【海外エンジニア生存戦略】ドキュメントは「完璧」を目指すな!C#使いが教える “Minimum Viable Documentation” の極意

日本流「完璧主義」が通用しない? エクセル方眼紙を捨てて見つけた、海外現場のリアルなドキュメント事情

やあ、みんな。今日もVisual Studioと睨めっこしてる?

こっちは相変わらず、朝のスタンドアップミーティングでコーヒーを片手に、「昨日のバグ? ああ、あれはFeature(仕様)だよ」なんてジョークを飛ばしながらやってるよ。

僕は今、日本を飛び出して海外のテック企業で働いている。メイン武器はC#とWPF(Windows Presentation Foundation)。デスクトップアプリのモダンなUI/UX設計から、バックエンドとの連携まで、割と泥臭い部分も含めてガリガリ書いてるエンジニアだ。

今日は、これから海外を目指す人、あるいは今の開発現場で「ドキュメント」という魔物に苦しめられている人に向けて、僕がこっちに来て一番最初に食らった「洗礼」と、そこから得た「生き抜くための知恵」をシェアしたいと思う。これを読めば、無駄な残業が減って、本当に書くべきコードに集中できる時間が増えるはずだ。

さて、単刀直入に聞くけど、「ドキュメント」、好き?

大抵のエンジニアは首を横に振るよね。「コードを書くのが仕事で、作文は仕事じゃない」って。でも、心のどこかで「ちゃんとした仕様書がないと不安」とか「詳細設計書がないと実装に入れない」って思ってないかな?

正直に告白すると、僕がそうだった。

日本にいた頃の僕は、いわゆる「SIer文化」の洗礼を浴びて育った。納品物リストには、基本設計書、詳細設計書、単体テスト仕様書、結合テスト仕様書……と、膨大なドキュメントが並ぶ。Excel方眼紙に見事に整形されたフローチャート、1ピクセルもズレていない画面定義書。それらを作り上げ、ハンコをもらって初めて「仕事をした」気になっていたんだ。

「完璧なドキュメントがあれば、バグは防げる」

「ドキュメントは、自分を守る盾になる」

そう信じていた。

だから、海外の今の会社にジョインした初日、僕は自信満々に聞いたんだ。

「このプロジェクトの仕様書(Spec)はどこにありますか? サーバーのパスを教えてください」

チームリーダーのトム(仮名)は、口に含んだドーナツを飲み込んで、不思議そうな顔でこう言った。

「Spec? ああ、Jiraのチケットに要件が3行くらい書いてあるだろ? あとはホワイトボードの写真がSlackに上がってるはずだ。分からなかったら、PM(プロダクトマネージャー)と話してくれ」

僕は耳を疑った。

3行? ホワイトボードの写真?

「いやいや、画面遷移図は? クラス図は? データベース定義書は?」

食い下がってみたけど、返ってきたのは「We don’t do that here(ここではそんなことしないよ)」という、マーベル映画のようなセリフだった。

その瞬間、僕の足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。

「え、何それ。設計なしでいきなりコード書くの? そんなの怖すぎるだろ!」

最初は、このチームが単に「怠惰」なんだと思った。「アジャイル」という言葉を言い訳にして、ドキュメント作成をサボっているだけだと。だから僕は、日本人としての誇り(?)を胸に、勝手に詳細なドキュメントを作り始めたんだ。

WPFの複雑なデータバインディングの構造、ViewModelのプロパティ一覧、Converterの挙動まで、こと細かにWikiにまとめた。英語で書くのは大変だったけど、「これを見れば誰もが理解できる!」という完璧なものを作り上げた自信があった。

そして、意気揚々とチームに共有したんだ。「みんなのために、詳細な設計書を作っておいたよ!」って。

反応はどうだったと思う?

「Wow, that’s a lot of text.(うわ、文字多すぎ)」

「Cool. But who is going to maintain this?(いいね。で、これ誰がメンテすんの?)」

誰も読んでくれなかった。

それどころか、翌週には仕様変更が入って、僕が3日かけて書いたその「完璧なドキュメント」は、一瞬にしてただの「嘘が書かれたゴミ」になった。メンテナンスする時間なんてないから、コードとドキュメントの乖離はどんどん広がる。結局、誰も見ないWikiのページが一つ増えただけだった。

トムは僕の肩を叩いて言った。

「Hey、君の熱意は買うけど、それは “Waste”(無駄)だ。我々のプロダクトは生き物だ。今のスナップショットを完璧に記録することに価値はない。必要なのは、チームが迷わないための『道標』であって、『地図』の書き写しじゃないんだよ」

ガツンときたね。

僕は「ドキュメントを書くこと」自体が目的になっていて、「誰のために、何のために書くのか」を見失っていたんだ。

日本の現場で染み付いた「網羅性」への強迫観念。何か漏れていたら怒られる、書いてあれば責任逃れができる。そんなマインドセットが、スピードと変化を重視する海外の現場では、ただの足かせになっていた。

ここで僕は大きな壁にぶつかった。

「全部書く」のが間違いなら、じゃあ「何も書かない」のが正解なのか?

いや、それも違う。現に、Jiraの3行だけの指示では、デザイナーとの認識のズレが起きて手戻りが発生している。新しく入ってきたジュニアエンジニアは、アーキテクチャの全体像が分からずにスパゲッティコードを量産しかけている。

「書きすぎてもダメ、書かなくてもダメ。じゃあどうすりゃいいんだ!」

悩んでいたある日、テックブログや現地のカンファレンス動画を漁っていると、ある概念に出会った。それが、“Minimum Viable Documentation” (MVD) だ。

みんな、”MVP” (Minimum Viable Product:実用最小限の製品) は知ってるよね? スタートアップ界隈でよく使われる、まずはコアとなる機能だけでリリースして、ユーザーの反応を見ながら改善していく手法だ。

MVDは、そのドキュメント版だと思えばいい。

定義はシンプル。

「チームが前進するために必要な、最小限かつ必須の情報だけで構成されたドキュメント」。

これは、「ドキュメントを書かない(No Docs)」ことではない。

逆に、思考停止して「全部書く(Heavy Docs)」ことでもない。

「今、この瞬間に、チームが抱えている疑問は何か?」を研ぎ澄まし、それに対する答えだけを、最もコストのかからない方法で提供する。「スマートなドキュメント(Smart Docs)」を作る技術だ。

これを理解した瞬間、僕の中で霧が晴れたような気がした。

C#やWPFという技術スタックは、非常に強力で構造的だ。型安全で、XAMLという宣言的なUI記述がある。コード自体が多くのことを語ってくれる。だからこそ、ドキュメントが語るべきなのは「コードに書かれていること(How)」ではなく、「コードには書けないこと(Why)」だけでいいんじゃないか?

僕は自分のやり方を180度変えることにした。

エクセルも、詳細なクラス図も捨てた。代わりに手にしたのは、ホワイトボードと、Markdown、そして「捨てる勇気」だ。

ここから先は、僕が実際に現場でどうやって「MVD」を実践し、チームの信頼を勝ち取り、かつ自分自身の作業時間も大幅に短縮できたか、その具体的な中身について話していこうと思う。

特に、これから海外で働きたいと思っている人にとって、この「ドキュメントに対する姿勢(マインドセット)」の切り替えは、英語力やコーディングスキル以上に重要な「ソフトスキル」になるはずだ。

なぜなら、海外の現場では「成果(Output)」がすべてだけど、ドキュメント作成時間はしばしば「コスト」と見なされる。いかにコストをかけずに、最大の理解(Outcome)を生み出すか。これができれば、君は「仕事が速い上に、チームを円滑にするエンジニア」として重宝されることになるからだ。

準備はいいかな?

次のセクションでは、MVDの具体的な定義と、それを支える「3つの黄金律(Goldilocks Principle)」について掘り下げていくよ。

“Minimum Viable Documentation” (MVD) とは何か? 「No Docs」ではなく「Smart Docs」を目指すゴールドロックスの法則

「全部書くな。でも、何も書かないのはもっと罪だ」

前回、チームリーダーのトムに「Spec(仕様書)がない」と嘆いた僕が、次に直面したのはこの禅問答のような課題だった。

完璧なドキュメントはメンテナンスコストが高すぎてすぐに腐る。一方で、ドキュメントゼロ(No Docs)は、知識が属人化し、誰かが退職した瞬間にプロジェクトが死ぬ「バス係数(Bus Factor)」が高い危険な状態だ。

じゃあ、その中間地点はどこにある?

そこで登場するのが、”Minimum Viable Documentation” (MVD) という考え方だ。

1. MVDの定義:「Smart Docs」への転換

MVDの本質は、「ドキュメント作成を『作業』ではなく『投資』として捉えること」にある。

コードを書く時間は、機能というリターンを生む。では、ドキュメントを書く時間は何を生むべきか? それは「将来のチーム(あるいは半年後の自分)の時間を節約する」というリターンだ。

多くの日本人エンジニア(かつての僕を含む)は、ドキュメントを「納品物」として捉えがちだ。だから、体裁を気にし、すべてのクラス、すべてのメソッドを網羅しようとする。

でも、海外の現場で求められるのは**「Smart Docs(賢いドキュメント)」**だ。

Smart Docsとは何か? それは、以下の条件を満たすものだ。

  • Searchable (検索可能): 必要な時にすぐ見つかるか?(Slackに流れる情報はドキュメントではない)
  • Maintainable (維持可能): コードの変更に合わせて、最小限の労力で更新できるか?
  • Essential (本質的): コード自体からは読み取れない情報が含まれているか?

例えば、C#でWPFアプリを作っているとしよう。

「ボタンがクリックされたら、SubmitCommandが実行される」なんてことをドキュメントに書く必要はない。それはXAMLの <Button Command=”{Binding SubmitCommand}” /> を見れば一目瞭然だからだ。これをわざわざWordに日本語で書き起こすのは、”Stupid Docs”(賢くないドキュメント)であり、時間の無駄だ。

MVDが目指すのは、「コードが語れないこと」だけを書き残すことだ。

「なぜ、ここでは標準のButtonではなく、カスタムコントロールを採用したのか?」

「なぜ、非同期処理にあえて Task.Run ではなく Dispatcher を使っているのか?」

この「Why(理由)」と「Context(文脈)」こそが、Smart Docsの正体だ。

2. ドキュメントが答えるべき「コアな問い」を特定する

じゃあ、具体的に何を書けばいいのか?

MVDを実践するために、僕はドキュメントを書く前に必ず**「3つのコアな問い」**を自問自答するようにしている。これに答えられないドキュメントは、書かなくていい。

Q1. 新しいメンバーが初日に「環境構築」して「Hello World」するまでに何が必要か? (The Onboarding)

これは絶対に必要なMVDだ。

「どのバージョンの.NET SDKが必要か?」「DBの接続文字列はどこにあるか?」「シークレットキーはどう管理されているか?」

これがないと、新しいエンジニアは初日の8時間を環境構築だけで棒に振る。逆に言えば、ここさえ完璧なら、あとはコードを読めと言える。README.mdに書くべきは、まさにこれだ。

Q2. アーキテクチャの「全体地図」はあるか? (The Big Picture)

C#のソリューションエクスプローラーを見ても、プロジェクト間の依存関係やデータの流れは見えにくい。特にWPFでPrismなどのフレームワークを使っていると、Module間の連携は魔法のように見えることがある。

詳細なクラス図はいらない。でも、「どのプロジェクトがエントリーポイントで、データはどう流れて、どこで保存されるか」を示す、ホワイトボードレベルのポンチ絵(Concept Diagram)は一枚必要だ。これは、森の中で迷子にならないためのコンパスになる。

Q3. 「やってはいけないこと」は何か? (The Gotchas)

「このViewModelでは、メモリリークを防ぐために必ず Dispose を呼ぶこと」

「このAPIはレートリミットがあるから、ループ内で呼ばないこと」

こうした「落とし穴」は、コードを見ただけでは落ちるまで気づかない。これこそ、ドキュメントで赤字で警告すべき情報だ。

3. 「ゴールドロックスの法則」:多すぎず、少なすぎず、ちょうどよく

「ゴールドロックスと3匹のくま」という童話を知っているかな? 女の子がクマの家に入って、3つのスープを味見する。「熱すぎる」「冷たすぎる」、そして「ちょうどいい(Just Right)」。

ドキュメンテーションにおける「ゴールドロックスの法則」もこれと同じだ。

  • Too Little (冷たすぎる):「ソースコードがドキュメントだ(Read the Source Code)」と言い放つ。→ 結果: スパゲッティコードの意図を誰も解読できず、バグ修正に3日かかる。
  • Too Much (熱すぎる):JavadocやXMLコメントですべてのプロパティに「これは名前です」「これはIDです」と書き、数百ページの仕様書を作る。→ 結果: 誰も読まない。仕様変更のたびにドキュメント修正という「罰ゲーム」が発生し、エンジニアが疲弊して辞める。
  • Just Right (ちょうどいい):「コードで表現できないビジネスロジックと、アーキテクチャの意図だけを書く」→ 結果: 開発者は迷わず、変更にも強く、チーム全体の開発生産性が最大化する。

僕の現場での「ちょうどいい」の基準はこうだ。

「もし僕が記憶喪失になって、半年後にこのコードを見た時、何が書いてあったら泣いて喜ぶか?」

C# WPFの現場で言えば、複雑怪奇な IValueConverter のロジックそのものを解説するより、「このコンバーターは、サーバーから来るUTC時間を、ユーザーのローカル設定に合わせて表示するために作った(だから勝手にフォーマット変えるなよ)」という一行のコメントの方が、100倍価値がある。

これこそが、MVDの極意だ。

「網羅性」を捨てることへの恐怖心を手放そう。僕たちが作っているのは、博物館に飾る古文書じゃない。生きて動き続けるソフトウェアのための、実戦的なガイドブックなんだ。

ドキュメントの量を誇るのはやめよう。

これからは、「いかに少ないドキュメントで、チームを迷わせなかったか」を誇るエンジニアになろうじゃないか。

でも、口で言うのは簡単だよね。「ちょうどいい」を見極めるのが一番難しいんだから。

そこで次のセクションでは、実際に僕が担当した「超複雑なWPF業務アプリ」の設計現場で、このMVDをどうやって実装に落とし込み、チームのデスマーチを防いだか。その具体的な「戦術」を紹介しよう。

ホワイトボードとMarkdown、そしてコードコメントの使い分け。明日から使えるテクニック満載でお届けするよ。

WPF設計現場での死闘 ― 複雑なXAMLとMVVMパターンを、最小限のドキュメントでチームに共有する実践テクニック

さあ、ここからは机上の空論はやめて、泥臭い現場の話をしよう。

「MVD(実用最小限のドキュメント)が良いのは分かった。でも、実際に複雑怪奇なWPFアプリでどうやるんだ?」

そう思った君は鋭い。

WPFは素晴らしいフレームワークだが、同時に「魔法」が多い。

XAMLに書かれたDataBindingは、コンパイル時にはエラーを吐かず、実行時に静かに失敗する。MVVMパターンはViewとLogicを綺麗に分離するが、その分、「どこで何が起きているか」という全体像を追うのを難しくする。PrismやCaliburn.Microを使えば、魔法はさらに高度になる。

日本にいた頃の僕は、この「見えない繋がり」を可視化するために、PowerPointで巨大なクラス相関図を描いていた。矢印だらけのその図は、まるで東京の地下鉄路線図みたいだった。

だが、今の海外チームでそれをやったら、間違いなく「Crazy」と言われる。誰もメンテできないからだ。

そこで僕は、MVDの精神をWPF開発に適用するために、4つの具体的な戦術を取り入れた。これが、英語ネイティブではない僕が、海外エンジニアと対等以上に渡り合うための武器になったんだ。

戦術1:ドキュメントをGitに入れる ― “Docs as Code”

まず、ドキュメントの置き場所を変えた。

SharePointやGoogle Driveにあるドキュメントは「死んだ情報」だ。エンジニアはIDE(Visual Studio)から出たくない。だから、ドキュメントもコードと一緒にGitリポジトリに入れた。

具体的には、Markdown (.md) を徹底活用した。

だが、ただの README.md じゃない。僕が採用したのは**「ディレクトリごとのREADME」**だ。

ソリューション直下のREADMEには、セットアップ方法だけを書く。

そして、各Project(例えば MyApp.Core, MyApp.UI.Controls)や、主要な機能フォルダ(Features/Dashboard)の中に、それぞれの README.md を置くんだ。

  • Features/Dashboard/README.md の中身:
    • Context: なぜこのダッシュボードが必要なのか?(ビジネス要件)
    • Architecture: Viewは DashboardView.xaml、ViewModelは DashboardViewModel.cs。データは IDataService 経由で取得し、EventAggregator で詳細画面と通信する。
    • Key Logic: グラフ描画には ScottPlot ライブラリを使用。パフォーマンスのため、描画更新は500msのスロットルを入れている。

こうすることで、コードを触るその瞬間に、必要な情報が目に入る。コード修正のついでにドキュメントも修正できる(Pull Requestに含められる)から、情報の鮮度も保たれる。これが「生きているドキュメント」だ。

戦術2:ADR (Architecture Decision Records) で「なぜ」を残す

開発中に一番揉めるのは、「なぜそのライブラリを選んだのか?」「なぜその設計にしたのか?」という意思決定の経緯だ。

「なんでPrismの DialogService を使わずに、自前のポップアップ機構を作ったんだ?」と半年後に聞かれても、絶対に覚えていない。

そこで導入したのが ADR (Architecture Decision Records) だ。

これは、「アーキテクチャに関する重要な決定」を、軽量なテンプレートに従って記録する手法だ。

僕たちのチームでは、リポジトリの docs/adr フォルダに、連番でファイルを保存している。

例えば 0012-use-material-design-toolkit.md のようなファイル名で、中身はこうだ。

  • Title: マテリアルデザインツールキットの採用
  • Status: Accepted (採用)
  • Context: 既存のスタイルが古く、ダークモード対応も求められている。自前実装はコストが高い。
  • Decision:MaterialDesignInXamlToolkit を導入する。
  • Consequences:
    • Good: UI開発速度が向上する。モダンな見た目になる。
    • Bad: ライブラリのアップデート追従が必要。一部のカスタムコントロールと競合する可能性がある。

これを書くのにかかる時間は15分程度。でも、これがあるだけで「不毛な蒸し返し議論」がゼロになる。「ADR-0012を読んでくれ。当時の議論はそこに全部ある」の一言で終わるからだ。これは英語での議論にハンデがある僕にとって、最強の防御壁になった。

戦術3:XAML自体をドキュメントにする (d:DataContextの活用)

WPF特有の話をしよう。XAMLファイルは、しばしば「何がバインドされるか分からない」ブラックボックスになる。

そこで僕は、デザイン時データ (d:DataContext) を徹底的に活用することをチームのルールにした。

XML

<UserControl x:Class="MyApp.Views.UserDetailView"
xmlns:vm="clr-namespace:MyApp.ViewModels"
d:DataContext="{d:DesignInstance Type=vm:UserDetailViewModel, IsDesignTimeCreatable=True}">
</UserControl>

このたった2行があるだけで、Visual Studioのデザイナーに画面が表示されるだけでなく、IntelliSenseが効くようになる。そして何より、「このViewは UserDetailViewModel を必要としている」ということが、ドキュメントなしで明示される。

「コードを見れば分かる」状態を、XAMLでも作り出す。これも立派なMVDだ。

さらに、複雑なTriggerやConverterには、必ずコメントを入れる。

これだけでいい。詳細な仕様書よりも、この1行のコメントの方が、バグ修正に来た未来の自分を救ってくれる。

戦術4:Pull Request (PR) を「ドキュメント」と見なす

最後に、僕が意識を変えたのが Pull Request (PR) の書き方だ。

海外のエンジニアは、PRのディスクリプション(説明文)を非常に重視する。なぜなら、マージされた後のPRは、そのまま「変更履歴のドキュメント」になるからだ。

僕は、機能追加のPRには必ず**「Before/AfterのGIF動画」**を貼るようにした。

「百聞は一見に如かず」は世界共通だ。英語で長々と「ボタンを押すと、グリッドがアニメーションして…」と書くより、GyazoやScreenToGifで撮った3秒の動画を貼るほうが、100倍伝わる。

また、PRのテンプレートに「Why」の項目を設け、そこにJiraのチケット番号や、前述のADRへのリンクを貼る。

こうすることで、ドキュメントを新たに書かなくても、PR自体が強力なナレッジベースになっていく。

結果:チームはどう変わったか?

これらの取り組みを始めてから半年。チームリーダーのトムがこう言った。

「お前のコードは分かりやすい。ドキュメントを探さなくても、リポジトリの中に全ての答えがあるからな」

僕が書いた外部ドキュメント(Wikiなど)の量は、日本にいた頃の10分の1以下になった。

その代わり、コード内のコメント、README、ADRの質は劇的に上がった。

チームメンバーからの「これどうなってんの?」という質問チャットは激減し、新しく入ったメンバーも「README通りにやったら動いたよ」とスムーズに開発に入れている。

僕は悟った。

「ドキュメント」とは、Wordファイルのことではない。「情報の伝達」そのもののことだ。

それがMarkdownであろうと、コードコメントであろうと、GIF動画であろうと構わない。相手にコンテキストが伝わり、チームが止まらずに進めるなら、それが正解なんだ。

「形式」に囚われていた過去の自分にサヨナラを告げよう。

僕たちは、もっと自由に、もっとダイレクトに情報を伝えていい。

それが、グローバルスタンダードなエンジニアへの第一歩だ。

さて、ここまでMVDの実践テクニックを話してきた。

でも、明日からいきなり全部を変えるのは難しいかもしれない。

そこで最後のセクションでは、今すぐ始められる「ドキュメントダイエット」のための具体的なチェックリストと、このマインドセットが君のエンジニア人生(と年収!)にどう影響するか、その結論をお話ししよう。

明日から使える「読まれるドキュメント」のチェックリスト ― あなたの記述はチームの核心的な問いに答えているか?

長い旅だったね。ここまで付き合ってくれてありがとう。

コーヒーはもう空になったかな? 僕のカップもそろそろ底が見えてきたよ。

「完璧主義を捨てろ」「MVD(実用最小限のドキュメント)を目指せ」「コードの近くに情報を置け」。

色々と偉そうなことを言ってきたけれど、結局のところ、僕が伝えたかったのはたった一つの真実だ。

「エンジニアの価値は、書いたドキュメントの枚数ではなく、チームに届けた『理解の深さ』で決まる」

明日、職場に行ったら(あるいは自宅のデスクに座ったら)、新しい機能を実装する前に、あるいはバグを修正する前に、一度立ち止まって深呼吸をしてほしい。そして、これから紹介する**「MVDチェックリスト」**を心の中で反芻してみてほしい。

これは僕が毎回のプルリクエスト(PR)や、設計レビューの前に必ず確認している、言わば「生存のための羅針盤」だ。

✅ The MVD Checklist for Survival

1. それは「Why」を語っているか?

  • × Bad: 「ユーザーがボタンを押すと、SaveAsync メソッドが呼ばれる」
  • ○ Good: 「誤操作によるデータ損失を防ぐため、保存処理は非同期かつトランザクション内で行う必要がある(ADR-005参照)」
    • コードを見れば分かる「How(どうやって)」を書いてはいけない。コードからは読み取れない「Why(なぜ)」と「Intent(意図)」だけを残そう。

2. 情報の場所は「コード」に近いか?

  • × Bad: 社内ポータルの深い階層にあるWordファイル(最終更新:2年前)
  • ○ Good: 対象のプロジェクト直下の README.md、またはコード内の /// <summary> コメント。
    • エンジニアはIDEから出たくない生き物だ。情報は作業動線の中に置く。それが「読まれる」ための唯一の条件だ。

3. 「重複」していないか?(DRY原則)

  • × Bad: DBのスキーマ定義書をExcelで手動管理し、Entity Frameworkのコードとも同期させる。
  • ○ Good: コード(POCOクラス)を正とし、そこからドキュメントやER図を自動生成する、あるいはコードそのものを参照させる。
    • 「Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)」を守れ。二重管理はバグの温床であり、あなたの残業の源泉だ。

4. それは「未来の自分」への手紙になっているか?

  • × Bad: 「とりあえず動く修正」
  • ○ Good: 「このWPFのBehaviorは、特定の条件下でメモリリークするバグへの回避策である」という警告コメント。
    • 半年後の自分は他人だ。記憶喪失の自分を救うためのヒントを残そう。

5. 「視覚化」されているか?

  • × Bad: 画面遷移のロジックを長文で説明。
  • ○ Good: ホワイトボードの手書き図をスマホで撮って貼る。動作前後のGIF動画をPRに貼る。
    • 英語が苦手な日本人こそ、ビジュアルに頼ろう。拙い英語の説明より、一枚の画像の方が100倍雄弁だ。

ドキュメントダイエットがもたらす「3つの自由」

このMVDのアプローチを実践し始めると、あなたのエンジニア人生に驚くべき変化が訪れる。それは単に「書く時間が減る」以上の効果だ。僕はこれを**「3つの自由」**と呼んでいる。

1. 「罪悪感」からの自由

「ドキュメントを更新していない…」「仕様書が古いまま放置されている…」

そんな後ろめたい気持ちから解放される。必要なのは「今、必要な最小限」だけだからだ。更新されていない古いWikiは、勇気を持って「Deprecated(廃止)」と書き、アーカイブすればいい。それだけで心は軽くなり、コーディングに集中できる。

2. 「誤解」からの自由

皮肉なことに、詳しく書きすぎたドキュメントほど誤解を生む。情報が多すぎて、重要なポイントが埋もれてしまうからだ。

情報を絞り込み、コードと密結合させることで、チームメンバーとの認識のズレがなくなる。「読んでなかった」と言われることがなくなる。なぜなら、読むべき量が少ないからだ。

3. 「言語の壁」からの自由

これが僕たち海外組にとって最大のメリットかもしれない。

流暢な英語で、長編小説のような仕様書を書く必要はない。箇条書きのMarkdown、的確なコードコメント、そして図。これらを駆使するMVDスタイルは、英語のハンデを無効化する。

「君のドキュメントはShort & Sweet(簡潔で良い)だ」と評価されるようになる。それは、言語能力ではなく、エンジニアリング能力としての評価だ。


日本人エンジニアよ、言葉の壁を「シンプルさ」で越えていけ

最後に、これから海外を目指す、あるいは今まさに海外で戦っている同胞に伝えたいことがある。

日本人は「丁寧さ」や「勤勉さ」を美徳とする。それは素晴らしいことだ。でも、ソフトウェア開発のスピード感が劇的に上がった現代、そして多国籍なチームにおいては、その「丁寧さ」が「過剰な複雑さ」として足かせになることがある。

WPFのXAMLがそうであるように、世界は「宣言的(Declarative)」で「シンプル」な方向へ進んでいる。

「何をやるか」を明確にし、「どうやるか」はフレームワーク(やAI)に任せる。ドキュメントも同じだ。

あなたが詳細なドキュメントを書くことで得ようとしていた「安心感」を手放そう。

その代わりに、**「変化への適応力」**を手にするんだ。

完璧な地図を持っていなくても、コンパス(MVD)さえあれば、僕たちはどこへでも行ける。

コードは嘘をつかない。だから、コードを信じよう。そして、コードが語りきれない「想い」や「理由」だけを、そっと言葉にして添えてあげよう。それが、プロフェッショナルなエンジニアの仕事だ。

さあ、エディタに戻ろう。

あなたの書く次の1行のコードと、それに添える1行のコメントが、世界の誰かの助けになることを願って。

Happy Coding!

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