「AIからのレスポンスを磨く――反復リファインメントのアート」

はじめに

海外のIT現場で働き出してから、僕はある“見落としがちだけど強力な武器”を手に入れた。それが、Chain‑of‑Thought Prompting(思考の連鎖)や“反復リファインメント”という考え方だ。特に、僕のようにC#/Windows Presentation Foundation(WPF)を使って設計・開発を担当するエンジニアとしては、“AI(生成AIや言語モデル)に聞いて終わり”ではなく、「AIの出し方を自分で磨き、よりよい結果を導き出す」というプロセスに気付いたのだ。

僕が赴任した海外のプロジェクトでは、文化・言語・技術スタック、どれもが“不確実さ”と隣り合わせだった。設計レビューで出てくる英語コメント、仕様の更新、WPFアプリケーションの非同期処理、高負荷時のUIレスポンス…。悩みは尽きなかった。そして「AIに聞いてみよう」という流れが発生した。例えば、英語で「How to optimise WPF data-binding performance under heavy load?」と投げてみる。でも返ってきた回答は「あ、なるほど確かに使えるけど、ちょっとこの現場には当てはまらないな」「想定してない前提が入ってるな」という感覚になった。

そこで僕は、「この回答をそのまま使うのではなく、どうすれば自分の設計・文脈・チームに合致させられるか」を考え始めた。つまり、AIの初期レスポンスを“素材”として、自分なりのフィードバックループを回し始めたのだ。

まず、AI回答を受けて「この部分は自分のWPFアプリには該当しない」「言語が曖昧だ」「この条件ではテストしてない」という“短所”を明らかにする。次に、その短所を踏まえた形で再びプロンプトを練る。こうして「もっと具体的に」「この環境では」「UIスレッド/バックグラウンドスレッドをこう扱う」という条件を加えて改良する。これはまさに“反復(iterative)”だ。そして、設計・実装・レビューというサイクルにおいてこのプロセスが効いてきた。

さらに、“Chain-of-Thought”という技術を知って、「ただ答えを出してもらう」のではなく、「ステップを分解してもらう」ことで、自分でも理解が深まるように工夫した。たとえば「Let’s think step by step: what are the performance bottlenecks in WPF data-binding under heavy load? Then how to mitigate each one?」とプロンプトを出す。こうすることで、AIが“なぜその提案を出したか”という論理の流れも返してくれて、自分で“どれが自分の現場にフィットするか”を判断できるようになる。(TechTarget)

この“反復+思考の連鎖”というアプローチを身に付けたおかげで、海外チームとのやり取りでも「AIに聞けば済む」という受け身ではなく、「AIと対話して設計を深める」という能動的なスタンスに変わっていった。そしてその変化が、開発の効率や安心感、英語でのコミュニケーション力にも少なからず影響を与えた。

AIとの“対話設計”がエンジニアリングを変える


「AIに質問したけど、いまいちピンとこない」。
――これは僕が海外で働き始めた頃、毎日のように感じていたことだ。

最初のうちは「AIの答えが浅い」と思っていた。でも、あるとき気づいた。浅いのはAIではなく、自分の質問だったのだ。
僕が投げていたのは、まるで「WPFのパフォーマンスを上げる方法を全部教えて」と言っているような、ざっくりした聞き方だった。そんな曖昧な質問をすれば、当然返ってくる答えも“平均的”になる。

そこから僕は、AIとの“対話設計”を学び直すことにした
ここで言う「対話設計」とは、AIを単なる検索エンジンの延長として扱うのではなく、思考のパートナーとして設計的に使うという発想だ。


■ ステップ1:最初の回答は“素材”と割り切る

AIが出してくる最初の回答は、だいたい70点くらいだ。
コードも、設計案も、言語表現も「そこそこ正しいけど、使えないこともない」レベル。ここで重要なのは、それをゴールにしないこと。

僕がよくやるのは、まずAIの回答を丸ごとコピーして、
・自分のプロジェクトの前提とどこが違うか
・実際の環境で動かすとどんなリスクがあるか
・チームメンバーが理解しにくそうな部分はどこか
この3点を“赤ペンチェック”のように洗い出す。

そして、その赤ペンコメントをそのまま次のプロンプトにする

“Your previous answer didn’t consider multi-threaded data-binding in WPF. Could you refine your answer assuming the app uses MVVM and asynchronous updates from background threads?”

すると、AIの回答精度が一気に上がる。まるでコードレビューをしている感覚になる。


■ ステップ2:Chain of Thoughtで思考の道筋を可視化する

次に取り入れたのが「Chain of Thought Prompting(思考の連鎖)」だ。
これは、AIに「結論だけ」ではなく、「その結論に至るステップ」も一緒に出させる手法。

例えば、WPFのUI遅延を分析したいときに、

“Let’s think step by step. What are the typical causes of UI freezing in a WPF app, and how can we mitigate each cause?”

と聞くと、AIはこう答える:

  1. Data-binding loops causing excessive property change notifications
  2. Heavy computation on the UI thread
  3. Inefficient rendering (too many visual elements)
  4. Missing virtualization in list controls

ここで重要なのは、“答えそのもの”ではなく、“原因の分解のされ方”だ。
この構造を見て、「自分のアプリで起きてるのは2と3っぽいな」と判断できる。つまり、AIの論理を“鏡”として、自分の思考を整理できるのだ。

僕はこの手法を導入してから、コードレビューや設計レビューの質が明らかに変わった。
以前は「なんとなく遅い」「原因が特定できない」といった抽象的な議論が多かったのが、
「Data-binding loopsに起因する遅延かもしれない。ここをprofilingしよう」
と、議論が具体化し、行動に変わるようになった。


■ ステップ3:フィードバックループを設計プロセスに組み込む

僕のチームでは、AIの回答を「即採用」することはほとんどない。
むしろ、「AIからの提案 → 自分たちで評価 → 修正案を再提示 → 再プロンプト」というループを設計プロセスに組み込んでいる。

これはまさに“Iterative Refinement(反復的洗練)”だ。
WPFのMVVM設計でも、画面の状態遷移を何度も微調整しながらUIを作るように、
AIとのやり取りも“試作と改善の連続”として扱う。

たとえば、以前チームでやったプロジェクトでは、AIが出したDataTemplateの例をベースに、
「それだとObservableCollectionが重くなる」「UI側で非同期化したほうがいい」と議論を重ね、
最終的にチーム独自のReactiveベースの軽量化パターンを構築できた。

AIの提案が“完成品”ではなく、“インスピレーションの起点”になる――
この意識の転換が、海外の開発現場で僕に大きな武器を与えてくれた。


■ ステップ4:AIを育てるという考え方

AIは「育つ」。
もちろん自動的にではなく、僕らのフィードバックによって

プロンプトを丁寧に与える、前提を明確に書く、改善点を伝える。
それを繰り返すうちに、同じAIでも“自分に最適化されたチューニング状態”になってくる。
海外チームでも、英語が母語ではないメンバーほどこのやり方を重視していた。

ある同僚はこう言っていた。

“AI is not smart. It’s patient.”

確かに、AIは万能ではない。
けれど、“辛抱強く教え続けると、着実に成長する”。
それは、若手エンジニアを育てるのとまったく同じ感覚だった。


■ 承のまとめ

AIは「答える存在」ではなく、「一緒に考える存在」。
そして、そのポテンシャルを引き出す鍵が**反復リファインメント(Iterative Refinement)**だ。

海外のプロジェクトでは、文化や言語の壁よりも、“情報の正確な伝達”のほうが難しいことが多い。
だからこそ、AIを“翻訳者”ではなく“共同設計者”として扱うスキルは、
これからのグローバルエンジニアにとって必須になっていく。

次の「転」では、実際のWPF開発現場でこの考え方をどう応用したか――
そして、AIとの反復がどんな“意外なブレークスルー”を生んだかを紹介していく。

反復リファインメントが導いた“想定外の解決策”


AIとの“反復リファインメント”を本格的に業務に取り入れたのは、海外プロジェクトのある事件がきっかけだった。
僕が担当していたのは、C#/WPFベースの業務アプリケーション。製造ラインのリアルタイム監視を行うダッシュボードで、センサー情報が毎秒数百件単位でUIに流れ込む。
最初のデモでは動いていたが、実装が進むにつれ、UIがフリーズする現象に悩まされるようになった。

「非同期処理はしているはずなのに、なぜ?」
「バックグラウンドスレッドに逃しても、結局UIが固まる」

チームのミーティングでは、誰も決定打を出せなかった。
そして僕は、例のごとくAIに相談することにした。


■ AIとの第1ラウンド:「ありがちな」回答

最初のプロンプトは、次のようなものだった。

“Our WPF dashboard freezes under heavy data load, even though we’re using async/await and ObservableCollection. What could be the cause?”

AIはすぐに一般的な回答を返してきた。

“You might be updating ObservableCollection from a non-UI thread. Try using Dispatcher.Invoke or SynchronizationContext.”

正直、これは既に試した。
実際、Dispatcher.Invokeを多用していたせいで、むしろメインスレッドが詰まっていたのだ。
ここで僕は、「AIの答えが間違っている」とは思わなかった。
むしろ「AIが見ていない前提条件を、僕が伝え切れていない」と気づいた。


■ 第2ラウンド:前提条件の“構造化”

そこで次のようにプロンプトを再構成した。

“We are already using Dispatcher.Invoke. However, we have hundreds of UI updates per second from background threads. Can you suggest an alternative pattern that reduces UI thread load?”

このとき、AIの回答が変わった。

“Consider batching UI updates using a timer or using a buffered collection, then refresh the UI in intervals rather than per-event.”

「バッチ処理でUI更新を間引く」――それは確かに理にかなっていた。
だが、タイマー更新に変えるとリアルタイム性が失われる。
僕らの監視アプリでは、数秒の遅延でもオペレーターの判断に影響が出る。
つまり、性能と即応性のバランスが鍵だった。

ここで、再び反復リファインメントの出番だ。


■ 第3ラウンド:思考の連鎖(Chain of Thought)で深掘る

次のプロンプトはこうした。

“Let’s think step by step:

  1. What are the main causes of UI thread blocking in high-frequency WPF updates?
  2. How can we reduce update frequency without losing real-time responsiveness?”

AIは論理的なステップで回答を展開した。

  1. Binding notifications cause thread contention when too frequent.
  2. UI rendering pipeline cannot keep up with high-frequency updates.
  3. Using virtualized controls and diff-based updates can reduce workload.

ここで出てきた「diff-based updates(差分更新)」というキーワードに、僕の目が止まった。
つまり、全データを再描画せず、変化した部分だけUIを更新するという考え方だ。


■ 第4ラウンド:実装への展開

このアイデアをチームに持ち帰り、
ObservableCollectionの更新イベントを一括監視し、
“変更差分”のみをUIスレッドに渡す実験コードを書いた。

Application.Current.Dispatcher.Invoke(() =>
{
foreach (var change in diffList)
{
UpdateUI(change);
}
});

この方式では、更新のたびに全体を再描画する必要がなくなった。
結果、CPU使用率は約30%減少し、UIのフリーズもほぼ解消。
それ以上に驚いたのは、この発想自体がAIとの反復対話から生まれたということだ。


■ チームの反応と“文化的変化”

この成功体験をきっかけに、チームのAIへの向き合い方が変わった。
それまでは、AIを「英語の壁を越えるための便利ツール」として使っていたメンバーも、
今では「設計議論の相手」として扱うようになった。

特に印象的だったのは、フランス出身の同僚の言葉だ。

“I used to think AI was like Stack Overflow.
But now, it’s more like a colleague who doesn’t get tired of brainstorming.”

AIが「すぐに正解を出す存在」ではなく、
議論を続けることで新しい発想を引き出す存在になったのだ。


■ 技術の副産物としての“理解の深化”

この経験を通じて実感したのは、
AIとの反復が、自分の理解を深める鏡になるということだ。

最初は「パフォーマンス問題を解決したい」という単一目的だったが、
プロンプトを改良し、AIの思考過程を読み解くうちに、
・WPFのレンダリングパイプライン
・データバインディングの通知コスト
・Dispatcherの同期設計
といったWPF内部構造への理解が、格段に深まった。

つまり、“反復リファインメント”は単にAIを使いこなす技術ではなく、
自分自身のエンジニアリング思考を磨く訓練でもある。


■ 転のまとめ

この一連の流れから僕が得た結論はシンプルだ。

AIは「正しい答え」を持っているわけではない。
けれど、「よりよい問い」を導き出す鏡になる。

海外の開発現場では、文化も考え方もバラバラなメンバーが集まる。
そんな中で、AIは“共通言語”のような役割を果たしてくれる。
誰かの意見に偏ることなく、純粋にロジックで議論できる。
その公正な「第三の視点」が、チームを一段成熟させた。

次の「結」では、この経験を通じて見えてきた“AIとの共進化”の考え方、
そして「AIに頼るエンジニア」ではなく「AIとともに設計するエンジニア」になるためのヒントをまとめたい。

AIと共に設計するエンジニアへ ― 「問いの質」が未来を変える


僕が海外で働き始めた頃、AIはただの“便利ツール”だった。
英語が苦手な自分を助けてくれる翻訳機であり、
Stack Overflowの代わりになる質問箱であり、
時間がないときにサッと答えを出してくれる救世主のような存在だった。

でも、いま僕にとってAIは**「共同設計者」**だ。
対話を重ね、修正し、深掘りしていくうちに、AIが見せてくれるのは“正解”ではなく、“思考の地図”だ。
そしてその地図を読み解く力こそが、エンジニアとしての新しい武器になった。


■ 「正確な答え」よりも「よい問い」を育てる

反復リファインメントを繰り返すうちに、僕はある大きな気づきを得た。
それは――**「優れた問いは、最短距離の答えより価値がある」**ということ。

AIに最初から完璧なプロンプトを出せる人はいない。
けれど、失敗を恐れずに何度も“聞き方”を変えていくと、
自分の中に「本当に解きたい課題」が浮き上がってくる。

たとえば、
「WPFを速くするには?」と聞いていた頃の僕は、“性能”だけを見ていた。
でも今は、「UIレスポンスを落とさず、オペレーターが安心できる設計とは?」と聞く。
そこには技術だけでなく、ユーザー体験・チーム文化・業務背景が含まれている。

AIは、その問いの“粒度”に応じて、答えの深さを変えてくる。
つまり、AIが進化するほど、僕たちの問いも磨かれていく。
これはもはや「プロンプト技術」ではなく、思考デザインだ。


■ “AIに頼るエンジニア”から“AIと共に設計するエンジニア”へ

海外で働いていると、文化も言語もまったく違うチームでプロジェクトを進めることが多い。
そんな環境で、AIはある種の「共通言語」になる。
エンジニア同士が英語の表現で迷っても、AIを通して論理を整えることができる。

以前、UIアーキテクチャを議論していたとき、
僕の提案を英語で説明してもうまく伝わらなかった。
そのときAIに「Summarize my argument as a design rationale for an international team.」と頼んだ。
AIが返したのは、僕の意図をシンプルかつ中立的にまとめた設計文書だった。
それを元に議論を再開すると、驚くほどスムーズに合意形成が進んだ。

つまり、AIは単に「効率を上げるツール」ではなく、
異文化をつなぎ、チームを前進させる翻訳者でもある

これが、“AIと共に設計する”という感覚だ。
AIを利用するのではなく、AIを相棒にして設計を進める
その発想転換こそが、グローバルエンジニアとしての次のステージだと感じている。


■ フィードバックループは人間にも効く

AIを何度もリファインして使っていると、ふと気づく。
「これ、チームの成長にも似ているな」と。

最初は手探りでも、対話を重ねるうちに理解が深まり、
エラーや衝突があっても、修正しながら全員の精度が上がっていく。

つまり、AIとの反復ループは、人間の学習と同じ構造を持っている。
「試す → 振り返る → 改善する → もう一度試す」
このサイクルが、AIを賢くするのと同時に、自分自身の思考を鍛えていく。

だから僕は、AIとのやりとりを“開発の副産物”ではなく、
自己成長のプロセスそのものとして捉えるようになった。


■ これから海外を目指すエンジニアへ

海外で働くエンジニアにとって、
AIとの反復リファインメントは“英語力”を補うだけでなく、
思考力と設計力を掛け合わせる武器になる。

英語が完璧でなくても、
ロジックが曖昧でも、
「何が課題で、どんな前提で、どう改善したいか」をAIと一緒に整理すれば、
グローバルチームでも自信を持って議論に参加できる。

そして何より、AIを“道具”としてではなく、“共創者”として扱える人こそ、
これからのエンジニアとして信頼される。


■ 最後に ― The Art of Iterative Refinement

反復リファインメントの本質は、AIを使いこなすことではない。
それは、自分の思考を磨く“アート”だ。

AIの回答をそのまま受け取るのではなく、
「なぜこの答えになったのか?」
「他にどんな視点があるのか?」
「この条件を変えたら、どんな設計になるのか?」
――そうやって問いを重ねていくことで、AIの出力よりも自分の理解が深まっていく

その積み重ねが、いつしか「勘」や「直感」といった形でエンジニアリングに現れる。
そして気づくのだ。
“AIに学ばせていたつもりが、実は自分が学んでいた”と。


エピローグ:
AI時代のエンジニアリングは、「答えを早く出す競争」ではない。
どれだけ深く問いを磨けるか。
どれだけ柔軟に考えをリファインできるか。
そして、どれだけAIと人間が互いに学び合えるか。

そのプロセスを楽しめるエンジニアこそが、
“AIと共に設計する時代”のアーティストなのだと思う。

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