「バズワードを捨てよ、町に出よう」…じゃなくて現場に出よう。海外エンジニアが気づいた、最強の武器は『Clarity(明瞭さ)』だった話

意識高い系ワードの海で溺れかけた私が、なぜ「小学生でもわかる英語」に回帰したのか

やあ、みんな。今日も地球のどこかでコード書いてる?

僕は相変わらず、ここ海外のオフィスで、Visual Studioと睨めっこしながら、C#とWPFでデスクトップアプリの設計をやってるよ。

さて、今日はちょっと技術的な話から離れて、でもエンジニアとしての「生存戦略」に直結する話をしたいと思う。特にこれから海外に出たいと思っている人や、今の現場でコミュニケーションにモヤモヤしている人には、絶対に損はさせない話だ。

テーマは「Clarity(明瞭さ)」。

もっと平たく言えば、「カッコつけた言葉を使うのをやめて、バカみたいにシンプルに話そうぜ」っていう話だ。

正直に告白しよう。僕が日本からこっちに来て、最初にぶち当たった壁。それは英語力不足でも、XAMLの複雑なデータバインディングでもなかった。

それは、「バズワード(Buzzwords)」という名の、実体のない怪物の存在だったんだ。

シリコンバレーごっこと、僕の焦り

渡航してすぐの頃、僕は現地の開発チームのミーティングに参加して、圧倒されていた。

ホワイトボードの前に立ったプロダクトマネージャーやシニアエンジニアが、まるで呪文のようにこんな言葉を連発していたからだ。

「我々のシナジー(Synergy)を最大化させるために、パラダイムシフト(Paradigm shift)が必要だ」

「クラウドネイティブなアプローチで、スケーラビリティ(Scalability)を担保しつつ、アジャイル(Agile)にピボット(Pivot)しよう」

「これはただの機能追加じゃない、破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)なんだ」

…どう思う?

当時の僕は、正直に言うと「すげぇ…これが海外のエンジニアリングか!」って感動すらしていた。

何ひとつ具体的な中身はわからなかったけど、その響きだけで「なんか高度なことを話し合っている」気になっていたんだ。

日本で働いていた時も横文字は多かったけど、こっちは本場だ。発音もいいし、スピードも速い。

僕は必死にメモを取った。技術的な仕様の話だと思って、辞書を引きながら議事録を作ろうとした。

でも、後で見返してみて愕然としたんだ。

「…で、結局僕たちは明日、どのクラスファイルのどのメソッドを修正すればいいんだ?」

その答えが、どこにも書いていない。

そこに残っていたのは、なんとなく賢そうな言葉の羅列だけで、具体的なアクションプラン(Actionable items)が驚くほど欠落していたんだ。

でも、当時の僕は「理解できない自分が悪い」と思い込んでいた。

「海外でやっていくには、こういう高度な語彙を使いこなさなきゃいけないんだ」

「英語のニュアンスがわからないから、彼らの高尚なビジョンが見えていないんだ」

そう自分を責めて、週末には技術書じゃなく、ビジネス英単語帳をめくるようになった。自分のコードが汚いのを棚に上げて、コメントの英語表現ばかり気にしているような、そんな滑稽な状態だったわけだ。

「賢く見せる」という、エンジニア最大の罪

ある日のことだ。WPFのUI周りの改修プロジェクトで、僕は設計を担当することになった。

既存のスパゲッティコードをリファクタリングして、メンテナンス性を高めるというタスクだ。

僕は張り切っていた。「よし、ここで僕も海外エンジニアらしく振る舞ってやるぞ」と。

設計レビューの日、僕は覚えたてのバズワードを駆使してプレゼンをした。

「このViewとViewModelのカップリングをルースにして、オブザーバビリティ(Observability)を高めることで、UXのエコシステムを最適化します」

みたいなことを言った気がする。今思い出すと顔から火が出るどころか、全身発火して灰になりそうだ。

チームのメンバーは静かに聞いていた。

「うん、なるほどね」という顔をしている人もいれば、PCの画面を見ている人もいる。

僕は「よし、通じたぞ。これで僕も一端のグローバルエンジニアだ」と悦に入っていた。

その時だ。

チームに新しく入ったばかりの、とあるベテランエンジニア(仮にボブとしよう)が手を挙げた。

ボブは、技術力はずば抜けているけれど、いつもTシャツに短パンで、難しい言葉を一切使わない人だった。

ボブは、僕の目をまっすぐ見て、信じられないくらい簡単な英語でこう言ったんだ。

「すまない、僕が馬鹿なのかもしれないけど、君の言っている『エコシステムの最適化』って、具体的に何をするの? ユーザーがボタンを押したとき、画面が固まらなくなるってこと? それとも、僕たちがバグを直しやすくなるってこと?」

会議室の空気が止まった。

僕はしどろもどろになった。「ええと、つまり、その…コードが見やすくなって…」

ボブはニコッと笑って言った。

「OK。じゃあ『コードを整理してバグを減らす』って言えばいいじゃないか。その方がみんなハッピーだろ?」

その瞬間、僕の中で何かが崩れ落ちた。

そして同時に、何かが猛烈な勢いでクリアになったんだ。

周りを見渡すと、他のメンバーもボブの言葉に頷いていた。

「実は俺も、さっきの話よくわかってなかったんだよね」

「『最適化』って言われると範囲が広すぎて、テストケースが思いつかなかったんだ」

そんな声が次々と上がり始めた。

僕が「賢く見せる」ために使っていた言葉は、情報を伝えるどころか、チーム全員の思考を停止させ、混乱を招いていただけだったんだ。

それは、エンジニアとして最も恥ずべき行為だった。

複雑なコードを書くのと同じくらい、複雑な言葉を使うことは「悪」だったんだ。

明瞭さ(Clarity)への転向

それから僕は、180度方針転換した。

「いかに賢そうな言葉を使うか」から、「いかに中学生でもわかる言葉で、高度な技術概念を説明するか」にシフトしたんだ。

これは、実は英語が母国語じゃない僕たち日本人エンジニアにとって、ものすごいチャンスなんだ。

なぜなら、僕たちはもともと難しい英語の言い回しなんて知らないからだ。

無理してネイティブの真似をしてスラングやバズワードを使う必要なんて最初からなかった。

僕たちが知っている、教科書通りのシンプルなSVO(主語・動詞・目的語)の構文こそが、実はこの多国籍な現場で最も強力な武器になるんだ。

「The UI responds faster.」(UIの反応が速くなる)

「We decouple this logic to fix bugs easily.」(バグを直しやすくするために、このロジックを切り離す)

「It costs too much time.」(時間がかかりすぎる)

これだけでいい。いや、これがいい。

これを徹底し始めてから、僕の仕事環境は劇的に変わった。

まず、ミスコミュニケーションが激減した。手戻りがなくなった。

そして驚くことに、周りからの評価が上がったんだ。

「彼と話すと、問題の所在がハッキリする」

「彼は物事をクリアに見ている」

そんなフィードバックをもらえるようになった。

皮肉な話だよね。

賢く見せようとしていた時は「何を言ってるかわからない日本人」扱いだったのに、

賢く見せるのを諦めて、開き直って簡単な言葉を使い始めたら「本質を突くエンジニア」として信頼されるようになったんだから。

なぜ今、Clarityが必要なのか

今、IT業界、特に海外のテックシーンでは、あまりにも多くの新しい概念が毎日のように生まれては消えている。

AI、ブロックチェーン、Web3、メタバース…。

これらは確かに重要かもしれない。でも、それ以上に現場で起きているのは、「言葉のインフレーション」による消化不良だ。

誰もが「置いていかれたくない」という恐怖心から、よく理解していない言葉を使いたがる。

それはまるで、仕様も理解せずにコピペしたコードでシステムを動かそうとしているようなものだ。

動いているうちはいい。でも、一度エラーが起きたら、誰も直せない。

コミュニケーションにおけるバズワードも、これと全く同じリスクを孕んでいる。

「何言ってるかよくわかんないけど、とりあえず合意しておこう」

この積み重ねが、後のプロジェクト炎上、デスマ(デスマーチ)、そしてチームの崩壊を招く。

僕はそれを何度も見てきた。

だからこそ、今、声を大にして言いたい。

これからの海外エンジニアに必要なスキルセット。

それは、最新のフレームワークを追うことでも、LeetCodeでアルゴリズムを解くことでもない(まあそれも大事だけど)。

最も投資対効果が高いスキル、それは「徹底的な明瞭さ(Radical Clarity)」だ。

曖昧な概念を、具体的で手触りのある言葉に翻訳する能力。

「なんとなく」を許さない、知的誠実さ。

これこそが、言語の壁を超えて、チームを動かし、プロダクトを成功させる鍵になる。

このブログでは、僕がC#の設計開発を通じて学んだ「コードのシンプルさ」と「言葉のシンプルさ」の意外な共通点、そして、それをどうやって日々の業務に落とし込んでいくかについて、具体的なエピソードを交えながら深掘りしていきたいと思う。

次の章では、実際に開発現場で起きた「バズワードによる大失敗事例」と、それをどうやって「Clarity」で乗り越えたか、技術的な視点も交えて話していくよ。

WPFのMVVMパターンを理解している人なら、「ああ、あれと同じことか!」と膝を打つはずだ。

準備はいいかい?

難しい辞書はもう閉じよう。

シンプルで、力強い、エンジニアのためのコミュニケーション術の旅に出かけよう。

複雑さは「バグ」である。C#のコードも会話も、シンプルさが開発速度を爆上げする理由

さて、前章では僕が「意識高い系ワード」の沼から這い上がった経緯を話した。

ここからは、もう少しエンジニアらしく、ロジカルにこの問題を解剖していこうと思う。

なぜ、我々はバズワードや難解な表現を「バグ」として扱うべきなのか。

そして、言葉をシンプルにすることが、なぜ最新のGPUを積むよりも開発速度を加速させるのか。

僕たちプログラマは、毎日コードを書く。

特に僕はC#とWPF(Windows Presentation Foundation)が主戦場だから、常に「構造」と戦っている。

実は、「良いコード」の条件と、「良いコミュニケーション」の条件は、驚くほど一致しているんだ。

コミュニケーション・スパゲッティの恐怖

みんな、「スパゲッティコード」は嫌いだよね?

goto文が飛び交い、一つのメソッドが5000行あり、変数が data1, data2, temp と名付けられ、どこで何が変更されているのか追跡不可能な、あの地獄のようなソースコードだ。

そんなコードに出会ったとき、僕たちはどう思う?

「書いたやつ、出てこい」と呪詛を吐きながら、読み解くのに3日かけ、修正に1行書き加え、そのせいで全く関係ない画面がクラッシュして絶望する。

つまり、「複雑さ」は「理解の遅延」を生み、それが「修正コストの増大」と「予期せぬエラー」を招くわけだ。

じゃあ、人間の会話はどうだろう?

「今回のスプリントでは、包括的なユーザーエクスペリエンスの向上を最優先事項とし、シームレスな統合を目指してアジャイルにイテレーションを回しましょう」

これ、典型的な「スパゲッティ・コミュニケーション」だ。

一見、綺麗に整形されているように見えるけれど、中身は data1 や temp と変わらない。

  • 「包括的な」ってどこからどこまで?(スコープ定義の欠如)
  • 「シームレスな」って、ログイン画面の話?データ同期の話?(依存関係の不明確さ)
  • 「アジャイルに」って、仕様変更を無制限に受け入れるってこと?(例外処理の欠如)

この指示を受けたチームは、スパゲッティコードを渡された時と同じ反応をする。

表向きは「了解です」と言うけれど、脳内では「で、何すりゃいいの?」とフリーズしている。

その結果、Aさんは「デザインの修正」を始め、Bさんは「DBの高速化」を始め、Cさんは「リファクタリング」を始める。

1週間後のレビューで、「全員違う方向を向いていた」ことが発覚する。

これが、僕が海外の現場で痛感した**「Communication Technical Debt(コミュニケーションの技術的負債)」**だ。

曖昧な言葉を使えば使うほど、チームの認知負荷(Cognitive Load)は上がり、負債には利子がつき、最終的にプロジェクトは破産(炎上)する。

MVVMパターンに学ぶ、責任分解の美学

WPFをやっている人なら、「MVVM(Model-View-ViewModel)パターン」はお馴染みだよね。

これを知らない人のために超ざっくり説明すると、「見た目(View)」と「ロジック(ViewModel)」と「データ(Model)」を綺麗に分けましょう、という設計思想だ。

昔のWindows開発(WinForms時代)は、ボタンを押した時の処理を、画面の裏側(Code Behind)に直接書いていた。

「ボタンAが押されたら、データベースに接続して、計算して、結果をラベルBに表示する」

これだと、画面のデザインを変えたいだけなのに、計算ロジックまで壊してしまうリスクがあった。密結合(Tightly Coupled)ってやつだ。

MVVMはこれを解決した。

「Viewは表示するだけ。計算の仕方は知らない」

「ViewModelは計算するだけ。どんな画面に表示されるかは知らない」

お互いが**「やるべきこと(責任)」を明確にし、「余計なこと(他人の仕事)」を知らない状態にする。

これを「関心の分離(Separation of Concerns)」**と言う。

実は、この「MVVMの思想」こそが、Clarity(明瞭さ)の本質なのだ。

僕は海外の現場で、この思想を会話に応用し始めた。

例えば、機能追加のミーティングにて。

プロダクトオーナーが「もっとモダンで直感的なUIにしたい」と言い出したとする。

これはMVVMで言うところの、ViewとViewModelとModelがごちゃ混ぜになったスパゲッティ発言だ。

僕はここで、脳内のコンパイラを起動して、エラーを吐く代わりにこう質問して「リファクタリング」を行う。

  1. Viewの分離(事実の確認):「『モダン』というのは、具体的に今の画面の何が問題? フォントサイズ? 色使い? それともアニメーション?」
  2. ViewModelの分離(挙動の確認):「『直感的』というのは、ユーザーのアクション数を減らしたいってこと? それともエラーメッセージをわかりやすくしたいってこと?」
  3. Modelの分離(データの確認):「それを実現するために、新しいデータが必要になる? 既存のデータのままでいい?」

こうやって分解していくと、

「実は、ユーザーが保存ボタンを見つけられずに離脱しているのが問題なんだ」

という、たった一つのシンプルな「真実(Truth)」にたどり着くことがある。

それなら、「保存ボタンを大きくして赤くする」だけで解決だ。

「モダンでシームレスなUXの刷新」なんて大掛かりなプロジェクトは必要なかった。

3ヶ月かかるところが、3分で終わる。

これが、**「明瞭さが開発速度を加速させる」**というメカニズムだ。

「Interface(インターフェース)」としての言葉

C#には Interface という機能がある。

IReadable とか IDisposable みたいに、「このクラスは何ができるか」を約束する契約書のようなものだ。

実装の中身(How)は隠蔽して、外からどう使えるか(What)だけを定義する。

僕は、エンジニアの発言も Interface であるべきだと思っている。

相手が知る必要のない「内部実装(僕たちの苦労や、マニアックな技術詳細)」は隠蔽し、相手が必要としている「公開プロパティ(結論や影響範囲)」だけを提供する。

以前、サーバーサイドのAPI変更に伴って、クライアント側(WPFアプリ)が大改修になるトラブルがあった。

状況をマネージャーに報告しなきゃいけない。

悪い例(内部実装の漏洩):

「APIのエンドポイントがRESTからgRPCに変わったせいで、HTTPClientのラッパーを全取っ替えしなきゃいけなくて、非同期処理の await のタイミングがずれる可能性があって、コンバーターの型キャストで例外が出るかもしれなくて…」

マネージャーの顔は「?」で埋め尽くされる。彼はgRPCなんて知らない。

これでは、マネージャーは「リスクの大きさ」を判断できない。

良い例(Interfaceの適用):

「サーバーの仕様変更により、アプリ側の通信部分を書き直す必要があります(What)。

作業には3日かかります(Cost)。

その間、新機能の開発はストップしますが、既存機能への影響はありません(Impact)。

承認しますか?(Action)」

これなら、マネージャーは即決できる。

「OK、3日なら許容範囲だ。やってくれ」

以上。

難しい言葉を使って相手を混乱させるのは、バグだらけのライブラリを他人に使わせるのと同じ罪だ。

逆に、複雑な内部ロジックを噛み砕き、誰でもわかるシンプルなインターフェース(言葉)で提供できるエンジニアは、まるで「ドキュメントが完璧で使いやすいライブラリ」のように重宝される。

「あいつの話はわかりやすい」

「あいつに任せれば、話が前に進む」

こう評価されるエンジニアは、技術力が高いだけじゃない。

情報の「カプセル化」と「抽象化」がうまいのだ。

これって、まさにオブジェクト指向プログラミングの基本スキルそのものじゃないか?

KISSの原則は、人生の原則

エンジニアなら一度は聞いたことがあるだろう。

KISS原則(Keep It Simple, Stupid)。

「シンプルにしておけ、この間抜け」という、愛のある(?)格言だ。

海外の優秀なエンジニアたちは、このKISS原則をコードだけでなく、会話やメール、ドキュメントにも徹底的に適用している。

彼らは知っているのだ。

「賢さ」とは、物事を複雑にすることではなく、複雑な物事をシンプルにすることだと。

僕がかつて憧れていた「難解な専門用語を使いこなすエンジニア像」は、実は実力のないエンジニアが自分を大きく見せるための虚像(ハリボテ)だった。

本当にコードが書ける奴は、言葉もシンプルだ。

なぜなら、彼らは**「本質」が見えているから、装飾語でごまかす必要がない**。

C#で言えば、LINQを使って20行のループ処理を1行で書けた時の、あの快感。

「list.Where(x => x.IsActive).ToList();」

この美しさを、コミュニケーションにも持ち込もう。

「この機能は、ユーザーのアクティブ率を上げるために必要です」

これでいい。

「シナジーを創出し、エンゲージメントのKPIをストレッチさせるための…」なんて foreach 文はいらない。

言葉をリファクタリングしよう。

贅肉を削ぎ落とし、依存関係を整理し、ネーミング(言葉の定義)を明確にする。

そうすることで、僕たちのチームは、無駄な会議や手戻りという「バグ取り」の時間から解放され、本来やるべき「創造的な開発」にフルコミットできるようになる。

でも、Clarity(明瞭さ)の効果は、単に「仕事が速くなる」だけじゃない。

もっと人間的な、深い部分にまで影響を及ぼすことに、僕は気づき始めていた。

それは、チームの「心」の話だ。

次章では、わかりやすい言葉がどのようにしてチームのメンタルヘルスを救い、燃え尽き症候群(Burnout)から僕たちを守ってくれるのか。

心理的安全性とClarityの、意外と語られていない密接な関係について話そうと思う。

その「専門用語」、実はチームのメンタルを蝕んでいませんか?燃え尽き症候群と難解さの意外な関係

さて、ここまで「わかりにくい言葉は開発効率を下げるバグだ」という話をしてきた。

「効率? そんなのどうでもいいよ、俺は自分のペースでやるから」

もし君がそう思っている一匹狼タイプのエンジニアだとしても、ここからの話はちょっと耳を傾けてほしい。

なぜなら、これは「仕事の速さ」の話ではなく、「心の健康」の話だからだ。

僕が海外の現場で見てきた中で、最も優秀なエンジニアたちが潰れていく(Burnoutする)原因。

それは、過酷な残業でも、難解なアルゴリズムの実装でもなかった。

**「わからないことを、わからないと言えない空気」**だったんだ。

「沈黙」という名の例外(Swallowed Exception)

C#でコードを書くとき、一番タチが悪いバグって何だと思う?

コンパイルエラー? いや、それはすぐ直せる。

実行時例外(Runtime Exception)? それもスタックトレースを見れば原因がわかる。

最悪なのは、**「握りつぶされた例外(Swallowed Exception)」**だ。

C#

try
{
// 何か危険な処理
}
catch (Exception ex)
{
// 何もしない(ログすら出さない)
}

これやられると、システム内部で何かが致命的に壊れているのに、表面上は正常に動いているように見える。

そして、忘れた頃にデータ整合性が崩壊して、取り返しのつかないことになる。

実は、バズワードや専門用語が飛び交う会議室では、これと同じことが起きている。

ある日のプランニング会議でのこと。

「このマイクロサービスは、イベントソーシング(Event Sourcing)で冪等性(Idempotency)を担保しつつ、サーキットブレーカー(Circuit Breaker)を導入して…」

アーキテクトが得意げに話している。

僕は周りを見渡した。

新人のA君は、虚ろな目で頷いている。

中堅のBさんは、必死にノートを取っているが、手は止まっている。

僕自身も、「イベントソーシング…? この規模で本当に必要か?」と疑問に思っていたが、口には出さなかった。

なぜなら、アーキテクトがあまりにも自信満々で、それを遮って質問するのが「空気を読まない行為」のように感じられたからだ。

この瞬間、僕たち全員が catch (Exception) { // 何もしない } を実行していたんだ。

「わからない」というアラートを、心の中で握りつぶした。

「みんなわかってるのに、自分だけわかってないとしたら恥ずかしい」

この**インポスター症候群(詐欺師症候群)**が、僕たちの口を塞いだ。

その結果どうなったか?

数週間後、A君は「何を作ればいいかわからない」という不安を抱えたまま、見当違いな実装を進めていた。

Bさんは、仕様の矛盾に気づいていたのに言い出せず、手戻りが発生した。

そしてチーム全体の空気は、「質問しても無駄だ」「失敗したら責められる」という重苦しいものに変わっていった。

脳内メモリリークを起こす「認知的負荷」

「言葉が難しい」ということは、単に意味を調べる手間がかかるだけじゃない。

「脳のメモリ(RAM)」を無駄に食いつぶすという実害がある。

僕たちエンジニアの脳内メモリは貴重だ。

複雑なクラス設計や、非同期処理のタイミング、DBのトランザクション管理…考えるべきことは山ほどある。

それなのに、「相手が言っている曖昧な言葉の解読」にリソースを割かれるとどうなるか。

「パラダイムシフトって言ってたけど、要は作り直しってことか? それとも思想の話か? もし作り直しなら工数が足りないけど、どうしよう…」

こんなバックグラウンドプロセスが常に脳内で回り続ける。

これは、WPFアプリで言えば、イベントハンドラの解除忘れによる**「メモリリーク(Memory Leak)」**と同じだ。

知らず知らずのうちに、ワーキングメモリがゴミ(不要な心配や推測)で埋め尽くされていく。

メモリが枯渇したPCはどうなる?

動作が重くなり、フリーズし、最後は強制終了するよね。

人間も同じだ。

常に「わからない言葉」の解読と「わかったふりをする演技」にエネルギーを使っていると、本来のクリエイティブな作業に使うスタミナが残らない。

そしてある日突然、プツンと切れる。それが「燃え尽き(Burnout)」だ。

僕自身、海外に来た当初、毎日ヘトヘトだったのは、英語のせいだけじゃなかった。

「曖昧な指示を、勝手に解釈して埋める」という作業に、膨大な精神力を削られていたからだ。

Clarity(明瞭さ)の欠如は、チームに対する攻撃(Attack)なのだ。

心理的安全性を作るのは「バカな質問」

Googleが実施した「プロジェクト・アリストテレス」という有名な研究がある。

「生産性の高いチームに共通する唯一の因子は何か?」

答えは、技術力でも学歴でもカリスマリーダーの存在でもなかった。

**「心理的安全性(Psychological Safety)」**だった。

「このチームなら、バカなことを言っても馬鹿にされない」

「ミスをしても責められない」

「『わからない』と言っても大丈夫」

そう思える環境こそが、最強のチームを作る。

そして、この心理的安全性のスイッチを入れる鍵こそが、「脱・バズワード」であり「Clarity」なんだ。

ある時、僕は勇気を出して、前述の「イベントソーシングおじさん」に質問してみた。

「すいません、今の話、小学生の僕にもわかるように説明してもらえませんか? なぜ今のシンプルなCRUDじゃダメで、イベントソーシングが必要なんですか?」

会議室が一瞬凍りついた気がした。

でも、その直後、隣にいた同僚が「実は俺もわからなかったんだ」と小声で言った。

アーキテクトは一瞬ムッとした顔をしたが、説明しようとして言葉に詰まった。

「ええと、それは…つまり…流行ってるし…かっこいいから…」

結局、技術的な正当な理由はなかったことが露呈した。

その瞬間、会議室の空気が一気に軽くなった。

「なんだ、わからなくてよかったんだ」

「なんだ、彼もわかってなかったんだ」

その日から、チームの雰囲気が変わった。

「ここ、意味わかんないんだけど」「これってバグじゃない?」という声が、カジュアルに飛び交うようになった。

隠蔽されていた例外(Unknows)が、早期に catch され、適切に処理(Handle)されるようになったんだ。

「Clarity is Kindness(明瞭さは優しさである)」

ビジネス書の名著『Braving the Wilderness』の著者、ブレネー・ブラウンはこう言っている。

“Clear is kind. Unclear is unkind.”(明確であることは親切だ。不明確であることは不親切だ。)

エンジニアの世界では、なぜか「難しい言葉を使うこと」が知性の証明だと思われがちだ。

でも、それは違う。

相手に「わからなかったらどうしよう」という不安を与え、「推測」という無駄な労力を強いる行為は、ただの「不親切」であり、マナー違反だ。

逆に、

「ここ(A)からデータが来て、ここで(B)計算して、ここ(C)に出す。以上!」

とシンプルに話すことは、相手の脳内メモリを節約し、不安を取り除く、最高の「おもてなし(Hospitality)」なんだ。

僕たちがC#でコードを書くとき、後任者が読みやすいようにコメントを書いたり、変数名を工夫したりするよね?

あれは「未来のチームメイトへの優しさ」だ。

会話も同じ。

バズワードを捨てて、平易な言葉を選ぶことは、チームメイトのメンタルヘルスを守るための「防御壁(Firewall)」になる。

もし君が、チームの雰囲気が悪いと感じているなら、あるいは自分自身が疲弊していると感じているなら、

原因は君のスキル不足でも、タスクの量でもないかもしれない。

チーム全体を覆う「不明瞭さ(Lack of Clarity)」という霧が、酸素を奪っているだけかもしれない。

だからこそ、僕たちは「言葉」を変えなきゃいけない。

たかが言葉、されど言葉。

明瞭な言葉は、チームの心を救う。

さて、ここまで読んでくれた君なら、もう「バズワードを使うかっこいい自分」への未練はなくなったはずだ。

むしろ、「わかりやすさこそ正義」というマインドセット(おっと、これも横文字か。「考え方」だね)ができていると思う。

じゃあ、具体的に明日からどうすればいい?

「わかりやすく話せ」と言われても、長年染み付いた癖はなかなか抜けないし、周りがバズワード連発の環境なら、どう立ち回ればいいのか。

最後の章となる【結】では、僕が実践している**「明日から使える、Clarity強制ギブスとしての具体的アクションプラン」**を紹介する。

これは、英語が苦手な日本人エンジニアが、海外の現場で主導権を握るための裏技(Cheat Code)でもある。

Visual Studioの設定を変えるくらい簡単に、君のコミュニケーションを劇的に変える方法を持ち帰ってほしい。

明日から使える「脱・横文字」メソッド。世界で戦うエンジニアのためのClarity実践ガイド

ここまで付き合ってくれてありがとう。

長々と語ってきたけれど、結論はシンプルだ。

「カッコつけるな、わかりやすくあれ。」

これに尽きる。

でも、言うは易し行うは難し(Easier said than done)。

明日いきなりオフィスに行って、染み付いた習慣を変えるのは難しい。

そこで、僕が海外の現場でサバイブするために開発した、「コミュニケーション・リファクタリング」のための4つのメソッドを伝授しよう。

これは、英語が苦手な日本人エンジニアが、ネイティブと対等以上に渡り合うための「裏技(Cheat Code)」でもある。

Visual Studioの拡張機能を入れる感覚で、君のスキルセットにインストールしてみてほしい。

メソッド1:脳内コンパイラに「ELI5属性」をつける

Redditなどの海外掲示板で人気のタグに**「ELI5 (Explain Like I’m 5)」**というものがある。

「5歳児にもわかるように説明して」という意味だ。

僕は、発言する前に必ず、脳内でこの「ELI5チェック」を実行している。

自分がこれから言おうとしていることは、5歳の子供(あるいは、IT知識ゼロのおばあちゃん)に通じるだろうか?

  • Before: 「このコンポーネントは、非同期処理の競合によりデッドロックを引き起こす可能性があります」
  • Compile Error! (「競合」「デッドロック」が5歳児には不明)
  • Refactoring: 「AとBが同時にこのおもちゃを使おうとすると、喧嘩して動かなくなっちゃうよ」↓After (Business): 「2つの処理が同時に走ると、システムが止まります」

この変換プロセスを挟むだけで、英語の難易度が劇的に下がる。

難しい単語(Deadlock, Race Condition)を知らなくても、stop や fight みたいな中学英語で表現できるようになるんだ。

結果として、英語ネイティブにもノンネイティブにも、100%伝わる最強の英語になる。

あのアインシュタインも言っている。

**「6歳の子供に説明できなければ、君はそれを理解していない」**と。

僕たちが難解な言葉を使いたくなる時は、たいてい、僕たち自身がその仕様をよくわかっていない時だ。

ELI5は、自分の理解度をテストする単語テスト(Unit Test)でもあるんだ。

メソッド2:WPFエンジニアなら「XAML(見た目)」で語れ

僕たちWPFエンジニアは、XAML(ザムル)という言語でUIを定義する。

コードでダラダラ書くよりも、タグ構造を見たほうが画面のイメージが湧くからだ。

人間との会話も同じだ。言葉(C#)より、図(XAML)の方が圧倒的に帯域幅(Bandwidth)が広い。

海外のミーティングでは、僕は隙あらばホワイトボードのペンを奪い取るようにしている。

「口で説明するより、書くね(Let me draw it.)」

この一言は魔法だ。

例えば、複雑なデータの流れを議論している時。

「APIからJSONが来て、それをDeserializerが…」と口で言う前に、四角と矢印を書く。

下手くそでいい。棒人間でいい。

図を書くと、不思議なことが起きる。

「あれ? この矢印、どこにも繋がってないぞ?」

「この箱、役割が重複してない?」

言葉だけで話していた時には見えなかった「論理のバグ」が、視覚化することで一発で露呈するんだ。

言葉が通じないなら、絵を描けばいい。

これは、語学力のハンデを埋めるどころか、チーム全体の共通認識(Context)を爆速で作るリーダーシップの発揮になる。

ホワイトボードの前を陣取る者が、会議を制する。 これはガチだ。

メソッド3:「わからない」を「バグ報告」として扱う

これが一番重要で、一番勇気がいることだ。

会議中、誰かが理解不能なバズワードを使った時、あるいは話の文脈が見えなくなった時。

愛想笑いでやり過ごしてはいけない。

それは**「バグを見つけたのに見なかったことにする」**のと同じだからだ。

僕はこう言うようにしている。

「ごめん、ちょっと待って(Wait a sec)。

僕の理解が正しいか確認させて(Let me double check)。

君が言っているのは、Aという意味? それともBという意味?」

ポイントは、「自分が馬鹿だからわからない」というスタンスを取らないことだ。

あくまでエンジニアとして、**「仕様の曖昧性を排除するための確認作業(Clarification)」**として質問する。

「定義が曖昧だと、後で実装ミスに繋がるから、今クリアにしておきたいんだ」

というオーラを出せば、誰も「そんなこともわからないのか」なんて思わない。

むしろ「リスク管理がしっかりしているエンジニアだ」と評価される。

そして前述の通り、君が「わからない」と手を挙げると、周りの3人くらいが心の中で「聞いてくれてありがとう!」と感謝しているものだ。

君は、チームのために「炭鉱のカナリア」になるべきだ。

メソッド4:バズワード禁止ゲーム(The No-Buzzword Policy)

もし君がチームリーダーやシニアな立場なら、チームのルールとして「バズワード禁止」を提案してみよう。

僕のチームでは、デイリースクラム(朝会)で、誰かが意味不明な横文字を使うと、「それどういう意味?」と突っ込まれる文化がある。

「アジャイルに行こう」→ 警告音(Buzzer)!

「修正:2週間ごとのリリースサイクルを守ろう」→ OK!

これをゲーム感覚でやると面白い。

言葉が具体的になればなるほど、タスク(Todo)が明確になり、チケットの消化率が上がる。

生産性が上がれば、みんな早く帰れる。

Clarityは、ワークライフバランスを実現する最高のツールなのだ。

日本のエンジニアへ:君の英語は「武器」だ

最後に、これから海外を目指す、あるいは今苦戦している日本のエンジニアに伝えたい。

僕たちはよく「英語ができない」と卑下する。

ネイティブのように流暢に、気の利いたイディオムを話せないと悩む。

でも、ここまで読んだ君ならわかるはずだ。

流暢である必要なんて、これっぽっちもない。

むしろ、僕たちの「たどたどしい、教科書通りのシンプルな英語」こそが、

複雑怪奇なグローバル開発の現場において、一服の清涼剤になるんだ。

ネイティブがスラングまみれの早口でまくし立てて混乱している横で、

君がゆっくりと、SVO(主語・動詞・目的語)だけのシンプルな英語で、

「The problem is A. We should do B.」

と発言する。

その言葉は、驚くほど重く、鋭く、みんなの心に刺さる。

Simple is Strong.

Clear is Power.

君が持っている技術力(C#やWPFのスキル)は、言語の壁なんて簡単に超える。

そこに「Clarity(明瞭さ)」というインターフェースを実装すれば、君はもう無敵だ。

さあ、明日からの仕事。

Visual Studioを開く前に、少しだけ意識を変えてみよう。

カッコいい言葉を捨てて、泥臭く、シンプルに、子供でもわかる言葉で語りかけよう。

その先には、バグのないコードと、ストレスのないチームと、

そして何より、「エンジニアとして働くのが楽しい」と思える毎日が待っているはずだから。

現場からは以上です。

Happy Coding!

コメント

タイトルとURLをコピーしました