「それ、ムダかもよ?」海外ITエンジニアが明かす、”長時間労働”という名の神話。

プレッシャー・クッカーの神話:なぜ「時間=成果」の幻想が生まれるのか

どうも!はじめまして。海外で(なんとか)生き延びているITエンジニアです。メインの戦場はC#とWPF。クライアント向けのデスクトップアプリの設計から開発まで、ゴリゴリとコードを書いては、ああでもないこうでもないと頭を悩ませる毎日を送っています。

さて、いきなりですが、今これを読んでいる「未来の海外エンジニア」であるあなたに質問です。

「夜遅くまで残業して、週末もPCを開いてる自分、かっこいい」

…なんて、思っちゃってませんか?

かく言う僕も、昔はそうでした。「エンジニアは時間じゃない、成果だ」とか言いながら、結局は誰よりも長く椅子に座っているヤツが一番エラい、みたいな。いわゆる「ハッスル・カルチャー(Hustle Culture)」ってやつですね。特にIT業界、とりわけスタートアップ界隈なんかじゃ、いまだに「週100時間コミット」みたいな言葉が武勇伝のように語られていたりします。

この文化、まるで「プレッシャー・クッカー(圧力鍋)」です。常に自分に高圧をかけ続け、短い時間で無理やり「成果」という名の料理を完成させようとする。その圧力こそがイノベーションを生み、キャリアを加速させると、誰もが信じて(あるいは信じ込まされて)いる。

僕も日本にいた頃、そして海外に出たての頃は、この神話の忠実な信者でした。

新しい環境、新しい言語(プログラミング言語じゃなく、英語とか現地語のほう!)。ここでナメられたら終わりだ。日本人エンジニアとしてのプライドもある。「あいつはハードワーカーだ」と認めさせなきゃ、と。

だから、必死で働きました。WPFのXAMLがうまく反映されない?夜10時から原因調査だ。C#の非同期処理(async/await)の奥深くで発生するデッドロック?はい、週末返上でデバッグ祭り。納期前は当然のように深夜までキーボードを叩き、「俺、頑張ってるわ」と、冷めたコーヒー片手に自分に酔っていた節さえあります。

でもね、ある時ふと気づいたんです。

「あれ、俺、時間かけてる割に、大したモン作ってなくね?」

そう。恐ろしいことに、「長時間オン」であり続けることは、イノベーションどころか、むしろ「エラー」と「停滞」を生み出す温床だったんです。

深夜2時に書いたコード、翌朝見直して「何だこれ!?」って青ざめた経験、ありませんか? 疲労困憊の頭でひねり出したアーキテクチャが、結局は複雑怪奇なスパゲッティコードの始まりだった、とか。

これが「 diminishing returns(収穫逓減)」の正体です。一定の時間を超えたエンジニアの「オンタイム」は、アウトプットの質を劇的に下げていきます。僕らが扱っているのは、単純作業じゃない。ロジックと創造性が求められる「思考」そのものです。その思考の源泉である脳が疲弊しきっていたら、まともなコードが書けるわけがない。

WPFアプリで、ほんのちょっとしたUIの挙動(例えば、ボタンをクリックした時のアニメーション)を実装するのに、元気な時なら1時間で終わるものが、疲れていると半日かかっても「なんか違う…」と沼にハマる。そんな非効率なことを、僕らは「努力」という言葉で正当化しがちなんです。

さらにヤバいのは、この「プレッシャー・クッカー」状態が常態化した時の「隠れたコスト」です。

目先のタスクを片付けることに必死で、新しい技術(.NETの最新トレンドとか、MAUIとか)をキャッチアップする余裕がなくなる。

疲弊した脳では、バグを見つけた時に「根本原因」を考える思考が働かず、「とりあえず動く」ための場当たり的な修正(いわゆる「技術的負債」の積み増し)に逃げてしまう。

そして何より、コードを書くことが、あれほど好きだったはずのプログラミングが、ただの「苦行」に変わっていく。

これが、キャリアの「長期的な満足度」を蝕む、バーンアウト(燃え尽き症候群)の入り口です。

僕が海外で働き始めて最も衝撃を受けたのは、現地のシニアエンジニアたちが、驚くほど「頑張ってない」ように見えたことでした。

彼らは定時(例えば夕方5時)になれば、ビルドが通ってなくても「じゃ、あとは明日な!」と笑顔で帰っていく。バカンスは平気で2〜3週間取る。

最初は「こいつら、やる気あんのか?」と正直イライラしました。

でも、彼らのアウトプットは、決して低くなかった。むしろ、僕が徹夜して書いたコードよりもずっとクリーンで、メンテしやすい設計になっていることさえあったんです。

なぜか?

彼らは「時間」で働いていなかったから。

彼らは「プレッシャー」を美徳としていなかったから。

このブログは、かつての僕のように「頑張り方」を盛大に勘違いしている、志高きエンジニアのあなたにこそ読んでほしい。

「長時間労働=悪」と短絡的に言いたいわけじゃありません。時には踏ん張りが必要な局面もあります。

でも、「それ、本当に今やるべき?」「もっと賢い方法、ない?」と立ち止まること。

海外の現場で僕が見てきた、彼らなりの「戦略的なサボり方」。

「ブルートフォース(力任せ)」ではなく、もっと「アンカンベンショナル(型破り)」な方法で、いかにしてピークパフォーマンスを維持し続けるか。

この連載では、僕がC#とWPFのコードの山と格闘する中で学んだ、この「プレッシャー・クッカー神話」の debunk(解体)と、その先にある「新しい働き方」のヒントを、僕の実体験ベースで、余すところなくお伝えしていこうと思います。

まず手始めに、次の「承」の章では、その長時間労働が、僕たちエンジニアから「本当に大切な何を」奪っていくのか。その「隠されたコスト」について、もっと深く、生々しく掘り下げていきますよ。

燃え尽きたC#コード:長時間労働が奪う、本当に大事な「エンジニアの資産」

さて、「起」の章では、「ハッスル・カルチャー(Hustle Culture)」がいかに僕らをすり減らし、非効率な「プレッシャー・クッカー」状態に陥れるか、という話をしました。「時間かけてる割に、大したモン作ってなくね?」という、あの痛い気づきですね。

「でも、若いうちは無理してでも働かないと、スキル身につかないんじゃない?」

「海外で結果を出すには、人一倍やるしかないでしょ?」

そう思う気持ち、痛いほどわかります。僕もそう信じて疑わなかった。

でもね、その「人一倍やる」の中身が問題なんです。

ただ時間を溶かすだけの長時間労働。それが常態化した時、僕らは「給料」や「時間」以上に、もっと致命的で、取り返しのつかない「資産」を失っているんです。

今日は、僕が実際にC#とWPFのコードの海で溺れかけながら失った、あるいは失いかけた、エンジニアにとって本当に大事な「4つの資産」について、生々しく語らせてください。

資産1:「思考の質」という名の、技術的負債・返済能力

まず一つ目。これはエンジニアの「核」とも言える部分、「思考の質」です。

長時間労働で脳が疲弊しきっている時、僕らはどうなるか?

「考えること」を放棄します。

特に、僕が扱っているC#とWPFのような、ある程度成熟した技術(悪く言えばレガシーとも隣り合わせ)の世界では、常に「技術的負債」との戦いです。MVVMパターン(Model-View-ViewModel)が導入されているのに、納期に追われると、ついView(XAMLのコードビハインド)に直接ロジックを書き殴ってしまう。

あれは、海外に来て2年目の冬でした。

ある複雑なWPF画面の改修プロジェクト。ユーザーの操作に応じて、複数の非同期処理(async/await)が走り、データベースと通信して、結果をリッチなUIに反映させる…という、まあ、よくあるやつです。

バグが出ました。「特定の操作をすると、画面が固まる(フリーズする)」。

典型的なデッドロックの匂いです。

元気な時の僕なら、「よーし、async/await のコンテキスト(SynchronizationContext)を徹底的に見直すか」「ConfigureAwait(false) が適切に使われているか、全コード洗い出すぞ」と、根本原因の追求に燃えるところです。

でも、その時すでに僕は「プレッシャー・クッカー」の中で蒸し上がっていました。連日の残業で、脳みそはショート寸前。

僕が取った行動は、最悪でした。

原因を追求する代わりに、フリーズしそうな処理を Task.Run で無理やりバックグラウンドスレッドに逃がし、UIの更新が必要な箇所は、片っ端から Dispatcher.Invoke (WPFでUIスレッドに処理を強制的に割り込ませるヤツ)で固めました。

動きましたよ、ええ。一見ね。

でも、それは「燃え尽きたC#コード」の典型でした。

根本的なデッドロックの原因は放置され、スレッドの切り替えが複雑怪奇に絡み合った、誰にもメンテナンスできない「時限爆弾」が完成した瞬間です。

疲弊した脳は、「正しい設計」よりも「今すぐ動く魔法(という名のハック)」を選びます。これが技術的負債を生み出すメカニズム。そして、この負債を返済する(リファクタリングする)体力すら、長時間労働は奪っていくんです。

資産2:「学習能力」という名の、未来の市場価値

二つ目は、「学習能力」です。

ITエンジニアの価値は、悲しいかな「今、持っているスキル」だけでは測られません。「これからキャッチアップし続けられる能力」が全てと言ってもいい。

僕らのC#だって、.NET Frameworkから .NET Core、そして .NET 8, 9…と、とんでもないスピードで進化してる。WPFだって、いつまでも安泰じゃない。MicrosoftはMAUI(.NET Multi-platform App UI)やWinUI 3をゴリ押ししてきてる。

じゃあ、毎日夜11時まで働いているあなたに聞きたい。

「昨日、新しい技術ドキュメント、読みましたか?」

無理ですよね。

僕もそうでした。仕事でWPFのXAMLと格闘し尽くした後、家に帰ってからMAUIのチュートリアルをやろうなんて気力、1ミリも湧いてきません。

ベッドに倒れ込み、YouTubeやNetflixを眺めながら意識を失う。それが精一杯。

インプットがゼロになるんです。

これがどれだけ恐ろしいことか。

あなたは「今の仕事」をこなすために、「未来の仕事」を得るための時間を犠牲にしている。

海外のエンジニア、特に僕の周りにいるシニア連中は、この辺めちゃくちゃシビアですよ。彼らは「今のプロジェクト」で使われている技術が古くなってきたな、と感じたら、勤務時間中(!)であっても、平気で新しい技術のPoC(概念実証)を始めたりします。

「このWPFアプリ、部分的にWebView2(ブラウザを埋め込む技術)に載せ替えて、Webの技術(Reactとか)使ったほうがメンテ楽じゃない?」とか、平気で提案してくる。

彼らは、自分の「市場価値」を維持するために、常にアンテナを張り、学習する時間を「業務」として確保している。

一方、僕ら(かつての僕)は?

「目の前のタスク」に忙殺され、気づけばWPFの特定バージョンにしか詳しくない、「古びたエンジニア」になっていく。長時間労働は、あなたの未来の価値を確実に、静かに削り取っていくんです。

資産3:「創造性」という名の、エンジニアリングの楽しさ

三つ目。これは僕がWPFエンジニアとして、特に強く感じていることです。「創造性」を失います。

「え、エンジニアってロジックでしょ? 創造性ってアーティストとかの話じゃないの?」

いやいや、とんでもない。

WPFの画面設計(UI/UX)なんて、まさに創造性の塊です。どうすればユーザーが迷わないか。どうすれば少ないクリックで目的を達成できるか。どうすれば「触っていて気持ちいい」と感じるアプリになるか。

XAMLで DataTemplate を組み、Style や ControlTemplate を駆使して、デザイナーの意図をピクセル単位で再現し、そこにC#で命(ロジック)を吹き込む。これ、めちゃくちゃクリエイティブな仕事だと思いませんか?

でも、疲弊していると、この「創造性」の蛇口がピタッと閉まります。

クライアントから「もっとモダンで、使いやすいダッシュボードにしてほしい」と頼まれても、疲れた脳みそが提案するのは、いつもと同じ DataGrid と、ありきたりな Button の配置だけ。

「もっとリッチなアニメーション(VisualStateManager とか Storyboard を使ったやつ)を追加しよう」

「ここはサードパーティ製のイケてるグラフコンポーネントを導入しよう」

…そんな「ひと手間」を考えるのが、心底面倒くさくなるんです。

結果、どうなるか。

「動くけど、退屈な」アプリの完成です。

ユーザーは喜ばない。自分も達成感がない。そして何より、あれほど好きだったはずの「モノづくり」が、ただの「作業」に成り下がる。

コードを書くことが「苦行」になったら、エンジニアとして、もうおしまいです。長時間労働は、あなたの仕事から「楽しさ」と「誇り」を奪い、あなたをただの「オペレーター」に変えてしまうんです。

資産4:「信頼」という名の、海外での生命線

そして最後、四つ目。

これ、日本にいるとピンと来ないかもしれないけど、**海外で働くならこれが「生命線」**です。

それは、「同僚との信頼関係」。

長時間労働で常に疲弊し、イライラしている人間が、どうなると思いますか?

まず、コードレビューが「戦争」になります。

現地の同僚から送られてきたプルリクエスト(PR)。疲れた目で見ると、全部がアラに見える。

「なんでここの命名、こんな適当なの?」

「このロジック、効率悪すぎだろ…」

僕もやらかしました。

PRのコメント欄に、「This is totally wrong.(これ、完全に間違ってる)」とか「Why did you do this?(なんでこんなことしたの?)」とか、トゲトゲしい言葉を並べてしまったんです。

もちろん、向こうもカチンときます。

「Wrong(間違い)とは何だ、理由を説明しろ」「君のほうが、この間の設計、イケてなかったじゃないか」と。

もう、コードの品質なんて関係ない。ただの感情のぶつけ合い。

さらに、疲れていると、**コミュニケーションを「拒絶」**し始めます。

現地のエンジニアたちが、コーヒー片手に雑談している。あれ、実はめちゃくちゃ大事な「情報交換」の場なんです。「今、隣のチームが新しいツール導入で揉めてるらしいぜ」とか「次のバージョンで、あそこのアーキテクチャごっそり変えるらしい」とか。

でも、疲れている僕は、ヘッドフォンで耳を塞ぎ、「俺に話しかけるな」オーラ全開。ランチもデスクで一人で食う。

結果、どうなるか。

孤立します。

重要な情報が入ってこなくなり、誰も僕にレビューを頼まなくなり、そして誰も僕を助けてくれなくなる。

海外で働くということは、「異分子」である僕が、彼らのコミュニティにいかにして「信頼」され、受け入れられるかの戦いでもあります。その最大の武器であるはずの「コミュニケーション」を、長時間労働による疲弊が、自ら放棄させてしまう。

技術があっても、信頼がなければ、海外では生きていけません。長時間労働は、あなたのキャリアの土台そのものを腐らせるんです。


…どうでしょう。

「思考の質」「学習能力」「創造性」「信頼」。

これら全部を失って、それでもあなたは「時間」を捧げ続けますか?

僕らが失っていたのは、単なる「プライベートの時間」じゃなかった。エンジニアとして、いや、一人のプロフェッショナルとして生き残るための「コア資産」そのものだったんです。

「じゃあ、どうしろって言うんだ!」

「頑張らずに、どうやって海外で生き残るんだよ!」

その声が聞こえてきそうです。

もちろん、ただ「働くな」と言いたいわけじゃない。

彼ら(僕がここで見てきた優秀なシニアエンジニアたち)は、頑張っていないように見えて、実はめちゃくちゃ「賢く」やっている。

次の「転」の章では、いよいよ核心に迫ります。

僕がこの「プレッシャー・クッカー」の呪縛から逃れるために見つけた、彼ら(海外の猛者たち)の「戦略的なサボり方」。「ハッスル」とは真逆の、でも驚くほど成果が出る「新しい働き方」について、具体的にシェアしていこうと思います。

「ハッスル」の呪縛を解け:僕が見つけた、海外流「賢くサボる」技術

「起」で長時間労働の神話を疑い、「承」でそれが僕らの大事な「資産」(思考の質、学習能力、創造性、信頼)をいかに奪っていくかを、僕のWPF開発での黒歴史と共に赤裸々に語ってきました。

ここまで読んでくれたあなたは、きっとこう思ってるはず。

「わかった、わかった。長時間労働がダメなのはもう十分わかった」

「でも、じゃあどうすりゃいいんだよ!タスクは減らないし、納期は迫るんだ!」

「『賢くサボる』とか言うけど、具体的に何すりゃいいんだ!」

お待たせしました。

僕も、この「プレッシャー・クッカー」の中で蒸し鶏にされながら、ずっとその答えを探していました。そして、周りの「定時で帰るのに、なぜか評価が高い」シニアエンジニアたちを、血眼になって観察し続けたんです。

彼らはサボってるんじゃない。**「ムダな戦いをしない」**だけだったんです。

今日は、僕が彼らから盗み、実践してきた「ハッスルの呪縛」を解くための、超具体的な「賢くサボる」技術、いや、**「戦略的アウトプット最大化術」**を3つ、大公開します。これ、海外でエンジニアとして生き残るための、僕なりの「人生術」です。

1. 「No」と言う勇気、ではない。「Yes, but…(はい、ただし…)」で交渉する技術

まず、僕ら日本人が一番苦手なやつ。

マネージャーやクライアントから、無茶な要求が来た時、どうしてますか?

「(うわ、無理だろ…)はい、頑張ります」

「(今週もうパンパンなのに…)…はい、いつまでですか?」

これが、デスマーチへの片道切符です。

かといって、海外のエンジニアみたいに「No, I can’t.(いや、無理)」と真正面から突っぱねるのも、なかなか勇気がいりますよね。関係性も悪くなりそうだし。

僕が観察したデキるシニアエンジニアたちは、「No」とは言わなかった。

彼らは必ず**「Yes, but…(はい、ただし…)」**という最強のカードを切っていました。

あれは、WPFアプリの新しいバージョンリリースの2週間前。

クライアントの偉い人から、鶴の一声が飛んできました。

「やっぱり、あのメイン画面のレイアウト、全部変えたい。こっちのほうがクールだろ?」

僕の心臓は止まりかけました。(おいおい、今からXAMLとViewModel全部書き換えかよ…テスト工数どうすんだ…)

日本人マインドの僕は、もう青ざめて「どうやって徹夜で終わらせるか」を計算し始めていました。

その時、僕の隣に座っていたシニアエンジニア(仮に「マーク」としましょう)が、クライアントとの電話でこう言ったんです。

「オーケー、ジョン。素晴らしいアイデアだね。(まず、絶対に相手のアイデアを否定しない)本当にクールだ。」

「Yes、そのレイアウト、僕らも実装できるよ」

(ええ!? マーク、お前正気か!? やるって言ったぞ!?)

But…(ただし)」

出ました。

「ただし、この変更は設計の根幹(Core Architecture)に関わる。君のクールなアイデアを完璧に実現するには、WPFのUIコンポーネントの再設計と、C#側のロジック(特に非同期処理の部分)の大幅な見直しが必要だ」

「結果として、今週予定していたバグフィックス(AとBとC)が未着手になるし、リグレッションテスト(回帰テスト)の工数が追加で5営業日必要になる」

マークは続けます。

「だから、ジョン。君に選んでほしいんだ」

「A案: 2週間後のリリース日は守る。その代わり、新しいレイアウトは諦めて、バグフィックスだけを行う」

「B案: 君のクールなアイデアを採用する。その代わり、リリースは最短で3週間延期になる」

「どっちが君のビジネスにとって、今、一番重要かな?」

……電話の向こうで、クライアントは数秒黙った後、「…わかった、マーク。今回はA案で行こう。バグのほうが優先だ。そのクールなアイデアは、次のメジャーアップデートで考えよう」と言いました。

見事でした。

彼は「No」を言わなかった。

彼は「頑張ります」とも言わなかった。

彼は、「要求を受け入れた場合の『コスト(影響)』を、エンジニアリングの観点から具体的に提示し、相手に『選択』させた」んです。

これぞ「賢いサボり方」の神髄です。

僕らは「時間」という無限じゃないリソースを売ってるんじゃない。「専門知識(この場合はWPFとC#の設計知識)」を売ってるんです。

自分の専門知識を使って、タスクの「優先順位」と「トレードオフ」を明確にする。それが、僕らエンジニアの本当の仕事であり、ムダな残業から身を守る最強の盾なんです。

2. 「80点のコード」で、最速でレビューに出す勇気

二つ目。これは特に、完璧主義者の傾向があるエンジニアに突き刺さる話です。

かつての僕は、コードレビュー(プルリクエスト、PR)に出すのが怖かった。

自分の書いたC#コードが、隅々まで完璧じゃないと、レビューに出せなかったんです。

「この変数名、もっとイケてるのないか?」

「このWPFの Binding、もっと効率的な書き方ないか?」

「この async/await、例外処理のパターン、これで網羅できてるか?」

そうやって、一人でPCの前でうんうん唸り、気づけば丸一日、一つのPRを抱え込んでいる。

そして、夜になって「完璧だ!」と思ってレビューに出したら、シニアエンジニアから一言。

「ごめん、この方向性(Approach)、根本的に間違ってるわ。昨日の朝の時点で、こっちのロジック(別のライブラリ)使うべきだったね」

地獄です。

丸一日かけて作った「完璧な(つもりの)ゴミ」の完成です。

海外のデキるエンジニアは、真逆でした。

彼らは**「60点〜80点のコード」**で、ためらいなくレビューに出します。

「WIP(Work In Progress:作業中)だけど、方向性だけ見てくれ」

「ここのWPFのViewModelの設計、ちょっと自信ないんだけど、どう思う?」

彼らにとって、レビューは「採点」の場じゃない。「コラボレーション(協業)」の場なんです。

一人で100点を目指して時間を溶かすより、60点の段階でチームの知見(特にシニアの経験)を借りて、最速で「正しい方向」に軌道修正する。

そのほうが、圧倒的に早いし、品質も上がることを知っているんです。

「でも、そんな中途半端なコード出したら、低評価食らうんじゃ…」

大丈夫。

その代わり、レビューする側(他人)のコードは、光の速さでレビューしてあげるんです。

彼らは、自分のタスクに集中している時でも、チャットで「誰か、このPRレビューして!」とメンションが飛んできたら、最優先で(それこそ5分以内に)レビューを開き、的確なコメントを返します。

**「Give and Take(ギブ・アンド・テイク)」**です。

自分がレビューを「Take(もらう)」したいなら、まず他人にレビューを「Give(あげる)」。

そうやって、チーム全体の「コードレビューの回転率」を上げることにコミットする。

この文化に気づいてから、僕もWPFのXAMLのちょっとした修正でも、「こんな感じでUI組んでみたけど、MVVMのルール的にOK?」と、気軽にレビューに出せるようになりました。

一人で悩む時間を、チームでレビューする時間に充てる。

これだけで、僕の「ムダな残業」は劇的に減りました。

3. 「PCを閉じる」という、最強の思考整理術

そして三つ目。これが一番シンプルで、一番難しいかもしれません。

それは、**「マジでPCを閉じる」**こと。

「承」の章で、僕は「深夜2時に書いたコードは、翌朝見たらゴミ」と書きました。

じゃあ、どうすればよかったのか?

「深夜2時になる前に、帰ればよかった」

いや、精神論じゃないんです。技術的な話です。

C#の複雑なロジック、WPFの難解なUIのバグ。

画面(IDE)に顔を近づけて、何時間もにらめっこしても、絶対に解決しません。

なぜなら、あなたの脳はすでに「木を見て森を見ず」状態。思考が完全に「局所最適解」にハマり込んでいるからです。

僕が尊敬する海外のシニアエンジニアは、必ず「午後4時にはコーヒーブレイク」と称して、30分くらい散歩に行きます。

そして、5時になったら、どんなにキリが悪くても(ビルドが通らなくても)、PCを閉じて帰る。

「おいおい、バグ残ってるのに帰るのかよ!?」

僕がそう聞いたら、彼はこう言いました。

「ああ。これ以上画面を見てても、脳がフレッシュにならないからね」

「このバグの本当の原因は、たぶん僕が今いじってるこのC#のクラス(HogeHogeService.cs)じゃなくて、もっと別の場所(例えばDIコンテナの設定とか)にある気がするんだ」

「たぶん、シャワー浴びてる時か、犬の散歩してる時に、思いつくだろう。 明日の朝、フレッシュな頭で、まずそこから見てみるよ」

…そして翌朝。

彼は、僕が3時間かけても見つけられなかったバグの原因を、出社してたった15分で特定し、修正しました。

彼がやったこと。それは、**「意図的にPC(=問題)から物理的に離れる」**ことで、脳をリフレッシュさせ、思考の「ズームレベル」を「木(目の前のコード)」から「森(システム全体のアーキテクチャ)」に切り替えたんです。

長時間労働は、この「思考のズームアウト」の機会を、あなたから永遠に奪います。

疲弊した脳は、目の前の for ループのことしか考えられなくなる。

行き詰まったら、PCを閉じる。

ジムに行く。料理する。寝る。

これが、僕が学んだ、海外で戦うエンジニアの、最もインテリジェントで、最も効果的な「デバッグ術」です。


「Yes, but…」でタスクを交渉し、

「80点のコード」で最速でレビューし合い、

「PCを閉じる」ことで思考をリフレッシュする。

これが、僕が見つけた「賢くサボる」技術です。

どれも、最初は勇気がいりました。でも、これらを実践し始めた時、僕は初めて「時間」から解放され、本当の意味での「成果(アウトプット)」にコミットできるようになったんです。

さあ、残すは「結」の章のみ。

ここまで語ってきた「長時間労働の神話」の解体と、「賢いサボり方」の先に、僕ら海外エンジニアが目指すべき「真のパフォーマンス」とは何なのか。

僕のキャリア観を、熱く、まとめてみたいと思います。

真のパフォーマンスとは何か:未来の海外エンジニアに贈る、サステナブルなキャリア論

さて、長旅にお付き合いいただき、ありがとうございました。「海外ITエンジニア」という人種が、いかにして「長時間労働」という名の神話と戦うべきか。僕の全キャリアを賭けたような、青臭くも熱い話をしてきました。

**「起」**では、僕らを縛り付ける「プレッシャー・クッカー神話」がいかに非効率な幻想であるかを突きつけました。

**「承」では、その幻想の代償として失う、エンジニアの致命的な「4つの資産」――思考の質、学習能力、創造性、そして信頼――について、僕のC#コードの黒歴史と共に解剖しました。

そして「転」**では、僕が海外の猛者たちから盗んだ「賢くサボる」技術――「Yes, but…」の交渉術、「80点のコード」での最速レビュー、「PCを閉じる」デバッグ術――という、具体的なサバイバル術をシェアしました。

ここまでくれば、もうお分かりですよね。

僕がこのブログを通して、未来の海外エンジニアであるあなたに、心の底から伝えたかったこと。

それは、「真のパフォーマンス」とは、”働いた時間”では決して測れない、ということです。

もし、あなたの価値が「週に何時間PCの前に座っていたか」で決まるなら、話は簡単です。誰よりも長く、それこそ飲まず食わずでキーボードを叩き続ければいい。

でも、そんな働き方を、僕らの戦場(海外のプロフェッショナルな現場)は、これっぽっちも評価しません。

じゃあ、「真のパフォーマンス」とは、一体何なのか?

僕がこの海外の現場で、C#とWPFのコードの海を泳ぎ切り、定時で帰るシニアエンジニアたちの背中を見つめ続けてたどり着いた結論。

それは、2つの言葉に集約されます。

**「インパクト(Impact)」「サステナビリティ(Sustainability)」**です。

1. パフォーマンス = インパクト(どれだけ「価値」を生んだか)

まず、「インパクト」。

これは、「あなたが、どれだけ『価値ある変化』をもたらしたか」ということです。

あなたが3徹して、1万行のC#コードを書いたとしましょう。

でも、もしその機能が、クライアントの「本当の課題」を解決しておらず、結局使われなかったとしたら?

……残念ながら、あなたのパフォーマンス(インパクト)は「ゼロ」です。

逆に、あなたが「転」で紹介したシニアエンジニアのマークのように、クライアントと「Yes, but…」の交渉をした結果、

「その機能(1万行コード)は、今やるべきじゃない。それより、この致命的なバグ(5行の修正)を直すほうが、あなたのビジネスにとって重要だ」

と提案し、優先順位を変えさせたとします。

あなたはコードを1万行も書いていない。

でも、プロジェクトを「正しい方向」に導き、クライアントのビジネスを守った。

これこそが、1万行のコードを遥かに凌駕する、「超巨大なインパクト」です。

僕らエンジニアは、「コードを書くこと」が仕事なんじゃない。

「コード(と、それに付随する専門知識)を使って、問題を解決すること」が仕事なんです。

WPFアプリの画面を、ただ言われた通りに作る(コーディングする)のは、パフォーマンスとは言えません。

「この画面、そもそもユーザーは本当に必要としてるのか?」

「もっとシンプルなUI(XAML)で、同じ目的を達成できないか?」

と、専門家として「問い」を立て、チームやクライアントを巻き込んで「より良い解決策」へ導くこと。

そのためには、疲弊した脳でキーボードを叩く時間(=長時間労働)ではなく、「フレッシュな脳で、深く考える時間」と「チームと対話する時間」が、絶対に必要なんです。

2. パフォーマンス = サステナビリティ(どれだけ「持続可能」か)

そして、もう一つ。

「インパクト」と同じくらい、いや、海外で長く働く上では、それ以上に重要なのが「サステナビリティ(持続可能性)」です。

はっきり言います。

海外で働くキャリアは、「短距離走」じゃなく、「超長距離マラソン」です。

ロケットスタートを決めて、最初の1年間、馬車馬のように働いて「今月のMVP」を獲ったとしましょう。

でも、その結果、2年目で燃え尽きて(バーンアウトして)、コードが一切書けなくなり、メンタルをやられて帰国する……。

これを、パフォーマンスが高いとは呼びません。

それは「失敗」です。

僕が海外で出会った、真に「デキる」エンジニアたちは、全員が**「自分の機嫌の取り方」**を熟知していました。

彼らは、自分が「プレッシャー・クッカー」状態に陥りそうになるのを、敏感に察知します。

そして、そうなる前に、「転」で紹介したような技術を使って、意図的に「余白」を作る。

PCを閉じてジムに行く。

家族と全力でディナーを楽しむ。

週末は、C#のことなんて1ミリも考えずに、趣味(僕の同僚はヨットとか、DIYガレージ作りとか、スケールがでかい…)に没頭する。

なぜか?

それが、来週、来月、来年、そして10年後も、「最大のインパクト」を生み出し続けるための、最も合理的な「戦略」だからです。

彼らにとって、プライベートの充実は「サボり」じゃない。「最高のパフォーマンスを維持するための、必須のメンテナンス」なんです。

WPFのアプリだって、そうですよね?

メモリリーク(Memory Leak)を放置したまま、無理やり動かし続ければ、いつか必ずアプリはクラッシュします。

僕らの脳みそや、メンタルだって、全く同じ。

リーク(疲弊)を放置したまま、長時間労働という高負荷をかけ続ければ、いつか必ず、僕ら自身がクラッシュするんです。


結びの言葉:未来の海外エンジニアへ

ブログの冒頭で、僕はあなたにこう問いかけました。

「夜遅くまで残業してる自分、かっこいい」…なんて、思っちゃってませんか?、と。

この4部作を最後まで読んでくれた、賢明なあなたなら、もうその「呪い」は解けているはずです。

真にかっこいいエンジニアとは。

「自分には、専門知識がある。だから、無意味な時間(長時間労働)で、自分の価値を証明する必要はない」

と、胸を張れる人間です。

「自分の脳と身体が、最大の『資産』であることを知っており、そのメンテナンス(=プライベートの充実)を、何よりも優先できる」

そんな、クレバーなプロフェッショナルです。

これからあなたが飛び込む海外の現場は、刺激的で、最高に楽しい場所です。

でも、それは「サステナブル」に戦い続けて、初めて手に入る「果実」です。

どうか、「ハッスル・カルチャー」という名の古い神話に、あなたの貴重なキャリアを捧げないでください。

「Yes, but…」でスマートに交渉し、

「80点」で賢くチームを信頼し、

そして、夕方5時になったら、誰に何を言われようと、堂々とPCを閉じて、あなたの「人生」を生きる。

それが、この異国の地で、僕らITエンジニアが「真のパフォーマンス」を発揮し、最高にクールなキャリアを築いていくための、唯一にして最強の「人生術」だと、僕は信じています。

あなたの海外での挑戦を、心の底から応援しています。

(僕も、そろそろPC閉じて、ビールでも飲みに行きますわ!)


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