書かないことで失速するチーム、書くことで加速するチーム──海外エンジニア現場で学んだ「MVDPフレームワーク」という武器

  1. 「ドキュメントは後回し」で、本当に得をしているのか?
    1. ドキュメントを書かない“見えないコスト”
    2. 「書け」とは言われない。でも、評価は如実に変わる
    3. プロジェクトが加速するチームには「型」がある
    4. なぜ、このフレームワークを日本人エンジニアに伝えたいのか
  2. 「何を書けばいいか分からない」問題を壊す
    1. ドキュメント負債は、コードを見ても分からない
    2. まずやるべきは「棚卸し」ではなく「質問」
      1. ① これ、誰が困っている?
      2. ② どのタイミングで困っている?
      3. ③ 困ったとき、何が足りない?
    3. 海外チームで実際にやっていた「負債の洗い出し」
    4. 「全部書くな」が、MVDP の核心
    5. C# / WPF 開発で「書くべきだった」具体例
    6. ドキュメントは「自分を守る保険」でもある
  3. 「一人で書くな」が、ドキュメントを最強の武器にする
    1. なぜ「ちゃんと書こう」とすると失敗するのか
    2. 海外チームで実践していた「叩き台文化」
    3. コメントが付くドキュメントは「成功」
    4. ツールは「揃える」より「混ぜない」
    5. 英語が苦手でも、コラボは回る
    6. 規制・監査対応で真価を発揮する瞬間
    7. MVDPは「ドキュメント文化」ではなく「生存戦略」
  4. 知識が残る人が、最後に勝つ
    1. 「全部は書けない」から始めていい
    2. MVDPで最優先すべき3つのドキュメント
      1. ① 判断ログ(Decision Log)
      2. ② 前提条件・制約リスト
      3. ③ 知識の入口(Onboarding 用)
    3. 「これ以上は書かなくていい」ラインを知る
    4. ドキュメントを書く人は、評価が蓄積する
    5. 英語が不安でも、MVDPは裏切らない
    6. MVDPは「仕事術」であり「人生術」
    7. 今日からできる、たった一歩

「ドキュメントは後回し」で、本当に得をしているのか?

海外でエンジニアとして働き始めて、最初に強烈な違和感を覚えたのは、
**「ドキュメントの扱いの重さ」**でした。

正直に言うと、日本にいた頃の僕は、
「動くコードが正義」
「ドキュメントは時間があれば書くもの」
そんな価値観で仕事をしていました。

C# の WPF で画面設計をして、要件を満たして、バグを潰して、納期に間に合わせる。
それができていれば十分評価される。
ドキュメントは、レビュー前に最低限書く“作業”でしかなかったんです。

ところが、海外のプロジェクトに入って最初のスプリントレビューで、
コードよりも先に、こんな質問が飛んできました。

「この設計判断は、どこに記録されている?」
「この仕様、半年後に誰が見ても理解できる?」

一瞬、頭が真っ白になりました。
動いているのに、評価されない。
理由は単純で、「チームとしての知識が残らない」から。


ドキュメントを書かない“見えないコスト”

海外の現場で痛感したのは、
ドキュメントを書かないことは、技術的負債ではなく「組織的負債」になるという事実です。

例えば、こんな経験はありませんか?

  • あの実装、なんでこうなってたんだっけ?
  • 作った本人が休暇・退職して誰も説明できない
  • 仕様確認に毎回 Slack や Teams が荒れる
  • 新しく入ったメンバーの立ち上がりに1〜2ヶ月かかる

これ、全部「ドキュメント不足」が原因です。

海外では、これを Documentation Debt(ドキュメント負債) と呼びます。
コードのリファクタリングと同じくらい、
「知識の整理」も負債として扱う文化があるんですね。

そして恐ろしいのは、
この負債は 静かに、しかし確実にプロジェクトの速度を落とすことです。


「書け」とは言われない。でも、評価は如実に変わる

面白いのは、海外の職場では
「もっとドキュメントを書け」と直接言われることは、ほとんどありません。

代わりに起きるのは、こんな変化です。

  • 設計レビューで意見が通りやすくなる
  • 会議で説明時間が短くなる
  • 「あの人に聞けば早い」が減る
  • マネージャーからの信頼が静かに積み上がる

つまり、
**ドキュメントは“成果物”ではなく、“影響力の増幅装置”**として扱われている。

これに気づいたとき、
「これは英語力の問題じゃないな」と思いました。

文章が完璧でなくてもいい。
ネイティブ表現でなくてもいい。
大事なのは、判断の背景と意図が残っていること


プロジェクトが加速するチームには「型」がある

いくつかのプロジェクトを経験する中で、
「回っているチーム」と「詰まり始めるチーム」には、
ある共通点の差があることに気づきました。

それが、
最小限で、でも効果が最大化されるドキュメントの“型”を持っているかどうか

何でもかんでも書くチームは、正直しんどい。
逆に、何も書かないチームは、後で必ず破綻する。

じゃあ、その中間はどこか?

そこで出会ったのが、
僕自身が「これは武器になる」と感じた考え方です。

それが今回のテーマでもある、

The MVDP Framework
(Minimum Viable Documentation for Project velocity)

直訳すると、
「プロジェクトを加速させるための、最小限で価値の高いドキュメント」


なぜ、このフレームワークを日本人エンジニアに伝えたいのか

特に、日本人で海外に出るエンジニアは、

  • 英語が完璧じゃない
  • 発言に慎重
  • 自分の仕事を過小評価しがち

という傾向があります。

でも、
**ドキュメントは「話さなくても伝えられる自己主張」**です。

しかも、
正しく書けば、

  • 英語力以上に評価される
  • チーム全体の生産性を上げられる
  • 「替えがきかない人」にならなくて済む

これは、知っているか知らないかで、
海外キャリアの伸び方が本当に変わります。

「何を書けばいいか分からない」問題を壊す

──ドキュメント負債を“見える化”するという技術


「ドキュメントが大事なのは分かった。
でも、何を書けばいいのか分からない。」

これは、海外で働き始めた日本人エンジニアが、ほぼ100%ぶつかる壁です。
実際、僕自身もそうでした。

全部書こうとすると時間が足りない。
最低限にすると「それ意味ある?」と突っ込まれる。
結果、誰も幸せにならない中途半端なドキュメントが量産される。

ここで重要なのは、
「書く/書かない」の二択で考えないことです。

MVDP フレームワークの最初のステップは、とてもシンプル。

今のチームが抱えている
「ドキュメント負債」を言語化する


ドキュメント負債は、コードを見ても分からない

コードの負債は、見れば分かります。

  • クラスが巨大
  • 責務が曖昧
  • コメントだらけ
  • テストがない

でも、ドキュメント負債は違います。
「困った瞬間」にしか姿を現さない。

例えば、こんな瞬間です。

  • なぜこの画面遷移なのか、誰も説明できない
  • 仕様変更の影響範囲を毎回総当たりで調べる
  • レギュレーション対応で、過去の判断根拠を探し回る
  • 新人が「これ、聞いていいですか?」と何度も止まる

これらは全部、
「書かれていない判断」が原因です。


まずやるべきは「棚卸し」ではなく「質問」

多くのチームは、
「ドキュメントを整備しよう!」と言い出すと、
いきなり Confluence や Wiki の整理を始めます。

でも、これは失敗しやすい。

MVDP 的には、
ツールに触る前に、3つの質問を自分に投げることを勧めます。

① これ、誰が困っている?

  • 新しく入ったエンジニア?
  • QA?
  • 将来の自分?
  • 法務・監査?

② どのタイミングで困っている?

  • 設計レビュー?
  • 障害対応?
  • 仕様変更?
  • 引き継ぎ?

③ 困ったとき、何が足りない?

  • 仕様そのもの?
  • 判断理由?
  • 前提条件?
  • トレードオフ?

この3つが言語化できると、
「書くべきドキュメントの正体」が見えてきます。


海外チームで実際にやっていた「負債の洗い出し」

僕がいたチームでは、
スプリントの振り返りでこんな質問を必ずしていました。

「今週、
“書いてあれば早かった”ことは何だった?」

ポイントは、
**「書いてなかったから失敗した」ではなく、
「書いてあれば速くなった」**と聞くこと。

この言い方だと、
誰も責められないし、防衛的にならない。

出てくる答えは、だいたいこんな感じです。

  • API の仕様変更理由が分からなかった
  • 画面設計の前提条件を毎回説明していた
  • なぜそのライブラリを選んだか思い出せなかった
  • 過去に却下された案を、また検討していた

これ、全部 高価値ドキュメント候補です。


「全部書くな」が、MVDP の核心

ここで、重要な考え方があります。

ドキュメントは、
書いた量ではなく
“再利用された回数”で価値が決まる

海外のシニアエンジニアが言っていた言葉で、
今でも強く残っています。

だから MVDP では、
次の3つに当てはまるものだけを書く

  1. 判断が絡んでいるもの
  2. 繰り返し参照されるもの
  3. 将来の変更に影響するもの

逆に言えば、

  • 読まれない仕様
  • コードを見れば分かること
  • 一度きりの作業手順

は、思い切って捨てる。


C# / WPF 開発で「書くべきだった」具体例

実体験ベースで言うと、
WPF 開発で特に「書いておいて助かった」のは、次のようなものです。

  • なぜ MVVM を一部崩したのか
  • パフォーマンス優先で諦めた設計案
  • 将来差し替える前提の ViewModel
  • レガシー制約(変えられない理由)

コードだけ見ても、絶対に分からない判断です。

これを1ページにまとめておくだけで、

  • 設計レビューが一瞬で終わる
  • 「なんでこうなってるの?」が減る
  • 仕様変更時の判断が速くなる

結果として、
チーム全体のスピードが上がる


ドキュメントは「自分を守る保険」でもある

もう一つ、海外で強く感じたことがあります。

それは、
ドキュメントは評価と責任の境界線になるということ。

  • なぜそう決めたか
  • どこまでを想定していたか
  • 何をリスクとして認識していたか

これが残っていると、
後から問題が起きても、
「無責任」にはならない。

むしろ、

「ちゃんと考えて判断していた人」

として評価される。

英語が流暢じゃなくても、
会議で目立たなくても、
書いた事実は消えない。

「一人で書くな」が、ドキュメントを最強の武器にする

──MVDPが生むコラボレーションと加速の正体


ドキュメントの話をすると、
多くのエンジニアは無意識にこう考えます。

「誰が書くか」
「自分がちゃんと書けるか」

でも、海外の現場で学んだ最大の転換点は、
ドキュメントは“個人作業”ではないという認識でした。

MVDP フレームワークの本質は、
ドキュメントを「作ること」ではなく
「チームの思考を揃える装置」にする
点にあります。


なぜ「ちゃんと書こう」とすると失敗するのか

日本人エンジニアがやりがちな罠があります。

  • 英語を直してから出そう
  • 構成を完璧にしてから共有しよう
  • 誤解されたら怖い

結果どうなるか。

何も出ない。

海外のチームでは、
70点のメモが、
100点の沈黙より評価されます。

MVDP 的には、
ドキュメントは「完成品」ではなく「会話のきっかけ」

だからこそ、
最初から一人で抱え込むと、
スピードも質も落ちてしまう。


海外チームで実践していた「叩き台文化」

僕がいたチームでは、
ドキュメントにこんなルールがありました。

最初に書いた人は、
責任者ではなく“起案者”

つまり、

  • 完璧である必要はない
  • 全部決めなくていい
  • 間違っていてもいい

代わりに求められるのは、
**「思考の方向性を可視化すること」**だけ。

例えば、設計ドキュメントはこんな書き方から始まります。

  • 背景(なぜ今これを考えるか)
  • 制約(変えられないこと)
  • 仮の選択肢(A / B / C)
  • 個人的な暫定案

英語も箇条書き、文法も雑。
でも、これがあるだけで、
レビューは一気に前に進む。


コメントが付くドキュメントは「成功」

日本では、
コメントが多い=突っ込まれている
と感じがちです。

でも海外では真逆。

コメントが付くドキュメントは、
読まれている証拠

Slack や Teams で議論するより、
ドキュメントに直接コメントが集まる方が、
知識が散らからない

特に効果的だったのは、

  • 「Why?」だけ書く人
  • リスク視点だけ入れる人
  • 過去事例を貼る人

役割が自然に分かれていくこと。

これこそが、
ドキュメントを中心に回るコラボレーションです。


ツールは「揃える」より「混ぜない」

MVDP では、
ツール選定にこだわりすぎません。

重要なのは、
1つのドキュメントが
複数の場所に分裂しないこと。

海外チームでよくあった失敗例:

  • 仕様は Wiki
  • 判断理由は Slack
  • 図は Miro
  • 決定事項はメール

これ、後から誰も追えません。

だから、

  • 本体は Confluence / Notion / Wiki
  • 議論はコメント欄に集約
  • Slack は通知とリンクだけ

という運用が、
結果的に一番速かった。


英語が苦手でも、コラボは回る

ここで、日本人エンジニアにとって
一番大事な話をします。

英語が完璧じゃなくても、
ドキュメントコラボは成立する。

理由はシンプルで、

  • 話すより、書く方が考えられる
  • 修正ができる
  • 時間差で参加できる

実際、
会議では静かな日本人が、
ドキュメント上では一番貢献している
というケースは珍しくありません。

しかも、

「英語が荒れている=思考が浅い」

とは誰も思わない。

それよりも、

「判断の背景を書いている人」

が、
技術的に信頼される。


規制・監査対応で真価を発揮する瞬間

MVDP が「ただの効率化」で終わらない理由が、
レギュラトリー対応です。

海外プロジェクトでは、

  • なぜその実装になったか
  • どんなリスクを認識していたか
  • 代替案を検討したか

を後から求められることが多い。

このとき、

  • 決定ログがある
  • 議論の痕跡が残っている
  • 責任の所在が明確

だと、
プロジェクトが守られる。

「書いてあったから助かった」
この言葉を、
何度も聞きました。


MVDPは「ドキュメント文化」ではなく「生存戦略」

ここまで来て、
ようやく見えてきます。

MVDP フレームワークは、
几帳面な人向けの手法ではありません。

  • 忙しい
  • 英語に自信がない
  • 発言力が弱い

そんなエンジニアほど、
書くことで戦える。

ドキュメントは、
声が小さくても残る。
立場が弱くても消えない。

知識が残る人が、最後に勝つ

──MVDPは「評価され続けるエンジニア」になるための人生術


ここまで、
MVDP(Minimum Viable Documentation for Project Velocity)
という考え方を軸に、

  • ドキュメント負債をどう見つけるか(承)
  • 最小限で最大効果を出すコラボレーション(転)

を見てきました。

最後の「結」では、
じゃあ結局、何を書けばいいのか
そして、
それがあなたのキャリアにどう効いてくるのか
をまとめます。


「全部は書けない」から始めていい

まず、はっきり言います。

全部を書こうとする必要は、ありません。

むしろ、それは失敗の始まりです。

MVDP のゴールは、
“プロジェクトが止まらない状態”を作ること

だから、最初に書くべきは
「正しさ」ではなく
**「詰まりポイント」**です。


MVDPで最優先すべき3つのドキュメント

海外の現場で、
「これだけは残せ」と言われていたのは、
次の3つです。

① 判断ログ(Decision Log)

  • なぜこの設計を選んだか
  • 何を捨てたか
  • どんなリスクを理解していたか

コードでは絶対に残らない知識です。

これがあると、

  • 設計レビューが速くなる
  • 仕様変更時に迷わない
  • 後出し批判を防げる

個人を守る盾にもなる。


② 前提条件・制約リスト

  • 変えられない仕様
  • レガシー制約
  • ビジネス的な理由

「なんでこんな実装?」の
8割は、前提条件を知らないことが原因。

これを書くだけで、
無駄な議論が激減します。


③ 知識の入口(Onboarding 用)

完璧なマニュアルはいりません。

  • 最初に読む1ページ
  • 全体像の図
  • 「困ったらここを見る」リンク集

これだけで、
新しく入った人の立ち上がりが
数週間単位で変わる


「これ以上は書かなくていい」ラインを知る

MVDP には、
**明確な「書き止めライン」**があります。

次の質問に「Yes」と答えられたら、
それ以上は書かなくていい。

  • 誰かが判断を再現できるか?
  • 半年後の自分が理解できるか?
  • 変更時に迷わず動けるか?

「分かる人が分かればいい」
から、
「誰でも追える」
へ。

ここが越えられていれば十分です。


ドキュメントを書く人は、評価が蓄積する

海外で働いていて、
一番日本と違うと感じたのは、

評価は、積み重なる

ということ。

会議で目立たなくても、
発言が少なくても、

  • 良い判断が記録されている
  • チームがそれを参照している
  • 問題解決が速くなっている

これらは、
静かに評価され続ける。

あるとき、マネージャーに言われました。

「君は、
プロジェクトの“記憶”を作っている」

これ以上の評価はありません。


英語が不安でも、MVDPは裏切らない

英語に自信がない。
これは、海外で働く日本人にとって
ずっとついて回る不安です。

でも、
MVDP は語学力を要求しません。

  • 短い文
  • 箇条書き
  • 図やリンク

それで十分。

完璧な英語より、
残る思考

話せなくても、
書けば参加できる。

これは、
発言力が弱い立場にいる人ほど
強力な武器になります。


MVDPは「仕事術」であり「人生術」

最後に。

MVDP フレームワークは、
単なるドキュメントの書き方ではありません。

  • 自分の思考を残す
  • チームに価値を渡す
  • 将来の自分を助ける

この積み重ねが、

  • 信頼
  • 評価
  • 選択肢

を増やしていきます。

海外では特に、

「知識を残せる人」=「次も一緒に働きたい人」

です。


今日からできる、たった一歩

もし、今日から何か一つやるなら、
これだけでいい。

「なぜ、こうしたか」を1ページ書く

完璧じゃなくていい。
英語も荒くていい。

それが、
半年後のプロジェクトを救い、
数年後のあなたのキャリアを守ります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました