【海外エンジニア生存戦略】バグを潰すな、未来を創れ。5 Whysと石川ダイアグラムで手に入れる「真の解決力」

「終わらないデバッグ」という悪夢 — なぜ、あなたの修正はまた火を吹くのか?

金曜日の午後4時、Slackの通知音とともに

「Hey, あの画面、またクラッシュしたぞ。」

海外のオフィスで働き始めて数年、いまだにこの言葉を聞くと背筋が凍ります。日本にいた頃も同じでしたが、ここ海外では、その言葉の重みが少し違います。言葉の壁、文化の壁、そしてシビアな成果主義。そんな中で発生する「以前直したはずのバグ」の再発は、エンジニアとしての信頼(Credibility)をゴリゴリと削り取っていく音が聞こえるようで、本当に胃が痛くなる瞬間です。

私は普段、C#とWPF(Windows Presentation Foundation)を使って、企業の基幹システムに近いデスクトップアプリケーションの設計・開発をしています。WPFは強力です。XAMLによる柔軟なUI、強力なデータバインディング、MVVMパターンによるロジックの分離。しかし、その「魔法のような便利さ」の裏側で、一度バグり始めると、原因が「ViewModelのロジック」なのか、「XAMLのバインディングミス」なのか、はたまた「非同期処理のレースコンディション」なのか、迷宮入りすることもしばしばです。

ある時、とあるプロジェクトでメモリリークの問題に直面しました。

「画面を閉じてもメモリが解放されない」

これ、WPFあるあるですよね。イベントハンドラの解除忘れとか、強参照が残ってるとか。

当時の私は、とにかく「チケットを消化すること」に必死でした。マネージャーからは「As soon as possible(なるはやで)」と急かされ、QAチームからは冷ややかな視線を送られる。焦った私は、プロファイラを回し、怪しい箇所を見つけ、「ここを WeakReference に変えれば動くはず!」と、いわゆる「パッチ(絆創膏)」を当てて修正完了としました。

テスト環境では動きました。QAもパスしました。「よし、これでこの件はクローズだ!」と美味しいビールを飲んだ週末。

しかし、翌週。

「今度は別の画面で、データが更新されないんだけど?」

……やってしまったんです。根本的な原因(例えば、データコンテキストのライフサイクル設計そのものの誤り)を見ずに、表面的な事象だけを塞いだせいで、別の副作用を生んでしまった。まさに「モグラ叩き」。

海外の現場で痛感する「Why」の欠如

日本での開発現場でも「なぜなぜ分析」という言葉はよく聞きますよね。トヨタ生産方式のアレです。でも、正直に言います。日本にいた頃の私は、これを「面倒な書類仕事」だと思っていました。「そんなことよりコード書かせろよ」と。

しかし、海外に出てきて痛感したのは、「Why(なぜ)」を言語化できないエンジニアは、どれだけコードが速く書けても評価されない という現実です。

ここには、阿吽の呼吸はありません。「なんとなく直しました」「多分これで大丈夫です」は通用しないのです。

“Why did it happen?”(なぜ起きた?)

“How can you ensure it won’t happen again?”(二度と起きないとどう保証する?)

この問いに対して、論理的かつ構造的に答えられないと、あなたのプルリクエスト(PR)はマージされません。逆に言えば、ここをクリアに説明できるエンジニアは、単なる「コーダー」ではなく、「アーキテクト」や「プロブレム・ソルバー」として、チームから絶大な信頼を得ることができます。

多くのエンジニア、特に私のように現場で手を動かすことが好きな人間は、バグを見るとすぐに「How(どう直すか)」に飛びつきがちです。「Nullチェック入れれば落ちないじゃん」「try-catch で囲えばとりあえず動くじゃん」。

わかります。動くコードを見るのは気持ちいいですから。

でも、それは「Mastery(熟達)」ではありません。それはただの「対症療法」です。

鎮痛剤を飲んで頭痛をごまかしている間に、脳内で腫瘍が大きくなっているのと同じこと。コードベースという「生きた資産」の中に、時限爆弾を埋め込んでいるようなものです。

「Quick Fix」という名の麻薬

なぜ私たちは、根本原因の追求(Root Cause Analysis)をサボってしまうのでしょうか?

理由は簡単。「脳のリソースを使うから」そして「時間がかかるように見えるから」です。

特にWPFのようなリッチクライアントの開発では、UIの挙動とバックエンドのロジックが密接に絡み合います。

「非同期でデータを取得し、コレクションに突っ込み、UIスレッドで描画を更新する」

この一連の流れのどこかでバグが起きたとき、一番簡単なのは「とりあえず Dispatcher.Invoke を噛ませる」とか「遅延処理を入れる」といったハックです。

これをやると、その場では動きます。チケットは「Resolved」になります。マネージャーは喜びます。脳内でドーパミンが出ます。これが「Quick Fixの麻薬」です。

しかし、海外でシニアエンジニアたちと働いていて気づいたことがあります。彼らは、私が1時間で終わらせそうなバグ修正に、あえて半日かけることがあるんです。

最初は「仕事が遅いな」と思っていました。でも、違うんです。

彼らは、そのバグをきっかけに、「このバグを生み出した仕組みそのもの」 を殺しにかかっていたんです。

彼らはコードだけでなく、

  • 要件定義の曖昧さ
  • 開発プロセスの不備
  • チーム内のコミュニケーションミス
  • 使用しているライブラリの選定理由

そこまで遡って「真犯人」を探していました。

その結果、彼らが修正したコードは、二度と壊れません。それどころか、似たようなバグが起きる可能性すら排除されている。「Future-Proofing(未来への備え)」ができているのです。

これから紹介する「武器」について

「じゃあ、具体的にどうすればいいの? 毎回そんな深く考えてたら日が暮れるよ」

そう思うかもしれません。私もそうでした。

英語での議論に疲れ、技術的な調査に疲れ、その上で「プロセスまで見直せ」なんて言われたら、キャパオーバーです。

だからこそ、「フレームワーク(思考の型)」 が必要なのです。

天才的な直感に頼る必要はありません。英語がネイティブ並みにペラペラである必要もありません。

図を描き、矢印を引く。ただそれだけで、複雑に絡み合った事象を解きほぐし、誰もが納得する「真因」にたどり着けるツール。

それが、今回紹介する 「5 Whys(なぜなぜ分析)」 と 「Ishikawa Diagram(特性要因図)」 の統合戦略です。

これは、単なるバグ修正の手法ではありません。

あなたが海外の現場で、「言われたことだけやるエンジニア」から、「チームを導き、システムを堅牢にするエンジニア」へと進化するための、最強のコミュニケーションツールであり、思考のOSアップデートです。

次章からは、私が実際のWPF開発現場で、この二つのツールをどう組み合わせて使っているか。そして、それがどのようにして「Unparalleled Root Cause Analysis(比類なき根本原因分析)」へと昇華されるのか。その具体的な手順と、脳内プロセスを余すことなく公開します。

準備はいいですか?

もう、金曜日の夕方に怯えるのは終わりにしましょう。

バグを追いかける側から、バグが生まれる余地そのものを消し去る側へ。

さあ、思考の深淵へ潜る準備をしてください。

思考のメスを入れる — 「5 Whys」で見つける真犯人と、「石川ダイアグラム」で描く全体像

バグ修正は名探偵の仕事だ

前回の話で、バグが再発する原因は「表面的な修正」にあると強調しました。じゃあ、表面じゃなくて「根本」をどうやって見つけるのか? 勘でやると時間のムダです。ここで登場するのが、私の海外での「お守り」となっている二つの強力なフレームワークです。

  1. 5 Whys(なぜなぜ分析): 事象の深掘り。因果関係を直線的に辿り、真の根本原因(Root Cause)を特定する。
  2. Ishikawa Diagram(特性要因図/フィッシュボーン図): 事象の広がり。あらゆる要因をカテゴリー分けし、原因の全体像と複雑性を構造化する。

この二つを個別で使う人は多いですが、真のパワーは**「統合して使う」**ことにあります。

1. まずは「5 Whys」で真犯人を特定する

海外の現場では、とにかく論理的で分かりやすい説明が求められます。5 Whysの強みは、そのシンプルさにあります。複雑なWPFのバグであろうと、チーム内のコミュニケーションミスであろうと、「なぜ?」を5回(目安)繰り返すだけで、物事の本質にたどり着けます。

以前、私が担当していたWPFアプリケーションで、ユーザーがデータを保存しようとすると、**「保存ボタンを押してから、UIが5秒間フリーズする」**という現象が発生しました。これはユーザーエクスペリエンス(UX)的に致命的です。

最初は多くのエンジニアが「あ、UIスレッドブロックしてるね。非同期処理のバグでしょ」と、すぐに Task.Run() や await を使った修正案を出しました。これが「How(どう直すか)」に飛びつく罠です。

私はあえて立ち止まり、5 Whysを実践しました。

Step問い回答(事実ベース)
Why 1なぜ UIが5秒間フリーズするのか?データ保存処理(DBへの書き込み)をUIスレッドで同期的に実行していたから。
Why 2なぜ UIスレッドで同期的に実行されていたのか?処理を非同期にする修正を施した際、Task.Run() の中のコールバック関数で、UIコントロールに直接アクセスしてしまったため、フレームワークがUIスレッドに戻し、結果的に同期処理と同じ動作になったから。
Why 3なぜ Task.Run() の中でUIコントロールに直接アクセスするようなコードが書かれたのか?その機能の担当者が非同期プログラミングの経験が浅く、UI更新の適切な方法(例: MVVMパターンでのデータバインディングや IProgress<T> の利用)を知らなかったから。
Why 4なぜ その担当者が適切な知識なしで重要な機能の実装を任されたのか?その担当者が新人であるにもかかわらず、急ぎのプロジェクトだったため、シニアエンジニアによる十分なコードレビュー(特に非同期処理のロジックレビュー)が行われなかったから。
Why 5なぜ 十分なレビューが行われなかったのか?チームリーダー(私)が、リリース前の差し迫った期限に追われ、**「レビューは形式的にOKにして、まずはデプロイを優先する」**という判断を下したから。

どうでしょう?

表面的な原因は「UIスレッドのブロック」でしたが、真の根本原因(真犯人)は、**「プロジェクトリーダー(私)がプレッシャーに負け、プロセスを省略したこと」と、「チームの教育体制やレビュー基準の欠如」**だったと判明します。

もしWhy 1や2の段階で修正を終えていたら、私は技術的負債を解消した気分になっていたでしょうが、また別の場所で「レビュー不足によるバグ」が発生するのは確実でした。

2. 「Ishikawa Diagram」で要因を見落とさない

5 Whysは強力ですが、一つ弱点があります。それは、分析が直線的になりがちで、「なぜ?」と聞く人の主観や知識に左右されやすいという点です。

例えば、「なぜなぜ分析」を始める前に、「データ保存がフリーズした」という事象に対して、思いつく限りの要因をブレインストーミングしたとします。

  • コードが重い
  • DBが遅い
  • ネットワークが不安定
  • C#の非同期処理がバグってる
  • レビューが適当だった
  • 要求仕様が曖昧だった

これらを整理せずに分析すると、重要な要因が抜け落ちたり、議論が混乱したりします。

ここで「Ishikawa Diagram(特性要因図)」の出番です。


魚の骨のような形をしているため、「フィッシュボーン図」とも呼ばれるこのツールは、バグ(結果)に対して考えられるすべての要因を、あらかじめ決められたカテゴリー(大骨)に分類することで、**「漏れなく、ダブりなく (MECE)」**要因を洗い出すことを可能にします。

ソフトウェア開発の現場では、一般的な製造業の4M(Man, Machine, Material, Method)を応用し、例えば以下のカテゴリーを使うことが多いです。

カテゴリー (大骨)適用例
Man (人)スキル不足、経験不足、疲労、思い込み、コミュニケーション不足
Method (方法)コーディング規約の欠如、レビュープロセスの省略、テスト計画の不備、技術選定ミス(例:古い.NET Frameworkの使用)
Machine (環境/ツール)開発環境の不統一、古いIDE、CI/CDパイプラインの不安定さ、プロファイラの利用不足
Measurement (測定/品質)ログ出力の不足、監視ツールの欠如、テストカバレッジの低さ、要件定義の曖昧さ

先のフリーズ問題の事象「データ保存時にUIがフリーズする」をこの図で整理すると:

  1. Method:非同期処理のコーディング規約がない。
  2. Man:担当者のMVVM/非同期処理のスキル不足。
  3. Measurement:リリース前のコードレビュー基準が曖昧。
  4. Machine:負荷テストツールやプロファイラの利用が徹底されていない。

このIshikawa Diagramの段階で、「Man(人)」と「Measurement(測定)」の骨から、「レビュープロセス」や「スキル」といった、コード外の要因が浮かび上がってきます。

3. 5 WhysとIshikawaの統合戦略:全体を俯瞰してから深掘りする

単なる「なぜなぜ分析」で陥りがちなのは、「コードの不備」という狭い範囲で思考を終えてしまうことです。しかし、バグの多くはプロセスやコミュニケーションの問題から生まれます。

だからこそ、この二つを以下の手順で統合します。

  1. Ishikawa Diagramの適用(鳥の目): まずバグという事象を結果として置き、考えられるすべての要因をMan/Method/Machineなどの大骨に分類し、全体像を描き出す。これで視野が広がり、コード外の要因を見落とすことを防ぎます。
  2. 5 Whysの適用(虫の目): Ishikawa Diagramで抽出された**「最も怪しい要因(真因の可能性が高いもの)」**を起点として、Why 1から掘り下げる。

先のフリーズ問題では、Ishikawaで「Measurement(レビュー基準の曖昧さ)」や「Man(スキル不足)」が浮上しました。そこで、これらの要因を起点に5 Whysをかけることで、最終的に「リーダーの判断ミス」という組織的な真因にたどり着くことができたのです。

この統合戦略をチーム内で共有し、徹底することで、海外の多様なメンバーに対して「感情論」ではなく「構造化された論理」で説明できるようになります。

「この修正は単に await を追加しただけではありません。我々はIshikawa Diagramでプロセスの問題を特定し、5 Whysでリーダーシップの問題にたどり着いた結果、今後の開発では、レビュープロセスに非同期処理専門のチェックリストを追加することで、この種のバグが二度と発生しないことを保証します。」

ここまで言えれば、あなたの信頼は急上昇し、あなたは単なる「デバッガー」ではなく、「システムの守護神」として認識されるでしょう。これこそが、海外エンジニアとして生き抜くための「Mastery & Future-Proofing」の核心です。

次章「転」では、この根本原因分析が、いかにしてあなたの「Technical Debt(技術的負債)」を「Future Asset(未来の資産)」に変えるのか。そして、それがあなたのキャリア、ひいては人生設計にどう貢献するのかを掘り下げていきます。

バグフィックスは「投資」である — 過去の負債を未来の資産に変えるマインドセットの転換

「掃除人」になるな、「投資家」になれ

突然ですが、あなたは自分自身をどう定義していますか?

「コードを書く人」? それとも「バグを直す人」?

もしあなたが、バグ修正を「誰かが(あるいは過去の自分が)散らかした部屋を片付ける掃除の時間」だと捉えているなら、今すぐその考えをゴミ箱に捨ててください。そのマインドセットこそが、あなたをいつまでも「忙しいだけのエンジニア」に留めている元凶です。

海外のテック業界、特にシリコンバレー流のカルチャーが浸透している現場では、エンジニアの評価軸は**「どれだけコードを書いたか」ではなく、「どれだけビジネスの価値(Value)を高めたか」**にあります。

バグが出た。これは一見、マイナスの出来事です。技術的負債(Technical Debt)が利子をつけて請求書を送ってきたようなものです。

多くのエンジニアは、この請求書を見てこう思います。

「うわ、最悪。早く支払って(直して)、元の作業に戻ろう。」

そして、前回の記事で触れた「Quick Fix(対症療法)」という名の分割払いでその場をしのぎます。しかし、これでは負債は減るどころか、水面下で膨れ上がっていきます。

ここで、「Mastery(熟達)」を目指すエンジニアは思考を転換します。

「このバグは、システムが悲鳴を上げている箇所、つまり『今すぐリファクタリングすべき急所』を教えてくれたのだ」と。

バグ修正の時間を、単なるマイナスをゼロに戻す作業(掃除)にするのではなく、ゼロをプラスにする機会(投資)に変える。

これが「Janitor(掃除人)」と「Investor(投資家)」の違いです。

時間がない? だからこそ「投資」するんだ

「そんな綺麗事、現場じゃ通じないよ。納期もキツいし、根本原因なんて探ってる暇はない」

そんな声が聞こえてきそうです。私もかつてはそう叫んでいました。

しかし、逆なんです。

時間がないからこそ、根本治療をしなきゃいけないんです。

WPFの開発現場での実例をお話ししましょう。

ある大規模なWPFアプリで、「画面遷移のたびにアプリが徐々に重くなる」という報告がありました。

Quick Fix派のエンジニアはこう言いました。

「GC(ガベージコレクション)を強制的に走らせるコードを画面遷移のタイミングに入れよう。GC.Collect() を呼べば軽くなるはずだ」

確かに、一時的には軽くなりました。作業時間は10分。コストは最小に見えます。

しかし、1ヶ月後、今度は「特定の操作中に画面がカクつく」というクレームが来ました。無理なGC呼び出しがパフォーマンスを阻害していたのです。さらに、メモリリークの根本原因(イベントハンドラの解除漏れ)は放置されたままなので、長時間稼働させると結局クラッシュする問題も再発しました。

その対応に、チームは丸3日間を費やしました。

もし最初から、「なぜ重くなるのか?」を5 Whysで突き詰め、根本原因である「ViewModelの破棄フローの欠陥」を見つけ出し、「ViewModelの基底クラス(BaseViewModel)に IDisposable パターンを正しく実装し、Messengerの購読解除を自動化する仕組み」 を導入していたらどうだったでしょうか?

その実装には、おそらく半日(4時間)かかったでしょう。

10分のQuick Fixに比べれば、24倍の時間です。上司には「時間かかりすぎだ」と怒られたかもしれません。

しかし、その「4時間の投資」によって、それ以降に作成されるすべての画面(ViewModel)から、メモリリークのリスクが消滅するのです。

未来に発生するはずだった「3日間のデバッグ作業」や「数え切れないほどの顧客からのクレーム」を、たった4時間の投資で未然に防ぐ(Prevent)。

これこそが、圧倒的なROI(投資対効果)です。

複利で効いてくる「予防接種」としてのコード

バグ修正を通じてシステム全体の堅牢性を高めること。私はこれを**「コードへの予防接種」**と呼んでいます。

例えば、C#でよくある NullReferenceException。

これを「あ、Nullだった。じゃあ if (obj != null) で囲っておこう」と直すのは、ただの絆創膏です。

投資家のマインドを持つエンジニアはこう考えます。

「なぜ、ここでNullが入り込む余地があったのか? 設計がおかしいのではないか?」

そして、例えば以下のようなアクションを起こします。

  1. C# 8.0の「Nullable Reference Types(Null許容参照型)」をプロジェクト全体で有効化する。-> コンパイルレベルでNullの可能性を警告させ、バグの芽を摘む。
  2. ドメインモデルを見直し、コンストラクタで必須データを強制する(Guard Clauseの導入)。-> public User(string name) { Name = name ?? throw new ArgumentNullException(…); } のように、不正な状態のインスタンスが存在できないようにする。

こうすることで、今回見つかったバグだけでなく、**「これから書かれる未来のコード」**においても、同様のミスが発生する確率を劇的に下げることができます。

一度仕組みを作ってしまえば、その恩恵はプロジェクトが続く限り、複利のように積み上がっていきます。

結果として、あなたのチームは「火消し(Firefighting)」に追われる時間が減り、「新機能開発」というクリエイティブな時間にリソースを割けるようになる。

これが、記事の冒頭で述べた**「Save immense time and resources(莫大な時間とリソースの節約)」**の正体です。

海外の現場で「信頼」を勝ち取る唯一の道

海外、特に多国籍なエンジニアが集まる環境では、コードの品質に対する姿勢がそのままあなたの「ブランド」になります。

いつも「早いが、すぐ壊れる」コードを書くエンジニアは、”Cowboy Coder”(カウボーイ・コーダー)と呼ばれ、重要なタスクを任されなくなります。

一方で、「時間はかかるが、彼が触ったモジュールは二度と壊れない」というエンジニアは、”Reliable”(信頼できる)、”Solid”(堅実な)と評され、アーキテクトやテックリードへの道が開かれます。

5 WhysとIshikawa Diagramを使って根本原因を突き止め、それをシステムの構造的な改善(投資)に繋げる。

このサイクルを回し続けることは、単にバグを減らすだけでなく、あなた自身のエンジニアとしての市場価値を高める「キャリアへの投資」でもあります。

「バグが出た? ラッキーだ。これでまたシステムを強くできるし、俺の評価も上がる。」

そう思えるようになった時、あなたはもう、バグに怯えるだけのエンジニアではありません。

さて、理論とマインドセットは整いました。

しかし、知識は使わなければ意味がありません。

最終章となる次回の「結」では、これらを明日からの実務にどう適用するか、具体的なアクションプランと、読者のあなたへのチャレンジ(課題)を提示します。

バグハントの準備はいいですか? 次回、あなたのデバッグライフが変わります。

次のバグハントが、あなたのキャリアを変える — 明日から始める「Mastery & Future-Proofing」実践ガイド

知識を行動に変える「最初の5分間」

ここまで読んでくれたあなたは、もう以前のあなたではありません。

「バグが出た! どうしよう、早く直さなきゃ」と焦るだけのエンジニアから、「お、システムの膿(うみ)を出すチャンスが来たな」とニヤリと笑える「投資家」への変貌を遂げつつあります。

しかし、いざ現場に戻り、真っ赤なエラーログや怒っているプロジェクトマネージャーを目の前にすると、ついつい手癖で「とりあえず try-catch !」とやりたくなるものです。人間は習慣の生き物ですから。

そこで、明日から実践できる、**「バグに遭遇した時の最初の5分間ルーティン」**を授けます。

Visual Studioのデバッガーを起動する前に、まずは深呼吸をして、以下のステップを踏んでください。

【Mastery Bug Hunting Protocol】

  1. Hands Off the Keyboard(キーボードから手を放せ)
    • 反射的にコードを書き始めないでください。まず、物理的に手を放します。あるいは、ホワイトボード(リモートならMiroやOneNote)を開きます。
  2. Draw the Fishbone(骨を描け)
    • 中心に「バグの事象」を書きます(例:「NullReferenceExceptionでアプリが落ちた」)。
    • 4つの大骨(Man/Method/Machine/Measurement)をササっと描きます。
    • 思いつく要因を3分間で書き殴ります。「コードのバグ」だけでなく、「仕様の抜け」「テスト環境の違い」「疲労」まで含めて。
  3. Ask “Why” 5 Times on the “Red Hot” Factor(赤熱した要因を深掘りしろ)
    • 一番怪しい、あるいは一番影響が大きいと思われる要因を一つ選びます。
    • そこに対して「Why?」を突き刺していきます。
    • 「コードが間違っていた」→「なぜ?」→「仕様を勘違いしていた」→「なぜ?」→「仕様書が更新されていなかった」……
  4. Design the “Future-Proof” Fix(未来を守る修正を設計せよ)
    • コードの修正(パッチ)と同時に、プロセスや仕組みの修正(ワクチン)をセットで考えます。

この儀式を行うだけで、あなたの対応は劇的に変わります。

海外のマネージャーを説得する「魔法のフレーズ」

海外で働いていると(あるいはこれから働くなら)、こう言われるかもしれません。

“Don’t overthink it. Just fix it ASAP.”(考えすぎだ。とにかく今すぐ直せ。)

そんな時、萎縮してQuick Fixに逃げてはいけません。それはあなたの評価を下げる行為です。

代わりに、こう返してください。

“I can patch it in 10 minutes, but it might break again next week. Or, give me 2 hours to analyze the root cause, and I guarantee it will never happen again. Which do you prefer for the project’s stability?”

(10分でその場しのぎの修正はできますが、来週また壊れるかもしれません。もし2時間くれれば、根本原因を突き止め、二度と起きないように保証します。プロジェクトの安定にとって、どちらが良いですか?)

欧米のマネージャーは、論理的な「Trade-off(トレードオフ)」の提示を好みます。

「時間がかかる」と言うと嫌がられますが、**「将来のリスク(コスト)をゼロにするための投資だ」**と説明すれば、まともなマネージャーなら必ず後者を選びます。

これにより、あなたは「作業者」から「プロフェッショナルなパートナー」へと格上げされるのです。

読者へのチャレンジ:次のバグがあなたの「卒業試験」だ

さて、私からあなたへの「宿題」です。

次に遭遇するバグで、この「5 Whys + Ishikawa」戦略を実際に試してください。

どんな些細なバグでも構いません。

WPFのバインディングエラーでも、C#の非同期デッドロックでも、あるいはチーム内の連絡ミスでも。

  1. Quick Fixをしたい衝動を抑える。
  2. 紙とペンを取り出し、図を描く。
  3. 「真因」を見つけ出し、コードだけでなく「仕組み」を改善する。

そして、その結果どうなったか?

もしよければ、このブログのコメント欄や、SNSで私に教えてください。

「こんな意外な真因が見つかった!」「チームでレビュー項目を見直すことになった!」

そんな報告を聞くのが、私の何よりの楽しみです。

失敗しても構いません。「やっぱり時間なくてQuick Fixしちゃいました…」でもいいんです。大事なのは、「このままではいけない」と気づいていること。その意識さえあれば、あなたは必ず変われます。

最後に:エンジニアとしての自由を手に入れるために

私たちがなぜ、ここまでして「技術」や「プロセス」にこだわるのか。

それは、「自由」を手に入れるためです。

バグに怯え、緊急呼び出しに怯える週末から解放される自由。

「なぜ直らないんだ」というプレッシャーから解放される自由。

そして、世界のどこに行っても、どんなプロジェクトでも、「君がいれば安心だ」と言われるエンジニアとして、自分のキャリアを自分でコントロールできる自由。

C#やWPFは素晴らしい技術です。しかし、それらはあくまで道具に過ぎません。

その道具を使いこなし、堅牢なシステムと信頼を築き上げるのは、あなたの「思考(Mindset)」です。

Mastery & Future-Proofing.

熟達し、未来に備える。

このブログが、海を渡り、あるいはこれから海を渡ろうとするあなたの背中を、少しでも強く押すことができたなら、これ以上の喜びはありません。

さあ、エディタを開きましょう。

ただし、今度は「思考の武器」を携えて。

Good luck with your bug hunting!


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