「エンジニアなのに、体力勝負だった話」
「体が資本」なんて、体育会系の世界の話だと思ってた。
けど、海外に出て3年目、思い知った。この仕事、想像以上に“体力勝負”だった。
僕はいま、某国のグローバルプロジェクトにリモートで参加している。
C#とWPFをメインにUIアーキテクト寄りの役割を担っていて、日本時間とヨーロッパ時間、そしてたまにアメリカ時間の板挟み。会議は夜中。レビューは早朝。
“好きな時間に働ける自由”という名のもと、スケジュールは自分次第。だけど、これが落とし穴だった。
気づけば、**「寝てても仕事のことを考えてる」**状態になっていた。
仕事してなくても頭は働いていて、コードとUIの構造と、進捗管理と、英語での説明方法が頭の中をグルグル。
「休んでないのに疲れが取れない」のは、実は“脳が再起動してない”からだって気づいたのは、正直、心身ともに限界を迎えたときだった。
■ 海外フリーランス=時間に自由?実は、時間の圧迫
渡航当初、僕は浮かれていた。
フルリモートで、どこでも仕事できる。日本みたいな“出社強制”もない。
最高じゃん、と思った。
でも現実は、「いつ働いてもいい」が「いつまでも働けてしまう」に変わる。
Slackが深夜2時にピンポンって鳴る。「あ、ヨーロッパ側からのレスだ。今返さなきゃ…」
自分のタイムゾーンを守らなきゃいけないのに、相手に合わせて“対応してしまう”。
「仕事が好きだから」
「納期が近いから」
「相手が信頼してくれてるから」
気づけば、“やりたくてやってたこと”が、気づかぬうちに“やらされていること”に変わっていた。
そしてその境界線を、ちゃんとモニターしてくれる人は海外ではいない。自分で管理しないと、どこまでも落ちる。
■ ある朝、僕の“再起動”が必要だと気づいた日
2024年の冬。
寝て起きても、疲れが残ってた。
目は開いてるけど、頭が動かない。
WPFの画面設計で、ちょっとしたレイアウト変更を頼まれただけなのに、全然手が動かない。
英語のレビュー資料を作るのに、倍の時間がかかる。
「なんか、おかしい」
そう思って、“作業時間”ではなく“再起動時間”を記録するようにした。
- ちゃんとシャットダウンできてる?(仕事を完全に切った時間は?)
- 休んでも、脳はリセットできてる?
- 何をしたら、僕は“回復”した実感があるのか?
ログを取り始めて気づいた。
僕にとって「睡眠時間」や「休憩時間」より大事なのは、**“再起動できる質”**だったんだ。
■ 僕が再起動のために手放したもの
最初にやったのは、「通知の断捨離」だった。
Slack、Teams、メール、GitHub、全部の通知を一時的に止めた。
代わりに、「今やってること以外の入力」を全部シャットダウン。
次にやったのは、「回復に効かない“休み”をやめる」ことだった。
ダラダラYouTube → 逆に疲れる
SNS → 情報が多すぎて脳が休まらない
テレビ → 無意識に受け取ってしまう
これらをやめて、「無入力状態」を強制的に作った。
散歩、風呂、音のない部屋。
最初はソワソワした。でも、“沈黙”が再起動のカギだった。
■ 体力もメンタルも、フルリモートでは“見えない貯金”
オフィスで働いてると、同僚が顔色を見て「大丈夫?」って聞いてくれる。
でも海外リモートでは、それがない。
Slack上では、いつでも「元気なフリ」ができる。
だからこそ、自分の“見えない貯金”を、自分で把握しておくしかない。
体力、集中力、言語ストレス耐性、目の疲れ、孤独感。
全部、自分でモニターして、メーターが減ってきたら「再起動」をかけないといけない。
この考え方にたどり着いてから、僕はようやく「バーンアウトしない働き方」の設計に踏み出すことができた。
そして次のパートでは、実際に僕が設計した“再起動時間”のスケジューリングや、習慣の作り方について紹介していく。
“再起動時間”という考え方と、その設計図
■ 「休む時間」じゃなく「再起動する時間」をスケジュールに入れる
バーンアウト寸前までいったあの日から、僕は「働く時間」じゃなくて「再起動する時間」を軸にスケジュールを組み直した。
たとえば、以前はこんな感じだった:
09:00〜12:00 クライアントMTG&レビュー資料作成
13:00〜18:00 コーディング&デザインレビュー
21:00〜23:00 欧州チームとの英語会議
休憩時間は入れてたけど、脳が完全に“切断”できる時間はなかった。
だから今は、まずこれを最初に確保する:
08:30〜09:00 沈黙タイム(再起動その1)
13:00〜13:20 軽い運動(再起動その2)
17:30〜18:00 シャットダウンルーティン(再起動その3)
この“再起動タイム”を、ミーティングや納期よりも先にブロックしておく。
Googleカレンダーにも「🔌REBOOT」と書いて、誰にも奪われない時間にした。
■ 再起動タイムの3分類:シャットダウン・フラット化・立ち上げ
再起動って、一言で言ってもいろんなタイプがある。
僕がたどり着いたのは、以下の3つの分類だった:
1|シャットダウン型(強制終了モード)
- 脳がパンパンになったときに使う
- ノイズカット(耳栓、通知オフ、暗めの部屋)
- 15分の仮眠、または完全沈黙(無音散歩など)
目的:脳の暴走を一回リセットすること。
2|フラット化型(バランス調整モード)
- 精神的なアップダウンがあった日の午後に入れる
- 軽い有酸素運動(階段昇降、短いストレッチ)
- 「いいも悪いも考えない」動作に集中する(皿洗い、掃除もアリ)
目的:メンタルの偏りを平準化しておくこと。
3|立ち上げ型(再構築モード)
- 翌日以降のために意図的に“仕込み”を入れる
- ポジティブな読書、未来を考える日記
- 「今日はこれだけできた」と言語化する振り返り
目的:次の日にスムーズに脳が立ち上がるよう、準備しておくこと。
この3つの再起動パターンを、日や状況によって組み替える。
その日の疲労感に応じて、「今の自分はどの再起動が必要か?」を考えてスケジューリングする。
これはもう、UI設計と同じ。“状態管理”の考え方を、自分自身に応用しただけ。
■ スケジュールの「空白」を“安全領域”として設計する
再起動時間って、予定を詰め込んだ後に「空いたら入れよう」では絶対に取れない。
だから僕は**最初に「埋められない空白」**を1日の中にいくつか作ることにしてる。
この時間帯は、以下のようなルールを設定:
- カレンダー上は「予定あり」に設定して誰も入れられないようにする
- 自分でも「何もしない」が基本(やっても“意味のないこと”)
- 無理に価値を生み出そうとしない時間
この時間があると、心理的な逃げ場が生まれる。
「何かあっても、ここで回復できる」という安心感が、想像以上に大きい。
■ 言語疲労・時差ストレスにも“再起動ポイント”を置く
グローバルプロジェクトで働く中で意外と大きいのが、言語疲労と時差ストレス。
これって、体は元気でも、じわじわ効いてくる。
僕は1日1〜2時間、英語のZoomやチャット対応が続いたあとは、言語を切る時間を意識的に作ってる。
たとえば:
- “英語を見ない時間”を作る(本や動画は日本語)
- “無言時間”を設ける(誰とも喋らない)
- “音だけの世界”に入る(ピアノや環境音)
この時間を取るようにしてから、翌日の英語会議での集中力が明らかに変わった。
■ 再起動を「仕組み」にすることで、“疲れる前に回復”できるようになる
再起動の最大の効果は、「疲れをためない体質」に変わっていくこと。
昔の僕は、疲れたら回復しようとしてた。
でも今は、疲れる前に“積極的に減速”する。
これが、自分にとって最高のアンチ・バーンアウト戦略だった。
“再起動設計”が崩れた日と、そこから学んだこと
■ 設計通りにいかない「現場のリアル」
どれだけ緻密にスケジュールを組んでも、どれだけカレンダーに「🔌REBOOT」って入れても。
想定外の“緊急事態”って、やっぱり来る。
ある日、クライアント側の大規模リリース直前に、仕様変更が入った。
日本・フランス・インドの3拠点で連携してたんだけど、「レビュー対応の最終責任者」として僕の名前が書かれていた。
深夜のSlackで「急ぎのチェックお願いできる?」って言われた瞬間、再起動スケジュールは崩れた。
■ 崩れるのは、時間だけじゃない。自分自身の“判断軸”も歪む
再起動時間は物理的に消えたけど、もっと怖かったのは、“休むことへの罪悪感”が戻ってきたこと。
- 「今ここで僕が止まったら、他のメンバーが大変になる」
- 「こんなに信頼されてるのに、オフにするなんて無責任じゃないか?」
- 「あと少しだけ頑張れば、後が楽になる」
そうやって、自分の「再起動の設計思想」が、1つずつ崩れていった。
“人間的な責任感”と、“エンジニア的な設計”の間で、完全にバランスを失った。
その結果どうなったか。
👉 僕は、自分の「再起動信号」を見逃した。
■ 小さな違和感を「流したこと」が、大きな不調につながる
当時、心と体にはサインが出ていた。
- 頭が重くて、なぜかUIの構造が思い浮かばない
- 英語のミーティング中、相手の話を聞いてるのに理解できない
- 夜中、Slackが鳴るとビクッとして、眠れなくなる
でも、「忙しいから仕方ない」とスルーした。
本来なら、“再起動タイム”で処理するはずのエラーを、無視して走り続けた。
結果的に、納品は間に合った。
でも、そのあと丸2日、完全に動けなくなった。
■ “やりがい”は、エネルギーじゃない。“ガソリン”ではなく“アクセル”だ
この体験を通じて、僕が痛感したのは、
「やりがい」は、動機にはなっても、体力にはならない
ということ。
どんなに面白くても、
どんなに信頼されても、
どんなにやりがいがあっても、
ガス欠のまま走ってたら、車は止まる。
「気持ちがあるから大丈夫」と思っても、体は正直だ。
■ “責任感”が強い人ほど、再起動設計は「外からのチェック」が必要
再起動タイムを自分で守るって、意外と難しい。
特に日本人で、責任感が強い人(僕もそう)は、**「頑張ればなんとかなる」**で押し切ろうとしてしまう。
だから僕はこの事件をきっかけに、**“再起動タイムの外部承認”**を取り入れた。
たとえば:
- 海外の同僚に「この時間は絶対にオフにする」と宣言
- あえて、“再起動ログ”を週に1回共有(運動した時間、読書した本など)
- ワークログの代わりに、“RESTログ”を取ってみる(Notionで可視化)
すると不思議なことに、「休むこと=信頼を守ること」という意識に変わってきた。
「元気に働き続けること」が最終的にはプロジェクトへの貢献になる。
そのために、“メンテナンスを習慣化する”ことの価値が見えてきた。
■ 再起動設計は、UIと同じ。“一度作って終わり”じゃない
UI設計って、ユーザーの使い方やニーズが変わればアップデートが必要になる。
それと同じで、「再起動設計」も、定期的なリファクタリングがいる。
僕もこの件をきっかけに、次のように設計を見直した:
- 通知オフの時間 → 2時間から4時間に延長
- “Slack対応の限界時間” → 23時→22時に繰り上げ
- “再起動ログ”を週次レビューのKPIに組み込む(働いた時間じゃなく、休んだ質を評価)
■ 働くことと回復することは、“両輪”だと気づいた
このしくじりから学んだのは、
働くスキルと同じくらい、“回復するスキル”も鍛えないとダメ
ということ。
海外で働く僕たちエンジニアには、
・異文化コミュニケーション
・英語での設計レビュー
・複数タイムゾーンとの連携
…そういった「働くスキル」が注目されがちだけど、
実はその土台にあるのは、**「燃え尽きずに続ける力」**なんだと思う。
“無理せず続ける”ための再起動テンプレートと、海外仲間と作った共通ルール
■ 「続けられる設計」じゃなきゃ意味がない
失敗を経験して痛感したのは、どれだけ理想的な“再起動ルール”を考えても、現場で回せなきゃ意味がないということだった。
だから僕は、「3秒で判断できる再起動テンプレート」を作った。
キーワードは:
✔︎ シンプル
✔︎ 再現性がある
✔︎ 面倒じゃない
このテンプレートは、毎日ガチガチに守るためじゃなくて、「調子悪いときの自分を守るための設計図」として持つもの。
つまり、“未来の自分”に優しくするための仕組みです。
■ 再起動テンプレート【平日編】
🌞 朝(8:00〜9:00)
- ✔︎ コーヒーの前に、5分だけ“無音”の時間(スマホ見ない)
- ✔︎ 呼吸だけに集中(瞑想ではなく“ただ息を吸う”)
目的:寝ている脳を自然に起こす
🖥️ 午前中(9:00〜12:00)
- ✔︎ 1時間ごとに「リロードブレイク(5分)」
- コーヒー、ストレッチ、目を閉じるなど
- タイマーで強制的に止める
目的:入力過多を防ぐ。脳のキャッシュを整理する
🍽 昼(12:00〜13:00)
- ✔︎ スクリーンゼロタイム
- PCもスマホもシャットダウン
- 外に出る、洗い物、料理、音楽だけ聞くでもOK
目的:脳を“静的”な環境に戻す
🌇 夕方(17:30〜18:00)
- ✔︎ 「今日よかったこと」を1行書く
- ✔︎ 「明日のための1行メモ」(考えすぎない)
目的:未完了感を“言語化”して脳を切り替える
🌃 夜(22:00以降)
- ✔︎ スクリーンを切ってから30分後に就寝
- ✔︎ 音楽 or 本 → 眠くなければ、軽く深呼吸して寝る
目的:自然な再起動モードへ移行する
■ 海外エンジニア仲間と作った“3つの共通ルール”
再起動設計を語り合う中で、同じようにリモートで働く仲間たちと「共通ルール」を作った。
目的は、“孤独な健康管理”をちょっとだけシェアできる仕組みにすること。
1|週1回「再起動レポート」を送り合う
Notionで「今週の自分をどう休めたか」だけを簡単に記録。
項目は3つだけ:
- 今週いちばん疲れたときのこと
- どうやって回復したか?
- 今のエネルギー残量(100%中)
Slackやメールで送り合うだけだけど、これがかなり効く。
「回復も共有していい」という文化が、心理的な安全性につながった。
2|“No Meeting Day”を強制的に設ける
各自のプロジェクトとは関係なく、毎週1日は「再起動優先日」に設定。
この日はSlackも低浮上、Zoomもブロック、コードレビューも可能なら延期。
会社に依存しない、「個人が自分に課す守りの日」。
ちなみに僕は毎週金曜をこの日にしてる。
金曜夜に英語レビューをやるのは、僕にとって“健康コスト”が高すぎたから。
3|「無理なときに“NO”と言う」文化を作る
これがいちばん重要だった。
海外のチーム文化では、よくも悪くも“自己主張ありき”になる。
だから、「I’m too tired to jump into this task today(今日はタスク無理そう)」って言っても、意外と誰も怒らない。
むしろ、「ありがとう、言ってくれて助かる」って返ってくることも多い。
“体調”を共有しても信頼は減らないって、僕には衝撃だった。
そしてその第一歩として、自分から「今日は少しリズムが落ちてる」と言える勇気を持つようにした。
■ 成果は“働いた時間”より“整ったリズム”から生まれる
このテンプレートと共通ルールを回すようになって、
明らかにパフォーマンスが安定した。
- UIレビューの説明が、スムーズになった
- WPFの設計で「待たせない」判断が増えた
- 英語でのやり取りで「焦らない」余裕が生まれた
再起動時間は、“サボり”じゃない。戦い続けるための“戦略”だった。
■ 最後に:エンジニア人生を“長く、面白く”するために
僕はエンジニアとして、まだまだ新しい挑戦を続けていきたいと思っている。
でもそれを実現するためには、体と心がまず整っている必要がある。
だから今では、「どう休むか」も僕の“設計業務”の一部だと思っている。
✅まとめ:今日からできる再起動設計
- ✔︎ スケジュールに「🔌再起動時間」を先に入れる
- ✔︎ 通知や言語の入力を“無効化”する時間を持つ
- ✔︎ 週に一度、「自分の回復状態」を言語化する
- ✔︎ “働き方”より“休み方”にこだわる
- ✔︎ 再起動は1人でやらない。“共通ルール”で支え合う

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