― “国境を超える” だけでは足りない、キャリア設計の視点 ―
見えてきた“もう一つの選択肢”
数年前、僕が「海外で働きたい」と思ったとき、正直、頭の中にあった選択肢は1つしかなかった。
——「現地企業に転職して、その国で働く」
海外で働く、という言葉からまず連想したのは、パスポートとビザを手にして、スーツケースを持って、まるで“移住”するかのような働き方だった。たしかに、これは王道だし、いまも多くの人がこのルートで海外キャリアを切り拓いている。でも、実際にいろんな人の話を聞いたり、自分でもキャリアの選択肢を広げたりしていくうちに、もう一つのルートがあることに気づいた。
——「リモートで海外とつながる働き方」
この働き方なら、家族の事情で日本を離れづらい人でも、子育て中でも、今いる場所からグローバルに働ける可能性がある。実際に僕も、WPFのスキルを活かして、日本から海外クライアントとリモート契約するという形で、いわば“国をまたがずに国際的に働く”という経験を積んできた。
でも、この「現地採用」と「リモート契約」は、ただの雇用形態の違いではない。
キャリア設計、働き方の自由度、報酬交渉力、求められるスキル、そして、**“信頼の築き方”**まで、実はあらゆる面で異なる戦略が必要になる。
だから今回のVol.3では、「現地採用 or リモート契約、どちらを選ぶべきか?」というテーマを超えて、「それぞれの落とし穴と武器になるポイント」を丁寧に掘り下げていきたい。
特に、日本でWPFやC#をメインにやってきたエンジニアが、“そのままのスキルセット”でどう両方の選択肢を比較できるか? という視点も忘れずにお届けしていく。
たとえば、こんなケース
ある友人(同じくC#×WPFエンジニア)は、カナダの現地企業に正社員として転職し、現地チームの一員として毎日オフィス勤務している。一方で僕は、日本にいながらドイツのソフトウェア会社とリモートで契約し、プロダクトのUIアーキテクトとして非同期でタスクを進めている。
どちらも「海外で働いている」と言えるけど、必要な語学力、求められる文化理解、日常のワークフロー、キャリアの見え方が、まるで違う。
でもこれ、最初から知っておきたかったんだよね。
「どちらが正解か」じゃない。「どちらが“今の自分”に合っているのか」——これを見極める力こそが、グローバル時代のキャリア設計に必要なスキルだと、今ならはっきり言える。
“どこで働くか”ではなく、“どう働くか”
WPFのように、デスクトップアプリケーションのUIを深く扱う分野は、海外でもニッチだけど確実に需要がある。特に既存システムの保守やリプレイスでは、**「知ってるだけで武器になる技術」**として重宝されることも多い。
だからこそ、働き方の選択肢が増えている今、自分の技術をどこにどう当てはめていくのか、その視点をアップデートするタイミングなんだ。
見えてきた「本当の違い」と、それぞれのリアル
じゃあ実際、現地採用とリモート契約ってどう違うの?
給与とか、働き方の自由度とか、なんとなくイメージで語られることは多い。でも、僕自身が実際に経験して、周囲の仲間たちの体験も踏まえながら感じたのは、「見えないところの違い」がむしろ大きいということ。
以下、4つの観点から、それぞれのメリットと落とし穴を整理してみた。
1. 💰報酬体系の違い:見た目の年収にだまされるな
現地採用は、その国の法律に則った給与体系が適用される。たとえばオーストラリアやドイツなど、エンジニアの待遇が比較的高い国に行けば、年収は一見ぐっと上がる。ただし、その分税率や生活費も高く、実質的な可処分所得が思ったより伸びないことも。
一方、リモート契約は「成果報酬型」になりやすく、月額固定やプロジェクト単位での支払いが多い。ここでのポイントは、「どこの通貨で支払われるか」と「どこに税金を払うか」の2点。為替の影響も受けやすいし、自己申告型での納税管理が必要になるため、お金の知識が問われる。
💡僕のケース:
ドイツの会社との契約は「月額3000ユーロ(約48万円)」だったけど、日本の居住者としての税金・保険の計算や為替変動リスクもあり、「会社員の給与感覚」で考えてるとギャップが出る。
2. 🧭働き方と生活スタイル:自由の代償は“自律”
現地採用は、基本的に「チームの一員」として動く。定時出社やビジネスミーティング、現地スタッフとの協働など、ある意味“日本と大差ない”働き方になる。逆に言えば、物理的な拘束や文化的なプレッシャーは避けられない。
リモート契約は、場所の自由度が圧倒的に高い。僕自身、東京の自宅で働いたり、月に数回だけ都内のコワーキングに行ったりしている。でも、そのぶん**「進捗の見える化」や「セルフマネジメント」**が問われる。
SlackやGitHubの更新、週報の工夫、タイムゾーン調整。自由の裏には「信頼構築の努力」がしっかり乗っかっている。
3. 🤝キャリア形成と見え方の違い:履歴書に書けるかどうか?
これは意外と盲点だけど、現地採用のほうが「履歴書に残しやすい」という面がある。企業名やポジション、在籍期間を明記しやすいし、LinkedInにも堂々と載せられる。つまり、**“キャリアとしての説得力”**が作りやすい。
逆にリモート契約は、「業務委託」「フリーランス」「プロジェクトベース」など、書き方が難しいケースもある。信頼できるポートフォリオや実績リンクがないと、「本当にやってたの?」と疑われやすい。
💡対策として:
・GitHubの公開リポジトリを整える
・FigmaなどでUI設計の成果をまとめておく
・Notionでポートフォリオサイトを自作する
などの工夫が必要になってくる。
4. 🧠メンタルと文化適応:どちらにも“壁”はある
現地採用では、いきなり現地文化の中に飛び込むことになる。英語での会話、ジョークの理解、ランチの付き合い、評価のされ方…。**「エンジニアとしての能力」以上に「文化的適応力」**が求められる。
一方、リモート契約はその逆で、「顔が見えない環境」で信頼を得る難しさがある。常にSlackで“存在感”を出し、ドキュメントを丁寧に書く、時差を考慮してレスポンスするなど、“文化の隙間”を読む力が鍛えられる。
どちらも「ただ技術ができる」だけじゃ乗り越えられない。“対話力”と“信頼設計”の技術が共通して求められてくる。
選択のカギは「いまの自分」にある
ここまで読んで、「どっちがいいんだろう…?」と迷った人もいると思う。でも僕が伝えたいのは、「選ぶべきは“理想”じゃなく“今の自分にとっての最適”だ」ということ。
- 語学力が不安 → まずはリモート契約で海外と接点を持つのもアリ
- 海外生活が夢 → 現地採用で一度がっつり飛び込んでみるのもOK
- スキルに自信がある → 両方の案件を並行して試すこともできる
グローバルキャリアは“一本道”じゃない。
むしろ、「今の自分の強みと制約」から逆算して戦略を立てることこそが、再設計術の核心なんだと思う。
見逃せない“落とし穴”とそのリアルな乗り越え方
ここまで読んで、「リモート契約、けっこう良さそうじゃん」と感じた人もいるかもしれない。あるいは「やっぱり現地採用のほうが安心かな」と思った人もいるだろう。でも、ここで大事なのは、「どちらにも“知らずに選ぶと危険な落とし穴”がある」ということだ。
実際に僕や周囲が体験した、**生々しい“やらかし”**とその乗り越え方を紹介していこうと思う。これは「ネットで調べた情報」ではなく、実際のエンジニアたちのリアルな声から得た教訓だ。
ケース①:リモート契約での「報酬未払い」
僕が最初に海外クライアントとリモート契約を結んだとき、契約書も交わさず、メールとSlackのやり取りだけでスタートしてしまった。
開発内容はWPFを使った業務用ツールの再設計で、UIまわりの改善提案から実装まで担当。2週間でMVP版を納品し、「とても良い仕事だ」と褒められたまでは良かった。けど、そこから支払いの話が一向に進まず、2週間、3週間と「経理と確認中」という曖昧な返信が続いた。
結果として、約20万円分の報酬は回収できず、フリーランス駆け出しの僕にとっては痛すぎる授業料になった。
🚧 対策の学び:
- 業務開始前に契約書は必須(NDA+SOW)
- 支払いサイト(例:納品後14日以内)を明記する
- UpworkやMaltなど、第三者プラットフォーム経由も検討する
ケース②:現地採用での「カルチャーショックによるメンタルダウン」
友人の話になるが、カナダのソフトウェア会社に現地採用で入社した彼は、C#での業務経験も豊富で、面接時の英語も問題なかった。でも、実際に働き始めると、「英語が通じる=仕事になる」ではないという壁にぶつかった。
チームの雑談文化、フラットな意見交換スタイル、そして「Noをはっきり言う」文化に圧倒され、最初の3ヶ月で心身ともに限界に近づいてしまった。
結果的には、会社のHRと1on1面談を重ねることで支援を受け、部署異動と働き方の再調整で持ち直したが、「現地採用は、技術力だけでは乗り越えられない領域がある」と痛感したと言っていた。
🚧 対策の学び:
- 現地文化や企業風土を面接時に必ずリサーチ(GlassdoorやLinkedInでの調査)
- 入社前後のオンボーディングサポートの有無を確認
- 日本人向けのキャリアカウンセラーやメンタルサポートの存在も視野に入れる
ケース③:時差マネジメントの落とし穴
リモート契約のあるあるトラブルに「タイムゾーン問題」がある。
これは僕がドイツのクライアントと仕事していたときの話。先方は「午前9時にレビューするから、それまでにコード上げておいて」と言う。でも、それって日本時間でいうと午後5時締切になる。
当時の僕は、子育て真っ最中で午後5時は保育園お迎えのタイミング。結果的にレビューに間に合わず、「プロ意識が足りない」と思われた経験がある。
たった数時間のズレでも、信頼関係には大きなひびが入る。
タイムゾーンを甘く見ていた自分の責任だ。
🚧 対策の学び:
- Google Calendarなどで常に相手の時間帯を意識する(World Time Buddyが便利)
- “あえて朝イチにSlackを投げる”など、時間帯の演出も信頼構築の一部
- どうしても合わない時間帯は、契約前に「対応不可」と明示
ケース④:税務とビザ、国際的な“見えない壁”
リモートで海外とつながる場合、「居住地と報酬の関係」が複雑になる。
たとえば、日本に住んでいて海外企業から報酬をもらう場合、日本で確定申告を行い、所得税や住民税を納める義務がある。しかも、「源泉徴収されていない収入」なので、自分で全部管理しなければならない。
逆に、現地採用で現地の税制に入る場合も、日本との二重課税防止条約などを理解していないと、不要な税金を払ってしまうことも。
🚧 対策の学び:
- 国際税務に詳しい税理士を見つけておく(特にIT・フリーランスに強い人)
- ビザの種別(就労ビザ、フリーランスビザなど)ごとの制約を理解する
- Nomadリスク(観光ビザで働くなど)を避けるための基本的な法知識が必要
落とし穴は“失敗”じゃない。“設計不足”なだけ
これまで紹介したトラブルは、実はすべて「事前に設計しておけば防げた」ものばかりだ。
- 雇用形態に応じたリスクと対策
- タイムゾーンや言語の違いへの備え
- 信頼構築に必要な可視化と報連相の技術
- 税務・契約・法務の最低限の知識
つまり、**「グローバルに働く」=「なんとかなる」ではなく、「しっかり準備してから飛び込むこと」**が何より大切なんだ。
あなたにとっての「正解」を見つけるために
ここまで、現地採用とリモート契約の違い、そしてその裏にあるリアルな落とし穴を見てきた。
ここで改めて伝えたいのは、どちらが良い・悪いという単純な話ではないということ。
この選択は、スキルセットや語学力、生活環境、家族構成、キャリアの方向性…そういった「変数」がいくつも絡み合う、極めてパーソナルなものだからだ。
では、そんな“多様な正解”の中で、どうやって自分のキャリアを設計していけばいいのか?
そのヒントとなる「3つの問い」をここで紹介したい。
💡問い①:「あなたは“どこ”で価値を発揮したいか?」
これは単なる物理的な場所ではなく、「どんな環境で自分の強みが活きるのか?」を問うものだ。
- 毎日チームメンバーと顔を合わせながら、会話や雑談を通じて成果を出すタイプなのか?(→現地採用が向いている)
- 一人でじっくり設計し、非同期コミュニケーションでも成果を出せるタイプなのか?(→リモート契約が向いている)
たとえば僕は、WPFのUI設計を軸に仕事をしているが、このスキルは「即戦力かどうか」が明確で、リモート環境でも価値を見せやすい。つまり、“自分のスキルの伝わりやすさ”も、働く場所選びのヒントになるのだ。
💡問い②:「“今の自分”が持つ制約は何か?」
キャリア設計というと、“夢”や“理想”ばかりに目が向きがちだけど、現実を無視したプランは長続きしない。
- ビザが簡単に取れない国に応募しても、書類で落ちる
- 子育てや介護などで引っ越しが難しい場合は、リモートの方が現実的
- 時差が大きすぎると、そもそもコミュニケーションが破綻する
「いま、自分が抱えている制約を、責めるのではなく“設計条件”として捉える」ことが大事。
逆に言えば、その制約さえ見えていれば、回避策や段階的な戦略も立てられる。
たとえば僕は、子育て期にはリモートで欧州企業の案件を請け、子どもが成長してきた今、現地プロジェクトへの出張や出向も視野に入れている。キャリアは「そのときの自分」に合わせて調整できるものだ。
💡問い③:「自分の“働き方の価値観”は何か?」
これは最も曖昧だけど、最も重要な問いかもしれない。
- 安定した給与と福利厚生を優先したいか?
- 自由な時間や場所を大切にしたいか?
- チャレンジングな環境に身を置きたいか?
価値観に合わない働き方は、最初はうまくいっても、じわじわと摩耗していく。
僕自身、「海外で働いている」という事実だけに満足していた時期があった。でも、あるとき気づいた。「自分は**“自分のペースで深く設計に向き合える環境”**こそがパフォーマンスを最大化する」と。
この価値観に気づいたことで、「リモート×UI設計」という形が自分に最もフィットする選択肢だったと理解できた。
「場所」を越えたキャリア設計へ
結局のところ、僕たちが目指しているのは「海外で働くこと」そのものではない。
それは手段にすぎなくて、本当に望んでいるのは——
- 自分のスキルをもっと活かせる場所
- 人として尊重され、自由に成長できる環境
- 家族や自分のライフスタイルと無理なく両立できる働き方
つまり、“自分らしく生きて働く”こと。
だから、国境を越えるよりも前に、「自分の内側と対話する時間」をちゃんと取ることが、グローバルキャリア設計の第一歩だと思う。
✍️あなたのための次のアクション
この記事を読み終えた今、次に何をすべきか迷っているなら、以下のアクションをおすすめしたい。
✅ 自分の「スキル棚卸し」と「働き方の価値観メモ」を書く
→ 今の自分の強み・制約・理想の働き方を紙に書いてみるだけでも、思考が整理される。
✅ LinkedInやRemoteOKで、現地採用とリモート契約の求人を見比べる
→ 条件の違いを体感的に理解できるようになる。
✅ フリーランス契約や海外税務に強い士業や先輩エンジニアに話を聞く
→ 情報の“精度”が変わる。失敗経験から学べるのは強い。

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