揺らがないプロジェクトをつくるエンジニア術:僕が海外で学んだ“土台づくり”の話

  1. 「うまくいっているように見えるプロジェクトほど、実は危機が潜んでいる」
  2. 「透明性は“仕組み”ではなく“空気”でつくる」
    1. ■ 海外で初めて体験した「言いづらさの壁」
    2. ■ じゃあ、どう空気を作るのか
      1. (1) まず、リーダーが「弱さ」を見せる
      2. (2) 失敗共有の場を「日常化」する
      3. (3) 小さい報告を褒める
    3. ■ 透明性は「人の安全」を守る装置
    4. ■ 透明性が根づくと何が変わるのか
  3. 「“失敗”を資産に変えるプロジェクト運営」
    1. ■ 僕が海外で知らされた「反省会の致命的な勘違い」
    2. ■ 効果が高かった“改善サイクル”を紹介する
      1. Step1:事実だけを書く(評価や感情は一切いれない)
      2. Step2:なぜ起きたかを、根っこまで掘る
      3. Step3:次回の「改善策」を“小さく”決める
      4. Step4:改善を「見える場所」に残す
    3. ■ 改善が“続くチーム”と“止まるチーム”の違い
    4. ■ 僕が経験した“改善が文化になった瞬間”
    5. ■ 改善文化は、技術力よりも“心の余白”でできている
  4. 「折れないチームは“強い”んじゃない。“支え合っている”だけだ」
    1. ■ レジリエンスは「根性」では作れない
    2. ■ 海外の現場で学んだ「支え合いのコツ」
      1. (1) 困っている人を「助ける」のではなく「一緒に持つ」
      2. (2) 進捗ではなく「体力」を確認する会話をする
      3. (3) チームの中に「休む人」を許容する文化を作る
    3. ■ レジリエンスは、“余白のある働き方”で育つ
    4. ■ 最後に:揺らがないプロジェクトは「つくれる」

「うまくいっているように見えるプロジェクトほど、実は危機が潜んでいる」

海外で働き始めて最初の頃、僕はとにかく「技術力で勝負する」という意識が強かった。C# WPF でのUI設計でも、パフォーマンスチューニングでも、設計レビューでも、「自分がどれだけ良いコードを書けるか」で評価が決まると思っていたし、実際そうやってやってきた。でも、海外で大規模プロジェクトに身を置いたときに気づいたのは、**“プロジェクトが長期的に安定するかどうかは、コードの綺麗さでは決まらない”**という、ちょっとショックな事実だった。

もちろん、良いコードは大事。でも、それよりもさらに大事なものがある。
それは 「土台」 だ。

ここでいう土台とは、特別なフレームワークや設計手法の話ではない。
もっと人間くさくて、チームっぽくて、コミュニケーションと関係構築の話だ。

例えば、あなたの今のプロジェクトをちょっと思い出してみてほしい。

  • 問題が起きたとき、正直に言える空気はあるか?
  • 「自分のせいかもしれない」と思っても、報告することを躊躇していないか?
  • チームメンバー同士は、わからないことを素直に「わからない」と言える関係性か?
  • ミスをしたとき、それが責められるものではなく、改善につながるものとして扱われているか?

これらは、どれも「技術の話」ではない。
でも、プロジェクトが長期で安定するかどうかは、ほぼここで決まる。

僕が海外で最初に直面したプロジェクトは一見とても順調だった。
納期に追われてはいたけれど、進捗はそれなりに出ていたし、チームも優秀だった。でも、ある時期を境に、プロジェクトは急に崩れ始めた。要件の認識齟齬、レビュー漏れ、担当不明のタスク、なぜか増えていく手戻り…。それらは突然起きたのではない。ずっと前から存在していた “小さなひび” が、見えないうちに広がっていたんだ。

そしてその“ひび”は、「言いにくさ」 が生んでいた。

「これ言ったらめんどくさいかな」
「自分の理解不足だったら恥ずかしいし」
「とりあえず今は流れに合わせとくか」

誰も悪気はない。でも、それがプロジェクトを確実に蝕む
僕はそこでやっと理解した。

プロジェクトは、土台が弱いと、技術でいくら支えてもいずれ倒れる。

じゃあ、その土台とは何か?

このシリーズ(承・転・結)で話していくけれど、まず最初に知ってほしいのは以下の3つだ。

  1. 透明性が文化として根づいているか
  2. 失敗から学び続ける仕組みが“日常レベル”であるか
  3. チームが、プレッシャーに折れない“耐性”を持っているか

ここで誤解してほしくないのは、海外だからこれらが自然とできているわけではないということ。
むしろ、僕が出会った海外プロジェクトの中にも、沈んでいったチームは多くあった。
“土台づくり” は、どこの国でも、誰にとっても、難しい。

でも、だからこそ、これを知らずに現場に出るのと、知った上で現場に立つのとでは、差がとてつもなく大きい。

特にこれから海外に出ようとしているエンジニアは、「技術力+語学」だけに集中しがちだ。もちろんそれらは必要だ。でも、それと同じくらい、いやそれ以上に必要なのが、チームに揺らがない基盤を築く“コミュニケーションの設計力” なんだ。

このシリーズでは、僕が実際に海外で体験した成功と失敗から、
どうやって「長期的に安定するプロジェクトを作っていくのか」
その具体的な考え方と方法を、起承転結で深掘りしていく。

次の「承」では、まず 「透明性」をどう文化として根づかせるか を扱う。
これは言うほど簡単じゃない。でも、できるようになると、プロジェクトの空気が変わる。
まじで。

「透明性は“仕組み”ではなく“空気”でつくる」

前回の「起」で、プロジェクトが長く続くかどうかは「技術」よりも「土台」の強さに左右されるという話をしました。そして、その土台の柱となるもののひとつが 透明性(Transparency) です。

でも、ここで多くの人が勘違いしがちなのが、透明性は「週報を細かく出す」とか「タスク管理ツールをきっちり更新する」とか、そういうルールの話だと思ってしまうこと。もちろんそれらは必要なんだけど、実はそれだけでは文化にはならない。
透明性は “空気” によって成り立つ。

空気というのは、「言っていい」「聞いていい」「共有していい」という、心理的な安心感。
要するに、

“このチームでは、正直でいても傷つかない”

と思えること。

これがないと、どれだけ管理ツールが充実していても、情報は闇に消える。


■ 海外で初めて体験した「言いづらさの壁」

海外に出ると、言語や文化が違うから「会話がしにくい」「聞き返しにくい」というのはまあ当然起きる。でも、僕が衝撃だったのは、英語ができても、チームに透明性がないと、報告が止まる瞬間があるということだった。

あるプロジェクトで、UIの描画が特定環境下でだけ異常に遅くなる問題があった。
技術的には調査すれば解決できるレベル。だけど、その問題を抱えた若手エンジニアが、そのことを報告するまで 3週間遅れた

理由は「言ったら自分が無能に見えるかもしれないから」。

でも実際には、その3週間の間に関連タスクが積み重なり、後から修正が超大変になった。

このときの教訓はシンプルだった。

人は、技術的な困難よりも「恥」を怖がる。

透明性を作るということは、
“うまくいっていないことを言える空気” を作ることなんだ。


■ じゃあ、どう空気を作るのか

正直、これは一瞬では作れない。
でも、コツがある。

(1) まず、リーダーが「弱さ」を見せる

これが一番効く。
例えばミーティングで、

「これちょっと自信ないんだけど、こう思ってる。どう思う?」

と、リーダーが先に “完璧じゃない姿” を見せる。

海外の現場だと、これがめちゃくちゃ大事。
なぜなら、文化や言語が違う中で、最初に崩れがちなのは 自己防衛の壁 だから。

リーダーが強くて隙がなくて、間違いを認めないタイプなら、
チームは口を閉ざす。

逆に、リーダーが「弱さを共有できる人」なら、
チームは「言っていいんだ」と気づき始める。

これは、僕自身が最初できていなかったことだ。
「任された以上、強く見せなきゃ」と思っていた。
でも、それは逆に、チームを緊張させていた。

(2) 失敗共有の場を「日常化」する

たとえば週次の 10 分でいいから、

「今週、やらかしたこと1つ共有しよう」

みたいな時間を設ける。

注意点は 責めない・解決を急がないこと
ただ共有する。
やらかしたことを笑えるチームは強い。

これは日本でも海外でも、例外なく効いた。

(3) 小さい報告を褒める

重要。
人は「正直に言うと得する」とわかったときに動く。

「ありがとう、早めに言ってくれて助かった」

たったそれだけで、空気が2ミリ変わる。
その“2ミリ”を積み重ねるのが文化作りだ。


■ 透明性は「人の安全」を守る装置

誤解しないでほしいんだけど、
透明性は「監視」じゃない。

むしろ逆で、

透明性があるチームほど、メンバーは自由に動ける。

なぜなら、困ったときに助けを求められるからだ。

プロジェクトが崩れるときって、いつも同じ流れなんだ。

  1. 小さな問題が共有されない
  2. 気づいたときには手遅れの規模に育っている
  3. タスクが追いつかず、プレッシャーが積み重なる
  4. 空気が悪くなり、さらに共有されなくなる
  5. そして崩壊

透明性は、この連鎖を一番最初で止めるバリアだ。


■ 透明性が根づくと何が変わるのか

  • ミスが早期に見つかる
  • 手戻りが減る
  • 開発スピードが安定する
  • 心がすり減らない
  • チームの空気が明るい
  • メンバーが自分に自信を持ち始める
  • そしてプロジェクトが長く続く

これは精神論ではなく、現場で何度も見てきた事実。

「“失敗”を資産に変えるプロジェクト運営」

透明性が文化として根づき始めると、チームには「正直に言える空気」が生まれる。
これはプロジェクトにとって大きな一歩だ。
でも、ここで止まってしまうチームは意外と多い。

なぜか?

「言ったはいいけど、その後がない」 からだ。

失敗や課題が共有されても、そこから何も変わらなければ、
チームはこう思い始める。

「言っても意味ないんだな」

すると透明性は静かに死ぬ。
せっかく積み上げた空気が、簡単に消えてしまう。

だから次に必要なのは、
“改善が日常的に行われる習慣づくり” だ。

これは難しい話ではない。
ただ「振り返って、考えて、少しずつ変える」
このサイクルを当たり前にするだけ。

でも、これができるチームとできないチームの差は、とてつもなく大きい。


■ 僕が海外で知らされた「反省会の致命的な勘違い」

日本の現場でも、海外でもそうだけど、
“振り返り” を「悪かった点を炙り出す場」だと思っているチームは多い。

するとどうなるか?

  • 雰囲気が暗い
  • できてなかったところばかり話題になる
  • 人が守りに入る
  • 誰も本音を出さなくなる

そして最終的に、

「このミーティング、意味あります?」

という空気になる。

これ、めちゃくちゃある。

でも、振り返りの目的は 反省ではない
目的は、

「事実を客観的に見て、次に活かすポイントを抽出すること」

反省ではなく、分析。
責任追及ではなく、再発防止。
誰が悪いかではなく、何が起きたのか。

僕が海外で学んだ一番効果のあったやり方は、とてもシンプルだった。


■ 効果が高かった“改善サイクル”を紹介する

Step1:事実だけを書く(評価や感情は一切いれない)

「描画処理の遅延が発生した」
「要件の認識がメンバー間で異なっていた」
など、ただ現象を書く。

Step2:なぜ起きたかを、根っこまで掘る

例えば、
要件の誤解 → なぜ? → 仕様の口頭伝達が多い
といった具合に、感情ではなくメカニズムを見る。

Step3:次回の「改善策」を“小さく”決める

ここがポイント。
でかい改善は続かない。

例えば、

  • ミーティングの最後に要点を文字でまとめる
  • タスク開始時に「目的」を1文で記載する
  • 新規対応は必ずレビューの前に意図を口頭で説明する

など、2日後から実行できるレベルでいい。

Step4:改善を「見える場所」に残す

やることは簡単。

Notion / Teams / Confluence / 手書きホワイトボード
なんでもいいから、「改善の記録」を残す。

これは、積み上がりを感じられることが重要。

チームは「改善が積み重なっている」と実感したとき、初めて強くなる。


■ 改善が“続くチーム”と“止まるチーム”の違い

改善が続くチームには、ひとつ共通点がある。

それは、

失敗を責めず、失敗を材料にする。

逆に止まるチームは、

失敗を感情で扱う。

「誰がやったか」
「なぜミスしたか」
「どうして気づかなかったんだ」

この問い方は、改善を止める。

一方で、改善が続くチームはこう言う。

「どうすれば次はもっとやりやすくなる?」

主語が 人 → チーム に切り替わる瞬間、プロジェクトは変わる。


■ 僕が経験した“改善が文化になった瞬間”

あるタイミングで、
「失敗を持ち寄って、笑って共有できる日」が来た。

「あーそれ私もやった!」
「わかる!絶対こうなるよね!」
「次はこうしよっか、もうちょい楽にできる方法ありそう」

この空気になったとき、僕はこう思った。

あ、もうこのチームは強い。

なぜなら、
失敗を恐れないチームは、挑戦を止めないからだ。

挑戦を止めないチームは、伸び続ける。


■ 改善文化は、技術力よりも“心の余白”でできている

改善ができるチームって、余裕があるんじゃなくて、
余裕を作る仕組みを持っているチーム なんだ。

  • 無理なスケジュールを押し付けない
  • 個人で抱え込ませない
  • わからないことを言える空気がある

これらがあると、失敗が「ただの材料」になる。

改善文化は、メンタルの安全とセットだ。

「折れないチームは“強い”んじゃない。“支え合っている”だけだ」

透明性が根づき、失敗を学びに変える文化が回り始めると、プロジェクトはぐっと安定する。
でも、プロジェクトというのは生き物みたいなもので、順調な時期があれば、必ず  も来る。

スケジュールが厳しくなることもある。
クライアントの要件が急に変わることもある。
メンバーが突然離脱することだってある。

「やばいな…」と誰もが喉の奥で感じる瞬間は、どんな現場にもある。

そのとき、チームがどんな反応をするかで 結末はほぼ決まる

  • 表情が固まりはじめる
  • 会話が減る
  • 個人がタスクを抱えはじめる
  • 相談が遅れる
  • ミスが連鎖する

こうなってしまうと、どれだけ技術力があっても、経験があっても、チームは簡単に崩れる。

逆に、その状況でも折れないチームは、
特別優秀なわけでも、超ハイスペック集団なわけでもない。

ただ “支え合う仕組みがある” だけだ。


■ レジリエンスは「根性」では作れない

レジリエンス(耐久力・しなやかさ)と聞くと、
「メンタルが強い人」「タフな人」がいるチームのことだと思いがちだ。

でも、違う。

折れないチームというのは、
個人が強いのではなく、“弱さを共有できる状態” が保たれているチーム のことだ。

  • 「ちょっときついです」って言える
  • 「助けてほしい」と言える
  • 「まだ自信ない」と正直に言える

この“弱さを出せる空気”があるかどうかで、持久力は決まる。

逆に、プレッシャーが強いときに「強く見せなきゃ」と思うチームは、
一見頑張っているようで、実は 崩壊のカウントダウン に入っている。

僕も昔は、
「任された以上、弱音は出せない」と思っていた。
でもそれは、チームにとっては マイナスな強さ だった。


■ 海外の現場で学んだ「支え合いのコツ」

僕がいた現場でうまく回っていたチームは、
共通して次のような“支え方”をしていた。

(1) 困っている人を「助ける」のではなく「一緒に持つ」

海外のチームでは、
“I can take a part of it.”
という言い方をよくする。

訳すなら、「それ、ちょっと一部持つわ。」

「代わりにやる」ではなく「一緒に背負う」。

これがめちゃくちゃ強い。

人は「一人で抱えている」時に折れる。
でも「持ち合っている」と思えると、最後まで踏ん張れる。

(2) 進捗ではなく「体力」を確認する会話をする

例えば、デイリースクラムのときに、

「昨日はどうだった?」ではなく、
「今の気持ちどう?」
と聞く。

たったこれだけで、
表情が変わり、空気が変わる。

人は 感情を聞かれたときに、初めて本音に触れられる

(3) チームの中に「休む人」を許容する文化を作る

これは日本の現場だと特に大事。

休む=迷惑
ではない。

休む=プロジェクトの寿命を延ばす
だ。

人が疲れているときに「気合いで行こう」ではなく
「今日は早く帰ろう」が言えるチームは、長期戦に強い。


■ レジリエンスは、“余白のある働き方”で育つ

プロジェクトが落ち着いているとき、
どう過ごすかで、嵐に耐えられるかが決まる。

余白があるときに、

  • ドキュメント整理する
  • 仕様の理解をそろえる
  • 会話の質を上げる
  • メンバー間の関係性を深める

これらをサボったチームは、
嵐が来たらすぐに崩れる。

逆に、普段から土台を育てていたチームは、
状況が厳しくなっても 踏ん張る力が残っている。

これは、会社でも学校でも、人間関係でも、全部同じ。
土台が強い関係は、簡単には壊れない。


■ 最後に:揺らがないプロジェクトは「つくれる」

海外で働いて学んだことで、いま一番強く言いたいのはこれ。

安定したプロジェクトは “運” じゃない。

  • 透明性という空気
  • 失敗を資産にする習慣
  • 弱さを支え合う関係性

これらは全部「つくるもの」だ。

そして、その第一歩はいつも小さい。

  • 「ありがとう」と言うこと
  • 「わからない」と言うこと
  • 「助けて」と言える関係になること

小さな一歩を積み重ねたチームだけが、
長期戦を笑いながら続けられる。

僕が海外で得た一番の学びは、技術でも、英語でもなかった。
“人と働くことの土台づくりこそ、エンジニア人生を左右する” ということだった。

これを知っている人は、強い。
これをできる人は、もっと強い。
これをチームで共有できる人は、プロジェクトを変える。

次は、あなたの番だ。

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