようになり、オペレーターの作業効率が改善され、年間で約XXドルのコスト削減になります(Outputの価値化)。」

気づきましたか?

ここには技術用語が一つもありません。「非同期」も「スレッドセーフ」も出てこない。

しかし、マネージャーは**「3日の投資で、年間のコスト削減ができる」**という明確なROI(投資対効果)を受け取ることができます。だから「Yes」と言えるのです。

この変換アルゴリズムの肝は、以下の3ステップです。

  1. Technical Fact(技術的事実): 何が起きているか?(例:メモリリークしている)
  2. Business Impact(ビジネスへの影響): それがユーザーや会社にどう迷惑をかけるか?(例:アプリが落ちてデータが消え、クレームになる)
  3. Proposal & Benefit(提案と利益): どうすれば直り、何が得するか?(例:調査と修正に1週間くれ。そうすればクレームはゼロになる)

僕たちエンジニアは、つい1の「技術的事実」だけで会話を終わらせてしまいます。しかし、予算や承認を持っている人たちが関心があるのは、2と3だけなのです。

実録:100万円のライブラリ購入を承認させた「魔法の言葉」

以前、ある業務アプリの開発で、高機能なUIコンポーネント(InfragisticsやTelerikのようなサードパーティ製ライブラリ)を導入したいと思ったことがありました。

ライセンス料はチーム全体で約100万円。

海外のシビアな予算管理の中で、この稟議を通すのは至難の業です。

最初は技術的なメリットを並べ立てました。

「このライブラリを使えば、WPFのDataGridよりもフィルタリング機能が強力で、Excelエクスポートも標準装備で……」

結果は、「Excelエクスポートくらい自分たちで作ればタダだろ?」と一蹴。

そこで僕は戦略を変え、**「機会損失(Opportunity Cost)」**というビジネス概念を使って攻め直しました。

再チャレンジのプレゼンで、僕はこう言いました。

「確かに自分たちで作ればライセンス料はかかりません。しかし、このExcelエクスポート機能を同等の品質で自作するには、私の時給換算で約1ヶ月かかります。そのコストはライセンス料の3倍です。

さらに、私がその1ヶ月を機能作成に費やしている間、顧客が本当に求めている『新機能A』の開発はストップします。

100万円で『時間』を買い、競合より早く新機能を出すか。それとも、車輪の再発明をしてリリースを遅らせるか。どちらを選びますか?」

上司(CFO)はニヤリと笑って、その場でサインしました。

「君はエンジニアなのに、ファイナンスの視点を持っているな」

この瞬間、僕は単なる「コードを書く人」から、「ビジネスのパートナー」へと昇格しました。

専門用語を捨て、相手の土俵である「お金と時間」の言葉で語ったからこそ、予算という「武器」を手に入れることができたのです。

英語のハンデを「武器」に変える

ここで、海外で働くエンジニア特有の悩み、「英語力」についても触れておきましょう。

多くの日本人エンジニアは、「ネイティブのように流暢な英語を話せないから、説得力がない」と悩みます。

しかし、これも逆転の発想が可能です。

「英語が苦手だからこそ、シンプルな言葉しか使えない」

これが、実は最強の武器になります。

ネイティブスピーカーは、時として言葉を飾りすぎます。遠回しな表現、難解なイディオム、皮肉……。これらはビジネスコミュニケーションにおいて、ノイズになることがあります。

一方、僕たち非ネイティブは、語彙力が限られているため、必然的に:

  • SVO(主語・動詞・目的語)の単純な構文になる。
  • 難しい単語を避け、中学レベルの単語(Globish)を使う。
  • 結論から話さざるを得ない。

これが、結果として**「極めて明瞭で、誤解の余地がないコミュニケーション」**を生むのです。

僕の拙い英語のプレゼンが、ネイティブの流暢なプレゼンよりも評価されることがよくあります。

後にフィードバックを聞くと、「君の話はロジックがクリアで、何を求めているかが一発でわかった」と言われます。

「流暢さ(Fluency)」よりも「明瞭さ(Clarity)」。

格好いい英語を話す必要はありません。論理構造さえしっかりしていれば、シンプルな英語(Broken Englishでさえ!)は、難解なネイティブ英語よりも強く響くのです。

クロスファンクショナルな役割への扉

こうして「簡易化されたコミュニケーション(Jargon-Free Communication)」をマスターすると、面白いように仕事の幅が広がります。

エンジニアチームだけでなく、デザインチーム、マーケティングチーム、セールスチームとの橋渡し役を任されるようになります。

なぜなら、彼らは皆、互いの専門用語がわからず困っているからです。

そこに、技術もわかり、ビジネスもわかり、誰にでもわかる言葉で通訳できる人間が現れたらどうなるか?

「とりあえず、彼をミーティング呼んでおこう」

「彼に話を通せば、プロジェクトがスムーズに進む」

こうして、あなたは「ただのプログラマー」から、「プロジェクトの要(Key Person)」へとポジションをシフトさせていくことができます。

これが、冒頭で述べた「クロスファンクショナルなリーダー」への入り口です。

技術力は、あなたの足元を固める基礎です。

しかし、あなたを上に引き上げるのは、間違いなく「言葉の力」です。

さて、ここまでで「なぜ簡易化が必要か(起)」「どうやって変換し、実利を得るか(承)」をお話ししました。

しかし、これだけではまだ不十分です。

人を動かすには、論理だけではなく「感情」に訴えかける必要があります。

特に、大きなプロジェクトを動かす時や、ビジョンを共有する時、箇条書きのメリットだけでは人は熱狂しません。

そこで必要になるのが、**「Storytelling(物語)」**の力です。

次回の「転」では、プレゼンを「報告会」から「エンターテインメント」に変え、聴衆の心をハックする「ナラティブ・エンジニアリング」についてお話しします。

C#のコードでロジックを組むように、人の感情も設計できるとしたら……?

プレゼンは「報告」ではない、「物語」だ:経営層の心をハックするナラティブ・エンジニアリング

論理だけでは、人は動かない

前回、僕は「相手のメリット(ROI)で話せ」と言いました。

「100万円投資すれば、200万円儲かります」

これは完璧なロジックです。反論の余地はありません。

しかし、海外のタフなビジネスシーンにおいて、正しいロジックが常に勝つとは限りません。

なぜなら、決裁権を持つ人間(CEO、CTO、VP)もまた、感情を持つ人間だからです。彼らは日々、何十もの「正しい提案」を受けています。その中で、あなたのプロジェクトが選ばれるには、「正しい」以上の何かが必要です。

それは、**「ワクワクする」とか「この船に乗りたい」**と思わせる熱量です。

WPFで例えるなら、「承」のロジックはバックエンドの「ViewModel」です。データは正確で、整合性が取れている。

しかし、ユーザー(決裁者)が実際に触れ、心を動かされるのはフロントエンドの「View」、つまり**「見せ方」と「体験」**です。

どんなに高性能なエンジンを積んでいても、UIがダサくて使いにくければ、誰もそのアプリを愛しませんよね?

プレゼンも同じです。ロジックという骨組みに、ストーリーという「最高のアニメーション」を実装する必要があるのです。

「報告(Report)」という病

多くのエンジニアがやってしまう致命的なミス。それはプレゼンを「報告会」にしてしまうことです。

  • 「先週はA機能を実装しました」
  • 「現在、Bのバグが発生しており、鋭意調査中です」
  • 「来週はCのテストを行います」

これは単なる「Status Update(状態報告)」です。

機械的で、抑揚がなく、そこに「未来」がありません。これを聞かされる経営陣は、必死にあくびを噛み殺しています。

僕も昔はそうでした。

PowerPointに箇条書きでタスクリストを並べ、淡々と読み上げる。

ある時、アメリカ人のボスに言われました。

“Stop reading the slides. Tell me a story. Where are we going?”(スライドを読むな。物語を話せ。俺たちはどこへ向かっているんだ?)

その時、ハッとしました。

彼らが求めているのは、「現在地」の座標データではなく、「目的地」へ向かう冒険の地図だったのです。

ナラティブ・エンジニアリング:物語を設計する

そこで僕は、プレゼンテーションの構成をコードのアーキテクチャのように再設計しました。これを僕は勝手に**「ナラティブ・エンジニアリング(物語工学)」**と呼んでいます。

ハリウッド映画や神話の法則(ヒーローズ・ジャーニー)を、ITプロジェクトのプレゼンに応用するのです。

構成は以下の4ステップです。

1. The Villain(敵の正体)

まず、倒すべき「悪役」を定義します。

それは「技術的負債」かもしれないし、「競合他社」かもしれないし、「ユーザーの退屈な作業時間」かもしれません。

悪い例:

「サーバーのレスポンスタイムが遅いです」

ストーリー化:

「現在、私たちのユーザーは、ページを開くたびに5秒間待たされています。この『5秒という沈黙』が、彼らの情熱を冷まし、競合他社へと追いやっている真犯人(Villain)です」

2. The Victim(被害者の苦しみ)

次に、その悪役によって誰がどんな目に遭っているかを、感情に訴える言葉で描写します。

悪い例:

「業務効率が低下しています」

ストーリー化:

「経理部のサラを見てください。彼女は毎月末、このシステムのせいで夜10時まで残業を強いられています。彼女が本来クリエイティブな分析業務に使うべき時間は、この『待機時間』に奪われているのです」

3. The Hero(解決策=私たち)

ここで初めて、あなたの提案(技術、ツール、プロジェクト)が登場します。それは被害者を救うための「魔法の剣」です。

悪い例:

「Azureに移行します」

ストーリー化:

「しかし、私たちには解決策があります。クラウドネイティブなアーキテクチャへの移行です。これが実現すれば、あの『5秒の沈黙』は『0.5秒の驚き』に変わります」

4. The Happy Ending(約束された未来)

最後に、その解決策がもたらす素晴らしい世界を見せます。

ストーリー化:

「サラは定時に帰り、空いた時間で新しい財務戦略を練ることができるようになります。ユーザーはストレスから解放され、私たちのサービスを愛するようになるでしょう。この未来を実現するために、今回の予算が必要です」

どうでしょうか?

言っている内容は「サーバーを速くする」というだけの話です。

しかし、ストーリーに乗せることで、それは「サーバーの話」から**「サラを救い、会社を勝たせる話」**に変わりました。

人は、機能(Feature)には金を払いませんが、変革(Transformation)には喜んで金を払います。

あなたのプロジェクトを、単なるタスクの集合体から「変革の物語」へと昇華させるのです。

ライブコーディングのような「デモ」の魔力

WPFエンジニアの皆さんならわかると思いますが、動く画面(UI)の説得力は、100ページの設計書に勝ります。

ストーリーテリングにおいて、**「デモ(実演)」**は最強の武器です。

しかし、ここでも多くのエンジニアが失敗します。

「見てください、ここのボタンを押すと、このAPIが叩かれて、JSONが返ってきます」

……つまらない。それは機能説明です。

効果的なデモとは、「ユーザーの成功体験」を演じることです。

以前、僕は社内システムの刷新プロジェクトで、プロトタイプのデモを行いました。

僕は一切、技術的な説明をしませんでした。

代わりに、寸劇を始めました。

「僕は今、急いで顧客に見積もりを出さなきゃいけない営業マンだとします。

(旧システムの画面を見せて)ああ、画面が開かない! お客さんが待ってるのに! ストレスが溜まりますね……。

(新システムの画面に切り替えて)でも、新しいシステムならどうでしょう?

見てください、ワンクリック、一瞬です!

もうコーヒーを飲みに行く暇もありません。見積もりは30秒で完了。お客さんは笑顔。僕もハッピー。

……さて、この『ハッピー』を全社員に配りたくありませんか?」

会場(会議室)から拍手が起きました。

技術的な裏側の苦労(非同期処理の複雑さやキャッシュ戦略)なんて、一言も話していません。

でも、経営陣は**「これが欲しい」**と直感で理解したのです。

WPFやモダンなWebフロントエンド技術を持っている僕たちは、この「目に見える魔法」を作れる特権階級にいます。

Visual Studioを立ち上げて、XAMLを書き、動くものを見せる。

その時、あなたは単なる開発者ではなく、**「未来を上映する映画監督」**になれるのです。

経営層(エグゼクティブ)の「承認欲求」をハックせよ

少し心理学的な話をしましょう。

経営層やリーダーたちも、実は「ヒーロー」になりたいのです。

彼らは、「自分が正しい決断をしたおかげで、会社が良くなった」というストーリーを求めています。

だからこそ、あなたのプレゼン・ストーリーの中に、**「彼らの出番」**を作ってあげるのです。

「この技術的な実装は私たちがやります。しかし、この変革を成功させるためには、ボス、あなたのリーダーシップによる『Goサイン』という最後のピースが必要です

このように、プロジェクトの成功を「彼らの功績」として位置づけるのです。

これをあざといと感じるでしょうか?

いいえ、これは「巻き込み力」です。

自分たちだけで完結する物語ではなく、聴衆(決定権者)を物語の登場人物(メンターや支援者)として引き込む。

そうすることで、彼らはそのプロジェクトを「他人の案件」から「自分事(Ownership)」として捉えるようになります。

「よし、わかった。そのストーリーに乗ろう」

そう言わせたら、あなたの勝ちです。

言葉の壁を超える「情熱」という共通言語

海外で働いていると、どれだけ英語を勉強しても、ネイティブのような微妙なニュアンスやジョークを言うのは難しいものです。

しかし、ストーリーテリングにおいて、最も重要なのは流暢さではありません。

それは**「Passion(情熱)」と「Conviction(確信)」**です。

「このプロダクトは絶対にユーザーを幸せにするんだ!」

「今のままじゃダメなんだ、変えたいんだ!」

この想いが乗った言葉は、文法が多少間違っていようが、発音が訛っていようが、相手の心臓に直接届きます。

これをエンジニア用語で言うなら、**「感情のデータバインディング」**です。

あなたのViewModel(情熱)が変われば、即座にView(相手の感情)も更新されるのです。

以前、言葉に詰まりながらも、身振り手振りで「いかにこの機能が素晴らしいか」を熱弁した同僚がいました。

彼の英語はボロボロでしたが、その場にいた全員が、彼の描くビジョンに魅了されました。

VPは彼にこう言いました。

“I don’t understand half of your technical terms, but I believe in YOU. Let’s do it.”(技術用語の半分もわからなかったが、君のことは信じるよ。やろう。)

これこそが、ナラティブ・エンジニアリングの極致です。

ロジックを超え、言葉の壁を超え、人間対人間の信頼を勝ち取る。

次のステップへ:魔法使いからリーダーへ

さあ、これであなたは以下の武器を手に入れました。

  1. 専門用語を捨て、誰にでもわかる言葉で話す勇気(起)
  2. 技術をビジネス価値(金と時間)に変換するロジック(承)
  3. 人を巻き込み、熱狂させるストーリーテリングの技術(転)

これらが揃った時、あなたはもう「使い勝手のいいエンジニア」ではありません。

組織を動かし、ビジョンを示し、変化を起こす「リーダー」としての資質を備えたことになります。

しかし、最後に一つだけ。

これらすべてのテクニックを、明日からどうやって具体的な行動に落とし込めばいいのでしょうか?

精神論だけでは終わりません。

最終章「結」では、これらを習慣化し、日々の業務(デイリースクラム、コードレビュー、1on1)の中で実践するための、具体的かつ即効性のあるアクションプランをお渡しします。

魔法の使い方を知っても、杖を振らなければ何も起きませんからね。

Jargon-Free(専門用語なし)の世界へ:クロスファンクショナルなリーダーとして覚醒するための具体的なアクションプラン

「わかる人」から「わからせる人」への脱皮

ここまで読んでくれたあなたは、もう気づいているはずです。

海外で働くエンジニアにとって、技術力は「あって当たり前」のパスポートに過ぎません。

そこからビザの種類を「永住権(=不可欠な人材)」にアップグレードし、ファーストクラス(=リーダーシップポジション)に座るための鍵が、**「Jargon-Free(専門用語を使わない)コミュニケーション」**です。

これは、単に「簡単な言葉を使う」というテクニックの話ではありません。

「相手の立場に立ち、相手が見ている世界を想像し、そこに架け橋を渡す」という、究極のエンパシー(共感)の能力です。

C#で言えば、ガチガチの結合(Tightly Coupled)から、疎結合(Loosely Coupled)な設計へ移行し、どんなモジュール(=部署や人)とも柔軟に連携できるようにインターフェースを切る作業です。

では、具体的にどうすればいいのか?

明日から実践できる「4つの習慣(Daily Habits)」を授けます。

Action Plan 1: 「2行ルール」でSlack/Teamsをハックせよ

エンジニアのチャットは長くなりがちです。スタックトレースを貼り付け、技術的な詳細を書き連ねる。

これを今日からやめましょう。

非エンジニア(PM、デザイナー、マーケター)へのメッセージは、**「最初の2行」**ですべてを完結させる訓練をしてください。

  • 1行目:結論(Yes/No/完了/遅延)
  • 2行目:相手にとってのネクストアクション(確認して/待ってて/判断して)

悪い例:

「@PM AzureのFunction Appのデプロイでエラーが出ていて、ログを見るとタイムアウトしています。設定を見直していて、再デプロイを試していますが、あと1時間くらいかかるかもしれません」

改善例(2行ルール):

「@PM 新機能の公開は、1時間遅れます(結論)。

14時に再度状況を報告しますので、クライアントへの連絡はそれまで待ってください(ネクストアクション)。」

(※技術的な詳細は、スレッドの返信や、エンジニアチャンネルに書けばいいのです)

この「2行ルール」を徹底すると、周りからは「彼はコミュニケーションコストが低い(=仕事がしやすい)」という評価が爆速で定着します。

Action Plan 2: 「So What?(だから何?)」自問自答ドリル

コードを書く前、メールを送る前、会議で発言する前に、心の中で常に**「So What?」**と問いかける癖をつけてください。

  • 「WPFのスタイルをリファクタリングしたい」
    • → So What?(だから何?)
    • → 「UIの一貫性が保たれ、今後の画面追加が早くなる」
    • → So What?(だから何?)
    • → 「新機能のリリースサイクルを20%短縮できる」

ここまで深掘りして初めて、口を開いてください。

最初は脳に負荷がかかります。めんどくさいです。

でも、これを繰り返すと、自然と「ビジネス脳」が鍛えられます。

以前、僕は自分のタスクボード(Jira)のチケット名すら変えました。

「データベースのインデックス作成」ではなく、

「検索機能のレスポンス改善(3秒→0.5秒)」と書くようにしました。

すると、PMが優先順位を上げやすくなり、結果として僕の提案が通りやすくなったのです。

Action Plan 3: 「異文化ランチ」へのダイブ

もしあなたが、ランチタイムをいつも同じエンジニア仲間と過ごし、最新のフレームワークやガジェットの話をしているなら……残念ながら、それは「ぬるま湯」です。

週に1回でいい。勇気を出して、セールスやマーケティング、カスタマーサポート(CS)の人たちとランチ(あるいはコーヒーブレイク)に行ってください。

そして、彼らにこう聞いてみるのです。

「最近、お客さんからどんなことで怒られた?」

「今、一番売り込むのに苦労している機能は何?」

彼らの口から出る言葉は、情報の宝庫です。

そこには、あなたが次のスライドで使うべき「Villain(敵)」と「Victim(被害者)」のリアルなストーリーが転がっています。

そして、彼らが使う専門用語(KPI、Churn Rate、Leadなど)を学び、逆に彼らに技術の話をわかりやすく説明する練習台になってもらうのです。

これを続けると、あなたはただのエンジニアではなく、**「社内のハブ(結節点)」**になります。

「技術的なことは彼に聞けばわかるし、彼はビジネスのこともわかってくれる」

このポジションを確立した時、あなたのキャリアは無双状態に入ります。

Action Plan 4: ドキュメントを「ラブレター」に変える

Pull Request(PR)の説明文や、社内Wiki(Confluenceなど)の技術ドキュメント。

これを「自分への備忘録」だと思っていませんか?

違います。これは**「自分を売り込むマーケティング資料」**です。

読み手が誰であれ、「これを読むとどんないいことがあるか」を冒頭に書いてください。

PRのディスクリプションに、コードの変更点だけでなく、

**「Why this matters(なぜこれが重要か)」**というセクションを追加し、

「この変更により、ユーザーが誤って削除ボタンを押す事故を100%防げます」

と一行書く。

たったそれだけで、コードレビューをする同僚や、リリースノートを書くPMからの信頼度が跳ね上がります。

「読む人への愛(Love)」がないドキュメントは、ただのゴミ(Spam)です。

ドキュメントに「おもてなし(Omotenashi)」の精神を宿らせてください。

最後に:あなた自身が「インターフェース」になれ

長くなりましたが、最後に伝えたいことがあります。

僕たちエンジニアは、黒い画面に白い文字を打ち込み、世界を動かすシステムを作る魔法使いです。

C#もWPFも、素晴らしい技術です。

しかし、その魔法が本当に輝くのは、**「それが誰かの役に立った時」**だけです。

技術と人。

ロジックと感情。

エンジニア村とビジネス村。

その間に立ち、翻訳し、つなぎ合わせ、新しい価値を生み出す「インターフェース」。

それこそが、これからの時代に求められるエンジニアの姿であり、あなたが目指すべき場所です。

専門用語という「鎧」を脱ぎ捨ててください。

身軽になったあなたは、もっと遠くへ行けるし、もっと多くの人を巻き込めるようになります。

言葉を変えれば、思考が変わる。

思考が変われば、行動が変わる。

行動が変われば、キャリアが変わる。

さあ、PCを開いて。

最初のメール、最初のチケット、最初のコミットメッセージ。

そこから、あなたの「Jargon-Free Revolution(専門用語なしの革命)」を始めましょう。

Go break the barrier via simplified words.

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