静寂なコードと喧騒の現実 ― なぜ私たちは「カオス」を恐れ、そして必要とするのか
どうも、海外のどこかの街角で、今日も今日とてVisual Studioと睨めっこしている日本人エンジニアです。
普段はC#とWPF(Windows Presentation Foundation)を使って、デスクトップアプリケーションの設計やら開発やらをガリガリやっています。「今どきWPF?」なんて言わないでくださいね。XAMLでUIを厳密に定義し、MVVMパターンでロジックとビューを綺麗に切り離して、バインディングがバシッと決まった時の快感。これは何物にも代えがたいものがあります。C#の型安全な堅牢さ、LINQの美しさ、そしてコンパイルが通った時の「秩序が保たれた」安心感。これこそがエンジニアリングの醍醐味だと思いませんか?
私たちエンジニア、特に日本で教育を受け、キャリアをスタートさせた人間にとって、「秩序」や「整理整頓」は絶対的な正義です。コードはCleanであるべきだし、仕様は明確であるべきだし、スケジュールは予測可能であるべき。バグ(予期せぬ挙動)は悪であり、カオス(混乱)は排除すべき敵です。
でも、ここ海外で働いていると、そんな私の「秩序への信仰」が、音を立てて崩れ去る瞬間が多々あります。あるいは、その崩壊の中にこそ、次のステップへの鍵が埋まっていることに気づかされるのです。
今日は、これから海外を目指すエンジニアの皆さん、あるいは今まさに異文化の荒波の中で溺れかけている同胞に向けて、「Cultivating Controlled Chaos(意図的なカオスを耕す)」というテーマで話をさせてください。
「カオスを耕す」。一見すると矛盾した言葉ですよね。
私たちはカオスを整地して秩序を作るのが仕事はずです。しかし、現代のテック業界、特にここ海外の最前線を見渡すと、「整いすぎた秩序」はむしろ停滞を招き、「管理されたカオス」こそがイノベーションの源泉になっているという現実に直面します。
なぜ私がこんな話をしようと思ったか。それは、私自身がC#という「カッチリした」言語を扱いながらも、海外の現場で「カッチリしすぎているが故の限界」を感じたからです。
日本にいた頃の私は、完璧主義者でした。
「仕様が固まるまで動かない」「すべての例外を想定するまでリリースしない」「1ピクセルのズレも許さない」。
それはプロとして素晴らしい姿勢です。間違いありません。しかし、海外のチーム、特にスピード感が命のスタートアップや、アジャイルを極限まで回している現場に入ると、その「完璧な秩序」が足かせになることがあるんです。
彼らは言います。「Break things fast(さっさと壊せ)」と。
最初は戸惑いました。「壊したら怒られるだろ!」「バグが出たら顧客に迷惑がかかるじゃないか!」。私の心の中の日本人エンジニア魂が叫びます。しかし、彼らが意図しているのは、無責任な破壊ではありません。それが今回のキーワードである**「Controlled Chaos(制御されたカオス)」**なのです。
現代のソフトウェア開発、特にAIやクラウドネイティブな技術が牽引する世界では、あらかじめ全ての正解を知ることは不可能です。
Googleがなぜ巨大になったのか。オープンソースコミュニティがなぜ、あんなにも「無秩序」に見えるのに、世界を支える堅牢なLinuxやKubernetesを生み出せるのか。生成AIの開発プロセスはなぜあんなにも試行錯誤の連続なのか。
これらには共通点があります。それは、**「カオス(不確実性やノイズ)を排除するのではなく、システムの一部として取り込み、そこから生まれる予想外の結果をエネルギーに変えている」**という点です。
私がWPFで画面を作るとき、GridやStackPanelを使ってコントロールを綺麗に並べようとします。すべてが計算通りに配置される世界です。しかし、現実のビジネスやキャリアは、レスポンシブデザインどころの話ではありません。予測不能なユーザーの動き、突然変わるAPIの仕様、あるいは明日会社が買収されるかもしれないという不安。これらはすべて「カオス」です。
日本で働いていた時の私は、このカオスを「ストレス」と感じていました。
「なんで仕様が変わるんだ」「なんで計画通りにいかないんだ」。
不確実性を消そうと必死になり、疲弊していました。
しかし、海外に来て気づいたのです。「このカオス、消そうとするから辛いんじゃないか? むしろ、この波に乗っかって、サーフィンのように乗りこなす技術こそが、これからのエンジニアに求められる『最強のスキル』なんじゃないか?」と。
このブログシリーズでは、Googleの有名な「20%ルール」や、AI開発における反復プロセス、そしてオープンソースコミュニティの力学といった具体的な事例を紐解きながら、私たちエンジニアが個人のキャリアや日々の開発業務にどうやって「良いカオス」を取り入れていくか、その具体的な戦術をお話しします。
これは単なる精神論ではありません。
例えば、あなたが今抱えているサイドプロジェクト。
週末にちょっと触っている新しい技術。
あるいは、業務中にふと思いついた「これ、無駄じゃない?」という疑問。
それらはすべて、あなたの整然とした日常に入り込んだ「ノイズ」です。普通なら、「仕事に集中しろ」と排除してしまうかもしれません。ですが、そのノイズこそが、Googleを生み、Linuxを生み、そしてあなたのキャリアを海外で爆発的に成長させる種(シード)になるかもしれないのです。
C#で言えば、ガチガチの同期処理(Synchronous)で全てをコントロールしようとするとUIがフリーズしますよね? 非同期処理(Asynchronous/await)を使って、処理をバックグラウンドに逃がし、完了のタイミングをシステムに委ねることで、アプリケーションはサクサク動くようになります。
人生もキャリアも同じです。全てを自分のメインスレッド(意識)でコントロールしようとするとフリーズします。あえてコントロールを手放し、カオスというバックグラウンドスレッドに処理を投げ、そこから返ってくる「コールバック」を楽しむ。そんな非同期な生き方が、ここ海外では求められている気がしてなりません。
正直に言います。海外で働くのは大変です。
言葉の壁、文化の壁、ビザの問題、孤独感。これらは制御不能なカオスの塊です。
でも、だからこそ面白い。
日本で綺麗なレールの上を走っていた時よりも、今のほうが「生きている」実感がある。それは私が、カオスの中に身を置き、そこで溺れそうになりながらも、なんとか泳ぐ技術を身につけつつあるからだと思います。
この「起」のパートでは、まず皆さんのマインドセットにある「秩序=善、カオス=悪」という固定観念を少しだけ揺さぶりたいと思いました。
完璧な設計図なんて、この変化の激しい時代には存在しません。
WPFのXAMLだって、実行してみないとBindingのエラーに気づかないことがありますよね(笑)。実行時例外(Runtime Exception)を恐れてコードを書かないより、try-catchで構えつつ、まずはRunボタンを押してみる。そんな勇気が、海外生存戦略の第一歩です。
次回「承」のパートでは、実際に世界のトップ企業やコミュニティが、どのようにしてこの「カオス」をシステム化し、イノベーションを生み出しているのか。Googleの「20%ルール」や、AI開発の現場における「意図的な未完成」の哲学について、具体的な事例を交えて深掘りしていきます。これを知れば、明日からのあなたの「サボり」や「寄り道」が、実は最も生産的な時間だったと言い訳できるようになるかもしれません(笑)。
準備はいいですか?
あなたの脳内のコンパイラが「Warning」を出し続けても、とりあえず無視してください。
これから私たちは、エラーと警告に満ちた、しかし無限の可能性を秘めた「制御されたカオス」の海へとダイブします。
イノベーションの震源地 ― Google、AI、そしてOSSが証明する「無秩序」の効用
前回の記事で、「カオスを恐れるな、サーフィンしろ」という話をしました。でも、ただ無闇に波に突っ込んでも溺れるだけですよね。海外のトッププレイヤーたちが凄いのは、この波を人工的に作り出し、プールの中で安全に(しかし激しく)サーフィンを楽しんでいる点にあります。
彼らは「管理されたカオス(Controlled Chaos)」を組織のOSレベルで実装しているのです。
私がC#でクラス設計をする際、インターフェース(Interface)を切って依存関係を整理するように、彼らは「イノベーションが起きるためのインターフェース」として、あえて「隙間」や「無秩序」を設計に組み込んでいます。
今回は、その具体的な3つの実装パターンを見ていきましょう。
1. Googleの「20%ルール」:CPUのアイドルタイムを確保せよ
まずは超有名なGoogleの「20%ルール」です。勤務時間の20%(週に1日)を、上司の指示や本来の業務とは無関係な、自分の好きなプロジェクトに使っていいという制度。GmailやGoogle Maps、AdSenseといったドル箱プロダクトがここから生まれたのはあまりにも有名な話です。
日本企業で働いていた頃の感覚からすると、これは狂気の沙汰です。
「工数管理はどうなってるんだ?」「リソースの無駄遣いじゃないか?」「その20%でバグを一つでも減らせ!」
PM(プロジェクトマネージャー)ならずとも、そう叫びたくなります。
しかし、ここには重要なエンジニアリングの真理が隠されています。
コンピュータの世界では、CPU使用率が常に100%の状態を何というかご存知ですよね? そう、「ハングアップ(フリーズ)」です。システムは余裕(Slack)がないと、新しいリクエストを処理できず、緊急事態にも対応できません。
人間の組織も同じです。業務効率化を極限まで推し進め、エンジニアの稼働率を100%(あるいは日本の現場あるあるの120%)で埋めてしまうと、そこには「創造性」という新しいプロセスが割り込む余地が1バイトも残らないのです。
海外のテック企業は、この「遊び(Slack)」の重要性を痛いほど理解しています。
彼らが許容している「20%のカオス」は、決してサボり時間ではありません。それは、将来の巨大な収益を生むための「探索コスト」であり、エンジニアの好奇心を枯渇させないための「メンテナンスコスト」なのです。
C# WPFの開発で例えるなら、メインスレッド(UIスレッド)をビジネスロジックでブロックしてはいけないのと同じ。重たい処理や、結果がどうなるかわからない実験的な処理は、Task.Run() で別スレッドに逃がし、メインの業務を止めないようにする。Googleの20%ルールは、組織全体で非同期処理(Async/Await)を回しているようなものです。
「無駄」を許容するのではなく、「意図的に無駄なスペースを確保する」。
このマインドセットの違いが、数年後に圧倒的な差となって現れます。
2. AIとアジャイル開発:未完成品をデプロイする勇気
次に、AI開発や現代的なソフトウェア開発の現場を見てみましょう。
ここ数年の生成AIブームを見ていて、皆さんも感じませんか?
「なんか、未完成のままリリースしてない?」と。
幻覚(ハルシネーション)を見るAI、たまに嘘をつくチャットボット。
従来の「品質保証(QA)」の観点からすれば、これらは出荷停止レベルの欠陥品です。私が昔いた日本のSIerなら、部長印はおろか、課長印すらもらえずにリジェクトされていたでしょう。
しかし、OpenAIやシリコンバレーのスタートアップは、あえてその「未完成品」を世に放ちます。
なぜか? 彼らは「本当のバグや、本当の使い方は、社内のラボではなく、カオスな現実世界にしかない」と知っているからです。
これを「Iterative Design(反復的デザイン)」と呼びます。
完璧な設計図を書いてから作るのではなく、とりあえず動くプロトタイプを作り(MVP: Minimum Viable Product)、ユーザーに投げつけ、フィードバックという名の「カオスなデータ」を大量に収集し、高速で修正を繰り返す。
これは、私たちC#開発者が好む「静的型付け(Static Typing)」の世界とは対極にあります。コンパイルエラーが出ないように厳密に型を決めるのではなく、実行時(Runtime)に何が起こるかを見て、動的に振る舞いを変えていくPython的な、あるいはJavaScript的なアプローチです。
海外のエンジニアと働くと、この「Fail Fast(早く失敗しろ)」の精神が徹底されています。
「まだユニットテストが不十分です」と私が言うと、同僚のボブ(仮名)はこう言います。
「大丈夫だ、ユーザーが最高のテスターだ。デプロイしちゃえ!」
最初は心臓が止まりそうになりましたが、慣れてくるとこれが理にかなっていることに気づきます。
机上の空論で完璧を目指して1年かけるより、不完全でも1週間で出して、現実のフィードバックをもとに50回アップデートした方が、結果的に1年後には遥かに高品質で、ユーザーニーズに合ったものが出来上がっているのです。
カオスを避けて完璧な城を築くのではなく、カオスの中に飛び込んで、泥だらけになりながら城を形作っていく。この泥臭さが、現代のイノベーションの正体です。
3. オープンソースコミュニティ:伽藍とバザール
最後に、Linuxや現代のWebを支えるオープンソースソフトウェア(OSS)の世界です。
エリック・レイモンドの名著『伽藍とバザール』で語られた通り、従来の開発モデルが、設計者がトップダウンで管理する「伽藍(大聖堂)」だとすれば、OSSは誰もが勝手に出入りし、好き勝手なものを持ち寄る「バザール(市場)」です。
一見すると、バザールはカオスです。誰が責任者なのかわからない。コードのスタイルもバラバラかもしれない。プルリクエスト(修正提案)が世界中から飛んでくる。
しかし、結果としてどちらが堅牢なシステムを作ったか? 歴史は「バザール」の勝利を証明しました。
「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない(Linus’s Law)」
特定のエリート数人が管理する秩序よりも、数千人の有象無象のエンジニアが寄ってたかってコードをいじくり回すカオスの方が、バグを見つけ出し、修復する能力が高いというパラドックス。
これは、分散システム(Distributed System)の強さそのものです。
私が海外に来てOSSコミュニティに参加した時、その熱量と「良い意味での適当さ」に救われました。
「完璧なコードじゃなくていいから、アイデアがあるなら投げてくれ」
「バグを見つけたら文句を言う前に直してくれ」
そこには、ヒエラルキーによる秩序はありませんが、エンジニアリングへの情熱という「共通言語」による、もっと強固なエコシステムが存在していました。
WPFの ObservableCollection のように、要素が増減したり変更されたりしても、即座に全体(コミュニティ)に通知が行き渡り、UI(成果物)が更新される。そんな動的で有機的なつながりが、OSSの強さです。
ここまでの話をまとめましょう。
Googleも、AI開発も、OSSも、共通しているのは「カオスを排除していない」という点です。
むしろ、カオス(余白、未完成、分散)をシステムの一部として認め、そこから生まれる「予期せぬ化学反応」をエネルギー源にしています。
秩序は「効率」を生みますが、カオスは「発見」を生みます。
既存の正解を最速で出力するのが「効率」なら、まだ見ぬ正解を探し当てるのが「発見」です。
私が日本でやっていた仕事は、仕様書通りに組む「効率」の追求でした。
しかし、海外で求められるのは、仕様書すらない場所で何かを作り出す「発見」の能力です。
さて、ここで皆さんは思うでしょう。
「企業の戦略としてはわかった。でも、いちエンジニアである私が、個人のキャリアでどうやってこの『カオス』を取り入れればいいんだ? 明日から仕事をサボって20%の時間でゲームを作れとでも?」
その通り……と言いたいところですが、いきなり会社でそれをやるとクビになります(笑)。
しかし、この「カオスを飼いならす戦略」は、個人のキャリア形成においても極めて有効、いや、必須の生存スキルとなります。
次回、「転」のパートでは、このマクロな話をミクロな視点、つまり「あなたのキャリア」に落とし込みます。
私が実際に海外でどうやって「安定したキャリア」という秩序を破壊し、カオスな偶然を味方につけて生き残ってきたか。
「キャリアの20%ルール」や「自分自身のOSS化」といった具体的なアクションプランをお話しします。
C#エンジニアらしく言えば、静的なクラス定義(Static Class)でガチガチに固めた人生設計を捨てて、動的(Dynamic)で拡張可能(Extensible)なオブジェクトとして自分を再定義する時間です。
次回のコンパイルもお楽しみに。
キャリアにおける「カオス」の実装 ― 安定を捨て、偶然をハックする海外流エンジニアリング
さて、ここからが本番です。
「Googleは凄いね」「シリコンバレーは進んでるね」で終わってしまっては、ただの技術ニュースの読者です。私たち現場のエンジニアにとって重要なのは、「で、明日から俺はどうすればいいの?」という一点に尽きます。
ここ海外で生き残るために私が実践し、周りの優秀なエンジニアたちを見て学んだこと。それは、**「自分のキャリアをハードコーディングしない」**ということです。
日本のSIerにいた頃の私のキャリアプランは、ガチガチのスパゲッティコードのようでした。
「30歳までにリーダーになり、35歳でマネージャー、40歳で…」
特定の会社、特定の技術スタック、特定の評価制度にべったりと依存(Tight Coupling)した人生設計。
これは一見「安定」に見えますが、エンジニアリングの視点で見れば**「変更に弱く、壊れやすい設計」**です。会社というクラスが変更されたら、依存しているあなたの人生もコンパイルエラーを起こします。
海外のエンジニア、特にフリーランスやジョブホッパーとして活躍する彼らの生き方は、まるで「疎結合(Loose Coupling)」なマイクロサービスのようです。
彼らは、人生というシステムに意図的に「カオス(不確定要素)」を注入し、そこから生まれる偶然のチャンスをハックしています。
では、具体的にどうやって個人のキャリアに「カオス」を実装するのか。3つのメソッドを紹介します。
1. 「個人の20%ルール」でポートフォリオを汚せ
会社の業務でC#とWPFを使っているなら、残りの時間で何をしますか?
真面目な日本人エンジニア(過去の私を含む)は、C#をさらに深く掘り下げようとします。WPFのレンダリングパイプラインを極めようとか、Prismフレームワークのソースコードを読もうとか。
もちろん、専門性を高めるのは重要です。しかし、それは「既存の秩序の強化」にすぎません。
カオスを取り入れるなら、**「今の業務と全く関係ない、役に立つかもわからない技術」**に自分のリソースの20%を投資すべきです。
私が海外に来てから意識しているのは、この「ノイズの許容」です。
例えば、普段は静的型付け言語の信者である私が、あえて動的型付けのPythonで、しかも全く専門外の機械学習のライブラリを触ってみる。あるいは、エンジニアリングとは無縁に見える「英語の俳句」のコミュニティに参加してみる。
これは、投資の世界でいう「バーベル戦略」です。
資産(時間と労力)の80%は、確実なリターンが見込める本業(C# WPF)に投資して生活を安定させる。しかし、残りの20%は、ハイリスク・ハイリターンな未知の領域(カオス)に突っ込む。
この20%の「遊び」が、ある日突然、爆発的な価値を生みます。
実際、私が今の海外のポジションを得られたのは、WPFのスキルがあったからではありません。WPFの案件に応募した際、ポートフォリオの端っこに載せていた「趣味で作った、全く動かないRust製の変なツール」について面接官と盛り上がり、「君は新しいことを学ぶのを恐れないタイプだね」と評価されたからです。
本業という「秩序」を守りつつ、20%の「カオス」を飼う。
綺麗に整えられた庭(スキルセット)の隅っこに、あえて雑草が生え放題のエリアを作っておく。そこから、見たこともない花が咲くのです。
2. 「未完成品」を世に放つ ― 恥をかくコストと利益
次に、「Output」についての考え方をリファクタリングしましょう。
日本人の美徳として「恥の文化」があります。「完璧なもの以外は見せられない」。
しかし、このマインドセットは、海外生存戦略においては致命的なバグです。
カオスを味方につける最良の方法は、**「Working in Public(人前で作る)」**ことです。
GitHubに書きかけのクソコードをPushする。
技術ブログに、解決していないエラーログと考察をそのまま投稿する。
Twitter(X)で、素朴すぎる疑問を英語でつぶやく。
これらはすべて、あなたのキャリアに「ランダムな外部入力」を招き入れるためのAPIエンドポイントを開放する行為です。
以前、私はブログでWPFのメモリリークに関する未解決の問題を、「もう分からん!」という嘆きと共に投稿しました。日本では「勉強不足」と笑われるかもしれません。
しかし、それを見た地球の裏側のエンジニアから、「Hey, ここ、Dispose呼ばれてないぜ」とコメントがつき、そこから技術的な交流が生まれ、結果として彼のリファラルで副業の案件をもらったことがあります。
もし私が「完璧に解決してから記事にしよう」と思っていたら、その記事は永遠に公開されず、その出会いもなかったでしょう。
未完成品を出すことは、恥ではありません。それは**「私はここにいて、今この問題と戦っている」というシグナル**を世界に発信することです。
カオスなインターネットの海において、シグナルを出さない潜水艦は、誰にも見つけてもらえません。
ノイズまじりのシグナルでいい。まずは発信源になること。そうすれば、カオスの中からあなたを必要とする誰かが、必ずあなたを見つけ出します。
3. 計画的偶発性(Planned Happenstance)をハックする
キャリア論には「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」という有名な考え方があります。
スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱したもので、要約すると**「個人のキャリアの80%は、予想しない偶発的なことによって決定される」**というものです。
衝撃的ですよね。私たちが必死に書いてきたキャリアプランという仕様書は、実は20%しか機能していないというのです。
残りの80%は、バグか、仕様変更か、あるいは予期せぬ機能追加(ラッキー)によって決まる。
エンジニアとして、この80%の「制御不能な領域」をどう扱うべきか?
例外(Exception)として握りつぶすか? それとも、イベントハンドラを用意して待ち構えるか?
海外で働くエンジニアたちは、後者の達人です。
彼らは「目標」を固執しません。「方向性」だけを決めます。
「C#のスペシャリストになる」という目標(Goal)ではなく、「技術で誰かの問題を解決する」という方向(Theme)だけを持つ。
そうすると、たまたま隣の席の人が「Go言語で困ってる」と言ったとき、「じゃあ俺がやるよ」と、キャリアのルートを動的に変更できます。
これを私は、C#の interface への依存と呼んでいます。
具体的なクラス(特定の職種や技術)に依存するのではなく、抽象的なインターフェース(解決したい課題や価値観)に依存する。
そうすれば、実装(職種や言語)は、状況に合わせていつでも「Dependency Injection(依存性の注入)」で差し替えることができます。
「偶然」はコントロールできません。しかし、「偶然が起きやすい場所に身を置く」ことは可能です。
勉強会に顔を出す、異業種の人と飲む、頼まれてもいないツールを作る。
これらは全て、人生のイベントハンドラを登録する行為です。
登録数が増えれば増えるほど、何かが発火(Fire)する確率は上がります。
ここまでの話を整理します。
キャリアにおける「カオス」の実装とは、無計画になることではありません。
**「計画的に、無計画な余白を作る」**という高度な戦略です。
- リソースの20%を未知の技術に割り当て(ポートフォリオの分散)
- 未完成の自分を公開して外部との接点を増やし(APIの開放)
- 偶然の出来事を許容できる疎結合な設計にする(インターフェース依存)
これらを実践することで、あなたのキャリアは「堅牢な城」から、「柔軟な生き物」へと進化します。
城は地震(環境変化)が来れば崩れますが、生き物は移動し、適応し、生き延びることができます。
私は今、異国の地で、毎日のように想定外のトラブル(カオス)に見舞われています。
ビザの更新が遅れる、プロジェクトが突然中止になる、家賃が爆上がりする。
でも、不思議と不安はありません。
「さて、この例外をどうcatchして、どうリトライしてやろうか」
そんな風に、カオスを楽しめる自分になれたからです。
次回の最終回「結」では、このブログシリーズを締めくくります。
不確実性を愛し、カオスを乗りこなした先にあるもの。
そして、これから海外を目指す、あるいは新しい挑戦を始めようとしているあなたへ、私からの最後のエールを送ります。
エンジニアよ、野に放たれよ。
コンパイラの保護を抜け出し、Runtimeの世界へ。
不確実性を愛する力 ― 予測不能な未来を泳ぎ切るためのマインドセット
ついに、このブログシリーズも最終ビルドを迎えます。
「起」で秩序への信仰を疑い、「承」でシリコンバレーのカオス構造を解剖し、「転」でそれを個人のキャリアにInject(注入)する方法を語ってきました。
ここまで読んでくれた皆さんの心には、一つの疑問、あるいは不安が残っているかもしれません。
「理屈はわかった。でも、やっぱりカオスは怖いよ」と。
わかります。私もそうです。
WPFで組んだ画面のレイアウトが崩れるのも怖いし、英語のミーティングで聞き取れない単語が飛び交うのも怖い。明日、ビザの法律が変わって国を追い出されるかもしれない恐怖は、何度経験しても慣れるものではありません。
しかし、シリーズの締めくくりとして私が伝えたいのは、「恐怖を消す方法」ではありません。
**「恐怖(カオス)をエネルギーに変換するシステムの作り方」**です。
最終章では、ナシーム・ニコラス・タレブが提唱した「反脆弱性(Antifragile)」という概念をエンジニアリング視点で再解釈し、私たち日本人エンジニアが海外で、いや世界中のどこででも「最強」になれるマインドセットを提案します。
1. 「レジリエンス」を超えて ― バグで強くなるシステム
システム運用において、「堅牢性(Robustness)」や「復元力(Resilience)」という言葉をよく耳にします。
サーバーが落ちても再起動する、攻撃を受けても耐える。これらは素晴らしい特性ですが、これからの時代を生き抜くには不十分です。
なぜなら、これらは「マイナスをゼロに戻す」能力だからです。
カオスな世界で求められるのは、「反脆弱性(Antifragile)」です。これは、**「ストレスや混乱、無秩序を与えられると、以前よりも強くなる性質」**を指します。
筋肉が筋トレ(ストレス)によって太くなるように、免疫がウイルス(外敵)に触れることで抗体を作るように。
私たちのキャリアもこうあるべきです。
「レイオフされたから、必死に新しい技術を学んで、結果的に年収が上がった」
「本番環境で障害を出してしまったが、その対策ツールを作ったらOSSでバズった」
「英語が通じなくて恥をかいたから、図解で伝えるスキルが極まり、ドキュメント作成の神と呼ばれた」
これらは全て、カオスという入力(Input)を、成長という出力(Output)に変換した例です。
私がC# WPFのエンジニアとして海外で生き残れているのは、私が「完璧なコードを書くから」ではありません。むしろ逆です。私は渡航直後、現地のルーズな仕様変更や理不尽な要求(カオス)に揉みくちゃにされました。
そのストレスの中で、「いちいちコードを書き直してたら死ぬ!」と悟り、リフレクション(Reflection)や動的生成を多用した「どんな仕様変更にも耐えられる、変態的に柔軟なアーキテクチャ」を生み出したのです。
平和な日本の現場にいたら、このスキルは身につきませんでした。
カオスがあったからこそ、私のコードも、私自身も、バージョンアップできたのです。
「トラブルよ、来い。それが俺をアップデートするパッチになる」
そう思えた瞬間、あなたはもう無敵です。
2. 日本人の武器 ― 「諸行無常」をエンジニアリングする
ここで少し、私たち自身のルーツに立ち返ってみましょう。
海外で働いていると、「西洋的な合理主義」と「カオスなスピード感」に圧倒され、「自分も彼らのようにならなければ」と焦ることがあります。
でも、本当にそうでしょうか?
実は、私たち日本人の根底にある哲学こそが、このカオスな時代において最強のOSになるのではないかと私は考えています。
それは**「諸行無常(Everything is transient)」と「わび・さび(Wabi-Sabi)」**の精神です。
西洋のエンジニアリングは、しばしば「完全な支配」を目指します。神のような視点で、全ての変数をコントロールしようとする。だから、想定外の事態(カオス)が起きるとパニックになります。
一方、日本の美意識は、「世界は常に変化し、不完全なものである」という前提を受け入れています。
古くなった寺院の苔を愛でるように、金継ぎで割れた器を修復して新たな価値を見出すように。
この「不完全さを受け入れ、変化と共に生きる」マインドセットは、現代のアジャイル開発やDevOpsの思想と驚くほど親和性が高いのです。
海外のチームが「なぜ計画通りにいかないんだ!」とカリカリしている横で、
「まあ、仕様なんて変わるものでしょ(諸行無常)」
「バグがある今の状態も、それはそれで発見があるね(わび・さび)」
と、涼しい顔でリファクタリングを始める日本人エンジニア。
この**「静かなる受容」と「確かな技術力」のハイブリッド**こそが、私が目指す、そして皆さんに提案したい「海外エンジニア」の理想像です。
無理にアメリカ人の真似をして「Hey guys!」と大騒ぎする必要はありません。
カオスの中に身を置きながら、内面には静寂な枯山水を持つ。そのギャップが、あなたのユニークな価値になります。
3. 人生の finally ブロックを記述せよ
C#には、例外処理構文として try-catch-finally があります。
try ブロックで挑戦し、
catch ブロックでエラー(失敗)を拾う。
そして finally ブロックには、**「成功しようが失敗しようが、最後に必ず実行される処理」**を書きます。
人生は try の連続です。海外就職、新しい言語の習得、起業、副業。
そして、その多くは catch に捕まります。失敗します。恥をかきます。
でも、重要なのは try の結果ではありません。
あなたの人生の finally ブロックに何を書くかです。
どんなに失敗しても、どんなにカオスな状況になっても、これだけは続ける。これだけは守る。
私の場合、それは「書くこと」と「コードを楽しむこと」でした。
クビになろうが、無職になろうが、WPFがオワコンと言われようが、私はコードを書き、ブログを書き続けました。それが私の finally ブロックだったからです。
結果として、その継続が今のキャリア(ブログ経由での仕事依頼など)に繋がっています。
カオスは、あなたの try を邪魔するかもしれません。
でも、あなたの finally を止めることは誰にもできません。
確固たる finally を持っている人は、どんなに激しいカオスの嵐の中でも、決して自分を見失いません。
さあ、Mainメソッドを実行しよう
長くなりましたが、これで「海外エンジニア生存戦略」のソースコードは完成です。
- カオスを排除せず、イノベーションの源泉として認める(起)
- GoogleやOSSのように、カオスをシステム的に活用する(承)
- 個人のキャリアに20%の余白と偶然性を実装する(転)
- 反脆弱性と日本的感性を武器に、不確実性を楽しむ(結)
これを読んでいるあなたは今、どこにいますか?
日本のオフィスのデスクでしょうか。それとも、海外への片道切符を握りしめている空港でしょうか。
もし、あなたがこれから「完璧な準備」をしてから動き出そうとしているなら、今すぐその計画を捨ててください。
仕様書は永遠に完成しません。
環境構築が終わるのを待っていたら、時代が変わってしまいます。
バグだらけの自分自身を、そのまま Build して Run してください。
エラーが出たら、その場で直せばいい。
仕様が変わったら、それに合わせて自分を変えればいい。
海外で働くエンジニア(C# WPF担当)として、私は断言します。
「整理整頓された退屈なコード」よりも、「警告(Warning)は出ているけれど、驚くべき挙動をして世界を変えるコード」の方が、何倍も愛おしく、価値があります。
あなたの人生というプロジェクトが、最高にカオスで、最高にエキサイティングなものになりますように。
Happy Coding, and Happy Chaos!

コメント