目先のバグ潰しに追われるな。「問題解決」の罠と「エコシステム」という視点
こんにちは!海外のとある国で、今日もVisual Studioと睨めっこしているC#エンジニアの僕です。
今日はちょっと真面目に、でもこれから海外に出ようと思っているエンジニアの皆さんに絶対に知っておいてほしい「生存戦略」の話をします。これを知っているかどうかで、海外の現場での評価、もっと言えば給料の上がり幅が桁違いに変わると言っても過言じゃありません。
皆さんは「エンジニアの仕事は何?」と聞かれたら、どう答えますか?
「機能を実装すること」「バグを直すこと」「要件を満たすコードを書くこと」。
うん、全部正解です。間違ってません。僕も日本で働いていた頃や、こっちに来たばかりの頃はそう思っていました。JIRAのチケットを右から左へ流すことこそが、僕の存在意義だと信じて疑わなかったんです。
特に僕が専門にしているC#のWPF(Windows Presentation Foundation)なんていう技術は、XAMLとコードビハインド、そしてViewModelが複雑に絡み合う世界です。バグなんて無限に出ます。データバインディングがうまくいかない、非同期処理でUIスレッドが固まる、メモリリークでアプリが落ちる…。
当時の僕は、これを「解決(Problem-Solving)」することに快感を覚えていました。「よし、バグ修正完了!俺すげー!」ってね。
でも、ある日、チームのシニア・アーキテクト(めちゃくちゃ怖いけど優秀な髭のおじさん)に呼び出されたんです。
僕が誇らしげに「あの厄介なバグ、修正しておきましたよ。原因はイベントハンドラの解除忘れでした」と報告した時のことです。彼は褒めるどころか、ため息をついてこう言いました。
「君は優秀な消火士(Firefighter)だな。でも、我々が必要としているのは、そもそも火事を起こさない建築家(Architect)なんだよ」
頭をガツンと殴られたような気がしました。
彼は続けます。「君の修正は正しい。でも、その場しのぎだ。なぜそのイベントハンドラが管理しにくい構造になっている?なぜ開発者が手動で解除しなきゃいけない設計になっている?君は『問題を解決』したけど、『システム全体(Ecosystem)』を見ていない。だから来月、また同じようなバグを別の誰かが埋め込むだろうね」
これが、僕が「Strategic Vision(戦略的視点)」という言葉を本当の意味で理解した瞬間でした。
海外の現場、特に給与水準の高いテック企業やプロジェクトでは、「問題解決能力」は当たり前のスキルとして扱われます。あって当然、空気みたいなものです。そこから一歩抜きん出て、「こいつは手放せない」と思わせるために必要なのが、今回話す「Engineering for the Ecosystem(エコシステムのためのエンジニアリング)」という考え方です。
「エコシステム」と言っても、環境保護の話じゃありませんよ(笑)。
ソフトウェア開発におけるエコシステムとは、コードベースそのものだけでなく、開発プロセス、チームのスキルセット、将来の拡張性、そしてビジネスゴールまでを含めた「系(システム)」全体のことです。
例えば、WPFで新しい機能を追加する依頼が来たとします。
**レベル1のエンジニア(過去の僕)**は、とりあえず動くコードを書きます。コードビハインドにロジックを書き殴り、動けばOK。
レベル2のエンジニアは、MVVMパターンを守り、単体テストを書きます。これは立派な「問題解決」です。
**しかし、レベル3(戦略的エンジニア)**は違います。「この機能を追加することで、既存のモジュール間の依存関係はどう変わるか?」「半年後、この機能が拡張された時に、今の設計は足かせにならないか?」「今のチームメンバーのスキルで、この複雑なRx(Reactive Extensions)の実装を保守できるか?」まで考えます。
これが「エコシステム思考」です。
単に目の前のチケット(課題)を消化するのではなく、「システムレベルでの問題予防(Problem-Prevention)」にシフトすること。これができると、どうなると思いますか?
まず、手戻りが劇的に減ります。そして何より、海外特有の「言葉の壁」や「文化の壁」を超えて信頼されるようになります。なぜなら、あなたの提案するコードや設計が、チーム全体の将来のリスクを減らし、楽にしてくれるからです。
「あいつの言う通りにしておけば、後で痛い目を見ない」
こう思われたら勝ちです。英語が多少拙くても、ミーティングでジョークが言えなくても、設計図とコードでチームを救える人間は、どこに行っても重宝されます。
このブログでは、僕がC#の現場で実際に体験した失敗や成功をもとに、どうやってこの「戦略的視点」を身につけ、ただの「コーダー」から「戦略的パートナー」へとシフトしていくか、その具体的な方法論を書いていきます。
特にこれからの時代、AIがコードを書いてくれるようになります。Copilotに「このバグ直して」と言えば直してくれる時代です。そんな中で、AIにはまだ難しい「未来のニーズを予見し、現在の設計に組み込む」というスキルは、エンジニアとしての寿命を決定的に左右します。
次回からは、具体的にどうやって「未来のニーズ」を予見するのか、そしてそれをどうやって日々のコーディング(設計判断)に落とし込んでいくのか、C#やアーキテクチャの実例を交えながら掘り下げていきます。
「WPFの依存関係プロパティの設計ひとつで、半年後の自分が泣かずに済む方法」なんていう、マニアックだけど超重要な話も出てくるかもしれません。
準備はいいですか?
ただの「便利屋」で終わらないために、視座を一段高く上げて、エンジニアリングの世界を見渡してみましょう。
未来の技術的負債を殺す。「予防的設計」こそが最大の武器になる
「よし、分かった。視座を高く持てってことだな。じゃあ、明日からどうすりゃいいんだ?」
前回の記事を読んで、そう思った方もいるかもしれません。
ここからは、精神論ではなく、僕たちエンジニアの武器である「コードと設計」の話をします。
海外の現場で「お前はStrategic(戦略的)だ」と評価されるための鍵、それが**「予防的設計(Preventive Design)」**です。
これは一言で言うと、**「未来の自分が(あるいは未来のチームメイトが)ブチ切れないように、今のうちに手を打っておくこと」**です。
「YAGNI」の誤解と、真の「予防」
エンジニアなら一度は聞いたことがある格言、「YAGNI(You Ain’t Gonna Need It:それ、どうせ要らないって)」。
「将来必要になるかもしれない機能なんて作るな、今の要件だけ満たせ」という、アジャイル開発の鉄則ですよね。
でも、多くの人がこれを履き違えています。
YAGNIは「使わない機能を作るな」と言っているのであって、「変更に弱いクソコードを書いていい」とは言っていません。ここが決定的な違いです。
僕が海外に来て最初に参画したプロジェクトで、痛い目を見ました。
WPFで作られた在庫管理アプリ。顧客から「データのエクスポート機能が欲しい」と言われました。
当時の僕は「へい喜んで!」と、ViewModelの中にCSV出力のロジックをガリガリ書きました。StringBuilderで文字列を連結して、File.WriteAllTextで保存。完璧な「問題解決」です。機能は動きましたから。
しかし3ヶ月後、顧客は言いました。「やっぱりJSONでも出したいな。あ、一部の部署はXMLで欲しいって言ってるし、保存先はローカルじゃなくてAzure Blob Storageにしてくれない?」
僕は絶望しました。
CSVのロジックがViewModelにベタ書きされていたせいで、それをコピペしてJSON版を作り、さらに保存ロジックもif文で分岐させ…結果、ViewModelは数千行のスパゲッティコードに。修正のたびに別の場所が壊れる「デグレ地獄」の始まりです。
これが「技術的負債」です。借金と同じで、利子(修正コスト)は雪だるま式に膨れ上がります。
「システムレベル」で予防する:インターフェースという防波堤
ここで「エコシステム思考」を持つエンジニアならどうするか。
最初のリクエストが来た時点で、こう考えます。
「今はCSVだけだけど、『出力形式』と『保存先』は将来的に変わる可能性が高い変動ポイント(Change Vector)だ」
だから、具体的な実装(CSV書き出し)に飛びつく前に、抽象的な「契約」を結びます。
C#で言えば、interface(インターフェース)です。
C#
// 抽象化:何をするかだけを定義(Howは問わない)
public interface IDataExporter
{
string Export(IEnumerable<Item> items);
}
public interface IStorageService
{
Task SaveAsync(string content, string fileName);
}
ViewModelは、このインターフェースだけを知っていればいい。
「CSVで書き出すのか」「JSONなのか」「ローカルに保存するのか」「クラウドに飛ばすのか」、そんな詳細はViewModelにとってはどうでもいいこと(関心事の分離)にします。
こうしておけば、後で「Azureに保存したい」と言われても、ViewModelを一行も書き換えることなく、新しいAzureBlobStorageServiceクラスを作って差し替える(Dependency Injectionする)だけで済みます。
これが**「予防的設計」です。
未来を予知して「Azure機能」を作っておくのではありません。「Azureに変更したくなった時に、既存のコードを破壊せずに済む構造」を作っておくのです。これを「Composable Architecture(構成可能なアーキテクチャ)」**と呼びます。レゴブロックのように、パーツを入れ替え可能にしておくわけです。
海外現場のリアル:仕様変更は日常茶飯事
なぜ、海外(特に欧米圏)の現場でこれが重要視されるのか?
それは、日本以上に**「ビジネスのスピードが速く、決定が朝令暮改だから」**です。
日本の開発現場だと、ガチガチに仕様を固めてから実装に入ることが多いですが、こっちは違います。
「とりあえず市場に出してみよう。ダメなら変えよう」
このマインドセットが基本です。つまり、仕様変更こそが正義であり、日常です。
そんな環境で、変更に弱い「ベタ書きコード」を書いているとどうなるか?
マネージャー「来週からDBをSQL ServerからCosmos DBに変えることになった」
あなた「えっ…SQLクエリを全部ViewModelに書いてしまったので、修正に2ヶ月かかります」
マネージャー「…君、なんでそんなに柔軟性がないの?(Why so rigid?)」
これで評価は地に落ちます。
逆に、「ああ、リポジトリパターンで抽象化してあるので、Cosmos DB用の実装クラスを追加するだけでいけますよ。3日で終わります」と答えられたら?
あなたはチームにとって「ビジネスのスピードを止めない守護神」になります。
コードを書く前に「5分」止まる勇気
「でも、納期がキツイのにそんな綺麗事言ってられないよ」
わかります。僕も最初はそうでした。
でも、騙されたと思ってやってみてください。
コードを書き始める前の「5分間」。キーボードから手を離して、コーヒーを飲みながらこう自問するんです。
- 「このロジック、将来的に変わりそうか?」
- 「このクラス、あまりに多くのことを知りすぎていないか?(責務の分離)」
- 「もし明日、UIをWPFからWeb (Blazor) に変えると言われたら、ビジネスロジックは使い回せるか?」
特に3つ目はC#エンジニアには強力な問いです。WPFのViewにロジックを依存させてはいけません。ビジネスロジックは純粋なC#クラス(POCO)やドメインモデルに閉じ込め、UIはただの「表示器」に徹する。
そうすれば、UIフレームワークの流行り廃りが激しいこの業界でも、あなたの書いたコアロジックは生き残ります。
人間関係というエコシステムへの予防
最後に、技術的な話だけでなく、人間関係(チーム)のエコシステムについても触れておきます。
予防的設計の最大のメリットは、**「コードレビューでの戦争を回避できる」**ことです。
スパゲッティコードは、書いた本人しか読めません。それをレビューさせられる同僚はストレスが溜まります。「この変数はどこで変わるんだ!?」と。
一方で、綺麗に責務が分離されたコードは、読むのが楽です。「ああ、ここは保存処理ね、ここは表示処理ね」と。
読みやすいコード(Readable Code)を書くことは、同僚の時間を奪わないという**「他者への敬意(Respect)」**そのものです。
海外のチームは多様です。英語が母国語でない人も多い。そんな中で、コード自体が雄弁に意図を語ってくれれば、無駄なコミュニケーションコストが減ります。
「君のコードは読みやすい。君のPR(プルリクエスト)を見るのは楽でいいよ」
同僚からこう言われたら、あなたはもうチームというエコシステムの中で、なくてはならない「円滑油」のような存在になっています。
さて、ここまでで「予防的設計」がいかに自分を守り、評価を高めるかを話しました。
しかし、設計だけ完璧でも、それをビジネスサイド(非エンジニア)に理解してもらえなければ、「ただ仕事が遅い奴」と思われてしまうリスクがあります。
そこで次回「転」では、この技術的なこだわりを、どうやってビジネス価値として翻訳し、上司やクライアントを納得させるか。エンジニアの枠を超えて「ビジネスに食い込む」ためのコミュニケーション戦略についてお話しします。
コーダーからの脱却。システム全体を俯瞰してビジネスに食い込む方法
前回、「インターフェースを使って将来の変更に備えろ」「YAGNIを言い訳にクソコードを書くな」という熱い話をしました。
翌日、意気揚々と出社したあなたが、上司(PMやプロダクトオーナー)にこう言ったとします。
「ボス、この機能の実装ですが、将来のクラウド移行を見据えて、データアクセス層をリポジトリパターンで抽象化して、DIコンテナを導入したいです。なので、あと3日ください」
さあ、ボスはなんて言うでしょうか?
十中八九、こう言います。
「は? ユーザーには関係ないだろ? 明日までに動くものを出せ」
ここで「ちぇっ、わかってないなー、技術的負債が溜まるのに」と不貞腐れて、言われた通りの汚いコードを書くか。
それとも、「なぜ今、リファクタリングが必要なのか」をビジネスの言葉で説得できるか。
これが、年収5万ドルのコーダーと、年収15万ドルのシニアエンジニア・アーキテクトを分ける「死の谷」です。
エンジニア最大の勘違い:「良いコード=価値」ではない
海外で働いて痛感したことがあります。それは、**「ビジネスサイドの人間は、コードの美しさなんて1ミリも気にしていない」**という事実です。
彼らにとって、僕たちが書くC#のコードは、魔法の呪文の羅列に過ぎません。彼らが気にしているのは「機能(Feature)」と「納期(Time)」と「コスト(Money)」だけ。
ここで僕たちエンジニアが陥り勝ちなのが、「技術者村の言語」で喋ってしまうこと。
「結合度が」「凝集度が」「SOLID原則が」…。
これ、シェフが客に向かって「この包丁の研ぎ角度が15度で、鋼材がダマスカス鋼で…」と延々説明しているようなものです。客は「で、その料理は美味いの?いつ出てくるの?」としか思いません。
「エコシステム思考」を持つエンジニアは、ここで翻訳機を使います。
技術的な課題を、ビジネスのリスクとメリットに変換するのです。
翻訳スキル:技術用語を「金と時間」に言い換える
例えば、さっきの「リファクタリングに3日くれ」という提案。これを翻訳してみましょう。
- × ダメな提案(技術視点):「コードがスパゲッティなので、リファクタリングしないと保守性が下がります」→ ボスの心の声:(またエンジニアの自己満足かよ…後でいいよ後で)
- ○ 戦略的な提案(ビジネス視点):「今の構造のまま進めると、来月予定しているAzure移行の際に、**修正コストが3倍(約2週間分の工数)**になります。今ここで3日投資して構造を整理しておけば、来月の移行は2日で終わります。トータルで8日分のコスト削減になり、リリースのリスクも下がりますが、どうしますか?」
どうですか?
「コードを綺麗にしたい」という欲求を、「コスト削減」と「リスク回避」というビジネスのメリットにすり替えました。
数字を出されたボスは、判断を迫られます。「8日分の人件費をドブに捨てるか、今3日待つか」。合理的なマネージャーなら、間違いなく後者を選びます。
これが**「Engineering for the Ecosystem(エコシステムのためのエンジニアリング)」の真骨頂**です。
コードベース(技術)とビジネスゴール(経営)を繋げること。
「技術的負債」という言葉も、「借金(Debt)」という金融用語が使われているのは伊達じゃありません。利子を払うのは会社です。だからこそ、経営目線で話す必要があります。
「Yesマン」は去れ。「No」と言える専門家になれ
海外の現場では、日本以上に「プロフェッショナルとしての意見」が求められます。
上司の言う通りに動く兵隊は、安いオフショア開発に取って代わられます。
現地で高く評価されるのは、「それはビジネスにとって危険だ」と、上司に面と向かって「No」と言えるエンジニアです。
ある時、マーケティングチームが「画面が寂しいから、背景に動画を流しっぱなしにするアニメーションをWPFで実装してくれ」と言ってきました。
実装自体は可能です。WPFのMediaElementを使えばすぐです。
でも僕は反対しました。
「我々のアプリを使う工場の現場PCはスペックが低い。動画再生でCPUリソースを食うと、肝心の在庫スキャン処理が遅延して、現場の作業効率が落ちるリスクがある。見た目の派手さより、現場の止まらないオペレーション(Performance & Stability)を優先すべきだ」
結果、動画案は却下され、静止画になりました。
もし言われた通りに実装していたら? リリース後に「アプリが重い!」とクレームの嵐になり、その修正に追われていたでしょう。
僕が止めたことで、チームは無駄な開発と、将来のトラブルシューティングという莫大なコストを回避できたわけです。
これが**「問題予防(Problem-Prevention)」**です。
コードを書く前の段階、要件定義の段階で、エンジニアとしての知見を使って地雷を撤去する。
これこそが、あなたがチームにいる本当の価値です。
ビジネスドメインへの深い理解が、最強のコードを生む
そして、的確な「No」や「代替案」を出すためには、C#の知識だけでは足りません。
**「そのソフトウェアが、誰の、どんな課題を解決するためにあるのか」**という、ドメイン(事業領域)への深い理解が必要です。
- 金融系なら、0.1円の誤差も許されない計算ロジックの重要性。
- 物流系なら、ドライバーが片手で操作できるUIの重要性。
- 医療系なら、ネットワークが切れてもデータが消えない堅牢性の重要性。
「ドメイン駆動設計(DDD)」という言葉がありますが、あれは単なる設計パターンではありません。「ビジネスの言葉とロジックを、そのままコードに落とし込む」ための思想です。
エンジニアがビジネスに興味を持ち、「なぜこの機能が必要なんですか?」「これを使うユーザーはどんな状況で操作するんですか?」と質問を投げかけるようになると、PMやデザイナーはあなたを「ただのプログラマー」ではなく、**「プロダクトを一緒に作るパートナー」**として見るようになります。
「あいつに相談すれば、技術的な実現可能性だけでなく、ビジネス的なリスクも指摘してくれる」
こうなれば、あなたのポジションは安泰です。レイオフの嵐が吹いても、最後まで守られるのはこういうエンジニアです。
孤独な職人から、戦略的パートナーへ
ここまで来ると、見えてくる景色が変わります。
かつては「Visual Studioの中にしか世界がない」と思っていたのが、「会社全体、顧客全体のエコシステムの中で、自分のコードがどう機能しているか」が見えてきます。
- コードは書くことより、読まれることの方が多い。
- 機能は作ることより、使われることの方が重要だ。
- 技術は目的ではなく、ビジネスを加速させるための手段だ。
このマインドセットへの転換(パラダイムシフト)こそが、今回のテーマの核となる部分です。
さて、ここまで読んで「なるほど、意識は変わった。ビジネス視点も持った。設計もバッチリだ」となったあなた。
最後に一つ、究極の目標があります。
それは、**「自分がいなくても回るシステムを作ること」**です。
「えっ? 自分が必要不可欠になるのが目標じゃないの?」
矛盾しているように聞こえますよね。でも、これこそが「最強のエンジニア」の条件なのです。
次回、最終回「結」で、その逆説的な真実をお話しします。
あなたがいなくても回るシステムを作れ。それが逆に「あなたを必要不可欠」にする
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
最後に、僕が海外のエンジニアキャリアで学んだ、最も強烈で、かつ最初は受け入れがたかった真実をお伝えします。
それは、**「自分にしか直せないコードを書く奴は、二流だ」**ということです。
昔の僕は、心のどこかでこう思っていました。
「この複雑怪奇なWPFの非同期処理ロジックは、僕にしか理解できない。つまり、会社は僕をクビにできない。僕は会社にとって『不可欠な存在』だ」と。
これは「Job Security(雇用の保障)」の確保のつもりでした。
でも、シニアエンジニアになった今なら断言できます。
それは「不可欠な存在」ではなく、単なる**「ボトルネック(障害物)」**です。
「バス係数(Bus Factor)」の恐怖
エンジニア業界には「バス係数」というブラックな用語があります。
「プロジェクトメンバーの何人がバスに轢かれたら、そのプロジェクトが破綻するか」という指標です。
もし、あなたしか知らない仕様、あなたしか直せないバグがあるなら、そのプロジェクトのバス係数は「1」です。あなたが風邪で休んだ瞬間、開発は止まります。
海外のマネージャーは、これを極端に嫌います。リスク管理ができていない証拠だからです。
「あいつがいないと分からない」と言われるエンジニアは、一見頼りにされているようで、実は**「昇進できない人」**認定されています。なぜなら、今のポジションから動かしてしまうと現場が回らなくなるから、新しいチャレンジやリーダー職を任せられないのです。
ずっと同じ場所で、同じコードの番人をし続けたいならそれでもいいでしょう。
でも、もっと面白い仕事がしたい、給料を上げたいなら、目指すべきは逆です。
**「明日、自分が会社を辞めても、チームもシステムも何事もなく回り続ける状態」**を作ることです。
知識を民主化し、自分を「コモディティ化」せよ
では、どうすればいいか?
答えはシンプル。「自分の脳内にある地図」を、徹底的にアウトプットすることです。
- ドキュメントは「未来の同僚」への手紙「コードを見れば分かる」は嘘です。コードは「What(何をしているか)」は語りますが、「Why(なぜそうしたか)」は語りません。C#ならXMLコメントをサボらず書く。複雑な仕様はWikiに残す。特に「なぜこのライブラリを選んだか」「なぜあえてこの設計にしたか」という意思決定のプロセスを残すことが重要です。
- 自動化という「警備員」を雇う僕がいちいちコードレビューで「インデントがずれてるよ」「nullチェック忘れてるよ」と指摘するのは時間の無駄です。Roslynアナライザーや単体テスト(Unit Tests)、CI/CDパイプラインを整備して、機械に指摘させましょう。「テストが通らなければマージできない」というシステムを作れば、僕がいなくてもコードの品質は担保されます。
- メンターシップで「自分のコピー」を作る新しく入ってきたジュニアエンジニアに、自分の知識を惜しみなく教えましょう。「教えたら自分の価値が下がる」なんてケチなことを考えてはいけません。彼らが成長して、自分の代わりにタスクをこなしてくれるようになれば、自分は空いた手で、より高度なアーキテクチャ設計や、新しい技術選定、ビジネス改善に取り組めるようになります。
逆説的成功:スケーラブルなエンジニアへ
不思議なことに、「自分がいなくても回る仕組み」を作れば作るほど、会社からの評価は爆上がりします。
「あいつはチーム全体の生産性を上げる仕組みを作った」
「あいつはジュニアを育てるのが上手い」
「あいつに任せれば、属人化のリスクがない堅牢なチームができる」
こうなると、あなたは単なる「コードを書く作業員(Worker)」から、**「組織をエンジニアリングするリーダー(Multiplier)」**へと進化します。
海外のテック企業において、Staff EngineerやPrincipal Engineerといった高年収のポジションに求められるのは、まさにこの能力です。
自分一人の1馬力で戦うのではなく、チーム全員の出力を底上げし、10馬力、100馬力を出すための「レバレッジ」をかける存在。
これが、冒頭で話した「Engineering for the Ecosystem(エコシステムのためのエンジニアリング)」の最終到達点です。
最後に:今日からできること
長くなりましたが、最後に一つだけ。
明日、コードを書くときに、ふと手を止めて考えてみてください。
「このコード、半年後に入ってくる新人が読んでも理解できるかな?」
「この作業、毎回手動でやってるけど、スクリプト一発で誰でもできるようにできないかな?」
「この機能追加、ビジネスにとって本当にプラスになるのかな?」
その小さな「問い」の積み重ねが、あなたを「プログラマー」から「エンジニア」へ、そして「戦略的パートナー」へと変えていきます。
海外で働くということは、言語や文化のハンデを背負って戦うということです。
でも、**「良いシステムを作り、未来のリスクを減らし、チームを助ける」**というエンジニアリングの本質的な価値は、国境を越えます。万国共通です。
綺麗なコードと、思いやりのある設計は、拙い英語よりも雄弁にあなたの優秀さを語ってくれます。
さあ、Visual Studioを開きましょう。
目先のチケットを消化するためではなく、未来のエコシステムを築くために。
Good luck, and Happy Coding!

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