予測不能な一日をハックする「非・常識」なウォーミングアップ
どうも、海外の片隅でC#と格闘しているエンジニアです。
突然ですが、皆さんは毎朝どうやって起きていますか?
「優雅にコーヒーを淹れて、日経新聞(あるいは現地のニュースサイト)に目を通し、ヨガをしてから出社」……なんて、キラキラした海外就職ライフを想像しているなら、今すぐそのブラウザのタブを閉じてください。いや、嘘です。閉じないで。でも、現実はもっと泥臭い。
特にここ海外の現場において、僕ら外国人エンジニアに求められるのは「即戦力」以上の「即・解決力」です。WPFの複雑怪奇なXAMLのバインディングエラーと戦い、言葉の壁を超えて仕様変更の嵐に耐え、現地の同僚と渡り合う。そんな毎日において、朝の時間は「優雅なひととき」ではなく、「戦闘準備(セットアップ)」の時間なんですよ。
今日は、そんな僕が編み出した、ちょっと(いや、かなり)変わった朝の習慣についてお話しします。正直、人に見られたら「あいつ大丈夫か?」と思われるかもしれない。でも、これが僕のパフォーマンスを支えている秘密兵器なんです。これから海外を目指すエンジニアの方、あるいは今まさに異国の地で戦っている同志たちへ。技術書には載っていない、でも確実に人生の「生存率」を上げるライフハックを共有させてください。
海外エンジニアの朝は「デバッグ」から始まらない
まず前提として、海外で働くというのは、毎日が「未知の例外(Exception)」との遭遇です。
日本にいた頃は、ある程度の「空気」や「暗黙の了解」という名のtry-catchブロックが機能していました。でも、こっちは違います。文化も言語も違う同僚たちは、僕が想定もしないパラメータを投げてくるし、仕様書は常にnullable(null許容)です。
そんな環境で、寝ぼけた頭のままPCの前に座り、いきなりVisual Studioを立ち上げてはいけません。それは、初期化されていない変数を参照しにいくようなもの。NullReferenceExceptionで即死します。
だからこそ、僕は毎朝、独自の「初期化プロセス」を実行しています。それが、一見すると奇行に見えるかもしれない、以下の3つの秘密兵器です。
- The “Anti-Snooze Sprint”(アンチ・スヌーズ・スプリント)
- The “Comfort Food, Comfort Mindset” Rule(コンフォート・フードの鉄則)
- The “Outfit Oracle”(服装の神託)
これらは単なるルーティンではありません。自分の脳と身体を、その日のタスクの難易度に合わせて最適化するための「コンフィグ設定」なのです。
1. The “Anti-Snooze Sprint”: なぜ僕はキッチンへ全力疾走するのか
一つ目のフック、「アンチ・スヌーズ・スプリント」。
文字通りです。アラームが鳴った瞬間、スヌーズボタンを押す代わりに、僕はベッドから弾かれたように飛び起き、キッチンまで全力疾走します。
「心臓に悪いだろ」と思いました? その通りです。でも、これには深い理由があります。
海外での生活、特に一人でエンジニアとして働いていると、朝一番に襲ってくるのは「不安」です。「今日のミーティング、英語でうまく説明できるかな」「昨日のバグ、本当に直ってるかな」「レガシーコードの改修、終わるかな」。布団の中でうだうだしていると、このネガティブな思考ループ(無限ループ)が始まってしまうんです。
これを強制終了(Kill Process)するには、物理的な衝撃が必要です。
脳が「不安」を感じる暇もないほどの速さで身体を動かす。ベッドからキッチンまでの数メートル、この短距離走が僕の脳内のドーパミンとアドレナリンを強制的に分泌させます。これは生産性ハックなんて生易しいものではありません。**「思考の強制リセット」**です。
キッチンに着いて、息を切らしながら水を一杯飲む。この瞬間、僕の脳は「仕事モード」でも「不安モード」でもなく、「生存モード」に切り替わります。この原始的な覚醒状態こそが、複雑なロジックを組み立てる前の真っ白なキャンバスとして最適な状態なんです。詳しくは次の章で語りますが、この「物理的なキックスタート」がないと、僕は一日中、頭の片隅でコンパイルエラーを起こしたまま過ごすことになります。
2. The “Comfort Food, Comfort Mindset” Rule: 朝食がその日の「気分」を支配する
二つ目は、「コンフォート・フード、コンフォート・マインドセット」。
これは栄養バランスの話ではありません。「何が食べたいか」ではなく、**「今日、どんな精神状態でいたいか」**によって朝食を選ぶというルールです。
例えば、今日は重たいアーキテクチャの設計見直しがあるとします。チームメンバーとの激しい議論が予想される。そんな時に、ヘルシーなサラダやスムージーなんて飲んでいられません。僕が選ぶのは、現地の脂っこいベーコンエッグ、あるいはジャンクなトーストです。「自分はこれだけ重いものを消化できるんだから、あのタフなミーティングも消化できる」という自己暗示をかけるんです。
逆に、ひたすら一人でコーディングに没頭したい日、繊細なバグフィックスが求められる日は、日本から取り寄せた出汁を使ったお粥や、シンプルなトーストを選びます。胃への負担を減らし、脳のリソースを全て論理的思考に回すためです。
多くの人は「健康のために」朝食を選びますが、海外で戦うエンジニアにとっては「メンタルの防具」として食事を選ぶ視点が必要です。僕にとっての朝食は、RPGで言うところの「バフ(ステータス上昇効果)」アイテムを選ぶ作業そのものなのです。この選択を間違えると、午前中のパフォーマンスが著しく低下することに、僕は長い海外生活の中で気づきました。
3. The “Outfit Oracle”: 服選びはファッションではなく「予報」である
そして最後、三つ目が「アウトフィット・オラクル(服装の神託)」。
スティーブ・ジョブズのように毎日同じ服を着て「決断の回数を減らす」というライフハック、有名ですよね。エンジニア界隈では特に人気があります。
でも、僕はあえてそれに逆らいます。なぜなら、僕の服選びはファッションではなく、**「今日の仕事の難易度予測(フォーキャスト)」**だからです。
朝、クローゼットの前に立った時、自分の手が無意識に何を選ぼうとしているか。これを観察するんです。
もし、着心地の良い、少しヨレっとしたパーカーを選ぼうとしているなら、それは本能が「今日は防御力を高めたい」「誰とも話さずシェルに引きこもりたい」と叫んでいる証拠です。その日は間違いなく、精神的にタフな一日になります。
逆に、襟付きのシャツや、少しカチッとしたジャケットに手が伸びる時は、「今日は攻める日だ」「プレゼンで勝てる自信がある」というサインです。
つまり、服を選ぶという行為を通じて、僕は無意識下の自分のコンディションと、今日待ち受けているプロジェクトのリスクレベルをモニタリングしているのです。「今日はパーカーの日か……よし、じゃあカレンダーの空き時間を全部ブロックして、集中時間を確保しよう」。そうやって、服装から逆算してその日のスケジュールや立ち回りを調整する。これが「オラクル(神託)」と呼ぶ理由です。
ここまで読んで、「なんだ、ただの変人の習慣じゃないか」と思ったかもしれません。
でも、よく考えてみてください。私たちエンジニアは、システムを構築する際、必ず「初期化処理(Initialize)」を慎重に設計しますよね? 変な値が入ったままシステムが稼働し始めれば、必ずどこかで致命的なエラーを吐きます。
人間も同じです。特に、言語や文化の壁という高負荷がかかる海外環境では、デフォルトのコンストラクタ(ただ起きるだけ)では不十分なんです。意図的にパラメータを渡し、依存関係を注入(Dependency Injection)し、例外処理を仕込んでから一日をスタートさせる。
僕にとっての「スプリント」「朝食」「服選び」は、まさにこの**「自分というOSの初期化コード」**なのです。
これから続く章では、これらの奇妙な習慣が具体的にどう仕事の成果——コードの品質、チームとのコミュニケーション、そしてエンジニアとしてのキャリア——に結びついているのか、失敗談を交えながら詳しく解説していきます。「ただの習慣」が「最強の武器」に変わるロジックを、ぜひ持ち帰ってください。
脳のコンパイラを強制起動する「アンチ・スヌーズ」と「食の精神安定剤」
【起】では、僕の奇妙な朝の儀式、「スプリント」「食事」「服選び」の概要をお話ししました。
「こいつ、頭がおかしくなったんじゃないか?」と思われた方もいるでしょう。ええ、否定はしません。でも、異国の地で、言語の壁という巨大なファイヤーウォールに囲まれながら、C#のコードと格闘する日々を送っていると、普通の「丁寧な暮らし」では太刀打ちできない瞬間が必ず訪れるのです。
ここからは、最初の二つの武器、「アンチ・スヌーズ・スプリント」と「食の精神安定剤」が、具体的にどう僕のエンジニアとしてのパフォーマンス(そして精神衛生)を支えているのか。そのロジックをコードレビュー並みに詳細に解説していきます。
1. The “Anti-Snooze Sprint”: 物理的な衝撃で「英語の恐怖」を吹き飛ばす
まず、朝一番の全力疾走、「アンチ・スヌーズ・スプリント」についてです。
なぜ、わざわざ寝起きに心拍数を上げる必要があるのか。それは、海外で働くエンジニア特有の**「起床直後の絶望感(Morning Dread)」**をバグ修正するためです。
日本で働いていた頃、朝の憂鬱といえば「満員電車」でした。でも、海外では違います。目が覚めた瞬間に脳裏をよぎるのは、「今日のデイリースクラムで、昨日の進捗遅れを英語でどう言い訳しようか」「あのインド人エンジニアの早口英語を聞き取れるだろうか」「仕様書のあのニュアンス、本当に理解できているのか」という、言語とコミュニケーションに対する強烈なプレッシャーです。
布団の中でこの「思考の無限ループ」に入ってしまうと、もう終わりです。脳のメモリは「不安」という名のガベージデータで埋め尽くされ、肝心の技術的な思考領域(ヒープ領域)が圧迫されます。これを解消するには、論理的な自己説得では不可能です。もっと低レベルな、ハードウェアレベルの割り込み処理が必要です。
それが「スプリント」です。
アラームが鳴る。思考する前に身体を跳ね起こす。廊下を蹴ってキッチンへ走る。
この数秒間、脳は「不安」を感じる余裕がありません。「走る」という高負荷なプロセスにCPUリソースを全振りするからです。そしてキッチンに到達し、水を一気飲みして呼吸を整えている時、不思議な現象が起きます。
「……あれ、なんか今日、いける気がする」
心拍数が上がり、血液が全身に巡ることで、強制的に「戦闘モード」がオンになります。生物としての生存本能が刺激され、細かい英語の悩みや、WPFのDataGridの表示崩れといった問題が、「些細な敵」に見えてくるのです。
PCで言えば、スリープからの復帰(Resume)ではなく、電源コードを引っこ抜いて再度差し込む**「コールドブート(Cold Boot)」**に近い感覚です。メモリ上の不要なキャッシュ(昨日の悩み)がクリアされ、クリーンな状態でOSが立ち上がる。
海外の現場では、朝イチから容赦なくタフな要求が飛んできます。この「物理的な強制起動」をしておかないと、僕は午前中いっぱい、低電圧のままバグと戦う羽目になります。だから、僕は走り続けるのです。隣人が「またあのアジア人が朝からドタバタしている」と思っていたとしても。
2. The “Comfort Food, Comfort Mindset” Rule: 胃袋をマネジメントせよ
スプリントでOSを起動したら、次はアプリケーションの実行環境を整えるフェーズです。ここで登場するのが、「コンフォート・フード、コンフォート・マインドセット」というルールです。
多くのエンジニアは、食事を「燃料補給」としか捉えていません。「時間がないからシリアルでいいや」「健康のためにスムージー」など。しかし、僕の持論は違います。**朝食は「今日のタスクに対する依存性注入(Dependency Injection)」**です。
僕の朝食選びには、明確な条件分岐(if-else)が存在します。
ケースA:対人戦闘モード(The Tank)
- トリガー: 要求定義のミーティング、給与交渉、あるいは仕様変更を認めない頑固なPMとの対決がある日。
- 選択する食事: 「重くて、脂っこい、現地のソウルフード」(例:ベーコンエッグ、ハッシュブラウン、厚切りのパンケーキ)
- ロジック: 精神的なタフさが求められる時、空腹や「なんとなくヘルシー」な状態は防御力を下げます。胃に重たいものを入れることで、生物としての「満たされている感」と「重厚感」を得ます。「これだけのカロリーを摂取したんだ、俺は強い」という、根拠のない、しかし強力な自信(バフ)を自分にかけるのです。血糖値スパイク? 気にしません。まずは相手の英語のマシンガントークに押し負けない「質量」を確保することが最優先です。
ケースB:深海潜水モード(The Diver)
- トリガー: 複雑な非同期処理の実装、メモリリークの調査、あるいは誰とも話さずひたすらリファクタリングに没頭する日。
- 選択する食事: 「消化に良く、血糖値が安定する軽食」(例:オートミール、フルーツヨーグルト、和風のお粥)
- ロジック: こちらは逆に、胃腸への血流を極限まで減らし、全てのリソースを脳の前頭葉に回す戦略です。脂っこい食事は消化にエネルギーを使うため、食後に強烈な眠気(スリープモード)を招きます。C#の重たい処理を書いている時に眠気が来るのは致命的です。変数名のスペルミスや、論理演算子の反転など、ケアレスミスの温床になります。以前、複雑なMVVMパターンの設計をする日に、気合を入れるつもりで巨大なハンバーガーをランチに食べてしまい、午後の生産性がnullになった経験があります。あれは痛恨の極みでした。思考の深さを必要とする日は、身体を軽く保つ。これが鉄則です。
エンジニアリングとは、リソース管理である
こうして見ると、僕のやっていることは「変な習慣」ですが、本質的には**「リソースマネジメント」**そのものであることに気づくはずです。
サーバーの負荷に合わせてスケールアウトするように、あるいはメモリ使用量を監視してガベージコレクションを意識するように、自分自身の「肉体」と「メンタル」というハードウェアのリソースを、その日のタスクの性質に合わせて最適化しているのです。
特に海外では、日本のように「なんとなく空気を読んで誰かが助けてくれる」ことはありません。自分の機嫌は自分で取り、自分のパフォーマンスは自分でチューニングしなければならない。
スプリントで恐怖を殺し、食事で集中力のパラメータを調整する。この一連のフローを経ることで、初めて僕は「ただの英語が苦手な外国人」から、「プロフェッショナルなエンジニア」へと変身(ビルド)できるのです。
しかし、準備はこれだけでは終わりません。
身体と脳が整いました。次に必要なのは、外部——つまり、同僚やクライアントといった「他者」に対して、どういうインターフェースを公開するかという問題です。
そこで登場するのが、僕の第三の武器、**「Outfit Oracle(服装の神託)」**です。これは単なるファッションの話ではありません。バグ予測とリスク管理の集大成なのです。
「服」はファッションではない、その日のバグ予測だ——Outfit Oracleの真髄
ここまで、朝の全力疾走でOSを強制起動し、戦略的な朝食でシステムリソース(胃袋と脳)を最適化する方法について語ってきました。
これで体内環境(バックエンド)のセットアップは完了です。しかし、私たち海外エンジニアにはもう一つ、避けては通れない重要なレイヤーが存在します。
それは、「フロントエンド」、つまり「自分という人間が、他者の目にどう映るか」というUI(ユーザーインターフェース)の問題です。
ここで登場するのが、僕の第三の秘密兵器、**「Outfit Oracle(服装の神託)」**です。
「エンジニアなんだから、服なんてTシャツとパーカーでいいだろ?」
「スティーブ・ジョブズを見習って、毎日同じ服を着れば決断コストが減るんじゃないの?」
そんな声が聞こえてきそうです。確かに、シリコンバレー神話においては「ミニマリズム」こそが正義かもしれません。しかし、待ってください。ここは戦場です。異国の地で、言語のハンデを背負いながら働く現場において、「毎日同じ服」でいることは、**「状況に応じた適切なインターフェースを実装することを放棄する」**に等しいと僕は考えています。
僕にとっての服選びは、ファッションではありません。それは、その日の仕事の難易度を占う「予報(Forecast)」であり、同時にこれから発生するであろうトラブルに対する「例外処理(Exception Handling)」の準備なのです。
無意識のセンサーを読み解く:クローゼット前のデバッグ作業
朝、クローゼットの前に立った時、僕は頭で考えるのをやめます。ただ、手が自然とどの服に伸びるかを観察します。この「無意識の選択」こそが、論理的思考よりも早く、その日の危険度を察知しているからです。
人間の直感(Intuition)は、過去の膨大な経験データベースから瞬時にパターンマッチングを行う、高度なAIのようなものです。カレンダー上の予定やToDoリストを見るよりも先に、身体が「今日の気配」を感じ取っています。
僕の観測データによると、主に以下の3つのパターン(予報)が存在します。
パターン1:ヨレたパーカーに手が伸びる時=「防御力最大化モード」
もし僕の手が、着古したグレーのパーカーや、あえて少し大きめのスウェットを選ぼうとしていたら、それは**「警報」**です。
- Oracle(神託)の解釈:「今日は、誰とも話したくない。外部からの干渉を遮断したい。深く潜る必要がある」これは、潜在意識が「今日は厄介なレガシーコードの沼にハマるぞ」とか「解決困難なバグに一日中悩まされるぞ」と予知している証拠です。あるいは、昨日のコードレビューでボコボコにされたダメージが回復していないのかもしれません。
- アクションプラン:この予報が出たら、僕は即座にスケジュールを調整します。可能な限りミーティングを辞退し、Slackのステータスを「Focusing」に変更。ノイズキャンセリングヘッドホンを装備リストに加え、物理的にも精神的にも「殻」に閉じこもる準備をします。この日に無理をして襟付きのシャツなんて着てはいけません。窮屈な服はストレス値を上げ、デバッグの効率を落とします。パーカーのフードは、周囲の視線を遮り、自分の世界(IDEの中)に没入するための「シールド」として機能するのです。
パターン2:カチッとしたジャケット・シャツを選ぶ時=「攻撃・外交モード」
逆に、普段はあまり着ないジャケットや、パリッとしたシャツに手が伸びる日があります。
- Oracle(神託)の解釈:「今日は戦える。俺の話を聞け。仕様変更は通さない」これは、自分の中に「自信」や「主張したいこと」があるサインです。あるいは、無意識が「今日はPM(プロジェクトマネージャー)とバトルになる」と予期しており、そのために「鎧」を欲している状態です。
- アクションプラン:この日は「攻め」の日です。WPFのアーキテクチャ変更の提案や、給与交渉、あるいは英語でのプレゼンテーションなど、対人コミュニケーションの負荷が高いタスクをこの日にぶつけます。海外の現場では、見た目の印象が発言力に直結することが往々にしてあります。特に我々アジア人は、どうしても「若く(幼く)」見られがちです。舐められたら負けの交渉テーブルにおいて、ジャケット一枚が「Senior Engineerとしての威厳」というメタデータを付与してくれるのです。服を、自分を大きく見せるための「拡張グラフィック」として利用するわけです。
パターン3:お気に入りのバンドTシャツを選ぶ時=「クリエイティブ・フロー・モード」
中立の状態です。好きなロックバンドのTシャツや、遊び心のあるプリントTシャツを選びたい時。
- Oracle(神託)の解釈:「今日は自由だ。新しい機能の実装や、UIデザインの調整を楽しみたい」精神的なプレッシャーが少なく、純粋にものづくりを楽しめる状態です。
- アクションプラン:この日は、新しいライブラリの検証や、UIのアニメーション実装など、創造性が求められるタスクに最適です。重苦しいバグ修正は後回しにして、クリエイティブな波に乗るべきです。
「ジョブズ・スタイル」が海外エンジニアに通用しない理由
なぜ僕がここまで服選びにこだわるのか。それは、かつて「ジョブズ・スタイル」を真似して失敗した苦い経験があるからです。
渡航して間もない頃、僕は「エンジニアたるもの、コードで語るべき」と信じ、毎日同じ黒のタートルネックとジーンズで出社していました。
ある日、致命的な本番障害が発生し、緊急ミーティングが開かれました。僕は技術的な原因と解決策を完璧に把握していました。しかし、パニックに陥った現地のマネジメント層は、僕の説明を遮り、声の大きい別のエンジニア(中身のない提案をしていた)の意見を採用しかけたのです。
その時、僕は気づきました。
言葉の壁がある以上、「視覚情報」という非言語コミュニケーションの帯域幅をもっと活用しなければならないと。
あの時、もし僕がもっと「頼りになりそうな(=Authorityのある)」服装をしていれば、あるいはパーカーのフードを被って「今は話しかけるな、俺が直すから」というオーラを全開にしてPCに向かっていれば、結果は違っていたかもしれない。
毎日同じ服を着るということは、この「ノンバーバルな信号(シグナル)」を常に固定値(Constant)にしてしまうということです。変化の激しい海外の現場において、それはあまりにも柔軟性を欠いた戦略でした。
公開アクセシビリティの設定:public か private か
C#のコードで例えるなら、服選びは自分のクラス(Class)のアクセシビリティ・レベルを設定する行為です。
- パーカーの日: private または internal。(外部からのアクセスを制限し、内部ロジックの処理に集中する)
- ジャケットの日: public。(外部公開APIとして機能し、他クラスとの連携やメッセージの送受信を積極的に行う)
「Outfit Oracle」は、今日の自分が public モードでいくべきか、private モードでいくべきかを、朝一番に教えてくれるのです。
自分の意思で選んでいるようで、実は身体が「今日の現場の空気」と「自分のメンタルHP」を計算し、最適な解を出力してくれている。だから、僕はその神託に従います。
「今日は大事な会議があるからスーツを着よう」と頭で考えるのではありません。
「スーツを着たいと思ったから、今日は会議で勝てる日だ」と解釈するのです。因果関係が逆なんです。
この直感に従うようになってから、不思議と「今日はダメな日だ」と落ち込むことが減りました。なぜなら、ダメな日(パーカーの日)は、最初から「ダメな日用の立ち回り」ができるからです。無理に明るく振る舞う必要も、無理に発言する必要もない。「今日はそういう設定の日だから」と割り切れる。
これが、予測不能な海外エンジニア生活を生き抜くための、僕の最大の防御策です。
さて、ここまで3つの「奇妙な習慣」を紹介してきました。
スプリントで起動し、食事でリソースを割り当て、服でアクセシビリティを設定する。
これらは全て、僕が僕自身の「操縦士」として、パフォーマンスを最大化するために編み出したシステムです。
しかし、これを読んで「なるほど、じゃあ明日から走って、ベーコン食べて、服を選ぼう」と思ったあなた。
ちょっと待ってください。
エンジニアなら分かるはずです。他人の環境(Environment)で動いていたコードを、そのまま自分の環境(Local)にコピペしても、絶対動きませんよね? 環境変数が違うし、依存関係も違うからです。
最後の章【結】では、これらの習慣をどうやって「あなた自身の環境」に合わせてリファクタリングし、あなただけの「生存戦略」としてビルドするか。その具体的な実装手順をお伝えして、このブログを締めくくりたいと思います。
明日から使える「自分だけの秘密兵器」の実装方法
ここまで、海外で働く一人のC#エンジニア(僕)が、日々の荒波を乗りこなすために開発した「3つの秘密兵器」——スプリント、ジャンクフード、服装予報——について、恥を忍んで公開してきました。
読み終えて、「よし、明日から自分も寝起きダッシュを決めて、朝からベーコンを食らい、パーカーで出社しよう!」と思った奇特な方。
いますぐ Ctrl + Z (取り消し)を押してください。
前章の最後でも触れましたが、エンジニアにとって最も愚かな行為の一つは、「Stack Overflowのコードを、意味も理解せず自分のプロジェクトにコピペすること」です。
僕の環境(Environment)で動作したコードが、あなたの環境で動く保証はどこにもありません。あなたは僕ほど脂っこい食事に耐性がないかもしれないし、走るのが大嫌いかもしれない。無理に真似をすれば、逆にシステムダウン(体調不良)を引き起こすだけです。
この最終章では、僕の事例を参考にしつつ、あなた自身の環境変数に合わせた「最強の生存戦略」をどう設計・実装(Implement)するか、その具体的なロードマップを提示します。
これは単なるライフハックの紹介ではありません。海外という過酷な本番環境で、あなたというシステムを安定稼働させ続けるための「運用保守マニュアル」の作成ガイドです。
1. 現状分析:自分の「スタックトレース」をログ出力せよ
まずやるべきは、新しい習慣を始めることではありません。バグの特定です。
海外で働いていて、「今日はダメだったな」「なんか調子が出ないな」と感じる日があるはずです。その時、ただ落ち込むのではなく、エンジニアらしくデバッグを行ってください。エラーログを吐き出すのです。
- どのタイミングで例外(Exception)が発生したか?
- 朝起きた瞬間から既に憂鬱(Memory Leak)だったのか?
- 英語のミーティング直前にフリーズ(Deadlock)したのか?
- 午後3時ごろに集中力が切れてタイムアウト(Timeout)したのか?
僕の場合、最大のボトルネックは「起床直後の不安感」と「自信のなさ」でした。だからこそ、それを物理的に叩き潰す「スプリント」と、虚勢を張るための「服装」が必要だったのです。
あなたにとってのボトルネックは何ですか?
もし「孤独感」がエラーの原因なら、朝のルーティンに必要なのはダッシュではなく、「日本の友人にLINEを一通送る(Keep-Alive信号)」ことかもしれません。
もし「脳の糖分不足」が原因なら、必要なのはベーコンではなく、「極甘のチョコレート」かもしれません。
自分の弱点、エラー発生源を特定せずして、正しいパッチ(修正プログラム)は当たりません。まずは自分自身をモニタリングし、スタックトレースを追うことから始めてください。
2. 実装と単体テスト:小さなパッチを当てて「Unit Test」を繰り返す
バグの箇所が特定できたら、次は解決策の実装です。
ここで大事なのは、**「アジャイル開発」**の精神です。いきなり完璧なルーティン(ウォーターフォール型)を作ろうとしてはいけません。小さく試して、ダメならすぐ捨てる。
僕の「アンチ・スヌーズ・スプリント」も、最初から完成していたわけではありません。最初は「冷たいシャワーを浴びる」を試しました。結果、寒すぎて風邪をひきかけました(テスト失敗)。次に「大音量のヘビメタを聴く」を試しました。隣人から苦情が来ました(デプロイ失敗)。
そうして試行錯誤(トライ&エラー)を繰り返した結果、「誰にも迷惑をかけず、かつ最も目が覚める」方法として、キッチンへのダッシュという解に辿り着いたのです。
あなたも、明日から小さな「ユニットテスト」を始めてみてください。
- テストケースA: 朝、コーヒーではなく白湯を飲んでみる。→ 期待値: 胃腸が温まり、午前中の集中力が上がるか?
- テストケースB: 出社前に、鏡の前で英語で「I am the best engineer」と3回唱える。→ 期待値: 自己肯定感のパラメータが上昇し、発言数が増えるか?
- テストケースC: キーボードを打つ前に、必ずハンドクリームを塗る儀式を入れる。→ 期待値: 香りによるスイッチング効果で、スムーズに作業に入れるか?
バカバカしいと思うことでも、とりあえず実行(Run)してみる。そして、その日の終わりのパフォーマンス(戻り値)を確認する。
効果があれば採用(Merge)。なければ破棄(Revert)。
この地味なコミットの積み重ねだけが、あなただけの最強のルーティンを作り上げます。
3. 定着化:自分というシステムの「仕様(Spec)」を書き換える
こうして見つけた「自分だけの勝ちパターン」は、やがて習慣という名の**「自動化スクリプト(Cron Job)」**になります。
意識しなくても、朝起きたら勝手に体が動く。特定の状況になったら、無意識に対策行動をとっている。ここまで来れば、あなたはもう「海外生活に翻弄される弱いエンジニア」ではありません。環境に合わせて最適化された、強固なアーキテクチャを持つプロフェッショナルです。
日本にいた頃、私たちは「日本語」「阿吽の呼吸」「整ったインフラ」という強力なライブラリ(Framework)に守られていました。だから、デフォルト設定のままでもなんとか動いていました。
しかし、海外ではそのフレームワークは使えません。だからこそ、私たちは自分自身で、自分のための新しいフレームワーク——つまり「生存のための儀式」をスクラッチで書く必要があるのです。
「スプリント」も「コンフォート・フード」も「服装予報」も、僕が僕のために書いた、僕を守るための独自ライブラリです。
それは他人から見れば奇妙なスパゲッティコードに見えるかもしれません。でも、本番環境(海外の現場)でバグを出さずに動いているなら、それは「正義」のコードなんです。
最後に:クソコードでも動けばいい。生き残れ。
最後に、これから海外を目指す方、そして今まさに戦っている同志へ。
C# WPFの世界では、MVVMパターンだの、依存性の注入だの、綺麗な設計が尊ばれます。しかし、人生というプロジェクト、特に海外生活においては、「綺麗であること」よりも「動くこと(Works on my machine)」の方が100倍重要です。
どんなに格好悪くても、どんなに周りに変だと思われても、あなたがその日一日を笑顔で終えられ、良いコードを書き、チームに貢献できたのなら、あなたのルーティンは正しい。
僕の「朝の全力疾走」を笑ってください。
そして、あなただけの「変な習慣」を見つけてください。
それこそが、言語も文化も違うアウェイの地で、自分という個(Identity)を保ち続けるための、唯一のアンカーになるはずです。
さて、明日の朝の予報は……どうやら「パーカー」のようです。
明日は誰とも話さず、ヘッドホンをして、山積みのレガシーコードとじっくり語り合う一日にしようと思います。
それでは、またどこかのソースコードの中、あるいは異国の空の下でお会いしましょう。
Happy Coding, and Survive.

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