海外でC# / WPFエンジニアとして設計開発の現場に立ち続けている僕が、今回どうしても伝えたいテーマがあります。それは、最新の言語仕様やアーキテクチャの知識以上に、僕らエンジニア自身の「OS」をどうアップデートし続けるか、という話です。
海外のスピード感と変化の激しい現場で生き残るために、僕が辿り着いた答えは**「完璧主義を捨てること」**でした。代わりに手に入れたのが、自分自身を一つの「システム」と見立ててフィードバック・ループを回す思考法。まずは、僕がかつて陥った「完璧主義の罠」と、そこから抜け出すきっかけになったエピソードから話を始めましょう。
海外の精鋭に囲まれて気づいた、僕の「成長システム」に致命的なバグ
こっち(海外)の生活も長くなってきたけれど、いまだに忘れられない「手痛い洗礼」を受けた時期があります。それは、ある世界的なSaaS企業のデスクトップアプリ(もちろんWPFです!)を開発する精鋭チームに放り込まれたばかりの頃のこと。
当時の僕は、いわゆる「真面目な日本人エンジニア」の典型でした。設計書は1ミリの矛盾もなく書き上げたいし、コードは最初からエレガントで、テストカバレッジ100%のテストが揃っていないと気が済まない。日本ではそれが「美徳」だったし、実際それで評価もされてきました。しかし、海外のトップチームが求めているのは、そんな「スローな完璧」ではなかったんです。
ある日のスプリント・レビュー。僕は自分が一週間かけて作り込んだ「完璧(だと思っていた)設計」をドヤ顔で披露しました。すると、テックリードから放たれたのは賞賛ではなく、困惑の溜息でした。
「Ken、君の設計は美しい。でも、一週間もかけてこれを出してきたのは遅すぎる。この一週間の間に、ビジネス側の要求は3回変わったし、隣のチームが作ったAPIの仕様も変更された。君の『完璧な設計』は、もう古いんだよ」
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。僕は「正解」を出そうとしていました。でも、こっちの現場で求められていたのは、「正解」を出すことではなく、**「素早く間違えて、素早く修正する(Fail Fast, Fix Fast)」**ことだったんです。
ウォーターフォールな生き方というレガシーコード
これって、僕らがC#で開発している時の「アジャイル」や「CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイ)」そのものですよね。ソフトウェアはあんなに小まめにビルドして、テストして、フィードバックを受けて改善しているのに、なぜか自分自身の「エンジニアとしての生き方」だけは、巨大なウォーターフォールのように「100点満点が出るまでリリースしない」というバグを抱えていたんです。
海外で働くということは、常に「不確実性」の波に飲まれるということ。英語のニュアンスが100%伝わらない、文化の違いで衝突する、技術スタックが数ヶ月で古くなる……。そんな環境で「最初から完璧」を目指すのは、もはや自殺行為に近い。
そこで僕は決めました。自分自身を一つの「ソフトウェア」だと定義し直そう、と。自分の行動、学び、キャリア。すべてを細分化して、高速でフィードバック・ループを回す。バグ(失敗)が出るのは当たり前。大切なのは、そのバグをいつまでも放置せず、即座にパッチを当てて「次のバージョン」へイテレーション(反復学習)を回し続けることだ。
自分を高速で回せ。毎日、毎週、四半期で人生を「イテレーション」する技術
海外でC# / WPFエンジニアとして働いていると、とにかく「時間」と「エネルギー」のマネジメントが死活問題になります。多国籍なチームとのコミュニケーション、時差を超えた調整、そして次々と出てくる新しい技術スタック。これらを「気合」で乗り切ろうとすると、一瞬で燃え尽きる(バーンアウト)か、あるいは時代の波に置いていかれます。
そこで僕が取り入れたのが、エンジニアリングのプラクティスをそのまま自分の生活に適用すること。つまり、自分自身の成長とコンディションを**「イテレーション(反復)」**で管理する手法です。
1. デイリー・セルフリフレクション:人生の「ユニットテスト」
僕が毎日、仕事終わりの5分間でやっているのが、自分への「デイリー・スクラム」です。
- 「今日の自分は、期待通りのコードを書けたか?」
- 「チームとのコミュニケーションで、パケットロス(誤解)はなかったか?」
- 「一番『フロー状態』に入れたのはいつで、何がそれを邪魔したか?」
これをノートやメモアプリに殴り書きします。ポイントは、「感情」ではなく「事象」にフォーカスすること。 例えば、「英語がうまく話せなくて落ち込んだ」と書くのはNG。それはただのノイズです。代わりに「スタンドアップ・ミーティングで、WPFのバインディングの不具合を説明するのに3分かかった。図解を用意していれば1分で済んだはず」と書く。
これって、単体テスト(ユニットテスト)と同じなんですよね。小さな失敗をその日のうちに「バグ」として検出し、翌日のアクション(修正パッチ)に繋げる。これを毎日繰り返すだけで、1ヶ月後には自分の「仕事の解像度」が劇的に上がっていることに気づくはずです。
2. ウィークリー・レビュー:自分の「バックログ」を整理する
週末には、もう少し大きな視点で一週間を振り返ります。これはアジャイル開発でいうところの「スプリント・レトロスペクティブ(振り返り)」です。海外の現場は、放っておくとどんどん「他人の優先順位」で自分の時間が埋まっていく。不必要なミーティング、緊急ではないSlackのメンション……。だから、週に一度、自分の**「学習バックログ」**を整理し直す必要があります。
- 「今週、C#の新機能を実務で試せたか?」
- 「海外エンジニアとしての市場価値を上げるためのインプットはできたか?」
もし、日々のタスクに追われて「自分の成長」がストップしていたら、それは立派な**「技術負債」**です。来週はどの時間を削って、自分の学習時間を確保するか。それを週末のうちに「予約」してしまう。この「自分との契約」を守れるかどうかが、3年後に「どこでも通用するエンジニア」になれるかどうかの分かれ道になります。
3. クォーターリー・アジャストメント:キャリアの「ロードマップ」を書き換える
そして3ヶ月に一度、もっと大きな「OSのアップデート」を行います。海外の評価面談(パフォーマンス・レビュー)は、日本のそれよりもずっとドライで、かつ具体的です。「頑張りました」は1円の価値にもならない。求められるのは「どのようなインパクトをビジネスに与えたか」です。
だから僕は、3ヶ月ごとに自分の成果を「職務経歴書(Resume)」に書き出すようにしています。
- 「この3ヶ月で、WPFのレンダリング速度を20%改善した」
- 「アーキテクチャの刷新を提案し、チームのデプロイ頻度を上げた」
これを書いてみて、「あれ、今期は書くことが何もないな……」と冷や汗をかくこともあります。でも、それがいいんです。その「焦り」こそが、次の3ヶ月で何をすべきかを教えてくれる最高のフィードバックになります。
プライベート・プロジェクトこそ「ポストモーテム」を。失敗を即座に血肉に変える思考法
「あー、また時間を溶かしてしまった……」 海外のエンジニア仲間は、みんな驚くほどプライベートでもコードを書きます。僕も御多分に洩れず、最新の .NET や WPF の機能を試したり、便利な自作ツールを作ったりするのが趣味なんですが、ある時、3ヶ月かけて作った「最強のタスク管理ツール」が見事に大爆死したことがあります。
設計は完璧、UIは最新の Composition API を使いまくってヌルヌル動く。でも、いざ使い始めてみると、致命的な使い勝手の悪さと、自分で自分の設計した複雑なデータ構造に首を絞められる結果になりました。結局、そのプロジェクトは誰にも使われることなく、僕の GitHub 秘密リポジトリに埋葬されることになったんです。
普通のエンジニアなら「あー、無駄な時間だった」と酒でも飲んで忘れるところかもしれません。でも、海外の「強い」連中がやっているのは違いました。彼らは、たとえプライベートな失敗でも、それを**「ポストモーテム」**にかけて徹底的に解剖するんです。
自分を責めない「Blameless」な自己反省
「ポストモーテム(Post-mortem)」というのは、直訳すると「検死」。IT業界、特に海外のSRE(サイト信頼性エンジニアリング)文化では、システム障害が起きた後に「何が原因で、どう再発防止するか」をまとめる文書のことを指します。
ここで一番大事なプロトコルが 「Blameless(非難なし)」。 「僕がバカだったから」「僕に技術がなかったから」という精神論は、報告書から徹底的に排除されます。代わりに「なぜ、この設計を選択したのか?」「どの時点で、失敗の兆候を検知できたはずか?」という、システム上の不備として分析するんです。
僕は自身の失敗プロジェクトに対して、一人でポストモーテムを書いてみました。
- 現象: 3ヶ月の工数を投入したが、プロダクトが実用に耐えなかった。
- 根本原因(Root Cause): ユーザー(自分)の真の課題ではなく、技術的な興味(最新ライブラリの使用)を優先した設計になっていた。
- 教訓: 完璧な設計を 100% 作ってからデプロイするのではなく、最小限の機能(MVP)を 1 週間で作り、即座にフィードバックを得るべきだった。
これって、C# の例外処理(Exception Handling)に似ていると思いませんか? catch (Exception ex) だけで握りつぶしちゃうのは最悪です。なぜその例外が起きたのか、スタックトレースを追い、根本的なロジックのバグを修正して、二度と同じエラーが出ないようにコードを書き換える。それを自分の「人生」や「プロジェクト」でもやるんです。
「5 Whys」で深掘りする
海外のチームでよく使われる手法に「5 Whys(5つのなぜ)」があります。
- なぜプロジェクトが失敗した? → 使いにくかったから。
- なぜ使いにくかった? → 機能が多すぎて複雑だったから。
- なぜ複雑にした? → 自分の設計能力を証明したかったから。
- なぜ証明したかった? → チーム内での自分の立場に不安があったから。
- なぜ不安だった? → 自分の成果を客観的に評価する基準(フィードバック・ループ)がなかったから。
ここまで掘り下げると、もはや技術の話ではなく、自分の「メンタルモデル」の話になってきます。
レジリエンスこそが最強のスキル。完璧を捨てて「最適化」し続けるエンジニアが最後に笑う
「起」「承」「転」と、自分自身をアップデートし続けるためのフィードバック・ループについて話してきました。最後となる「結」では、これらすべての習慣が、最終的に君に何をもたらすのかをお話しします。
海外という荒波の中でエンジニアとして、一人の人間として「勝つ」ための本当の資質。それは、最新の技術スタックよりも、流暢な英語よりも大切な、**「レジリエンス(しなやかな強さ)」**の話なんです。
「完璧主義」という重荷を下ろした先に
僕が「完璧主義」を捨て、自分をフィードバック・ループのシステムの中に置くようになってから、一番変わったのは「心」の持ちようです。以前は、コードにバグが見つかったり、設計を批判されたりすると、まるで自分自身を否定されたような気分になっていました。でも今は違います。
「お、いいフィードバックが来た。これでシステムの脆弱性が一つ減るぞ」
そう思えるようになったんです。C# のコードも、人生のキャリアも、完成することなんてない。常に未完成で、常に改善の余地がある。そう思えると、海外の厳しい評価制度や、予測不能なトラブルも、すべては「最適化のためのデータ入力」に過ぎなくなります。この心の余裕が、結果として「一番仕事ができる人」という評価に繋がっていくんです。
君自身の「OS」を最適化し続けよう
WPFのアプリを設計する時、僕らは常にリソースの効率化やユーザーの利便性を考えます。それと同じ情熱を、自分自身にも向けてほしい。
- Iterate(反復): 立ち止まらず、小さな一歩を刻み続ける。
- Adapt(適応): 変化を嘆くのではなく、新しい環境に合わせて自分を書き換える。
- Optimize(最適化): 無駄を削ぎ落とし、自分が最も輝ける「フロー状態」を追求する。
このループを回し続ける限り、君の市場価値が下がることはありません。たとえ明日、C# がこの世から消えて、全く新しい言語が主流になったとしても、君の「学習し、適応するシステム」があれば、どこでだって生きていけるはずです。
最後に:海外を目指す君へ
海外で働くことは、決して楽な道ではありません。言葉の壁、文化の壁、そして時には自分自身の無力さに打ちひしがれることもあるでしょう。でも、忘れないでください。失敗は「バグ」ではなく、君をアップグレードするための「貴重なログ」なんです。
そのログを無視せず、ポストモーテムを書き、次のイテレーションに繋げる。その繰り返しこそが、君を誰も見たことがないような高い場所へと連れて行ってくれます。僕もまだまだ、自分のOSをデバッグしている最中です。
世界のどこかの現場で、同じように自分をアップデートし続けている君と、いつか肩を並べてコードを書ける日を楽しみにしています。完璧じゃなくていい。最高に「しなやかな」エンジニアになって、一緒に未来をビルドしていきましょう!
Happy Coding, and keep iterating!

コメント